「筋ジストロフィー」の版間の差分

 
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|+ 表1.代表的筋ジストロフィーの特徴と中枢神経系との関連
|+ 表1.代表的筋ジストロフィーの特徴と中枢神経系との関連
! 疾患名
! 病型
! 原因遺伝子 / 分子機構
! 原因遺伝子・機序
! 主な臨床特徴
! 主な筋症状
! 中枢神経系との関連
! 中枢神経症状
! 発症時期・特徴
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| デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD)
| デュシェンヌ型筋ジストロフィー
| [[Dystrophin]] ([[DMD]])
| [[Dystrophin]] ([[DMD]]) 遺伝子変異
| 小児期発症、進行性筋力低下、[[心筋症]]、[[呼吸]]障害
| 小児期発症、近位筋優位の進行性筋力低下、歩行・呼吸・心筋障害
| [[発達遅滞]]、[[学習障害]]、注意障害、[[自閉スペクトラム]]特性
| 発達遅滞、学習障害、知的機能低下、注意障害、行動面の問題
| 幼児期発症、進行が比較的速い
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| ベッカー型筋ジストロフィー (BMD)
| ベッカー型筋ジストロフィー
| [[Dystrophin]] ([[DMD]])
| DMD遺伝子変異
| 思春期〜成人発症、緩徐進行
| 軽症で進行が緩徐、近位筋優位、心筋障害
| 軽度の認知機能変化を伴うことがある
| 認知・行動面の変化を示す例がある
| 思春期以降発症が多い
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| 筋強直性ジストロフィー1型 (DM1)
| 筋強直性ジストロフィー1型
| [[Dystrophia myotonica protein kinase]] ([[DMPK]])
| [[Dystrophia myotonica protein kinase]] ([[DMPK]]) 遺伝子のCTGリピート伸長
| 筋強直、筋力低下、白内障、内分泌異常
| 筋強直、遠位筋優位の筋力低下、顔面筋障害、白内障、心伝導障害
| 認知障害、過眠、遂行機能障害
| 認知機能障害、日中の過度の眠気、注意・遂行機能障害
| 小児期〜成人期、成人で頻度が高い
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| 筋強直性ジストロフィー2型 (DM2)
| 筋強直性ジストロフィー2型
| [[Cellular nucleic acid binding protein]] ([[CNBP]])
| [[Cellular nucleic acid binding protein]] ([[CNBP]]) 遺伝子のCCTGリピート伸長
| [[近位筋]]優位の筋力低下、筋痛
| 筋強直、近位筋優位の筋力低下、筋痛、白内障、不整脈
| 軽度の認知機能障害
| 中枢神経症状を伴うことがある
| 成人期発症、1型より緩徐
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| 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)
| 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(1型および2型)
| [[Double homeobox 4]] ([[DUX4]])
| D4Z4リピート短縮や[[Structural maintenance of chromosomes flexible hinge domain containing 1]] ([[SMCHD1]]) 異常などを背景とした[[Double homeobox 4]] ([[DUX4]]) 異常発現
| 顔面・肩甲帯筋の筋力低下
| 顔面・肩甲帯優位の筋力低下、左右差を伴うことがある
| 一部で認知・情動の変化
| 典型例では中枢神経症状は前景ではない、早期発症例では知的機能低下やてんかんを伴うことがある
| 思春期〜成人期初期に発症することが多い
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| 肢帯型筋ジストロフィー (LGMD)
| 肢帯型筋ジストロフィー
| [[Calpain 3]] ([[CAPN3]]), [[Dysferlin]] ([[DYSF]]) など
| 複数の原因遺伝子
| 近位筋優位の筋力低下
| 肩帯・骨盤帯筋優位の筋力低下
| 通常は中枢神経症状は少ないが、一部で合併あり
| 一部で知的機能低下などを伴う
| 発症時期・進行速度とも多様
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| 福山型先天性筋ジストロフィー
