「セクエストソーム-1」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
9行目: 9行目:


{{box|text= p62/Sequestosome 1 (SQSTM1)はユビキチン化されたタンパク質やオルガネラ(細胞小器官)を認識し、オートファジーによる分解へと導くアダプタータンパク質である。ストレスにより細胞内にユビキチン化タンパク質が蓄積すると、p62とユビキチン化タンパク質が多点で相互作用することにより、液‒液相分離を引き起こし、液体様の性質を持つ構造体であるp62 bodyを形成する。p62 bodyはオートファジーによる分解の場として機能し、液滴内に取り込まれたタンパク質やオルガネラと共にオートファジーにより分解される。また、p62 bodyはユビキチンリガーゼ複合体の構成因子であるKEAP1をその内部に隔離することで、転写因子NRF2を安定化し、抗酸化ストレス応答を誘導する多機能性の液滴である。オートファジーによるp62の分解の不全は神経変性疾患や肝疾患の発症、そして腫瘍形成と関連することが示唆されている。様々な肝疾患患者の肝細胞で蓄積するマロリー小体はp62 bodyと類似した構成因子からなり、p62 bodyと病態形成の関連が示唆されている。また、p62をコードするSQSTM1遺伝子の変異が骨パジェット病、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症で報告されており、p62あるいはp62 bodyの機能異常とこれら疾患との関連も示唆されている。}}
{{box|text= p62/Sequestosome 1 (SQSTM1)はユビキチン化されたタンパク質やオルガネラ(細胞小器官)を認識し、オートファジーによる分解へと導くアダプタータンパク質である。ストレスにより細胞内にユビキチン化タンパク質が蓄積すると、p62とユビキチン化タンパク質が多点で相互作用することにより、液‒液相分離を引き起こし、液体様の性質を持つ構造体であるp62 bodyを形成する。p62 bodyはオートファジーによる分解の場として機能し、液滴内に取り込まれたタンパク質やオルガネラと共にオートファジーにより分解される。また、p62 bodyはユビキチンリガーゼ複合体の構成因子であるKEAP1をその内部に隔離することで、転写因子NRF2を安定化し、抗酸化ストレス応答を誘導する多機能性の液滴である。オートファジーによるp62の分解の不全は神経変性疾患や肝疾患の発症、そして腫瘍形成と関連することが示唆されている。様々な肝疾患患者の肝細胞で蓄積するマロリー小体はp62 bodyと類似した構成因子からなり、p62 bodyと病態形成の関連が示唆されている。また、p62をコードするSQSTM1遺伝子の変異が骨パジェット病、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症で報告されており、p62あるいはp62 bodyの機能異常とこれら疾患との関連も示唆されている。}}
 
[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig1.png|サムネイル|'''図1. 選択的オートファジー'''<br>
脱分極したミトコンドリアや損傷リソソーム、細胞内に侵入した細菌などはユビキチン化され、p62、NBR1、NDP52 TAX1BP1 OPTNなどのオートファジー受容体に認識される。オートファジー受容体は隔離膜上のLC3と結合することで、基質がオートファゴソームに取り込まれ分解される。]]
[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig2.png|サムネイル|'''図2. p62 body形成とオートファジーによる分解'''<br>
p62は自己相互作用ドメインを介して自己相互作用することでオリゴマーやフィラメント構造を形成する。p62フィラメントはp62内のユビキチン結合ドメインを介してユビキチン鎖と多価相互作用することでLLPSを引き起こしp62 bodyを形成する。p62 body上で隔離膜が形成され、ウエッティング効果によりp62 bodyに沿って伸長し、最終的に液滴の一部をちぎり取り、リソソームで分解する。]]
== セクエストソーム-1とは ==
== セクエストソーム-1とは ==
 セクエストソーム-1 (別名p62)は、2005年Terje Johansenらによって発見されたタンパク質であり、ユビキチン化されたタンパク質を隔離膜へと導くことでオートファジー分解するものである <ref name=Bjorkoy2005><pubmed>16286508</pubmed></ref>。オートファジーで分解される基質と隔離膜を繋ぐアダプタータンパク質(オートファジー受容体)として機能する。以降、基質認識領域とLIRを有する様々なオートファジー受容体が発見され、オートファジーが特定のタンパク質やオルガネラを選択的に認識し分解する「選択的オートファジー」という概念が確立した('''図1''')。
 セクエストソーム-1 (別名p62)は、2005年Terje Johansenらによって発見されたタンパク質であり、ユビキチン化されたタンパク質を隔離膜へと導くことでオートファジー分解するものである <ref name=Bjorkoy2005><pubmed>16286508</pubmed></ref>。オートファジーで分解される基質と隔離膜を繋ぐアダプタータンパク質(オートファジー受容体)として機能する。以降、基質認識領域とLIRを有する様々なオートファジー受容体が発見され、オートファジーが特定のタンパク質やオルガネラを選択的に認識し分解する「選択的オートファジー」という概念が確立した('''図1''')。
