「分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ8相互作用タンパク質」の版間の差分

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 [[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ]] ([[mitogen-activated kinase]], [[MAPK]])に属する[[タンパク質リン酸化酵素]]は上流の[[MAP2K]]に属するタンパク質リン酸化酵素によりリン酸化されることで活性化し、MAP2Kはさらに上流の[[MAP3K]]に属するタンパク質リン酸化酵素によりリン酸化されることで活性化する。このシグナル伝達機構は[[酵母]]から[[哺乳類]]まで保存されており[[MAPキナーゼカスケード]]と呼ばれている。
 [[分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ]] ([[mitogen-activated kinase]], [[MAPK]])に属する[[タンパク質リン酸化酵素]]は上流の[[MAP2K]]に属するタンパク質リン酸化酵素によりリン酸化されることで活性化し、MAP2Kはさらに上流の[[MAP3K]]に属するタンパク質リン酸化酵素によりリン酸化されることで活性化する。このシグナル伝達機構は[[酵母]]から[[哺乳類]]まで保存されており[[MAPキナーゼカスケード]]と呼ばれている。


 酵母でこういったリン酸化を介したシグナル伝達の効率を高める[[足場タンパク質]]として、[[STE5]]が同定された<ref name=Choi1994><pubmed>8062390</pubmed></ref> [1]。哺乳類においても、MAPKの一つである[[c-Jun N-terminal kinase]] ([[JNK]])と結合してこれを阻害するタンパク質として同定された[[JNK-interacting protein 1]] ([[JIP1]]、現在は[[MAPK8IP1]]と呼ばれる) <ref name=Dickens1997><pubmed>9235893</pubmed></ref> [2]が、STE5様の足場タンパク質として機能する(ホモログではない)と考えられるようになった<ref name=Whitmarsh1998><pubmed>9733513</pubmed></ref> [3]。さらにMAPK8IP1はJNKのみならず、JNKの上流であるMAP2KやMAP3Kとも結合することが示された。
 酵母でこういったリン酸化を介したシグナル伝達の効率を高める[[足場タンパク質]]として、[[STE5]]が同定された<ref name=Choi1994><pubmed>8062390</pubmed></ref>。哺乳類においても、MAPKの一つである[[c-Jun N-terminal kinase]] ([[JNK]])と結合してこれを阻害するタンパク質として同定された[[JNK-interacting protein 1]] ([[JIP1]]、現在は[[MAPK8IP1]]と呼ばれる) <ref name=Dickens1997><pubmed>9235893</pubmed></ref>が、STE5様の足場タンパク質として機能する(ホモログではない)と考えられるようになった<ref name=Whitmarsh1998><pubmed>9733513</pubmed></ref>。さらにMAPK8IP1はJNKのみならず、JNKの上流であるMAP2KやMAP3Kとも結合することが示された。


 線虫やショウジョウバエの[[MAPK8IP3]]ホモログである[[UNC16]] <ref name=Byrd2001><pubmed>11738026</pubmed></ref> [11]やSunday driver (SYD) <ref name=Bowman2000><pubmed>11106729</pubmed></ref> [12]が神経細胞における[[軸索輸送]]に係ることが示されたことに加え、MAPK8IP1,2のC末端部に[[キネシン軽鎖]]結合配列が見つかった<ref name=Verhey2001><pubmed>11238452</pubmed></ref> [13]ことにより、これらMAPK8IPファミリータンパク質の細胞内輸送における機能についても注目を集めている。
 線虫やショウジョウバエの[[MAPK8IP3]]ホモログである[[UNC16]] <ref name=Byrd2001><pubmed>11738026</pubmed></ref>[[sunday driver]] (SYD) <ref name=Bowman2000><pubmed>11106729</pubmed></ref>が神経細胞における[[軸索輸送]]に係ることが示されたことに加え、MAPK8IP1,2のC末端部に[[キネシン軽鎖]]結合配列が見つかった<ref name=Verhey2001><pubmed>11238452</pubmed></ref>ことにより、これらMAPK8IPファミリータンパク質の細胞内輸送における機能についても注目を集めている。


== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
[[ファイル:Hirai JIP-1 Fig1.png|サムネイル|'''図. MAPK8IPファミリータンパク質のドメイン構造'''<br>MAPK8IP1(JIP1/IB1)、MAPK8IP2(JIP2/IB2)、MAPK8IP3(JIP3/JSAP1)、MAPK8IP4(JIP4/JLP/SPAG9)の一次構造を模式的に示す。各タンパク質は JNK結合ドメイン(JNK-binding domain; JBD)を有し、MAPK8IP1/2のC末端には Src homology 3(SH3)ドメインおよび phosphotyrosine-binding(PTB)ドメインが、MAPK8IP3/4には ロイシンジッパー(leucine zipper)モチーフが存在する。上の図にはこれらに加え、キネシン重鎖(kinesin heavy chain; KHC)、キネシン軽鎖(kinesin light chain; KLC)、およびダイナクチンとの結合部位が示されている。]]
[[ファイル:Hirai JIP-1 Fig1.png|サムネイル|'''図. MAPK8IPファミリータンパク質のドメイン構造'''<br>MAPK8IP1(JIP1/IB1)、MAPK8IP2(JIP2/IB2)、MAPK8IP3(JIP3/JSAP1)、MAPK8IP4(JIP4/JLP/SPAG9)の一次構造を模式的に示す。各タンパク質は JNK結合ドメイン(JNK-binding domain; JBD)を有し、MAPK8IP1/2のC末端には Src homology 3(SH3)ドメインおよび phosphotyrosine-binding(PTB)ドメインが、MAPK8IP3/4には ロイシンジッパー(leucine zipper)モチーフが存在する。上の図にはこれらに加え、キネシン重鎖(kinesin heavy chain; KHC)、キネシン軽鎖(kinesin light chain; KLC)、およびダイナクチンとの結合部位が示されている。]]


 現在、ヒトのMAPK関連遺伝子に統一的な名称が使用されるようになり、[[JNK1]]自体が[[MAPK8]]と呼称されるようになったのに合わせ、もとJIP1-4と呼ばれていたタンパク質も[[mitogen-activated protein kinase 8 interacting protein]] ([[MAPK8IP]]1-4)呼ばれる様になった。ただし、その結合がMAPK8特異的ということではなく、[[MAPK9]] ([[JNK2]])、[[MAPK10]] ([[JNK3]])とも結合する<ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref><ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref> [5] [6]
 現在、ヒトのMAPK関連遺伝子に統一的な名称が使用されるようになり、[[JNK1]]自体が[[MAPK8]]と呼称されるようになったのに合わせ、もとJIP1-4と呼ばれていたタンパク質も[[mitogen-activated protein kinase 8 interacting protein]] ([[MAPK8IP]]1-4)呼ばれる様になった。ただし、その結合がMAPK8特異的ということではなく、[[MAPK9]] ([[JNK2]])、[[MAPK10]] ([[JNK3]])とも結合する<ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref><ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref>。


=== MAPK8IP1および2 ===
=== MAPK8IP1および2 ===
 MAPK8IP1 (JIP1)、MAPK8IP2 (JIP2)が属する。
 MAPK8IP1 (JIP1)、MAPK8IP2 (JIP2)が属する。


 MAPK8IP1はインスリン受容体からのシグナル伝達を制御する因子としても独立に発見されており、その発現パターンから[[islet brain-1]] ([[IB1]])とも呼ばれている<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref> [4]。そのパラログとしては[[MAPK8IP2]]は[[IB2]]としても知られている<ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref> [5]
 MAPK8IP1はインスリン受容体からのシグナル伝達を制御する因子としても独立に発見されており、その発現パターンから[[islet brain-1]] ([[IB1]])とも呼ばれている<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref>。そのパラログとしては[[MAPK8IP2]]は[[IB2]]としても知られている<ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref>。


=== MAPK8IP3および4 ===
=== MAPK8IP3および4 ===
 MAPK8IP3 ([[JSAP1]]/JIP3)、[[MAPK8IP4]] ([[JLP]]/[[SPAG9]]/[[JIP4]])が属する。
 MAPK8IP3 ([[JSAP1]]/JIP3)、[[MAPK8IP4]] ([[JLP]]/[[SPAG9]]/[[JIP4]])が属する。


