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<font size="+1">[https://researchmap.jp/read0014310 木下 タロウ]</font><br> | <font size="+1">[https://researchmap.jp/read0014310 木下 タロウ]</font><br> | ||
''大阪大学 感染症総合教育研究拠点''<br> | ''大阪大学 感染症総合教育研究拠点''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年7月3日 原稿完成日: | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年7月3日 原稿完成日:2025年8月3日<br> | ||
担当編集委員:[https://researchmap.jp/yamagatm 山形 方人](ハーバード大学・脳科学センター)<br> | 担当編集委員:[https://researchmap.jp/yamagatm 山形 方人](ハーバード大学・脳科学センター)<br> | ||
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従来すべてのGPIアンカー型タンパク質はタンパク質がエタノールアミンリン酸を介して第3マンノースに結合していると考えられていたが、最近ecto-5'-nucleotidase (CD73)やnetrinG2など一部のものはエタノールアミンリン酸を介して第2マンノースに結合していることがわかった<ref name=Ishida2022><pubmed>35603428</pubmed></ref> ('''図1''')。 | 従来すべてのGPIアンカー型タンパク質はタンパク質がエタノールアミンリン酸を介して第3マンノースに結合していると考えられていたが、最近ecto-5'-nucleotidase (CD73)やnetrinG2など一部のものはエタノールアミンリン酸を介して第2マンノースに結合していることがわかった<ref name=Ishida2022><pubmed>35603428</pubmed></ref> ('''図1''')。 | ||
[[ファイル:Kinoshita GPI-anchor Fig2.png|400px|サムネイル|'''図2. 新生GPIアンカー型タンパク質ができるまで''']] | [[ファイル:Kinoshita GPI-anchor Fig2.png|400px|サムネイル|'''図2. 新生GPIアンカー型タンパク質ができるまで'''<br>各マーカーの意味は図1も参照]] | ||
== 生合成 == | == 生合成 == | ||
=== 新生GPIアンカー型タンパク質ができるまで === | === 新生GPIアンカー型タンパク質ができるまで === | ||
GPIアンカー型タンパク質の生合成は[[小胞体]]膜上で前駆体タンパク質とGPIが別々に合成され、小胞体内腔側でGPIがタンパク質に[[翻訳後修飾]]の形で付加される<ref name=Kinoshita2020><pubmed>32156170</pubmed></ref><ref name=Kinoshita2024><pubmed>39129667</pubmed></ref> ('''図2''')。前駆体タンパク質はカルボキシ末端におおよそ30〜40残基からなるGPIアンカー付加シグナル配列を持ち、この配列が特定の部位で切断されることで、新たに露出したC末端にGPIアンカーが付加される。GPIは、[[エタノールアミンリン酸]]を介してタンパク質のカルボキシ末端と[[アミド結合]]する。反応は[[トランスアミデーション]]であり、触媒部位に[[システイン]]を持つ[[ホスファチジルイノシトール糖鎖アンカー生合成クラスKタンパク質|ホスファチジルイノシトール糖鎖アンカー生合成クラスK]]([[phosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class K]], [[PIGK]])タンパク質を含む5つのタンパク質からなる[[GPIトランスアミダーゼ]]([[GPI-TA]]) | GPIアンカー型タンパク質の生合成は[[小胞体]]膜上で前駆体タンパク質とGPIが別々に合成され、小胞体内腔側でGPIがタンパク質に[[翻訳後修飾]]の形で付加される<ref name=Kinoshita2020><pubmed>32156170</pubmed></ref><ref name=Kinoshita2024><pubmed>39129667</pubmed></ref> ('''図2''')。前駆体タンパク質はカルボキシ末端におおよそ30〜40残基からなるGPIアンカー付加シグナル配列を持ち、この配列が特定の部位で切断されることで、新たに露出したC末端にGPIアンカーが付加される。GPIは、[[エタノールアミンリン酸]]を介してタンパク質のカルボキシ末端と[[アミド結合]]する。反応は[[トランスアミデーション]]であり、触媒部位に[[システイン]]を持つ[[ホスファチジルイノシトール糖鎖アンカー生合成クラスKタンパク質|ホスファチジルイノシトール糖鎖アンカー生合成クラスK]]([[phosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class K]], [[PIGK]])タンパク質を含む5つのタンパク質からなる[[GPIトランスアミダーゼ]]([[GPI-TA]])によって行われる'''(図2のステップ11)'''。最近、GPIトランスアミダーゼ複合体の構造が[[クライオ電顕]]で解かれ、酵素の構造と反応の詳細がかなり明らかになった<ref name=Xu2023><pubmed>37684232</pubmed></ref>。 | ||