16行目: 19行目:


 さらに最近、p62 bodyはオートファジーによる分解の場として働くだけでなく、KEAP1を隔離することで転写因子NRF2による酸化ストレス応答を制御するという多面的な機能を持っていることが明らかとなった <ref name=Ikeda2023><pubmed>37306101</pubmed></ref><ref name=Kurusu2023><pubmed>37192622</pubmed></ref>。
 さらに最近、p62 bodyはオートファジーによる分解の場として働くだけでなく、KEAP1を隔離することで転写因子NRF2による酸化ストレス応答を制御するという多面的な機能を持っていることが明らかとなった <ref name=Ikeda2023><pubmed>37306101</pubmed></ref><ref name=Kurusu2023><pubmed>37192622</pubmed></ref>。
 
[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig3.png|サムネイル|'''図3. p62のドメイン構造'''<br>
N末端のPB1自己相互作用ドメインは、p62や他のオートファジー受容体であるNBR1などPB1ドメインを持つタンパク質と相互作用する。LIRは隔離膜上のLC3/GABARAPタンパク質と結合し、KIRはKEAP1と結合する。C末端にユビキチンと結合するUBAドメインを持つ。PB1:Phox1 and Bem1p、ZZ:ZZ-type zinc finger、TB:TRAF6-binding domain、LIR:LC3-interacting region、KIR:KEAP1-interacting region、UBA:Ubiquitin-associated。]]
== 構造 ==
== 構造 ==
 ヒトでは440アミノ酸、マウスでは442アミノ酸からなる。N末端にPB1(Phox1 and Bem1p)自己相互作用ドメインを有し、p62や他のオートファジー受容体であるNBR1(Next to BRCA1 gene 1 protein)などPB1ドメインを持つタンパク質と相互作用する('''図3''')。p62はPB1ドメインを介してオリゴマー化することで、フィラメント構造を形成する <ref name=Berkamp2024>'''Berkamp S, Jungbluth L, Katranidis A, Mostafavi S, Korculanin O, Lu P-H, et al. (2024).'''<br>Structural organization of p62 filaments and the cellular ultrastructure of calcium-rich p62-enwrapped lipid droplet cargo. [https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.10.15.618463v1 bioRxiv. 2024.10.15.618463.]</ref><ref name=Ciuffa2015><pubmed>25921531</pubmed></ref><ref name=Jakobi2020><pubmed>31974402</pubmed></ref>。LIR(LC3-interacting region)は隔離膜上のLC3/GABARAPタンパク質と結合し、選択的オートファジーで機能する。典型的LIR(酵母ではAtg8-family interacting motif(AIM)と呼ばれる)は 哺乳類のp62<ref name=Ichimura2008><pubmed>18524774</pubmed></ref><ref name=Pankiv2007><pubmed>17580304</pubmed></ref>と出芽酵母のカーゴ受容体Atg19<ref name=Noda2008><pubmed>19021777</pubmed></ref> で初めて発見され、 [W/F/Y]xx[L/I/V]の疎水性モチーフからなる。KIR(KEAP1-interacting region)でKEAP1と結合し、KEAP1をp62 body内に隔離する。C末端にユビキチンと結合するUBA(ubiquitin-associated)ドメインを持つ。UBAドメインはユビキチン化されたタンパク質、損傷オルガネラ、液滴などの選択的オートファジー基質の認識や、ユビキチン化タンパク質との相互作用を介した液‒液相分離の駆動に関与する。