| [[Fukutin]] ([[FKTN]]) 遺伝子変異
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| 大脳皮質形成異常、てんかん、知的機能低下
| 乳児期発症、日本で比較的多い
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''注:症状の頻度や重症度は病型および症例により異なる。''
''注:症状の頻度や重症度は病型および症例により異なる。''
[[ファイル:Aoki Muscular Dystrophy Fig1.png|サムネイル|'''図1. 全長型ジストロフィン・タンパク質の構造'''<br>骨格筋、心筋、大脳、小脳などで発現する全長型ジストロフィン・タンパク質の主要ドメイン構造を示す。ジストロフィン・タンパク質は、アクチン結合ドメインを介してF-アクチンに、システインリッチドメインを介して筋線維膜貫通タンパク質であるβ-ジストログリカンに結合する(詳細は図2参照)。]]
[[ファイル:Aoki Muscular Dystrophy Fig1.png|サムネイル|'''図1. 全長型ジストロフィン・タンパク質の構造'''<br>骨格筋、心筋、大脳、小脳などで発現する全長型ジストロフィン・タンパク質の主要ドメイン構造を示す。ジストロフィン・タンパク質は、アクチン結合ドメインを介してF-アクチンに、システインリッチドメインを介して筋線維膜貫通タンパク質であるβ-ジストログリカンに結合する(詳細は図2参照)。]]
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 筋ジストロフィーの診断は、病歴、家族歴、神経学的診察、血清[[クレアチンキナーゼ]](creatine kinase: CK)測定、[[筋電図]]、筋画像、筋生検、遺伝子検査などを組み合わせて行う。進行性筋力低下の分布、発症年齢、[[筋強直]]の有無、[[心筋]]障害、呼吸障害、中枢神経症状などの筋外症状、および家族歴は、病型推定に有用である<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/>。血清クレアチンキナーゼ値は多くの病型で上昇するが、上昇の程度は病型や病期によって異なる。近年は[[次世代シークエンス]]を含む遺伝学的検査が診断の中心であり、必要に応じて筋病理や画像所見を補助的に用いる<ref name=Straub2022/>。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィー/ベッカー型筋ジストロフィーでは、[[欠失]]・[[重複]]、[[点変異]]、[[スプライシング]]異常の評価が重要である。
 筋ジストロフィーの診断は、病歴、家族歴、神経学的診察、血清[[クレアチンキナーゼ]](creatine kinase: CK)測定、[[筋電図]]、筋画像、筋生検、遺伝子検査などを組み合わせて行う。進行性筋力低下の分布、発症年齢、[[筋強直]]の有無、[[心筋]]障害、呼吸障害、中枢神経症状などの筋外症状、および家族歴は、病型推定に有用である<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/>。血清クレアチンキナーゼ値は多くの病型で上昇するが、上昇の程度は病型や病期によって異なる。近年は[[次世代シークエンス]]を含む遺伝学的検査が診断の中心であり、必要に応じて筋病理や画像所見を補助的に用いる<ref name=Straub2022/>。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィー/ベッカー型筋ジストロフィーでは、[[欠失]]・[[重複]]、[[点変異]]、[[スプライシング]]異常の評価が重要である。
=== 鑑別診断 ===
=== 鑑別診断 ===
 [[炎症性筋疾患]]、[[代謝性ミオパチー]]、[[ミトコンドリア病]]、[[先天性ミオパチー]]、[[運動ニューロン疾患]]、[[末梢神経障害]]などが挙げられる。さらに、筋ジストロフィーの中でも病型間の鑑別は重要であり、発症年齢、筋障害の分布、筋外症状、遺伝形式が手がかりとなる。たとえば、中枢神経症状が前景に出る場合にはデュシェンヌ型筋ジストロフィー関連認知障害や筋強直性ジストロフィーを考慮し、顔面・肩甲帯優位なら顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、近位筋優位なら肢帯型筋ジストロフィーを疑う<ref name=Birnkrant2018/><ref name=Harper2001/><ref name=Tawil2015/><ref name=Straub2018/><ref name=Udd2012/><ref name=日本神経学会/><ref name=Hendriksen2008/><ref name=Doorenweerd2017/>。
