「受容野」の版間の差分

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=== 受容野構造  ===
=== 受容野構造  ===


 ネコの網膜神経説細胞は、光刺激により興奮あるいは抑制応答を示すが、受容野の中心付近に照射する場合と、その周囲に照射する場合とで、反応の仕方が逆になる<ref name="ref2"><pubmed> 13035466 </pubmed></ref>。このように細胞が刺激を受けとる様式は受容野内部で一様でなく、その内部的な構造は受容野構造(receptive field structure)と呼ばれている。    
 後述するように、ネコの網膜神経説細胞は、受容野の中心付近に照射する場合とその周囲に照射する場合とで反応が異なり、一方では興奮応答し他方では抑制応答する<ref name="ref2"><pubmed> 13035466 </pubmed></ref>。このように細胞が刺激を受けとる様式は受容野内部で一様でなく、その内部的な構造は受容野構造(receptive field structure)と呼ばれている。    


同じ感覚系でも受容野構造はその処理段階で大きく異なる。これは、感覚処理経路において前段階の出力が収斂と分散を繰り返しながら次段階へと送られていくためである。一般に初期段階では狭く単純な構造の受容野がみられるのにたいし、高次の段階になると広く複雑な構造の受容野がみられる。とくに、初期段階の細胞の受容野は、その内部に複数の刺激が呈示されても、入力信号は単純に線形加算(linear summation)されるだけの場合が多い。このような受容野は線形受容野(linear receptive field)と呼ばれ、その構造は単純な空間フィルターとして表すことができる。一方、高次の段階では、受容野内部での信号の加算の仕方は非線形(nonlinear)なものとなり、受容野構造は、複数の空間フィルターや整流機構(rectification)などを縦列、並列に組み合わせた複雑な回路様の機構として記述される。  
同じ感覚系でも受容野構造はその処理段階で大きく異なる。これは、感覚処理経路において前段階の出力が収斂と分散を繰り返しながら次段階へと送られていくためである。一般に初期段階では狭く単純な構造の受容野がみられるのにたいし、高次の段階になると広く複雑な構造の受容野がみられる。とくに、初期段階の細胞の受容野は、その内部に複数の刺激が呈示されても、入力信号は単純に線形加算(linear summation)されるだけの場合が多い。このような受容野は線形受容野(linear receptive field)と呼ばれ、その構造は単純な空間フィルターとして表すことができる。一方、高次の段階では、受容野内部での信号の加算の仕方は非線形(nonlinear)なものとなり、受容野構造は、複数の空間フィルターや整流機構(rectification)などを縦列、並列に組み合わせた複雑な回路様の機構として記述される。  
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 古典的受容野を計測するために古くから行われてきた手法は、受容野の大きさと比較して十分小さなスポット光やスリット光などを一定間隔で区分けした視野の様々な位置に一定期間呈示し、その期間に生じた細胞のスパイク数を計測して、細胞がどの部位から入力を受け取るのかを決める方法である。しかし、この手法では、インターバルを挟みながら1回ごとに異なる位置に刺激を呈示するため、計測位置の数が多くなるにつれて、膨大な計測時間が必要となる。  
 古典的受容野を計測するために古くから行われてきた手法は、受容野の大きさと比較して十分小さなスポット光やスリット光などを一定間隔で区分けした視野の様々な位置に一定期間呈示し、その期間に生じた細胞のスパイク数を計測して、細胞がどの部位から入力を受け取るのかを決める方法である。しかし、この手法では、インターバルを挟みながら1回ごとに異なる位置に刺激を呈示するため、計測位置の数が多くなるにつれて、膨大な計測時間が必要となる。  


