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細 (→δ受容体リガンド) |
細 (→統合失調症) |
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== 疾患との関係 == | == 疾患との関係 == | ||
=== 統合失調症 === | === 統合失調症 === | ||
統合失調症ではNMDA受容体の機能障害が推測されているが、<small>D</small>-セリンの本受容体コアゴニストとしての特性から、シナプスにおける<small>D</small>-セリンシグナルの低下が、この障害を引き起こしている可能性が考えられている。<small>D</small>-セリン合成酵素欠損マウスでは、 | 統合失調症ではNMDA受容体の機能障害が推測されているが、<small>D</small>-セリンの本受容体コアゴニストとしての特性から、シナプスにおける<small>D</small>-セリンシグナルの低下が、この障害を引き起こしている可能性が考えられている。<small>D</small>-セリン合成酵素欠損マウスでは、 | ||
<ref name=Bendikov2007><pubmed>17156977</pubmed></ref> [50, 51] | |||
<ref name=Steffek2006><pubmed>16837850</pubmed></ref> [51,52] | # 運動量増加 | ||
# 不安・驚愕反応の増大 | |||
# 海馬の樹状突起および体積の減少 | |||
# プレパルス抑制の障害(感覚運動フィルター機能異常) | |||
# 社会性行動の障害 | |||
# 統合失調症様症状発現薬による異常行動の増悪 | |||
等の、本症の患者で観察される異常と類似の変化、あるいは症状のモデルが報告され、前記の仮説を支持している<ref name=Basu2009><pubmed>19065142</pubmed></ref> <ref name=Horio2011><pubmed>21906644</pubmed></ref> <ref name=Balu2013><pubmed>23729812</pubmed></ref> [11,12, 47]。統合失調症患者についての大規模ゲノムワイド関連解析において、セリンラセマーゼと本症の有意な相関が認められたが(GWAS)<ref name=Schizophrenia2014><pubmed>25056061</pubmed></ref> [48]、否定する遺伝子関連研究もある<ref name=Yamada2005><pubmed>15953485</pubmed></ref> [49]。死後脳の研究では、 | |||
* 組織中の<small>D</small>-セリン濃度の変化は認められず<ref name=Kumashiro1995><pubmed>7552268</pubmed></ref><ref name=Bendikov2007><pubmed>17156977</pubmed></ref> [50, 51] | |||
* セリンラセマーゼ発現量の変化は研究者間で一致しないが<ref name=Bendikov2007><pubmed>17156977</pubmed></ref><ref name=Steffek2006><pubmed>16837850</pubmed></ref> [51,52] | |||
* D-アミノ酸酸化酵素発現が増加<ref name=Bendikov2007><pubmed>17156977</pubmed></ref><ref name=Madeira2008><pubmed>18378121</pubmed></ref><ref name=Habl2009><pubmed>19823762</pubmed></ref><ref name=Ono2009><pubmed>19685198</pubmed></ref> [51, 53, 54, 55] | |||
* <small>D</small>-セリンが結合するNMDA受容体グリシン調節部位の増加<ref name=Ishimaru1994><pubmed>7909453</pubmed></ref> [56] | |||
は、細胞外<small>D</small>-セリンシグナルの減少に繋がる所見として注目される。 | |||
<small>D</small>-セリンは、統合失調症様症状を引き起こすNMDA受容体遮断薬を投与した動物の異常行動(統合失調症の薬理学的モデル)<ref name=Contreras1990><pubmed>2109276</pubmed></ref><ref name=Tanii1994><pubmed>8014848</pubmed></ref> [57, 58]や、統合失調症患者において既存の治療薬が奏功しない陰性症状や陽性症状を改善すること<ref name=Tsai2008a><pubmed>9836012</pubmed></ref> [59]が報告されている。これらの効果は、別のNMDA受容体グリシン調節部位作動薬のD-アラニンにも認められるのに対して<ref name=Ishimaru1994><pubmed>7909453</pubmed></ref><ref name=Tsai2008b><pubmed>16154544</pubmed></ref> [56, 60]、動物実験で、同調節部位には作用しないL体のセリンやアラニンにはないことや<ref name=Tanii1994><pubmed>8014848</pubmed></ref> [58]、同調節部位の拮抗薬で阻害されること<ref name=Tanii1994><pubmed>8014848</pubmed></ref> [58]が確認されている。以上の結果から、グリシン調節部位を刺激する薬物や、内在性<small>D</small>-セリンシグナルを増強する薬物が、既存薬よりも治療スペクトラムの広い新しい合失調症治療薬の治療薬として開発が進められている<ref name=Nishikawa2022 /> <ref name=Nishikawa2022b>'''Nishikawa, T., Umino, A., Umino, M. (2022).'''<br> D-Serine in the Treatment of Psychosis. In: Riederer, P., Laux, G., Nagatsu, T., Le, W., Riederer, C. (eds) NeuroPsychopharmacotherapy. pp 1963–1976, Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-62059-2_391</ref> [2, 61]。 | |||
=== 興奮毒性 === | === 興奮毒性 === | ||
セリンラセマーゼ欠損マウスの大脳皮質では、NMDAやAβ1-42による神経細胞死が著明に抑制され、<small>D</small>-セリン濃度が10%程度まで減少するのに対して、グリシン、L-セリンおよびL-グルタミン酸は変化しない<ref name=Inoue2008><pubmed>19118183</pubmed></ref> [40]。これらの結果から、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症をはじめとする神経変性疾患や、脳血管障害における神経細胞傷害に、<small>D</small>-セリンが関与する可能性が注目されている。 | セリンラセマーゼ欠損マウスの大脳皮質では、NMDAやAβ1-42による神経細胞死が著明に抑制され、<small>D</small>-セリン濃度が10%程度まで減少するのに対して、グリシン、L-セリンおよびL-グルタミン酸は変化しない<ref name=Inoue2008><pubmed>19118183</pubmed></ref> [40]。これらの結果から、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症をはじめとする神経変性疾患や、脳血管障害における神経細胞傷害に、<small>D</small>-セリンが関与する可能性が注目されている。 | ||