 [[炎症性筋疾患]]、[[代謝性ミオパチー]]、[[ミトコンドリア病]]、[[先天性ミオパチー]]、[[運動ニューロン疾患]]、[[末梢神経障害]]などが挙げられる。さらに、筋ジストロフィーの中でも病型間の鑑別は重要であり、発症年齢、筋障害の分布、筋外症状、遺伝形式が手がかりとなる。たとえば、中枢神経症状が前景に出る場合にはデュシェンヌ型筋ジストロフィー関連認知障害や[[筋強直性ジストロフィー]]を考慮し、顔面・肩甲帯優位なら顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、近位筋優位なら肢帯型筋ジストロフィーを疑う<ref name=Birnkrant2018/><ref name=Harper2001/><ref name=Tawil2015/><ref name=Straub2018/><ref name=Udd2012/><ref name=日本神経学会/><ref name=Hendriksen2008/><ref name=Doorenweerd2017/>。


== 病態生理 ==
== 病態生理 ==
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== 治療 ==
== 治療 ==
 多くの筋ジストロフィーでは、現時点でも治療の基本は[[対症療法]]である。[[理学療法]]、拘縮予防、装具療法、呼吸管理、心機能管理、栄養管理、嚥下評価、生活支援は、ほぼすべての病型で重要である<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/>。一部の病型では分子病態に基づく治療が導入されつつあり、遺伝学的診断は治療選択の観点からも重要性を増している。
 多くの筋ジストロフィーでは、現時点でも治療の基本は[[対症療法]]である。[[理学療法]]、拘縮予防、装具療法、呼吸管理、心機能管理、栄養管理、[[嚥下]]評価、生活支援は、ほぼすべての病型で重要である<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/>。一部の病型では分子病態に基づく治療が導入されつつあり、遺伝学的診断は治療選択の観点からも重要性を増している。


 デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど一部の病型では、[[アンチセンス核酸]]、[[ウイルスベクター]]による[[遺伝子補充治療]]、[[ゲノム編集]]、[[RNA標的治療]]、細胞治療などの開発が進んでいる。たとえば、エクソン53スキッピング薬の[[ビルトラルセン]]([[ビルテプソ]]®)は、前駆体[[mRNA]]の[[スプライシング]]を操作して読み枠を回復し、短縮型ジストロフィン・タンパク質発現を促す治療である<ref name=Komaki2020/>。また、[[マイクロジストロフィン]]遺伝子を[[AAVベクター]]で導入する遺伝子治療薬の[[デランジストロゲン モキセパルボベク]]([[エレビジス]]®)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する疾患修飾薬として臨床導入された<ref name=PMDA2025/>。一方で、適応となる病型や変異は限られており、長期的有効性と安全性の検討が続いている<ref name=Birnkrant2018/><ref name=Straub2022/><ref name=Aartsma-Rus2017><pubmed>27929755</pubmed></ref><ref name=Long2016><pubmed>26721683</pubmed></ref><ref name=PMDA2025/>。
 デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど一部の病型では、[[アンチセンス核酸]]、[[ウイルスベクター]]による[[遺伝子補充治療]]、[[ゲノム編集]]、[[RNA標的治療]]、細胞治療などの開発が進んでいる。たとえば、エクソン53スキッピング薬の[[ビルトラルセン]]([[ビルテプソ]]®)は、前駆体[[mRNA]]の[[スプライシング]]を操作して読み枠を回復し、短縮型ジストロフィン・タンパク質発現を促す治療である<ref name=Komaki2020/>。また、[[マイクロジストロフィン]]遺伝子を[[AAVベクター]]で導入する遺伝子治療薬の[[デランジストロゲン モキセパルボベク]]([[エレビジス]]®)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する疾患修飾薬として臨床導入された<ref name=PMDA2025/>。一方で、適応となる病型や変異は限られており、長期的有効性と安全性の検討が続いている<ref name=Birnkrant2018/><ref name=Straub2022/><ref name=Aartsma-Rus2017><pubmed>27929755</pubmed></ref><ref name=Long2016><pubmed>26721683</pubmed></ref><ref name=PMDA2025/>。