GPI部分はPIに構成成分が順に結合していく10段階の連鎖反応によって合成される'''(図2のステップ1-10)'''。最初の2段階は小胞体膜の細胞質側で行われ、イノシトールの6位に[[UDP-Nアセチルグルコサミン]]([[UDP-GlcNAc]])から[[GlcNAc]]が転移して[[GlcNAc-PI]]ができ'''(1)'''、それが[[脱アセチル]]され[[GlcN-PI]]になる'''(2)'''。GlcN-PIは内腔側へフリップし'''(3)'''、その後の反応はタンパク質への付加まで小胞体内腔側で行われる'''(図2)'''。まず[[イノシトール]]の2位に[[脂肪酸]](主として[[パルミチン酸]])が付加され[[GlcN-(acyl)PI]]になり'''(4)'''、その後3つの[[マンノース]]と3つの[[トランスアミダーゼ]]が順に付加され'''(5-10)'''、[[GPIトランスアミダーゼ]] ([[GPI-TA]])の基質となり得る完成型のGPI前駆体となる。脂肪酸、マンノース、トランスアミダーゼは、それぞれ[[アシル-CoA]]、[[ドリコール-リン酸-マンノース]] ([[Dol-P-Man]])、[[ホスファチジルエタノールアミン]]から供与される。哺乳動物細胞の完成型GPI前駆体の構造は、EtN-P-Man3-(EtN-P-)Man2-(EtN-P-)Man1-GlcN-(acyl)PIであり、3つすべてのマンノースにEtN-Pが付いている。 | |||
GPIの生合成とタンパク質への付加には[[PIGA]]など24個の遺伝子が関わっており、それらは[[phosphatidyl inositol glycan]] ([[PIG]])遺伝子群と総称される<ref name=Miyata1993><pubmed>7680492</pubmed></ref><ref name=Takahashi1996><pubmed>8861954</pubmed></ref>('''図2'''上部)。 | GPIの生合成とタンパク質への付加には[[PIGA]]など24個の遺伝子が関わっており、それらは[[phosphatidyl inositol glycan]] ([[PIG]])遺伝子群と総称される<ref name=Miyata1993><pubmed>7680492</pubmed></ref><ref name=Takahashi1996><pubmed>8861954</pubmed></ref>('''図2'''上部)。 | ||
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GlcNAc-PIの脱アセチル化は[[デアセチラーゼ]]であるPIGLによって、イノシトールのアシル化は[[アシル転移酵素]]であるPIGWによって行われる。3つのマンノースは[[Dol-P-Man-dependent Man転移酵素]]であるPIGM/PIGX複合体、PIGV、PIGBによって、3つのEtN-Pは[[EtN-P転移酵素]]であるPIGN、PIGO/PIGF複合体、PIGG/PIGF複合体によって付加される。 | GlcNAc-PIの脱アセチル化は[[デアセチラーゼ]]であるPIGLによって、イノシトールのアシル化は[[アシル転移酵素]]であるPIGWによって行われる。3つのマンノースは[[Dol-P-Man-dependent Man転移酵素]]であるPIGM/PIGX複合体、PIGV、PIGBによって、3つのEtN-Pは[[EtN-P転移酵素]]であるPIGN、PIGO/PIGF複合体、PIGG/PIGF複合体によって付加される。 | ||
[[ファイル:Kinoshita GPI-anchor Fig3.png|400px|サムネイル|'''図3. GPIアンカー型タンパク質の成熟化''']] | [[ファイル:Kinoshita GPI-anchor Fig3.png|400px|サムネイル|'''図3. GPIアンカー型タンパク質の成熟化'''<br>各マーカーの意味は図1、2も参照]] | ||
=== GPIアンカー型タンパク質の成熟化 === | === GPIアンカー型タンパク質の成熟化 === | ||
