「グレリン」の版間の差分

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=== グレリン受容体のシグナル伝達機構 ===
=== グレリン受容体のシグナル伝達機構 ===
 グレリン受容体1aは主に[[Gq]]/[[G11|11]]タンパク質を介して[[ホスホリパーゼC]]([[phospholipase C]][[PLC]])経路を活性化する。これにより[[イノシトール三リン酸]]([[inositol 1,4,5-trisphosphate]][[IP3]])と[[ジアシルグリセロール]]([[diacylglycerol]][[DAG]])が生成され、細胞内Ca²⁺濃度が上昇し、成長ホルモン分泌が促進される。また、グレリン受容体は[[細胞外シグナル調節キナーゼ]]([[extracellular signal-regulated kinase]][[ERK]])経路や[[AMP活性化プロテインキナーゼ]]([[5' adenosine monophosphate-activated protein kinase]][[AMPK]])経路も活性化し、代謝調節や細胞の生存維持に関与する。
 グレリン受容体1aは主に[[Gq]]/[[G11|11]]タンパク質を介して[[ホスホリパーゼC]]([[phospholipase C]], [[PLC]])経路を活性化する。これにより[[イノシトール三リン酸]]([[inositol 1,4,5-trisphosphate]], [[IP3]])と[[ジアシルグリセロール]]([[diacylglycerol]], [[DAG]])が生成され、細胞内Ca²⁺濃度が上昇し、成長ホルモン分泌が促進される。また、グレリン受容体は[[細胞外シグナル調節キナーゼ]]([[extracellular signal-regulated kinase]], [[ERK]])経路や[[AMP活性化プロテインキナーゼ]]([[5' adenosine monophosphate-activated protein kinase]], [[AMPK]])経路も活性化し、代謝調節や細胞の生存維持に関与する。


=== 立体構造と受容体結合様式 ===
=== 立体構造と受容体結合様式 ===
 近年の研究により、グレリン受容体の立体構造が明らかになった。2020年には、[[アンタゴニスト]]である[[Compound 21]]が結合した不活性型グレリン受容体の[[X線結晶構造]]が解明され、受容体のリガンド結合ポケットがE124³·³³とR283⁶·⁵⁵ (上付の数字は[[Ballesteros-Weinstein numbering]]による) のイオン結合(塩橋)により二股構造(Cavity IとCavity II)を形成していることが示された('''図4''')<ref name=Shiimura2020><pubmed>32814772</pubmed></ref>。2021年には、グレリンが結合した活性型グレリン受容体の構造が[[クライオ電子顕微鏡]]解析により解明された<ref name=Liu2021><pubmed>34737341</pubmed></ref><ref name=Qin2022><pubmed>35027551</pubmed></ref><ref name=Wang2021><pubmed>34417468</pubmed></ref>。
 近年の研究により、グレリン受容体の立体構造が明らかになった。2020年には、[[アンタゴニスト]]である[[Compound 21]]が結合した不活性型グレリン受容体の[[X線結晶構造]]が解明され、受容体のリガンド結合ポケットがE124³·³³とR283⁶·⁵⁵ (上付の数字は[[Ballesteros-Weinstein numbering]]による) の[[イオン結合]](塩橋)により二股構造(Cavity IとCavity II)を形成していることが示された('''図4''')<ref name=Shiimura2020><pubmed>32814772</pubmed></ref>。2021年には、グレリンが結合した活性型グレリン受容体の構造が[[クライオ電子顕微鏡]]解析により解明された<ref name=Liu2021><pubmed>34737341</pubmed></ref><ref name=Qin2022><pubmed>35027551</pubmed></ref><ref name=Wang2021><pubmed>34417468</pubmed></ref>。


 グレリンのN末端から7番目の[[プロリン]]までの領域がリガンド結合部位を占め、8番目のグルタミン酸以降の部分がαヘリックスを形成する。グレリン受容体の二股構造は、グレリン結合に重要な役割を果たしており、グレリンのペプチド鎖とオクタン酸は、E124³·³³とR283⁶·⁵⁵のイオン結合を跨ぐようにして、それぞれCavity IとIIに収納されている。特に、Ser3に結合したオクタノイル基は、I178⁴·⁶⁰およびL181⁴·⁶³と疎水結合を形成し、受容体の活性化に寄与することが示された。さらに、異なるリガンドや[[Gタンパク質]]が結合したグレリン受容体構造が複数決定され、これらの比較解析が可能になったことで、リガンドに応じた受容体の構造変化がシグナル伝達の多様性に影響を与えることが明らかとなった
 グレリンのN末端から7番目の[[プロリン]]までの領域がリガンド結合部位を占め、8番目のグルタミン酸以降の部分が[[αヘリックス]]を形成する。グレリン受容体の二股構造は、グレリン結合に重要な役割を果たしており、グレリンのペプチド鎖とオクタン酸は、E124³·³³とR283⁶·⁵⁵のイオン結合を跨ぐようにして、それぞれCavity IとIIに収納されている。特に、Ser3に結合したオクタノイル基は、I178⁴·⁶⁰およびL181⁴·⁶³と疎水結合を形成し、受容体の活性化に寄与することが示された。さらに、異なるリガンドや[[Gタンパク質]]が結合したグレリン受容体構造が複数決定され、これらの比較解析が可能になったことで、リガンドに応じた受容体の構造変化がシグナル伝達の多様性に影響を与えることが明らかとなった
<ref name=Shiimura2025><pubmed>39833471</pubmed></ref>。
<ref name=Shiimura2025><pubmed>39833471</pubmed></ref>。