 MAPK8IP1および2とは構造が全く異なるJNK結合足場タンパク質としてJun N-terminal protein kinase /stress-activated protein kinase-associated protein 1 (JSAP1) <ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref> [6]が同定された。これはJIP3<ref name=Kelkar2000><pubmed>10629060</pubmed></ref>[7]とも呼ばれたが、現在はMAPK8IP3とよばれている。
 MAPK8IP1および2とは構造が全く異なるJNK結合足場タンパク質としてJun N-terminal protein kinase /stress-activated protein kinase-associated protein 1 (JSAP1) <ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref>が同定された。これはJIP3<ref name=Kelkar2000><pubmed>10629060</pubmed></ref>とも呼ばれたが、現在はMAPK8IP3とよばれている。


 そのパラログとして[[JNK-associated leucine zipper protein]] (JLP)[8]/[[sperm-associated antigen 9]] (SPAG9)[9]/JIP4[10]が同定されたが、現在はMAPK8IP4とよばれている<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Jagadish2005><pubmed>16077255</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。
 そのパラログとして[[JNK-associated leucine zipper protein]] (JLP)/[[sperm-associated antigen 9]] (SPAG9)/JIP4<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Jagadish2005><pubmed>16077255</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>が同定されたが、現在はMAPK8IP4とよばれている<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Jagadish2005><pubmed>16077255</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。


== 構造 ==
== 構造 ==
 MAPK8IP1及びMAPK8IP2はMAPK8結合ドメイン(JBD)に加え、[[src homology 3]] ([[SH3]])ドメイン及び[[phosphotyrosine binding]] ([[PTB]])ドメインを有する('''図''')。MAPK8IP3及びMAPK8IP4はMAPK8結合ドメイン(JBD)に加え、[[ロイシンジッパー]]を有する。MAPK8IP1はホモ二量体を形成するとともにMAPK8IP2やMAPK8IP3とも結合する<ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref> [5] [10]。また[[キネシン重鎖]]、軽鎖および[[ダイナクチン]]も結合することが知られている。また、いずれについても[[スプライスバリアント]]の存在が知られているが、ここでは[[ヒト]]のタンパク質で最も分子量の大きいものの構造を示している。
 MAPK8IP1及びMAPK8IP2はMAPK8結合ドメイン(JBD)に加え、[[src homology 3]] ([[SH3]])ドメイン及び[[phosphotyrosine binding]] ([[PTB]])ドメインを有する('''図''')。MAPK8IP3及びMAPK8IP4はMAPK8結合ドメイン(JBD)に加え、[[ロイシンジッパー]]を有する。MAPK8IP1はホモ二量体を形成するとともにMAPK8IP2やMAPK8IP3とも結合する<ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。また[[キネシン重鎖]]、軽鎖および[[ダイナクチン]]も結合することが知られている。また、いずれについても[[スプライスバリアント]]の存在が知られているが、ここでは[[ヒト]]のタンパク質で最も分子量の大きいものの構造を示している。


== 発現 ==
== 発現 ==
 MAPK8IP1~4はいずれも脳において高い発現が認められる<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref><ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref><ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref> [4] [5] [6] [10]。MAPK8IP1は[[膵島]]においても<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref> [4]、MAPK8IP4については[[腎臓]]、[[肝臓]]、[[精巣]]においても<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Jagadish2005><pubmed>16077255</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref> [8] [9] [10]高い発現が認められる。いずれも[[細胞質]]に分布する他、膵島細胞においてMAPK8IP1は[[核質]]にも分布する<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref> [4]。MAPK8IP3,4は[[膜貫通ドメイン]]様のアミノ酸配列を有するが、膜構造への結合は限定的とされる<ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref> [10]
 MAPK8IP1~4はいずれも脳において高い発現が認められる<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref><ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref><ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。MAPK8IP1は[[膵島]]においても<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref>、MAPK8IP4については[[腎臓]]、[[肝臓]]、[[精巣]]においても<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Jagadish2005><pubmed>16077255</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>高い発現が認められる。いずれも[[細胞質]]に分布する他、膵島細胞においてMAPK8IP1は[[核質]]にも分布する<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref>。MAPK8IP3,4は[[膜貫通ドメイン]]様のアミノ酸配列を有するが、膜構造への結合は限定的とされる<ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。