 ヒトでは440アミノ酸、マウスでは442アミノ酸からなる。N末端にPB1(Phox1 and Bem1p)自己相互作用ドメインを有し、p62や他のオートファジー受容体であるNBR1(Next to BRCA1 gene 1 protein)などPB1ドメインを持つタンパク質と相互作用する('''図3''')。p62はPB1ドメインを介してオリゴマー化することで、フィラメント構造を形成する <ref name=Berkamp2024>'''Berkamp S, Jungbluth L, Katranidis A, Mostafavi S, Korculanin O, Lu P-H, et al. (2024).'''<br>Structural organization of p62 filaments and the cellular ultrastructure of calcium-rich p62-enwrapped lipid droplet cargo. [https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.10.15.618463v1 bioRxiv. 2024.10.15.618463.]</ref><ref name=Ciuffa2015><pubmed>25921531</pubmed></ref><ref name=Jakobi2020><pubmed>31974402</pubmed></ref>。LIR(LC3-interacting region)は隔離膜上のLC3/GABARAPタンパク質と結合し、選択的オートファジーで機能する。典型的LIR(酵母ではAtg8-family interacting motif(AIM)と呼ばれる)は 哺乳類のp62<ref name=Ichimura2008><pubmed>18524774</pubmed></ref><ref name=Pankiv2007><pubmed>17580304</pubmed></ref>と出芽酵母のカーゴ受容体Atg19<ref name=Noda2008><pubmed>19021777</pubmed></ref> で初めて発見され、 [W/F/Y]xx[L/I/V]の疎水性モチーフからなる。KIR(KEAP1-interacting region)でKEAP1と結合し、KEAP1をp62 body内に隔離する。C末端にユビキチンと結合するUBA(ubiquitin-associated)ドメインを持つ。UBAドメインはユビキチン化されたタンパク質、損傷オルガネラ、液滴などの選択的オートファジー基質の認識や、ユビキチン化タンパク質との相互作用を介した液‒液相分離の駆動に関与する。
31行目: 35行目:
 オートファジーはユビキチン化されたタンパク質の集合体や障害を受けたオルガネラ、細胞内に侵入した細菌など特定の基質を選択的に認識し分解することができる。この過程は「選択的オートファジー」と呼ばれる('''図1''')。選択性を生み出しているのが、分解される基質を認識し、隔離膜へと繋ぐアダプタータンパク質(オートファジー受容体)である。オートファジー受容体には基質上のユビキチン鎖を認識する受容体と基質上に局在する受容体がある。前者にはp62、Neighbor of BRCA1 gene 1 (NBR1)、Nuclear domain 10 protein 52 (NDP52)、Calcium binding and coiled-coil domain containing protein 2 (CALCOCO2)、Tax1-binding protein 1 (TAX1BP1)、Optineurin (OPTN)などがあり、LIRとユビキチン結合ドメインを有する <ref name=Vargas2023><pubmed>36302887</pubmed></ref><ref name=Yamamoto2023><pubmed>36635405</pubmed></ref>。後者にはマイトファジー(ミトコンドリアのオートファジー)に関与するBCL2 interacting protein 3 (BNIP3)、BCL2 interacting protein 3 like (BNIP3L/NIX)、FUN14 domain containing 1 (FUNDC1)、ERファジー(小胞体のオートファジー)に関与するCell cycle progression 1 (CCPG1)、Testis expressed 264 (TEX264)、Family with sequence similarity 134 (FAM134)、Translocation protein SEC62 homolog b (SEC62b)、Cyclin-dependent kinase 5 regulatory subunit–associated protein 3 (CDK5RAP3/C53)、ゴルジファジー(ゴルジ体のオートファジー)に関与するCalcium binding and coiled-coil domain containing 1 (CALCOCO1)、Yip1 domain family member 3 (YIPF3)、Yip1 domain family member 4 (YIPF4)などが一例として挙げられ、それぞれLIRを持つ。
 オートファジーはユビキチン化されたタンパク質の集合体や障害を受けたオルガネラ、細胞内に侵入した細菌など特定の基質を選択的に認識し分解することができる。この過程は「選択的オートファジー」と呼ばれる('''図1''')。選択性を生み出しているのが、分解される基質を認識し、隔離膜へと繋ぐアダプタータンパク質(オートファジー受容体)である。オートファジー受容体には基質上のユビキチン鎖を認識する受容体と基質上に局在する受容体がある。前者にはp62、Neighbor of BRCA1 gene 1 (NBR1)、Nuclear domain 10 protein 52 (NDP52)、Calcium binding and coiled-coil domain containing protein 2 (CALCOCO2)、Tax1-binding protein 1 (TAX1BP1)、Optineurin (OPTN)などがあり、LIRとユビキチン結合ドメインを有する <ref name=Vargas2023><pubmed>36302887</pubmed></ref><ref name=Yamamoto2023><pubmed>36635405</pubmed></ref>。