 この問題を解決し、比較的短時間で受容野構造を詳細に計測する方法が逆相関法(reverse correlation)である<ref name= ref3><pubmed> 8334189 </pubmed> </ref><ref name= ref4><pubmed> 3437330 </pubmed></ref>。この方法では、先の方法のように刺激位置ごとに試行を分けるのではなく、10ミリ秒程度のフラッシュ光をさまざまな位置にランダムに連続呈示し、この期間のスパイク活動を連続計測する。受容野構造を求める際には、刺激位置ごとにカウンターを設けておき、測定した各スパイクについて、それが生じた一定時間前(この時間のことを遅延時間とよぶ)に呈示されていた刺激位置のカウンターを1増やすという操作を行う。これを全スパイクについてこの操作を行うことで得られるカウンターの空間マップは、細胞がどの空間位置の刺激にたいして発火しやすいのかを表す受容野構造そのものとなっている。  
 この問題を解決し、比較的短時間で受容野構造を詳細に計測する方法が逆相関法(reverse correlation)である <ref name= ref3><pubmed> 5667803 </pubmed></ref> 。いくつかのバリエーションがあるがここではスパースノイズと呼ばれる刺激を用いる方法を説明する<ref name= ref4><pubmed> 3437330 </pubmed></ref> <ref name= ref5><pubmed> 8492152 </pubmed></ref>。この方法では、先の方法のように刺激位置ごとに試行を分けるのではなく、10ミリ秒程度のフラッシュ光をさまざまな位置にランダムに連続呈示し、この期間のスパイク活動を連続計測する。受容野構造を求める際には、刺激位置ごとにカウンターを設けておき、測定した各スパイクについて、それが生じた一定時間前(この時間のことを遅延時間とよぶ)に呈示されていた刺激位置のカウンターを1増やすという操作を行う。これを全スパイクについてこの操作を行うことで得られるカウンターの空間マップは、細胞がどの空間位置の刺激にたいして発火しやすいのかを表す受容野構造そのものとなっている。  


=== 時空間受容野  ===
=== 時空間受容野  ===
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 細胞は、空間的に外界の信号を加算して信号を瞬時に出力するわけでなく、過去一定時間内の入力信号を加算して出力する。細胞の現在の出力が、過去に呈示された信号にどのように依存するのかを表した時間特性を時間受容野 (temporal receptive field)とよぶ。時間受容野は、別の見方をすれば、外界刺激の呈示後、どのようなタイミングで細胞が発火しやすいのかという応答の時間特性を表していると捉えることもできる。時間特性を考慮しないときの受容野を空間受容野(spatial receptive field)という。空間受容野と時間受容野を合わせて時空間受容野(spatiotemporal receptive field)と呼んでいる。  
 細胞は、空間的に外界の信号を加算して信号を瞬時に出力するわけでなく、過去一定時間内の入力信号を加算して出力する。細胞の現在の出力が、過去に呈示された信号にどのように依存するのかを表した時間特性を時間受容野 (temporal receptive field)とよぶ。時間受容野は、別の見方をすれば、外界刺激の呈示後、どのようなタイミングで細胞が発火しやすいのかという応答の時間特性を表していると捉えることもできる。時間特性を考慮しないときの受容野を空間受容野(spatial receptive field)という。空間受容野と時間受容野を合わせて時空間受容野(spatiotemporal receptive field)と呼んでいる。  


 逆相関法において遅延時間を変えれば、細胞がスパイクを発する前の各時点での空間受容野が得られる <ref name= ref4><pubmed> 8492152 </pubmed></ref>。これは時空間受容野そのものである。このように効率よく時空間受容野を求めることができることは逆相関法の大きな利点である。  
 逆相関法において遅延時間を変えれば、細胞がスパイクを発する前の各時点での空間受容野が得られる 。これは時空間受容野そのものである。このように効率よく時空間受容野を求めることができることは逆相関法の大きな利点である。  


=== 網膜、視床中継核でみられる受容野構造  ===
=== 網膜、視床中継核でみられる受容野構造  ===
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 眼球に入った視覚情報は、視細胞(photoreceptor)で受容されたのち視神経を介して視床外側膝状体(Lateral Geniculate Nucleus, LGN)で中継され、大脳皮質第一次視覚野(Primary visual cortex, V1野)へと至る。この経路を皮質下視覚伝導路と呼ぶ。以下にこの経路における受容野構造をみていく。  
 眼球に入った視覚情報は、視細胞(photoreceptor)で受容されたのち視神経を介して視床外側膝状体(Lateral Geniculate Nucleus, LGN)で中継され、大脳皮質第一次視覚野(Primary visual cortex, V1野)へと至る。この経路を皮質下視覚伝導路と呼ぶ。以下にこの経路における受容野構造をみていく。  


 外界の光を電気信号に変換する視細胞には桿体(rod)、錐体(cone)と2種類があり、前者は暗所視に、後者は明所視、色覚に関与している。いずれの受容野も概ね円状で、サイズは非常に小さく、中心窩(fovea)では視野角にして0.5分程度(1/120度)である。  
 外界の光を電気信号に変換する視細胞には桿体(rod)、錐体(cone)と2種類があり、前者は暗所視に、後者は明所視、色覚に関与している。いずれの受容野も概ね円状で、サイズは非常に小さく、中心窩(fovea)では視野角にして0.5分程度(1/120度)である。 [6]


