「血清応答因子」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
7行目: 7行目:
概要<br> SRFは、MADSボックス(MADS-box)ファミリーに属する転写因子である<sup>[1]</sup>。遺伝子のCC(A/T)<sub>6</sub>GG (CArG) ボックス<sup>[2]</sup>に二量体で結合し<sup>[3][4]</sup>、c-''fos''などの転写因子をコードするある種の最初期遺伝子やβ-アクチンなど細胞骨格系遺伝子の発現を制御することが知られている<sup>[5]</sup>。SRFは、中胚葉形成などの胚発生<sup>[6]</sup>、筋分化<sup>[7]</sup>、心機能<sup>[7]</sup>、免疫系細胞の成熟<sup>[7]</sup>など多彩な生命現象に関与するとの指摘がある。中枢神経系においては、海馬の神経回路形成<sup>[8][9]</sup>、樹状突起や軸索形態<sup>[8][9][10][11</sup>]、シナプス機能<sup>[5][8][12]</sup>への関与、海馬や大脳皮質の層構造形成<sup>[10] [11]</sup>、神経細胞移動<sup>[8][13]</sup>、末梢神経系においては後根神経節の軸索分岐形成や伸長への関与<sup>[14]</sup>が指摘されている。  
概要<br> SRFは、MADSボックス(MADS-box)ファミリーに属する転写因子である<sup>[1]</sup>。遺伝子のCC(A/T)<sub>6</sub>GG (CArG) ボックス<sup>[2]</sup>に二量体で結合し<sup>[3][4]</sup>、c-''fos''などの転写因子をコードするある種の最初期遺伝子やβ-アクチンなど細胞骨格系遺伝子の発現を制御することが知られている<sup>[5]</sup>。SRFは、中胚葉形成などの胚発生<sup>[6]</sup>、筋分化<sup>[7]</sup>、心機能<sup>[7]</sup>、免疫系細胞の成熟<sup>[7]</sup>など多彩な生命現象に関与するとの指摘がある。中枢神経系においては、海馬の神経回路形成<sup>[8][9]</sup>、樹状突起や軸索形態<sup>[8][9][10][11</sup>]、シナプス機能<sup>[5][8][12]</sup>への関与、海馬や大脳皮質の層構造形成<sup>[10] [11]</sup>、神経細胞移動<sup>[8][13]</sup>、末梢神経系においては後根神経節の軸索分岐形成や伸長への関与<sup>[14]</sup>が指摘されている。  


 
<br>


目次<br>■ 1 歴史<br>■ 2 細胞内制御機構<br>■ 3 SRFコファクター<br>&nbsp;&nbsp; &nbsp; &nbsp; ・Ternary complex factor (TCF)<br>&nbsp;&nbsp; &nbsp; &nbsp; ・MyocardinとMKL/MRTF<br>■ 4 SRF標的遺伝子<br>■ 5 構造<br>■ 6 脳内発現<br>■ 7 生理機能<br>■ 8 参考文献  
目次<br>■ 1 歴史<br>■ 2 細胞内制御機構<br>■ 3 SRFコファクター<br>&nbsp;&nbsp; &nbsp; &nbsp; ・Ternary complex factor (TCF)<br>&nbsp;&nbsp; &nbsp; &nbsp; ・MyocardinとMKL/MRTF<br>■ 4 SRF標的遺伝子<br>■ 5 構造<br>■ 6 脳内発現<br>■ 7 生理機能<br>■ 8 参考文献  
15行目: 15行目:
歴史<br> 血清刺激によって最初期遺伝子c''-fos''の発現誘導が起こるが、c-''fos''遺伝子の転写開始点より上流に存在し、血清に応答して転写を制御する働きをもつ塩基配列を血清応答要素(serum response element, SRE)、SREに結合する分子を血清応答因子(serum response factor, SRF)と名付けた<sup>[15]</sup>。1988年にはSRF cDNAが単離され、ホモ二量体を形成してDNAに結合することが指摘された<sup>[3]</sup>。SRE配列には、CC(A/T)<sub>6</sub>GG、いわゆるCArGボックス<sup>[2]</sup>が含まれており、SRFが結合する配列はこのCArGボックスである。CArGボックスは、c-''fos''や''egr''-1などの最初期遺伝子だけではなく、アクチンなどの細胞骨格系遺伝子にも存在していることが判明し、実際のSRFの標的遺伝子もしくは標的遺伝子候補となっている<sup>[5][16][17][18]</sup>。また、SRFを含む多くの転写因子に相同性の高い領域があることが判明し、その領域を4つの転写因子(Minichromosome maintenance 1 protein, Agamous, Deficiens, SRF)の頭文字をとってMADSボックス(MADS-box)と名付けた<sup>[1]</sup>。したがって、MADSボックス(MADS-box)を持つ分子はMADSボックス(MADS-box)ファミリーに属し、SRFもその一つである<sup>[1]</sup>。  
歴史<br> 血清刺激によって最初期遺伝子c''-fos''の発現誘導が起こるが、c-''fos''遺伝子の転写開始点より上流に存在し、血清に応答して転写を制御する働きをもつ塩基配列を血清応答要素(serum response element, SRE)、SREに結合する分子を血清応答因子(serum response factor, SRF)と名付けた<sup>[15]</sup>。1988年にはSRF cDNAが単離され、ホモ二量体を形成してDNAに結合することが指摘された<sup>[3]</sup>。SRE配列には、CC(A/T)<sub>6</sub>GG、いわゆるCArGボックス<sup>[2]</sup>が含まれており、SRFが結合する配列はこのCArGボックスである。CArGボックスは、c-''fos''や''egr''-1などの最初期遺伝子だけではなく、アクチンなどの細胞骨格系遺伝子にも存在していることが判明し、実際のSRFの標的遺伝子もしくは標的遺伝子候補となっている<sup>[5][16][17][18]</sup>。また、SRFを含む多くの転写因子に相同性の高い領域があることが判明し、その領域を4つの転写因子(Minichromosome maintenance 1 protein, Agamous, Deficiens, SRF)の頭文字をとってMADSボックス(MADS-box)と名付けた<sup>[1]</sup>。したがって、MADSボックス(MADS-box)を持つ分子はMADSボックス(MADS-box)ファミリーに属し、SRFもその一つである<sup>[1]</sup>。  


