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C9orf72遺伝子は、神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS: amyotrophic lateral sclerosis)および前頭側頭型認知症(FTD: frontotemporal dementia)の原因となる代表的な遺伝子の1つとして、研究が進展してきた。 | C9orf72遺伝子は、神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS: amyotrophic lateral sclerosis)および前頭側頭型認知症(FTD: frontotemporal dementia)の原因となる代表的な遺伝子の1つとして、研究が進展してきた。 | ||
2006年、家族性ALS/FTD家系を用いた連鎖解析によって、責任遺伝子領域が9番染色体短腕に同定され<ref name=Morita2006><pubmed>16421333</pubmed></ref>[1]<ref name=Vance2006><pubmed>16495328</pubmed></ref>[2]、その後の遺伝子探索によって、2011年にC9orf72遺伝子非翻訳領域内のGGGGCC 6塩基リピート配列の異常伸長(正常: 2-24回リピート, 疾患: 60-4000回リピート)が、原因遺伝子変異として同定された<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Renton2011><pubmed>21944779</pubmed></ref>[4] | 2006年、家族性ALS/FTD家系を用いた連鎖解析によって、責任遺伝子領域が9番染色体短腕に同定され<ref name=Morita2006><pubmed>16421333</pubmed></ref>[1]<ref name=Vance2006><pubmed>16495328</pubmed></ref>[2]、その後の遺伝子探索によって、2011年にC9orf72遺伝子非翻訳領域内のGGGGCC 6塩基リピート配列の異常伸長(正常: 2-24回リピート, 疾患: 60-4000回リピート)が、原因遺伝子変異として同定された<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Renton2011><pubmed>21944779</pubmed></ref>[4]。このリピート伸長変異は、欧米のALS/FTDコホートにおいて最も頻度の高い原因遺伝子変異であることが明らかとなり、同遺伝子の生理的機能やリピート伸長変異による病態メカニズムに注目が集まり、研究が展開されている。 | ||
生理的機能に関しては未解明の点が多いものの、分子系統解析では本遺伝子は真核生物の進化初期に出現し、哺乳類を含む広範な生物種で保存されていることから、生物学的に重要な役割を担うと想定されている<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]。特に、C9orf72タンパク質はDENN(differentially expressed in normal and neoplastic cells)ドメインを有し、本ドメインを有する一群のタンパク質はRabファミリーを中心とした低分子量Gタンパク質の活性制御に関与することから、小胞輸送やオートファジーとの関連が注目されている。近年では、自然免疫応答の制御機能についても示唆されている(後述)<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]。 | 生理的機能に関しては未解明の点が多いものの、分子系統解析では本遺伝子は真核生物の進化初期に出現し、哺乳類を含む広範な生物種で保存されていることから、生物学的に重要な役割を担うと想定されている<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]。特に、C9orf72タンパク質はDENN(differentially expressed in normal and neoplastic cells)ドメインを有し、本ドメインを有する一群のタンパク質はRabファミリーを中心とした低分子量Gタンパク質の活性制御に関与することから、小胞輸送やオートファジーとの関連が注目されている。近年では、自然免疫応答の制御機能についても示唆されている(後述)<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]。 | ||
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C9orf72遺伝子連鎖性ALS/FTD(C9-ALS/FTD)の病態メカニズムに関しては、当初、GGGGCCリピート伸長変異による遺伝子機能の喪失や、転写された異常伸長リピート配列を含む変異RNA(リピートRNA)による毒性が想定されていた。しかし2013年に、リピートRNAから非古典的なリピート関連非AUG依存性(RAN: repeat-associated non-AUG)翻訳によって病的なジペプチドリピートペプチドタンパク質(DPR: dipeptide repeat protein)が産生され、実際にDPRが患者脳に蓄積することが明らかになり、現在ではこれら3つの病態メカニズムが協調的に神経変性病態に寄与すると考えられている<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。 | C9orf72遺伝子連鎖性ALS/FTD(C9-ALS/FTD)の病態メカニズムに関しては、当初、GGGGCCリピート伸長変異による遺伝子機能の喪失や、転写された異常伸長リピート配列を含む変異RNA(リピートRNA)による毒性が想定されていた。しかし2013年に、リピートRNAから非古典的なリピート関連非AUG依存性(RAN: repeat-associated non-AUG)翻訳によって病的なジペプチドリピートペプチドタンパク質(DPR: dipeptide repeat protein)が産生され、実際にDPRが患者脳に蓄積することが明らかになり、現在ではこれら3つの病態メカニズムが協調的に神経変性病態に寄与すると考えられている<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。 | ||
[[ファイル:Nagai C9orf72 Fig1.jpg|サムネイル|'''図1. C9orf72遺伝子, 転写産物, タンパク質'''<br>C9orf72遺伝子は12のエクソンから構成され、このうちエクソン2~11がタンパク質をコードする。GGGGCCリピート配列はエクソン1aと1bの間の非翻訳領域に存在する。3種類の転写産物と2種類のタンパク質アイソフォームが存在し、Variant 1はショートアイソフォームに、Variant2および3はロングアイソフォームにそれぞれ翻訳される。Variant 1およびVariant 3はGGGGCCリピート配列を含む。ロングアイソフォームにはDENNドメインが含まれる。]] | [[ファイル:Nagai C9orf72 Fig1.jpg|サムネイル|'''図1. C9orf72遺伝子, 転写産物, タンパク質'''<br>C9orf72遺伝子は12のエクソンから構成され、このうちエクソン2~11がタンパク質をコードする。GGGGCCリピート配列はエクソン1aと1bの間の非翻訳領域に存在する。3種類の転写産物と2種類のタンパク質アイソフォームが存在し、Variant 1はショートアイソフォームに、Variant2および3はロングアイソフォームにそれぞれ翻訳される。Variant 1およびVariant 3はGGGGCCリピート配列を含む。ロングアイソフォームにはDENNドメインが含まれる。]] | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
=== 遺伝子 === | === 遺伝子 === | ||