== 分子機能 ==
== 分子機能 ==
=== MAPK8IP1, 2 ===
=== MAPK8IP1, 2 ===
 JNKと呼ばれるグループのMAPK (MAPK8~10)の活性化に関わるキナーゼカスケードの足場タンパク質として[[MAP2K7]]、[[MAP3K9]]~[[MAP3K13|13]]と結合する<ref name=Whitmarsh1998><pubmed>9733513</pubmed></ref><ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref> [3] [5]。インスリン受容体からのシグナル伝達においては、[[insulin receptor substrate 1]] ([[IRS1]])と結合してこれのJNKによるリン酸化を促すことによりインスリンシグナルを抑制する<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref> [4]。他にも[[アミロイド前駆タンパク質]] ([[APP]])や[[アポリポタンパク質E受容体2]] ([[ApoER2]])など多様なタンパク質と結合する<ref name=Matsuda2001><pubmed>11517249</pubmed></ref><ref name=Stockinger2000><pubmed>10827199</pubmed></ref> [14] [15]ことに加え、キネシンやダイナクチン-ダイニンといったモータータンパク質と結合することで、細胞内輸送におけるアタプターとして様々な分子や[[小胞]]の輸送に関わる<ref name=Verhey2001><pubmed>11238452</pubmed></ref><ref name=Fu2013><pubmed>23897889</pubmed></ref> [13] [16]
 JNKと呼ばれるグループのMAPK (MAPK8~10)の活性化に関わるキナーゼカスケードの足場タンパク質として[[MAP2K7]]、[[MAP3K9]]~[[MAP3K13|13]]と結合する<ref name=Whitmarsh1998><pubmed>9733513</pubmed></ref><ref name=Yasuda1999><pubmed>10490659</pubmed></ref>。インスリン受容体からのシグナル伝達においては、[[insulin receptor substrate 1]] ([[IRS1]])と結合してこれのJNKによるリン酸化を促すことによりインスリンシグナルを抑制する<ref name=Bonny1998><pubmed>9442013</pubmed></ref>。他にも[[アミロイド前駆タンパク質]] ([[APP]])や[[アポリポタンパク質E受容体2]] ([[ApoER2]])など多様なタンパク質と結合する<ref name=Matsuda2001><pubmed>11517249</pubmed></ref><ref name=Stockinger2000><pubmed>10827199</pubmed></ref>ことに加え、キネシンやダイナクチン-ダイニンといったモータータンパク質と結合することで、細胞内輸送におけるアタプターとして様々な分子や[[小胞]]の輸送に関わる<ref name=Verhey2001><pubmed>11238452</pubmed></ref><ref name=Fu2013><pubmed>23897889</pubmed></ref>。


=== MAPK8IP3, 4 ===
=== MAPK8IP3, 4 ===
 JNKグループに属するMAPKの活性化に関わるキナーゼカスケードの足場としても機能する<ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref>
 JNKグループに属するMAPKの活性化に関わるキナーゼカスケードの足場としても機能する<ref name=Ito1999><pubmed>10523642</pubmed></ref>
<ref name=Kelkar2000><pubmed>10629060</pubmed></ref> [6] [7]他、MAPK8IP4については[[p38]]と呼ばれるグループに属するMAPK ([[MAPK14]])の活性化にも関わる<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref> [8] [10]。線虫のUNC16及びショウジョウバエの[[synapse defective protein]] ([[SYD]])のホモログであり、キネシンやダイナクチン-ダイニンと結合することにより[[リソソーム]]や[[オートファゴソーム]]を含む様々な種類の小胞の輸送を支えるアダプターとして機能する<ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref> [17] [18]。さらに、MAPK8IP3, 4はダイニンモーターを活性化することに加え、輸送の制御に関わる[[低分子量Gタンパク質]]の一つ[[ARF6]]のエフェクターとして位置付けられている<ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [19]
<ref name=Kelkar2000><pubmed>10629060</pubmed></ref>他、MAPK8IP4については[[p38]]と呼ばれるグループに属するMAPK ([[MAPK14]])の活性化にも関わる<ref name=Lee2002><pubmed>12391307</pubmed></ref><ref name=Kelkar2005><pubmed>15767678</pubmed></ref>。線虫のUNC16及びショウジョウバエのSYDのホモログであり、キネシンやダイナクチン-ダイニンと結合することにより[[リソソーム]]や[[オートファゴソーム]]を含む様々な種類の小胞の輸送を支えるアダプターとして機能する<ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref>。さらに、MAPK8IP3, 4はダイニンモーターを活性化することに加え、輸送の制御に関わる[[低分子量Gタンパク質]]の一つ[[ARF6]]のエフェクターとして位置付けられている<ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref>。


