「Na+/K+-ATPアーゼ」の版間の差分

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 このような一連の研究によって同定されたNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼは、細胞におけるNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>輸送系の一部であることが確認され、その発見に対してSkouは1997年にノーベル化学賞を授与された<ref name=Skou1998><pubmed>9877230</pubmed></ref>[4]。Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼは、ATP加水分解の際にその末端リン酸(Phosphate)が活性中心に転移した自己リン酸化中間体を形成する<ref name=Post1973><pubmed>4270326</pubmed></ref>[5]。この特徴的ATP加水分解機構が、のちにP-type ATPアーゼと呼ばれる能動輸送体ファミリーの由来である<ref name=Axelsen1998><pubmed>9419228</pubmed></ref>[6]<ref name=Palmgren2023><pubmed>37838176</pubmed></ref>[7]。
 このような一連の研究によって同定されたNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼは、細胞におけるNa<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>輸送系の一部であることが確認され、その発見に対してSkouは1997年にノーベル化学賞を授与された<ref name=Skou1998><pubmed>9877230</pubmed></ref>[4]。Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼは、ATP加水分解の際にその末端リン酸(Phosphate)が活性中心に転移した自己リン酸化中間体を形成する<ref name=Post1973><pubmed>4270326</pubmed></ref>[5]。この特徴的ATP加水分解機構が、のちにP-type ATPアーゼと呼ばれる能動輸送体ファミリーの由来である<ref name=Axelsen1998><pubmed>9419228</pubmed></ref>[6]<ref name=Palmgren2023><pubmed>37838176</pubmed></ref>[7]。
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPアーゼ Fig1.png|サムネイル|'''図1. Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPアーゼの二次構造''']]
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPase Fig1.png|サムネイル|'''図1. Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPアーゼの二次構造''']]
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPアーゼ Fig2.png|サムネイル|'''図2. Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPアーゼのE1、E2状態における立体構造''']]
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPase Fig2.png|サムネイル|'''図2. Na<sup>+</sup>, K<sup>+</sup>-ATPアーゼのE1、E2状態における立体構造''']]
== 構造 ==
== 構造 ==
 Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼは、ATP加水分解とカチオンの結合を担うα-サブユニットと、タンパク質の折り畳みや膜輸送に関わるβ-サブユニットが1:1で会合したヘテロダイマーが最小機能単位である<ref name=Jorgensen1988><pubmed>3054114</pubmed></ref>[8]。これに加え、組織/細胞によって特異的に発現するFXYDファミリータンパク質(FXYD2はγ-サブユニットとも呼ばれる)が会合することで、カチオンに対する親和性や比活性が調節されることが知られている'''(図1)'''<ref name=Kuster2000><pubmed>10748024</pubmed></ref>[9]<ref name=Sweadner2000><pubmed>10950925</pubmed></ref>[10]。2007年にはK<sup>+</sup>が結合した初めての結晶構造が<ref name=Morth2007><pubmed>18075585</pubmed></ref>[11]、2012年にはNa<sup>+</sup>が結合した結晶構造が報告され<ref name=Kanai2013><pubmed>24089211</pubmed></ref>[12]、この分子の作動機構は構造レベルで理解されている'''(図2)'''<ref name=Toyoshima2000><pubmed>10864315</pubmed></ref>[13]<ref name=Toyoshima2007><pubmed>18077416</pubmed></ref>[14]<ref name=Palmgren2011><pubmed>21351879</pubmed></ref>[15]<ref name=Jorgensen2003><pubmed>12524462</pubmed></ref>[16]<ref name=Dyla2020><pubmed>31874046</pubmed></ref>[17]。
 Na<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼは、ATP加水分解とカチオンの結合を担うα-サブユニットと、タンパク質の折り畳みや膜輸送に関わるβ-サブユニットが1:1で会合したヘテロダイマーが最小機能単位である<ref name=Jorgensen1988><pubmed>3054114</pubmed></ref>[8]。これに加え、組織/細胞によって特異的に発現するFXYDファミリータンパク質(FXYD2はγ-サブユニットとも呼ばれる)が会合することで、カチオンに対する親和性や比活性が調節されることが知られている'''(図1)'''<ref name=Kuster2000><pubmed>10748024</pubmed></ref>[9]<ref name=Sweadner2000><pubmed>10950925</pubmed></ref>[10]。2007年にはK<sup>+</sup>が結合した初めての結晶構造が<ref name=Morth2007><pubmed>18075585</pubmed></ref>[11]、2012年にはNa<sup>+</sup>が結合した結晶構造が報告され<ref name=Kanai2013><pubmed>24089211</pubmed></ref>[12]、この分子の作動機構は構造レベルで理解されている'''(図2)'''<ref name=Toyoshima2000><pubmed>10864315</pubmed></ref>[13]<ref name=Toyoshima2007><pubmed>18077416</pubmed></ref>[14]<ref name=Palmgren2011><pubmed>21351879</pubmed></ref>[15]<ref name=Jorgensen2003><pubmed>12524462</pubmed></ref>[16]<ref name=Dyla2020><pubmed>31874046</pubmed></ref>[17]。