後者にはマイトファジー(ミトコンドリアのオートファジー)に関与するBCL2 interacting protein 3 (BNIP3)、BCL2 interacting protein 3 like (BNIP3L/NIX)、FUN14 domain containing 1 (FUNDC1)、ERファジー(小胞体のオートファジー)に関与するCell cycle progression 1 (CCPG1)、Testis expressed 264 (TEX264)、Family with sequence similarity 134 (FAM134)、Translocation protein SEC62 homolog b (SEC62b)、Cyclin-dependent kinase 5 regulatory subunit–associated protein 3 (CDK5RAP3/C53)、ゴルジファジー(ゴルジ体のオートファジー)に関与するCalcium binding and coiled-coil domain containing 1 (CALCOCO1)、Yip1 domain family member 3 (YIPF3)、Yip1 domain family member 4 (YIPF4)などが一例として挙げられ、それぞれLIRを持つ。


 p62は後述のように、p62 bodyを形成することで、液滴に取り込まれたタンパク質やオルガネラ、ユビキチン化タンパク質を効率的にオートファジーで分解する <ref name=Kurusu2024><pubmed>37948628</pubmed></ref>。p62はユビキチン鎖を介して脱分極したミトコンドリア、損傷リソソーム(リソソームの項を参照)、細菌などにも結合するものの、オートファジー受容体欠損細胞を用いた解析などにより、これらの分解に必須ではないと言われている <ref name=Eapen2021><pubmed>34585663</pubmed></ref><ref name=Lazarou2015><pubmed>26266977</pubmed></ref><ref name=Ravenhill2019><pubmed>30853402</pubmed></ref><ref name=Shima2023><pubmed>37801070</pubmed></ref>。
 p62は後述のように、p62 bodyを形成することで、液滴に取り込まれたタンパク質やオルガネラ、ユビキチン化タンパク質を効率的にオートファジーで分解する <ref name=Kurusu2024><pubmed>37948628</pubmed></ref>。p62はユビキチン鎖を介して脱分極したミトコンドリア、損傷リソソーム、細菌などにも結合するものの、オートファジー受容体欠損細胞を用いた解析などにより、これらの分解に必須ではないと言われている <ref name=Eapen2021><pubmed>34585663</pubmed></ref><ref name=Lazarou2015><pubmed>26266977</pubmed></ref><ref name=Ravenhill2019><pubmed>30853402</pubmed></ref><ref name=Shima2023><pubmed>37801070</pubmed></ref>。
 
[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig4.png|サムネイル|'''図4. オートファジー分解の場としてのp62 body'''<br>
p62 bodyにはオートファジー受容体NBR1やTAX1BP1、ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子KEAP1や機能未知のヴォルト粒子が取りこまれ、液滴と共にオートファジーにより分解される。]]
==== p62 body形成と選択的オートファジーによる分解 ====
==== p62 body形成と選択的オートファジーによる分解 ====
 p62は通常、自己相互作用ドメインであるPB1ドメインを介してオリゴマーとなり、フィラメント構造を形成する。p62フィラメントはユビキチン鎖と結合することで液‒液相分離を引き起こし、p62 bodyを形成する <ref name=Sun2018><pubmed>29507397</pubmed></ref><ref name=Zaffagnini2018><pubmed>29343546</pubmed></ref>。p62のUBAドメインは通常ホモ二量体を形成しユビキチンと結合できないが、p62のUBAドメイン内のセリン残基のリン酸化によりこの結合が阻害され、ユビキチンとの結合が増強される。そのリン酸化を制御するのがULK1(ヒト場合の407番目のセリン残基)やTBK1、CK2(ヒト場合の403番目のセリン残基)である <ref name=Lim2015><pubmed>25723488</pubmed></ref><ref name=Matsumoto2011><pubmed>22017874</pubmed></ref><ref name=Pilli2012><pubmed>22921120</pubmed></ref>。