「アクチビン」の版間の差分

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== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
 神経筋変性疾患に関して、機能の項で示したように、神経系でアクチビンは神経保護作用があり、パーキンソン病などの神経変性疾患に関与する可能性がある。また、記憶の増強やシナプス増強に関与するため老化やアルツハイマー病の新たな治療標的となる可能性がある。
 アクチビンは神経保護作用があり、[[パーキンソン病]]などの[[神経変性疾患]]に関与する可能性がある。また、記憶の増強やシナプス増強に関与するため老化やアルツハイマー病の新たな治療標的となる可能性がある。


 サルコペニアや悪液質による筋萎縮、貧血や骨髄疾患、肺動脈性肺高血圧症 (PAH) への応用展開が行われている。マイオスタチンとアクチビンは筋肉量を負に制御するため、その阻害による筋萎縮性疾患への治療が期待されている<ref name=Lee2021><pubmed>33938454</pubmed></ref>。
 サルコペニアや悪液質による筋萎縮、[[貧血]]や[[骨髄]]疾患、[[肺動脈性肺高血圧症]] (PAH) への応用展開が行われている。マイオスタチンとアクチビンは筋肉量を負に制御するため、その阻害による筋萎縮性疾患への治療が期待されている<ref name=Lee2021><pubmed>33938454</pubmed></ref>。


 ACVR2A(ActRIIA)やACVR2B(ActRIIB)の細胞外ドメインタンパク質によるリガンドトラップ法や抗体医薬は、貧血性骨髄疾患、筋萎縮性疾患、癌悪液質の治療薬候補として期待されている。実際に、ラスパテルセプトは、ヒトACVR2Bの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、GDF11を阻害する。人工的に点変異を導入しており、アクチビン阻害は弱いとされる。エリスロポイエチンとは異なった機序で増血効果があり、最近、サラセミアや骨髄異形成症の治療薬となった<ref name=Fenaux2019><pubmed>30602619</pubmed></ref><ref name=Molica2024><pubmed>38555469</pubmed></ref>。また、ソタセルセプトは、ヒトACVR2Aの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、肺動脈性肺高血圧症 (PAH) の新たな治療薬として承認された<ref name=Hoeper2023><pubmed>36877098</pubmed></ref><ref name=Madonna2024><pubmed>39571875</pubmed></ref>。この分子は、GDF11、マイオスタチン、アクチビンを阻害する。
 ACVR2A(ActRIIA)やACVR2B(ActRIIB)の細胞外ドメインタンパク質による[[リガンドトラップ法]]や[[抗体医薬]]は、貧血性骨髄疾患、筋萎縮性疾患、癌悪液質の治療薬候補として期待されている。実際に、[[ラスパテルセプト]]は、ヒトACVR2Bの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、GDF11を阻害する。人工的に点変異を導入しており、アクチビン阻害は弱いとされる。[[エリスロポイエチン]]とは異なった機序で増血効果があり、最近、[[サラセミア]]や[[骨髄異形成症]]の治療薬となった<ref name=Fenaux2019><pubmed>30602619</pubmed></ref><ref name=Molica2024><pubmed>38555469</pubmed></ref>。また、[[ソタセルセプト]]は、ヒトACVR2Aの細胞外領域とヒト免疫グロブリンIgGのFc領域の融合分子であり、肺動脈性肺高血圧症の新たな治療薬として承認された<ref name=Hoeper2023><pubmed>36877098</pubmed></ref><ref name=Madonna2024><pubmed>39571875</pubmed></ref>。この分子は、GDF11、マイオスタチン、アクチビンを阻害する。


 FOP(fibrodysplasia ossicans progressive、進行性骨化性線維異形成症)は、骨格筋・腱・結合組織に進行性の異所性の骨化をきたす希少疾患である。通常、ACVR1A(ALK2)は、アクチビンの受容体ではなくBMPファミリーの受容体として作用する。ところが、FOPで見られるACVR1A(ALK2)機能獲得型遺伝子変異体 (GS領域のR206Hが典型例)では、アクチビンが変異受容体に過剰に反応することで、異所性に骨形成を誘導させる<ref name=Kaplan2009><pubmed>19085907</pubmed></ref><ref name=Hino2015><pubmed>26621707</pubmed></ref><ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Kaplan2025><pubmed>39299836</pubmed></ref>。そのため、アクチビンの阻害抗体やACVR2B-Fcタンパク質で阻害する方法論がFOPの治療薬候補となっている<ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Gao2024><pubmed>38500216</pubmed></ref>。興味深いことに、同じALK2変異が、希少小児がんであるdiffuse intrinsic pontine glioma (DIPG)の原因遺伝子と報告されている<ref name=Taylor2014><pubmed>24705252</pubmed></ref><ref name=Kresak2023><pubmed>36642816</pubmed></ref>。
 [[進行性骨化性線維異形成症]]([[fibrodysplasia ossicans progressive]]; [[FOP]])は、骨格筋・腱・結合組織に進行性の異所性の骨化をきたす希少疾患である。通常、ACVR1A(ALK2)は、アクチビンの受容体ではなくBMPファミリーの受容体として作用する。ところが、FOPで見られるACVR1A(ALK2)[[機能獲得]]型遺伝子変異体 (GS領域のR206Hが典型例)では、アクチビンが変異受容体に過剰に反応することで、異所性に骨形成を誘導させる<ref name=Kaplan2009><pubmed>19085907</pubmed></ref><ref name=Hino2015><pubmed>26621707</pubmed></ref><ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Kaplan2025><pubmed>39299836</pubmed></ref>。そのため、アクチビンの阻害抗体やACVR2B-Fcタンパク質で阻害する方法論がFOPの治療薬候補となっている<ref name=Srinivasan2024><pubmed>38254701</pubmed></ref><ref name=Gao2024><pubmed>38500216</pubmed></ref>。興味深いことに、同じALK2変異が、希少小児がんである[[diffuse intrinsic pontine glioma]] ([[DIPG]])の原因遺伝子と報告されている<ref name=Taylor2014><pubmed>24705252</pubmed></ref><ref name=Kresak2023><pubmed>36642816</pubmed></ref>。


== 関連語 ==
== 関連語 ==