 視細胞からの入力を受け取る双極細胞(bipolar cell)や次の段階に位置する網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)は、それぞれ次の2つのタイプのものがある。第1のものは、受容野の中心領域(center)に明るい光を照射したときに興奮応答し、暗い光を照射したとき(あるいは明るい光をオフしたとき)に抑制応答するもので、ON中心型(ON-center type)と呼ばれる。第2のものは、暗い光に興奮し明るい光に抑制を受けるものでOFF中心型(OFF-center type)とよばれる。いずれのタイプも、中心領域の周囲に光を照射したときには、中心領域と逆の応答をする。すなわち、ON中心型細胞は周辺部(surround)に明るい光を受けたときに抑制を受け、暗い光を受けたときには興奮応答する。またOFF中心型細胞は、周辺部では明るい光に興奮、暗い光に抑制応答がみられる。そこで、前者の受容野構造をON中心OFF周辺型(ON-center OFF-surround)とよび(図2A)、逆のタイプをOFF中心ON周辺型(OFF-center ON-surround)とも呼んでいる(図2B)。中心領域と周辺領域は同心円状に配置しており、2つの領域が逆の反応を示すことからこのような受容野構造を中心周辺拮抗型(antagonistic center-surround)とぶ。このような構造をもつ細胞は、図2Cのように2次元のサイン波刺激でテストしたとき、明るい光がON領域に、暗い光がOFF領域に入るときには反応するが(図2C上)、光が一様に入るときには(図2C下)ほとんど反応しないことから、明暗コントラストのエッジ幅や位置の情報を伝達していると捉えることができる。  
 視細胞からの入力を受け取る双極細胞(bipolar cell)や次の段階に位置する網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)は、それぞれ次の2つのタイプのものがある[2][7]。第1のものは、受容野の中心領域(center)に明るい光を照射したときに興奮応答し、暗い光を照射したとき(あるいは明るい光をオフしたとき)に抑制応答するもので、ON中心型(ON-center type)と呼ばれる。第2のものは、暗い光に興奮し明るい光に抑制を受けるものでOFF中心型(OFF-center type)とよばれる。いずれのタイプも、中心領域の周囲に光を照射したときには、中心領域と逆の応答をする。すなわち、ON中心型細胞は周辺部(surround)に明るい光を受けたときに抑制を受け、暗い光を受けたときには興奮応答する。またOFF中心型細胞は、周辺部では明るい光に興奮、暗い光に抑制応答がみられる。そこで、前者の受容野構造をON中心OFF周辺型(ON-center OFF-surround)とよび(図2A)、逆のタイプをOFF中心ON周辺型(OFF-center ON-surround)とも呼んでいる(図2B)。中心領域と周辺領域は同心円状に配置しており、2つの領域が逆の反応を示すことからこのような受容野構造を中心周辺拮抗型(antagonistic center-surround)とぶ。このような構造をもつ細胞は、図2Cのように2次元のサイン波刺激でテストしたとき、明るい光がON領域に、暗い光がOFF領域に入るときには反応するが(図2C上)、光が一様に入るときには(図2C下)ほとんど反応しないことから、明暗コントラストのエッジ幅や位置の情報を伝達していると捉えることができる。  


[[Image:RetinalGanglisonCell.png|600px]]<br> 中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)<ref name= ref5><pubmed> 5862581 </pubmed></ref>。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という<ref name="ref6"><pubmed> 16783910 </pubmed></ref>。  
[[Image:RetinalGanglisonCell.png|600px]]<br> 中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)<ref name= ref8><pubmed> 5862581 </pubmed></ref>。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という<ref name="ref9"><pubmed> 16783910 </pubmed></ref>。  


 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。
 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ[10]。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。 [11]