p62 bodyにはKEAP1や機能未知のVault粒子、オートファジー受容体であるNBR1やTAX1BP1が取りこまれ、p62 bodyと共に選択的オートファジーにより分解される <ref name=Kurusu2023><pubmed>37192622</pubmed></ref>('''図4''')。オートファジー受容体はKEAP1(p62と結合)やVault粒子(NBR1と結合)のp62 bodyへの取り込みと、オートファジー機構の呼び込みに関与する <ref name=Komatsu2010><pubmed>20173742</pubmed></ref><ref name=Turco2019><pubmed>30853400</pubmed></ref><ref name=Vargas2019><pubmed>30853401</pubmed></ref>。p62やTAX1BP1はオートファジー機構の最上流因子FIP200(FAK family kinase-interacting protein of 200 kDa)を呼び込み、p62 body上で隔離膜が形成される。隔離膜はウエッティング効果によりp62 bodyに沿い伸長し、最終的に液滴の一部をちぎり取り、分解する <ref name=Agudo-Canalejo2021><pubmed>33473217</pubmed></ref><ref name=Kageyama2021><pubmed>33397898</pubmed></ref>。p62 bodyの選択的オートファジーはユビキチン化タンパク質を効率的に分解することができ、それによりタンパク質の恒常性の維持に働いていると考えられる。
 p62は通常、自己相互作用ドメインであるPB1ドメインを介してオリゴマーとなり、フィラメント構造を形成する。p62フィラメントはユビキチン鎖と結合することで液‒液相分離を引き起こし、p62 bodyを形成する <ref name=Sun2018><pubmed>29507397</pubmed></ref><ref name=Zaffagnini2018><pubmed>29343546</pubmed></ref>。p62のUBAドメインは通常ホモ二量体を形成しユビキチンと結合できないが、p62のUBAドメイン内のセリン残基のリン酸化によりこの結合が阻害され、ユビキチンとの結合が増強される。そのリン酸化を制御するのがULK1(ヒト場合の407番目のセリン残基)やTBK1、CK2(ヒト場合の403番目のセリン残基)である <ref name=Lim2015><pubmed>25723488</pubmed></ref><ref name=Matsumoto2011><pubmed>22017874</pubmed></ref><ref name=Pilli2012><pubmed>22921120</pubmed></ref>。p62 bodyにはKEAP1や機能未知のVault粒子、オートファジー受容体であるNBR1やTAX1BP1が取りこまれ、p62 bodyと共に選択的オートファジーにより分解される <ref name=Kurusu2023><pubmed>37192622</pubmed></ref>('''図4''')。オートファジー受容体はKEAP1(p62と結合)やVault粒子(NBR1と結合)のp62 bodyへの取り込みと、オートファジー機構の呼び込みに関与する <ref name=Komatsu2010><pubmed>20173742</pubmed></ref><ref name=Turco2019><pubmed>30853400</pubmed></ref><ref name=Vargas2019><pubmed>30853401</pubmed></ref>。p62やTAX1BP1はオートファジー機構の最上流因子FIP200(FAK family kinase-interacting protein of 200 kDa)を呼び込み、p62 body上で隔離膜が形成される。隔離膜はウエッティング効果によりp62 bodyに沿い伸長し、最終的に液滴の一部をちぎり取り、分解する <ref name=Agudo-Canalejo2021><pubmed>33473217</pubmed></ref><ref name=Kageyama2021><pubmed>33397898</pubmed></ref>。p62 bodyの選択的オートファジーはユビキチン化タンパク質を効率的に分解することができ、それによりタンパク質の恒常性の維持に働いていると考えられる。


[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig5.png|サムネイル|'''図5. p62 bodyによる酸化ストレス応答'''<br>
KEAP1は転写因子NRF2をユビキチン化し、プロテアソームで分解する。KEAP1は細胞質とp62 bodyを移動しているが、p62のセリンの349番目がULK1によりリン酸化されるとKEAP1との結合親和性が増大し、KEAP1がp62 bodyに保持されるようになる。その結果、NRF2が安定化し酸化ストレス応答遺伝子の転写が活性化される。]]
==== KEAP1の隔離による抗酸化ストレス応答 ====
==== KEAP1の隔離による抗酸化ストレス応答 ====