== 神経細胞での機能 ==
== 神経細胞での機能 ==
 MAPK8IP1-4は、種々の膜タンパク質との結合を介して小胞、リソソーム、オートファゴソームなどの[[細胞小器官]]と結合するとともに、キネシン、ダイナクチン-ダイニンといったモータータンパク質と結合することにより[[軸索輸送]]を支えるアダブター分子となっている<ref name=Fu2013><pubmed>23897889</pubmed></ref><ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [16] [17] [18] [19]。MAPK8IP3のショウジョウバエホモログであるSunday driver (SYD)は、これの変異により軸索内の小胞輸送が滞り、小胞の“渋滞”を招くことからこの名称がある<ref name=Bowman2000><pubmed>11106729</pubmed></ref> [12]。哺乳類神経細胞においては、MAPK8IP3ノックダウンにより軸索内でのプロテアーゼ欠損型リソソームの滞留とこれによる[[アミロイドβ]]42タンパク質の蓄積が認められる<ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref> [18]。MAPK8IP3とそのパラログMAPK8IP4についてはさらに、小胞輸送に関わるARF6などの低分子量Gタンパク質による制御を受けつつモータータンパク質を活性化することにより、軸索輸送の効率や方向を決める分子である可能性が指摘されている<ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref> [17] [18] [19]。一方、結合しているJNKがどのような形でこういった機能の制御に関わっているかなど、未だ不明な点も多い。
 MAPK8IP1-4は、種々の膜タンパク質との結合を介して小胞、リソソーム、オートファゴソームなどの[[細胞小器官]]と結合するとともに、キネシン、ダイナクチン-ダイニンといったモータータンパク質と結合することにより[[軸索輸送]]を支えるアダブター分子となっている<ref name=Fu2013><pubmed>23897889</pubmed></ref><ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref>。MAPK8IP3のショウジョウバエホモログであるSYDは、これの変異により軸索内の小胞輸送が滞り、小胞の“渋滞”を招くことからこの名称がある<ref name=Bowman2000><pubmed>11106729</pubmed></ref>。哺乳類神経細胞においては、MAPK8IP3ノックダウンにより軸索内でのプロテアーゼ欠損型リソソームの滞留とこれによる[[アミロイドβ]]42タンパク質の蓄積が認められる<ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref>。MAPK8IP3とそのパラログMAPK8IP4についてはさらに、小胞輸送に関わるARF6などの低分子量Gタンパク質による制御を受けつつモータータンパク質を活性化することにより、軸索輸送の効率や方向を決める分子である可能性が指摘されている<ref name=Celestino2022><pubmed>35829703</pubmed></ref><ref name=Gowrishankar2021><pubmed>33788575</pubmed></ref><ref name=Cason2023><pubmed>37909920</pubmed></ref>。一方、結合しているJNKがどのような形でこういった機能の制御に関わっているかなど、未だ不明な点も多い。


