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== サブファミリー == | == サブファミリー == | ||
=== 無脊椎動物 === | === 無脊椎動物 === | ||
多くは単一の''en''を有する一方、ショウジョウバエには、''en''と隣接してその[[パラログ]]遺伝子である''[[invected]]''(''[[inv]]'')が存在する<ref name=Gustavson1996><pubmed>8849895</pubmed></ref> | 多くは単一の''en''を有する一方、ショウジョウバエには、''en''と隣接してその[[パラログ]]遺伝子である''[[invected]]''(''[[inv]]'')が存在する<ref name=Gustavson1996><pubmed>8849895</pubmed></ref>。''inv''を欠く個体は生存可能であり、表現型にも顕著な異常は見られないが、''en''と''inv''の二重変異体では''en''単独変異の[[表現型]]が増強されることから、両者は機能的に冗長であると考えられる<ref name=Gustavson1996><pubmed>8849895</pubmed></ref>。 | ||
=== 脊椎動物 === | === 脊椎動物 === | ||
多くは2つの''en''相同遺伝子''En1''および''En2''を有する<ref name=Holland1990><pubmed>1980115</pubmed></ref>。[[ゼブラフィッシュ]]では、それぞれの遺伝子がさらに重複し、''En1''および''En2''が各2コピーずつ存在する<ref name=Force1999><pubmed>10101175</pubmed></ref>。 | 多くは2つの''en''相同遺伝子''En1''および''En2''を有する<ref name=Holland1990><pubmed>1980115</pubmed></ref>。[[ゼブラフィッシュ]]では、それぞれの遺伝子がさらに重複し、''En1''および''En2''が各2コピーずつ存在する<ref name=Force1999><pubmed>10101175</pubmed></ref>。 | ||
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EH4は[[ホメオドメイン]]であり、DNAへの結合に関わる<ref name=Kissinger1990><pubmed>1977522</pubmed></ref>。ホメオドメインを構成する3本の[[αヘリックス]]のうち第3ヘリックスと、ホメオドメインのN末端のヘリックスを構成しない数アミノ酸がDNAに結合する<ref name=Kissinger1990><pubmed>1977522</pubmed></ref>。[[SAAB法]]によるとEngrailed単独で最も高い親和性を示すDNA配列はTAATTAである<ref name=Ades1994><pubmed>8049221</pubmed></ref>。また、Exdとのヘテロ二量体化により、EnのDNA結合特異性が変化する<ref name=vanDijk1994><pubmed>7915200</pubmed></ref>。ショウジョウバエ胚における[[ChIP解析]]によるとEnのコンセンサス結合配列はYAATYANBである<ref name=Solano2003><pubmed>12588842</pubmed></ref>。Enの結合親和性は、認識部位に隣接する、認識配列に類似した繰り返し配列を伴うDNA領域により増強される<ref name=Castellanos2020><pubmed>31992709</pubmed></ref>。 | EH4は[[ホメオドメイン]]であり、DNAへの結合に関わる<ref name=Kissinger1990><pubmed>1977522</pubmed></ref>。ホメオドメインを構成する3本の[[αヘリックス]]のうち第3ヘリックスと、ホメオドメインのN末端のヘリックスを構成しない数アミノ酸がDNAに結合する<ref name=Kissinger1990><pubmed>1977522</pubmed></ref>。[[SAAB法]]によるとEngrailed単独で最も高い親和性を示すDNA配列はTAATTAである<ref name=Ades1994><pubmed>8049221</pubmed></ref>。また、Exdとのヘテロ二量体化により、EnのDNA結合特異性が変化する<ref name=vanDijk1994><pubmed>7915200</pubmed></ref>。ショウジョウバエ胚における[[ChIP解析]]によるとEnのコンセンサス結合配列はYAATYANBである<ref name=Solano2003><pubmed>12588842</pubmed></ref>。Enの結合親和性は、認識部位に隣接する、認識配列に類似した繰り返し配列を伴うDNA領域により増強される<ref name=Castellanos2020><pubmed>31992709</pubmed></ref>。 | ||