 p62 bodyは上記のようにオートファジーによる分解の場として働くだけでなく、KEAP1を隔離することで、転写因子NRF2による抗酸化ストレス応答を調節する働きを持つ。KEAP1はCullin3型のユビキチンリガーゼの基質認識アダプターであり、NRF2と結合しユビキチン化することで、プロテアソーム(プロテアソームの項を参照)による分解へと誘導する。KEAP1によるNRF2の分解は2つの経路で制御されている。1つは、細胞内の酸化ストレスや親電子性物質などにより、KEAP1のシステイン残基が酸化修飾を受けることで、この結合が解離し、NRF2が核内に移行し、標的遺伝子の発現が亢進する機構である <ref name=Yamamoto2018><pubmed>29717933</pubmed></ref>。もう1つは、p62がKEAP1とNRF2の結合を競合阻害する機構である <ref name=Komatsu2010><pubmed>20173742</pubmed></ref>。KEAP1は通常、細胞質とp62 bodyを移動しているが、p62のセリン349番目がULK1によりリン酸化されるとKEAP1との結合親和性が増大し、KEAP1がp62bodyに保持されるようになる <ref name=Ichimura2013><pubmed>24011591</pubmed></ref><ref name=Ikeda2023><pubmed>37306101</pubmed></ref> ('''図5''')。その結果、KEAP1によるNRF2のユビキチン化が抑制され、NRF2による転写が活性化される。
 p62 bodyは上記のようにオートファジーによる分解の場として働くだけでなく、KEAP1を隔離することで、転写因子NRF2による抗酸化ストレス応答を調節する働きを持つ。KEAP1はCullin3型のユビキチンリガーゼの基質認識アダプターであり、NRF2と結合しユビキチン化することで、プロテアソーム(プロテアソームの項を参照)による分解へと誘導する。KEAP1によるNRF2の分解は2つの経路で制御されている。1つは、細胞内の酸化ストレスや親電子性物質などにより、KEAP1のシステイン残基が酸化修飾を受けることで、この結合が解離し、NRF2が核内に移行し、標的遺伝子の発現が亢進する機構である <ref name=Yamamoto2018><pubmed>29717933</pubmed></ref>。もう1つは、p62がKEAP1とNRF2の結合を競合阻害する機構である <ref name=Komatsu2010><pubmed>20173742</pubmed></ref>。KEAP1は通常、細胞質とp62 bodyを移動しているが、p62のセリン349番目がULK1によりリン酸化されるとKEAP1との結合親和性が増大し、KEAP1がp62bodyに保持されるようになる <ref name=Ichimura2013><pubmed>24011591</pubmed></ref><ref name=Ikeda2023><pubmed>37306101</pubmed></ref> ('''図5''')。その結果、KEAP1によるNRF2のユビキチン化が抑制され、NRF2による転写が活性化される。
61行目: 68行目:
* [[筋萎縮性側索硬化症]]
* [[筋萎縮性側索硬化症]]
* [[前頭側頭型認知症]]
* [[前頭側頭型認知症]]
'''図1. 選択的オートファジー'''<br>
脱分極したミトコンドリアや損傷リソソーム、細胞内に侵入した細菌などはユビキチン化され、p62、NBR1、NDP52 TAX1BP1 OPTNなどのオートファジー受容体に認識される。オートファジー受容体は隔離膜上のLC3と結合することで、基質がオートファゴソームに取り込まれ分解される。
'''図2. p62 body形成とオートファジーによる分解'''<br>
p62は自己相互作用ドメインを介して自己相互作用することでオリゴマーやフィラメント構造を形成する。p62フィラメントはp62内のユビキチン結合ドメインを介してユビキチン鎖と多価相互作用することでLLPSを引き起こしp62 bodyを形成する。p62 body上で隔離膜が形成され、ウエッティング効果によりp62 bodyに沿って伸長し、最終的に液滴の一部をちぎり取り、リソソームで分解する。
'''図3. p62のドメイン構造'''<br>
N末端のPB1自己相互作用ドメインは、p62や他のオートファジー受容体であるNBR1などPB1ドメインを持つタンパク質と相互作用する。LIRは隔離膜上のLC3/GABARAPタンパク質と結合し、KIRはKEAP1と結合する。C末端にユビキチンと結合するUBAドメインを持つ。PB1:Phox1 and Bem1p、ZZ:ZZ-type zinc finger、TB:TRAF6-binding domain、LIR:LC3-interacting region、KIR:KEAP1-interacting region、UBA:Ubiquitin-associated。
'''図4. オートファジー分解の場としてのp62 body'''<br>
p62 bodyにはオートファジー受容体NBR1やTAX1BP1、ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子KEAP1や機能未知のヴォルト粒子が取りこまれ、液滴と共にオートファジーにより分解される。
'''図5. p62 bodyによる酸化ストレス応答'''<br>
KEAP1は転写因子NRF2をユビキチン化し、プロテアソームで分解する。KEAP1は細胞質とp62 bodyを移動しているが、p62のセリンの349番目がULK1によりリン酸化されるとKEAP1との結合親和性が増大し、KEAP1がp62 bodyに保持されるようになる。その結果、NRF2が安定化し酸化ストレス応答遺伝子の転写が活性化される。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==