「分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ8相互作用タンパク質」の版間の差分
細編集の要約なし |
|||
| (同じ利用者による、間の4版が非表示) | |||
| 1行目: | 1行目: | ||
和歌山県立医科大学 | <div align="right"> | ||
<font size="+1">平井 秀一</font><br> | |||
''和歌山県立医科大学''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年12月16日 原稿完成日:2026年1月3日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/wadancnp 和田 圭司](国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター) | |||
</div> | |||
英語名:MAPK8IP (Mitogen-activated protein kinase 8-interacting protein) | 英語名:MAPK8IP (Mitogen-activated protein kinase 8-interacting protein)<br> | ||
同義語:JIP (JNK-interacting protein), IB (Islet brain) | 同義語:JIP (JNK-interacting protein), IB (Islet brain) | ||
| 29行目: | 33行目: | ||
MAPK8IP1および2とは構造が全く異なるJNK結合足場タンパク質としてJun N-terminal protein kinase /stress-activated protein kinase-associated protein 1 (JSAP1) <ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref> [6]が同定された。これはJIP3<ref name=Kelkar2000><pubmed>10629060</pubmed></ref>[7]とも呼ばれたが、現在はMAPK8IP3とよばれている。 | MAPK8IP1および2とは構造が全く異なるJNK結合足場タンパク質としてJun N-terminal protein kinase /stress-activated protein kinase-associated protein 1 (JSAP1) <ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref> [6]が同定された。これはJIP3<ref name=Kelkar2000><pubmed>10629060</pubmed></ref>[7]とも呼ばれたが、現在はMAPK8IP3とよばれている。 | ||
そのパラログとして[[JNK-associated leucine zipper protein]] (JLP)[8]/[[sperm-associated antigen 9]] (SPAG9)[9]/JIP4[10]が同定されたが、現在はMAPK8IP4とよばれている<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Jagadish2005><pubmed>16077255</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。 | |||
== 構造 == | == 構造 == | ||
| 46行目: | 50行目: | ||
== 神経細胞での機能 == | == 神経細胞での機能 == | ||
MAPK8IP1-4は、種々の膜タンパク質との結合を介して小胞、リソソーム、オートファゴソームなどの[[細胞小器官]]と結合するとともに、キネシン、ダイナクチン-ダイニンといったモータータンパク質と結合することにより[[軸索輸送]]を支えるアダブター分子となっている<ref name=Fu2013><pubmed>23897889</pubmed></ref><ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [16] [17] [18] [19]。MAPK8IP3のショウジョウバエホモログであるSunday driver (SYD)は、これの変異により軸索内の小胞輸送が滞り、小胞の“渋滞”を招くことからこの名称がある<ref name=Bowman2000><pubmed>11106729</pubmed></ref> [12]。哺乳類神経細胞においては、MAPK8IP3ノックダウンにより軸索内でのプロテアーゼ欠損型リソソームの滞留とこれによる[[アミロイドβ]]42タンパク質の蓄積が認められる<ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref> [18]。MAPK8IP3とそのパラログMAPK8IP4についてはさらに、小胞輸送に関わるARF6などの低分子量Gタンパク質による制御を受けつつモータータンパク質を活性化することにより、軸索輸送の効率や方向を決める分子である可能性が指摘されている<ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [17] [18] [19]。一方、結合しているJNKがどのような形でこういった機能の制御に関わっているかなど、未だ不明な点も多い。 | MAPK8IP1-4は、種々の膜タンパク質との結合を介して小胞、リソソーム、オートファゴソームなどの[[細胞小器官]]と結合するとともに、キネシン、ダイナクチン-ダイニンといったモータータンパク質と結合することにより[[軸索輸送]]を支えるアダブター分子となっている<ref name=Fu2013><pubmed>23897889</pubmed></ref><ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [16] [17] [18] [19]。MAPK8IP3のショウジョウバエホモログであるSunday driver (SYD)は、これの変異により軸索内の小胞輸送が滞り、小胞の“渋滞”を招くことからこの名称がある<ref name=Bowman2000><pubmed>11106729</pubmed></ref> [12]。哺乳類神経細胞においては、MAPK8IP3ノックダウンにより軸索内でのプロテアーゼ欠損型リソソームの滞留とこれによる[[アミロイドβ]]42タンパク質の蓄積が認められる<ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref> [18]。MAPK8IP3とそのパラログMAPK8IP4についてはさらに、小胞輸送に関わるARF6などの低分子量Gタンパク質による制御を受けつつモータータンパク質を活性化することにより、軸索輸送の効率や方向を決める分子である可能性が指摘されている<ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [17] [18] [19]。一方、結合しているJNKがどのような形でこういった機能の制御に関わっているかなど、未だ不明な点も多い。 | ||
== ノックアウトマウス == | == ノックアウトマウス == | ||
=== MAPK8IP1ノックアウトマウス === | === MAPK8IP1ノックアウトマウス === | ||
寿命や生殖能力に異常はないが、[[海馬]]神経細胞において[[興奮毒性]]に関わるJNK活性化と[[細胞死]]が抑制される<ref name=Whitmarsh2001><pubmed>11562351</pubmed></ref> [20]他、高脂肪食により脂肪細胞で誘発されるJNK活性化とこれによるインスリン抵抗性が抑制される<ref name=Jaeschke2004><pubmed>15314024</pubmed></ref> [21]。MAPK8IP1とMAPK8IP2の双方をノックアウトした場合は [[低血糖]]による顕著な成長遅延を呈し、生後2週間程度で死亡する<ref name=Standen2009><pubmed>19564410</pubmed></ref> [22]。 | 寿命や生殖能力に異常はないが、[[海馬]]神経細胞において[[興奮毒性]]に関わるJNK活性化と[[細胞死]]が抑制される<ref name=Whitmarsh2001><pubmed>11562351</pubmed></ref> [20]他、高脂肪食により脂肪細胞で誘発されるJNK活性化とこれによるインスリン抵抗性が抑制される<ref name=Jaeschke2004><pubmed>15314024</pubmed></ref> [21]。MAPK8IP1とMAPK8IP2の双方をノックアウトした場合は [[低血糖]]による顕著な成長遅延を呈し、生後2週間程度で死亡する<ref name=Standen2009><pubmed>19564410</pubmed></ref> [22]。 | ||
=== | === MAPK8IP3ノックアウトマウス === | ||
[[終脳]]形成に異常を呈し、呼吸不全により生後間もなく死亡する<ref name=Kelkar2003><pubmed>12897243</pubmed></ref> [23]。 | [[終脳]]形成に異常を呈し、呼吸不全により生後間もなく死亡する<ref name=Kelkar2003><pubmed>12897243</pubmed></ref> [23]。 | ||
=== | === MAPK8IP4ノックアウトマウス === | ||
[[精子]]の運動性低下が原因と見られる[[雄性不妊]]の傾向が認められる<ref name=Iwanaga2008><pubmed>18574703</pubmed></ref> [24]。ただし成長や精巣の形態に異常はなく、上記の分子機能との関連性は不明。またノックアウトマウスから採取した[[B細胞]]においては[[リポ多糖]] ([[LPS]])刺激後の[[CD40]]の内在化([[エンドサイトーシス]])が抑制される<ref name=Wang2015><pubmed>25586186</pubmed></ref> [25]。 | [[精子]]の運動性低下が原因と見られる[[雄性不妊]]の傾向が認められる<ref name=Iwanaga2008><pubmed>18574703</pubmed></ref> [24]。ただし成長や精巣の形態に異常はなく、上記の分子機能との関連性は不明。またノックアウトマウスから採取した[[B細胞]]においては[[リポ多糖]] ([[LPS]])刺激後の[[CD40]]の内在化([[エンドサイトーシス]])が抑制される<ref name=Wang2015><pubmed>25586186</pubmed></ref> [25]。 | ||