GPI-TAの働きでできた新生GPIアンカー型タンパク質のGPIの構造はまだ未成熟であり、その後[[小胞体]]と[[ゴルジ体]]において成熟化反応を受ける<ref name=Kinoshita2020><pubmed>32156170</pubmed></ref> <ref name=Kinoshita2024><pubmed>39129667</pubmed></ref> | GPI-TAの働きでできた新生GPIアンカー型タンパク質のGPIの構造はまだ未成熟であり、その後[[小胞体]]と[[ゴルジ体]]において成熟化反応を受ける<ref name=Kinoshita2020><pubmed>32156170</pubmed></ref> <ref name=Kinoshita2024><pubmed>39129667</pubmed></ref>'''(図3のステップ12-18)'''。小胞体では、イノシトールからのアシル基の除去'''(12)'''、第2マンノースからのEtN-Pの除去'''(13)'''が行われ、その後[[COPII輸送体]]によってゴルジ体へと輸送される。ゴルジ体では、PIのsn-2位に存在する[[不飽和脂肪酸]]が[[飽和脂肪酸]]([[ステアリン酸]])に置き換わる脂肪酸リモデリング'''(14, 15)'''によって[[脂質マイクロドメイン]]([[ラフト]])に局在できる脂質構造となる。その後、タンパク質によっては第1マンノースに[[GalNAc]]側鎖が付加'''(16)'''、伸長され'''(17, 18)'''、最終的に細胞表面に輸送され主として脂質マイクロドメインに局在する。なお、第4マンノースの付加はタンパク質への付加前にPIGZにより小胞体で行われる。GPIの成熟化には7つの遺伝子が関与し、他の糖鎖と共通の遺伝子を除き[[post GPI attachment to proteins|post GPI attachment to proteins (PGAP)遺伝子]]群と呼ばれる<ref name=Tanaka2004><pubmed>14734546</pubmed></ref><ref name=Tashima2006><pubmed>16407401</pubmed></ref>('''図3上部''')。 | ||
==機能的特徴 == | ==機能的特徴 == | ||
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=== 発作性夜間ヘモグロビン尿症 === | === 発作性夜間ヘモグロビン尿症 === | ||
指定難病62。[[造血幹細胞]]におけるPIGA遺伝子の体細胞突然変異によってGPI生合成が完全あるいは大きく欠損した細胞が生じ<ref name=Miyata1993><pubmed>7680492</pubmed></ref>、その細胞のクローンが拡大することによって大量の異常血液細胞ができる<ref name=Luzzatto2025><pubmed>40089995</pubmed></ref>。異常赤血球は補体の作用から自己細胞を保護するGPIアンカー型の[[補体]]制御因子([[CD55]]と[[CD59]])を欠損するため活性化した補体によって[[溶血]]が起こる<ref name=Hill2017><pubmed>28516949</pubmed></ref>。また補体依存性の[[血栓症]]が本疾患における主要な死因のひとつとなる<ref name=Hill2013><pubmed>23610373</pubmed></ref>。治療には、補体の[[膜侵襲複合体]]形成を阻害する[[ヒト化抗C5抗体医薬]]([[エクリズマブ]]など)が用いられ、溶血の抑制に有効である<ref name=Hillmen2006><pubmed>16990386</pubmed></ref><ref name=Rother2007><pubmed>17989688</pubmed></ref>。 | 指定難病62。[[造血幹細胞]]におけるPIGA遺伝子の体細胞突然変異によってGPI生合成が完全あるいは大きく欠損した細胞が生じ<ref name=Miyata1993><pubmed>7680492</pubmed></ref>、その細胞のクローンが拡大することによって大量の異常血液細胞ができる<ref name=Luzzatto2025><pubmed>40089995</pubmed></ref>。異常赤血球は補体の作用から自己細胞を保護するGPIアンカー型の[[補体]]制御因子([[CD55]]と[[CD59]])を欠損するため活性化した補体によって[[溶血]]が起こる<ref name=Hill2017><pubmed>28516949</pubmed></ref>。また補体依存性の[[血栓症]]が本疾患における主要な死因のひとつとなる<ref name=Hill2013><pubmed>23610373</pubmed></ref>。治療には、補体の[[膜侵襲複合体]]形成を阻害する[[ヒト化抗C5抗体医薬]]([[エクリズマブ]]など)が用いられ、溶血の抑制に有効である<ref name=Hillmen2006><pubmed>16990386</pubmed></ref><ref name=Rother2007><pubmed>17989688</pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | |||
* [[細胞膜]] | |||
* [[脂質ラフト]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||