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== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
 P-type ATPアーゼは、カチオンから脂質にわたる広範な輸送基質を、よく保存されたATP加水分解機構によって能働輸送する膜タンパク質の一群である。初めて同定されたNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼに続き、近縁のH<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼ<ref name=Ganser1973><pubmed>4351147</pubmed></ref>[21] やCa<sup>2+</sup>-ATPアーゼ<ref name=Bastide1973><pubmed>4357737</pubmed></ref>[22] が次々と同定され、いまでは配列相同性や輸送基質の種類によってP1~P5までのサブタイプとして分類される大きなファミリーを形成している<ref name=Axelsen1998><pubmed>9419228</pubmed></ref>[6]<ref name=Palmgren2023><pubmed>37838176</pubmed></ref>[7]。この中でNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼ はP2Cタイプに分類される。ヒトのNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼはα-サブユニットについて4つ(α1 ~ α4、ATP1A1 ~ ATP1A4)、β-サブユニットでは3つ(β1 ~ β3、ATP1B1 ~ ATP1B3)のアイソフォームが存在し、その組み合わせによってαβ複合体に多様な機能をもたらしている。これに加え哺乳類では7つのFXYD(FXYD1 ~ FXYD7)が組織特異的に発現し、複合体の性質を適切に調節していると考えられている。α-サブユニットのアイソフォームは高い相同性を持ち、α1 ~ α3の間では約87%、α4では少し低い78%のアミノ酸が同一である。それぞれのアイソフォームは異なる反応速度論的な性質を有し、例えばα1はK<sup>+</sup>に対する親和性が比較的高く、一方でα3はNa<sup>+</sup>に対する親和性が低い。これに加え、β-サブユニットやFXYDが発現部位や機能を調節することで、細胞はその機能に適したNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼ 複合体を利用している<ref name=Clausen2017><pubmed>28634454</pubmed></ref>[23]。
 P-type ATPアーゼは、カチオンから脂質にわたる広範な輸送基質を、よく保存されたATP加水分解機構によって能働輸送する膜タンパク質の一群である。初めて同定されたNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼに続き、近縁のH<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼ<ref name=Ganser1973><pubmed>4351147</pubmed></ref>[21] やCa<sup>2+</sup>-ATPアーゼ<ref name=Bastide1973><pubmed>4357737</pubmed></ref>[22] が次々と同定され、いまでは配列相同性や輸送基質の種類によってP1~P5までのサブタイプとして分類される大きなファミリーを形成している<ref name=Axelsen1998><pubmed>9419228</pubmed></ref>[6]<ref name=Palmgren2023><pubmed>37838176</pubmed></ref>[7]。この中でNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼ はP2Cタイプに分類される。ヒトのNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼはα-サブユニットについて4つ(α1 ~ α4、ATP1A1 ~ ATP1A4)、β-サブユニットでは3つ(β1 ~ β3、ATP1B1 ~ ATP1B3)のアイソフォームが存在し、その組み合わせによってαβ複合体に多様な機能をもたらしている。これに加え哺乳類では7つのFXYD(FXYD1 ~ FXYD7)が組織特異的に発現し、複合体の性質を適切に調節していると考えられている。α-サブユニットのアイソフォームは高い相同性を持ち、α1 ~ α3の間では約87%、α4では少し低い78%のアミノ酸が同一である。それぞれのアイソフォームは異なる反応速度論的な性質を有し、例えばα1はK<sup>+</sup>に対する親和性が比較的高く、一方でα3はNa<sup>+</sup>に対する親和性が低い。これに加え、β-サブユニットやFXYDが発現部位や機能を調節することで、細胞はその機能に適したNa<sup>+</sup>,K<sup>+</sup>-ATPアーゼ 複合体を利用している<ref name=Clausen2017><pubmed>28634454</pubmed></ref>[23]。
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPアーゼ Fig3.png|サムネイル|'''図3. イオンチャネルとイオンポンプの原理的な違い'''<br>文献<ref name=Gadsby2009/>[35]より改変。]]
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPase Fig3.png|サムネイル|'''図3. イオンチャネルとイオンポンプの原理的な違い'''<br>文献<ref name=Gadsby2009/>[35]より改変。]]
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPアーゼ Fig4.png|サムネイル|'''図4. Na+,K+-ATPアーゼ のイオン輸送機構'''<br>Post-Albers機構。]]
[[ファイル:Abe Na+-K+-ATPase Fig4.png|サムネイル|'''図4. Na+,K+-ATPアーゼ のイオン輸送機構'''<br>Post-Albers機構。]]
== 機能 ==
== 機能 ==
=== 分子機能 ===
=== 分子機能 ===