== ノックアウトマウス ==
== ノックアウトマウス ==
=== MAPK8IP1ノックアウトマウス ===
=== MAPK8IP1ノックアウトマウス ===
 寿命や生殖能力に異常はないが、[[海馬]]神経細胞において[[興奮毒性]]に関わるJNK活性化と[[細胞死]]が抑制される<ref name=Whitmarsh2001><pubmed>11562351</pubmed></ref> [20]他、高脂肪食により脂肪細胞で誘発されるJNK活性化とこれによるインスリン抵抗性が抑制される<ref name=Jaeschke2004><pubmed>15314024</pubmed></ref> [21]。MAPK8IP1とMAPK8IP2の双方をノックアウトした場合は [[低血糖]]による顕著な成長遅延を呈し、生後2週間程度で死亡する<ref name=Standen2009><pubmed>19564410</pubmed></ref> [22]
 寿命や生殖能力に異常はないが、[[海馬]]神経細胞において[[興奮毒性]]に関わるJNK活性化と[[細胞死]]が抑制される<ref name=Whitmarsh2001><pubmed>11562351</pubmed></ref> [20]他、高脂肪食により脂肪細胞で誘発されるJNK活性化とこれによるインスリン抵抗性が抑制される<ref name=Jaeschke2004><pubmed>15314024</pubmed></ref>。MAPK8IP1とMAPK8IP2の双方をノックアウトした場合は [[低血糖]]による顕著な成長遅延を呈し、生後2週間程度で死亡する<ref name=Standen2009><pubmed>19564410</pubmed></ref>。
=== MAPK8IP3ノックアウトマウス ===
=== MAPK8IP3ノックアウトマウス ===
 [[終脳]]形成に異常を呈し、呼吸不全により生後間もなく死亡する<ref name=Kelkar2003><pubmed>12897243</pubmed></ref> [23]
 [[終脳]]形成に異常を呈し、呼吸不全により生後間もなく死亡する<ref name=Kelkar2003><pubmed>12897243</pubmed></ref>。
=== MAPK8IP4ノックアウトマウス ===
=== MAPK8IP4ノックアウトマウス ===
 [[精子]]の運動性低下が原因と見られる[[雄性不妊]]の傾向が認められる<ref name=Iwanaga2008><pubmed>18574703</pubmed></ref> [24]。ただし成長や精巣の形態に異常はなく、上記の分子機能との関連性は不明。またノックアウトマウスから採取した[[B細胞]]においては[[リポ多糖]] ([[LPS]])刺激後の[[CD40]]の内在化([[エンドサイトーシス]])が抑制される<ref name=Wang2015><pubmed>25586186</pubmed></ref> [25]
 [[精子]]の運動性低下が原因と見られる[[雄性不妊]]の傾向が認められる<ref name=Iwanaga2008><pubmed>18574703</pubmed></ref>。ただし成長や精巣の形態に異常はなく、上記の分子機能との関連性は不明。またノックアウトマウスから採取した[[B細胞]]においては[[リポ多糖]] ([[LPS]])刺激後の[[CD40]]の内在化([[エンドサイトーシス]])が抑制される<ref name=Wang2015><pubmed>25586186</pubmed></ref>。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
 MAPK8IP1のプロモーター領域における点変異と[[低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質]]([[LRP1]])遺伝子のミスセンス変異が重なることで[[アルツハイマー病]]などの[[認知症]]発症リスクが高まるとされている<ref name=Helbecque2003><pubmed>12740599</pubmed></ref> [26]。また、ある[[2型糖尿病]]家系において疾患との関連性が認められるMAPK8IP1遺伝子のミスセンス変異が見つかっている<ref name=Waeber2000><pubmed>10700186</pubmed></ref> [27]
 MAPK8IP1のプロモーター領域における点変異と[[低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質]]([[LRP1]])遺伝子のミスセンス変異が重なることで[[アルツハイマー病]]などの[[認知症]]発症リスクが高まるとされている<ref name=Helbecque2003><pubmed>12740599</pubmed></ref>。また、ある[[2型糖尿病]]家系において疾患との関連性が認められるMAPK8IP1遺伝子のミスセンス変異が見つかっている<ref name=Waeber2000><pubmed>10700186</pubmed></ref>。


 多様な脳奇形を伴う/伴わない神経発達障害を発症している血縁のない十数名においてMAPK8IP3遺伝子のナンセンス・ミスセンス変異およびフレームシフトが見つかっている<ref name=Platzer2019><pubmed>30612693</pubmed></ref> [28]。健常者においてはほぼ見つからないことから、MAPK8IP3の機能不全がこの疾患の原因となり得るものと考えられている。
 多様な脳奇形を伴う/伴わない神経発達障害を発症している血縁のない十数名においてMAPK8IP3遺伝子のナンセンス・ミスセンス変異およびフレームシフトが見つかっている<ref name=Platzer2019><pubmed>30612693</pubmed></ref>。健常者においてはほぼ見つからないことから、MAPK8IP3の機能不全がこの疾患の原因となり得るものと考えられている。


== 関連語 ==
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