EH3の大部分とホメオドメインのN末端の一部を含む領域は、細胞表面の[[グリコサミノグリカン]]([[GAG]])との相互作用を通じて、Enの細胞外から細胞内への移行を制御する<ref name=Cardon2023><pubmed>37032404</pubmed></ref>。ホメオドメインのC末端側には、[[核外移行シグナル配列]]([[NES]])/細胞外への分泌シグナルと、細胞外から細胞内への移行シグナル([[膜透過ペプチド]]配列[[penetratin]])が存在する<ref name=Joliot1998><pubmed>9705930</pubmed></ref><ref name=Maizel1999><pubmed>10375508</pubmed></ref> | EH3の大部分とホメオドメインのN末端の一部を含む領域は、細胞表面の[[グリコサミノグリカン]]([[GAG]])との相互作用を通じて、Enの細胞外から細胞内への移行を制御する<ref name=Cardon2023><pubmed>37032404</pubmed></ref>。ホメオドメインのC末端側には、[[核外移行シグナル配列]]([[NES]])/細胞外への分泌シグナルと、細胞外から細胞内への移行シグナル([[膜透過ペプチド]]配列[[penetratin]])が存在する<ref name=Joliot1998><pubmed>9705930</pubmed></ref><ref name=Maizel1999><pubmed>10375508</pubmed></ref><ref name=Dupont2007><pubmed>17242404</pubmed></ref>。細胞外から細胞内への移行は[[エンドサイトーシス]]と、エンドサイトーシスを介さない直接的移行の2つの様式により起こる<ref name=Dupont2007><pubmed>17242404</pubmed></ref><ref name=Jiao2009><pubmed>19833724</pubmed></ref>。Enの細胞内外への出入りには、[[ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸]]([[PIP2]])と[[コレステロール]]が必要である<ref name=Amblard2020b><pubmed>32434869</pubmed></ref>。EnのEH2ドメインのN末端側には高[[セリン]]領域が存在する。[[カゼインキナーゼ2]] ([[CK2]])によるこの領域の[[リン酸化]]は、EnホメオドメインのDNAへの結合を増強する一方<ref name=Bourbon1995><pubmed>7744743</pubmed></ref>、Enの細胞外分泌を阻害する<ref name=Maizel2002><pubmed>12117805</pubmed></ref>。また、Enは他のいくつかのホメオドメインタンパク質([[Bicoid]], [[Emx2]], [[HoxA9]], [[Prh]]など)と同様に、[[真核生物翻訳開始因子4E]] ([[eIF4E]])と結合するが<ref name=Nedelec2004><pubmed>15247416</pubmed></ref>、それらのホメオドメインタンパク質とは異なり<ref name=Topisirovic2005><pubmed>16136508</pubmed></ref>、EH1ドメインがeIF4E結合部位を兼ねることが推定されている(<ref name=Rhoads2009><pubmed>19237539</pubmed></ref>、Alain Prochiantz、私信)。これとは別に、マウスのEn1のホメオドメインN末端に位置するリジンに点突然変異K313Eを導入すると、eIF4Eに結合しなくなる<ref name=Stettler2012><pubmed>22147955</pubmed></ref>。[[Foxa2]]との相互作用には高セリン領域からホメオドメインにかけての領域が関与する<ref name=Foucher2003><pubmed>12642491</pubmed></ref>。 | ||
== 発現 == | == 発現 == | ||
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[[脊髄]]では、''En1''はV1介在ニューロンの特定化には必要ないが、その軸索ガイダンスと軸索束形成に必要である<ref name=Saueressig1999><pubmed>10477289</pubmed></ref>。また、V1ニューロンの一部に由来する[[レンショー細胞]]と[[運動ニューロン]]の抑制性シナプス形成を調節する<ref name=Sapir2004><pubmed>14762144</pubmed></ref>。 | [[脊髄]]では、''En1''はV1介在ニューロンの特定化には必要ないが、その軸索ガイダンスと軸索束形成に必要である<ref name=Saueressig1999><pubmed>10477289</pubmed></ref>。また、V1ニューロンの一部に由来する[[レンショー細胞]]と[[運動ニューロン]]の抑制性シナプス形成を調節する<ref name=Sapir2004><pubmed>14762144</pubmed></ref>。 | ||
発生中の体幹部において、軸上筋神経は体節中の''En1''陽性領域に誘引される一方、軸下筋神経は''En''陽性領域を忌避する<ref name=Ahmed2017><pubmed>28807781</pubmed></ref> | 発生中の体幹部において、軸上筋神経は体節中の''En1''陽性領域に誘引される一方、軸下筋神経は''En''陽性領域を忌避する<ref name=Ahmed2017><pubmed>28807781</pubmed></ref>。また、四肢背側の筋肉に投射する脊髄運動ニューロン軸索に対し、肢芽腹側のEn1は細胞間シグナル分子として直接的に反発効果を呈すると共に、転写因子として制御下のEphrinA5を介して間接的にも反発効果を示す<ref name=Huettl2015><pubmed>25710467</pubmed></ref>。但し、中脳視蓋とは異なりEn1とEphrinA5との相乗効果は見られず、またEn2はこの軸索に対して反発効果を示さない。 | ||
=== ニューロンの分化と維持 === | === ニューロンの分化と維持 === | ||