=== 第一次視覚野(V1野)でみられる受容野構造  ===
=== 第一次視覚野(V1野)でみられる受容野構造  ===


 網膜神経節細胞あるいはLGNの細胞に細長いスリット光を呈示するとき、その向き(方位)を変えても反応は変化しない。このことは、これらの細胞の受容野構造が同心円状であることから予想できる。これにたいし、第一次視覚野の大部分の細胞はスリット光が特定の方位を向くときにのみ選択的に反応する。この方位選択性(orientation selectivity)と呼ばれる特性をもつ細胞の古典的受容野構造は以下の2種類のものがある。1つは明るい光に興奮応答するON領域と暗い光に応答するOFF領域が隣あって同じ向きに並んだ構造であり、このような構造をもつ細胞を単純型細胞(simple cell)と呼ぶ(図3A)。もう1種類はON領域とOFF領域が重なりあった細胞でこれを複雑型細胞(complex cell)と呼ぶ(図3B)。  
 網膜神経節細胞あるいはLGNの細胞に細長いスリット光を呈示するとき、その向き(方位)を変えても反応は変化しない。このことは、これらの細胞の受容野構造が同心円状であることから予想できる。これにたいし、第一次視覚野の大部分の細胞はスリット光が特定の方位を向くときにのみ選択的に反応する。この方位選択性(orientation selectivity)と呼ばれる特性をもつ細胞の古典的受容野構造は以下の2種類のものがある<ref name= ref12><pubmed> 14403679 </pubmed></ref> <ref name= ref13><pubmed> 4966457 </pubmed></ref>。1つは明るい光に興奮応答するON領域と暗い光に応答するOFF領域が隣あって同じ向きに並んだ構造であり、このような構造をもつ細胞を単純型細胞(simple cell)と呼ぶ(図3A)。もう1種類はON領域とOFF領域が重なりあった細胞でこれを複雑型細胞(complex cell)と呼ぶ(図3B)。


[[Image:V1RF.png|600px]]<br>  単純型細胞の古典的受容野は、X細胞の受容野と同様、強い線形性を示し、自身のON領域、OFF領域ともっともよくあった刺激を最適とする。たとえば2次元サイン波を刺激とする場合、その明暗がON領域、OFF領域とマッチするような方位、空間周波数(spatial frequency)(=周期の逆数)、位相(phase)をもつものが最適となる(図3A参照)。この仕組みが単純型細胞の方位選択性、空間周波数選択性、位相選択性の基盤になっている。ON、OFF領域が伸びる軸、大きさ、位置関係は細胞に様々であり、したがって単純型細胞は全体として様々な方位、空間周波数、位相に選択性を示す。単純型細胞の古典的受容野は線形性が強く、視覚刺激にたいする応答は、その受容野構造と刺激波形の線形畳み込み(linear convolution)を行った結果に、0以下の信号を出力しない半波整流(half rectification)をとおすことで十分予測できる。  
[[Image:V1RF.png|600px]]<br>  単純型細胞の古典的受容野は、X細胞の受容野と同様、強い線形性を示し、自身のON領域、OFF領域ともっともよくあった刺激を最適とする。たとえば2次元サイン波を刺激とする場合、その明暗がON領域、OFF領域とマッチするような方位、空間周波数(spatial frequency)(=周期の逆数)、位相(phase)をもつものが最適となる(図3A参照)。この仕組みが単純型細胞の方位選択性、空間周波数選択性、位相選択性の基盤になっている。ON、OFF領域が伸びる軸、大きさ、位置関係は細胞に様々であり、したがって単純型細胞は全体として様々な方位、空間周波数、位相に選択性を示す。単純型細胞の古典的受容野は線形性が強く、視覚刺激にたいする応答は、その受容野構造と刺激波形の線形畳み込み(linear convolution)を行った結果に、0以下の信号を出力しない半波整流(half rectification)をとおすことで十分予測できる。  
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=== ガボール関数による単純型細胞の受容野構造近似と画像表現  ===
=== ガボール関数による単純型細胞の受容野構造近似と画像表現  ===


 単純型細胞の古典的受容野は、図4に示すガウス関数(緑)とサイン波(青)の積であるガボール関数(Gabor function)(赤、図4の式参照)でよく近似できることが知られている。ガボール関数のパラメーターを変えることで、サイズ(σx, σy)、方位(θ)、空間周波数(fx, fy)、そして位相(φ)の異なる様々な構造を表すことができる。  
 単純型細胞の古典的受容野は、図4に示すガウス関数(緑)とサイン波(青)の積であるガボール関数(Gabor function)(赤、図4の式参照)でよく近似できることが知られている。ガボール関数のパラメーターを変えることで、サイズ(σx, σy)、方位(θ)、空間周波数(fx, fy)、そして位相(φ)の異なる様々な構造を表すことができる。 [4][5]


[[Image:GaborFilter.png|500px]]  
[[Image:GaborFilter.png|500px]]  


 様々な形のガボール型受容野構造が視野の各位置に一セット揃っており、その結果、画像情報は、網膜視細胞での画素表現から、V1野の単純型細胞のレベルでは、ガボール関数のセットを基底成分とする表現へと変換されて伝達されることになる。この表現には画像情報を効率的に伝達する上でいくつかの望ましい特性がある。第一に、分解された画像成分は高次視覚野へと伝達されて利用されるので、初期の段階では画像情報は失われないようにする必要があるが、ガボール関数を用いた分解表現ではそれが十分実現されていることが示されている。さらに、ガボール関数により、自然画像はスパースコーディング(sparse coding)という非常に効率のよい方式で伝達できることも知られており、視覚系が自然界の膨大な画像情報を少ないエネルギーで伝送できる鍵になっていると考えられている。
 様々な形のガボール型受容野構造が視野の各位置に一セット揃っており、その結果、画像情報は、網膜視細胞での画素表現から、V1野の単純型細胞のレベルでは、ガボール関数のセットを基底成分とする表現へと変換されて伝達されることになる。この表現には画像情報を効率的に伝達する上でいくつかの望ましい特性がある。第一に、分解された画像成分は高次視覚野へと伝達されて利用されるので、初期の段階では画像情報は失われないようにする必要があるが、ガボール関数を用いた分解表現ではそれが十分実現されていることが示されている[14]。さらに、ガボール関数により、自然画像はスパースコーディング(sparse coding)という非常に効率のよい方式で伝達できることも知られており、視覚系が自然界の膨大な画像情報を少ないエネルギーで伝送できる鍵になっていると考えられている[15]。


=== 単純型細胞の時空間受容野構造と運動方向選択性、両眼受容野構造  ===
=== 単純型細胞の時空間受容野構造と運動方向選択性、両眼受容野構造  ===


 単純型細胞の大半は物体の動きを検出するのに適した受容野構造をもつ。図5はそのような例(模式図)である(元来時空間受容野構造は空間2次元+時間1次元の合計3次元の構造であるが、紙面で表すために、細胞の最適方位に沿って空間受容野を1次元につぶし横軸にとり、時空間の2次元で表している)。現在に向かって(図では下方に向かって)、実線で表すON領域、点線が表すOFF領域ともに左へとずれている。このような受容野構造は、線分状の刺激がその軸と直交する軸上で左へ動くとき多くの入力信号を受けることができ細胞を興奮させるが、右向きに動くときや、止まっているときにはあまり信号を受け取ることはできない。一方、このようなON領域、OFF領域の動きがみられない受容野構造も存在し、そのような細胞は方向選択性をもたない。運動方向選択性のある時空間受容野は、それをもたない受容野を適当に足し合わせることで作り出せることが知られている。  
 単純型細胞の大半は物体の動きを検出するのに適した受容野構造をもつ。図5はそのような例(模式図)である(元来時空間受容野構造は空間2次元+時間1次元の合計3次元の構造であるが、紙面で表すために、細胞の最適方位に沿って空間受容野を1次元につぶし横軸にとり、時空間の2次元で表している)。現在に向かって(図では下方に向かって)、実線で表すON領域、点線が表すOFF領域ともに左へとずれている。このような受容野構造は、線分状の刺激がその軸と直交する軸上で左へ動くとき多くの入力信号を受けることができ細胞を興奮させるが、右向きに動くときや、止まっているときにはあまり信号を受け取ることはできない。一方、このようなON領域、OFF領域の動きがみられない受容野構造も存在し、そのような細胞は方向選択性をもたない。運動方向選択性のある時空間受容野は、それをもたない受容野を適当に足し合わせることで作り出せることが知られている。 [16]


 第一次視覚野細胞では視覚伝導路において左右両眼からの情報がはじめて収斂するため、多くの細胞が両眼に受容野をもつ。単純型細胞の左右眼の受容野構造は、向きや空間周波数は同じであるが、位相あるいは位置が異なる場合が多い。この位相あるいは位置のずれかたは細胞により様々である。単純型細胞は、このずれにより、奥行き知覚の手がかりとなる網膜上の両眼視差(binocular disparity)に感受性をもつことが知られており、この知覚に重要な役割を担っている。  
 第一次視覚野細胞では視覚伝導路において左右両眼からの情報がはじめて収斂するため、多くの細胞が両眼に受容野をもつ。単純型細胞の左右眼の受容野構造は、向きや空間周波数は同じであるが、位相あるいは位置が異なる場合が多い。この位相あるいは位置のずれかたは細胞により様々である。単純型細胞は、このずれにより、奥行き知覚の手がかりとなる網膜上の両眼視差(binocular disparity)に感受性をもつことが知られており、この知覚に重要な役割を担っている。[17]


=== 複雑型細胞の受容野構造  ===
=== 複雑型細胞の受容野構造  ===
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