 
<br>


細胞内制御機構<br> SRFは、血清<sup>[15]</sup>、神経成長因子(nerve growth factor, NGF)<sup>[14]</sup>, 脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor, BDNF)<sup>[19]</sup>などの神経栄養因子、 (transforming growth factor- β, TGF-β)スーパーファミリー<sup>[20]</sup>、リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid, LPA)<sup>[21]</sup>などの細胞外リガンドによって制御される。SRF制御のための細胞内情報伝達は、MAPキナーゼ伝達経路<sup>[21]</sup>と低分子量Gタンパク質Rho伝達経路の大きく2つがよく知られている(図)[21]。情報の最終到達点は、SRFによる標的遺伝子の制御であるが、SRFに結合して転写を制御するSRFコファクター(後述)が細胞内情報の統合や標的遺伝子の決定を行う可能性が指摘されている<sup>[21]</sup>。  
細胞内制御機構<br> SRFは、血清<sup>[15]</sup>、神経成長因子(nerve growth factor, NGF)<sup>[14]</sup>, 脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor, BDNF)<sup>[19]</sup>などの神経栄養因子、 (transforming growth factor- β, TGF-β)スーパーファミリー<sup>[20]</sup>、リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid, LPA)<sup>[21]</sup>などの細胞外リガンドによって制御される。SRF制御のための細胞内情報伝達は、MAPキナーゼ伝達経路<sup>[21]</sup>と低分子量Gタンパク質Rho伝達経路の大きく2つがよく知られている(図)[21]。情報の最終到達点は、SRFによる標的遺伝子の制御であるが、SRFに結合して転写を制御するSRFコファクター(後述)が細胞内情報の統合や標的遺伝子の決定を行う可能性が指摘されている<sup>[21]</sup>。  


 
<br>


SRFコファクター<br>Ternary complex factor (TCF)(図)<br> TCFは、Ets-like transcription factor (Elk-1)、SRF accessory protein 1 (SAP-1)/Elk-4、New ets transcription factor (Net)/Ets-related protein(ERP)/SAP-2/Elk-3の3つが知られている<sup>[22]</sup>。TCFはE-twenty six (ETS)転写ファミリー(ETS transcription factor family)に属し、DNA結合ドメインであるETSドメインを持つ<sup>[22]</sup>。<br>  TCFは、CArGボックス近傍のDNA配列(GGAA/T)とSRFに結合して三量体を形成し、下流遺伝子の発現を制御する<sup>[22]</sup>。またMAPキナーゼによりリン酸化されて活性調節される[22]。c-fos遺伝子の転写調節に重要な因子として同定され、解析が進んだ<sup>[23]</sup>。しかし、TCFによる転写の正負制御はシグナル、遺伝子、細胞の種類によって異なると考えられる。  
SRFコファクター<br>Ternary complex factor (TCF)(図)<br> TCFは、Ets-like transcription factor (Elk-1)、SRF accessory protein 1 (SAP-1)/Elk-4、New ets transcription factor (Net)/Ets-related protein(ERP)/SAP-2/Elk-3の3つが知られている<sup>[22]</sup>。TCFはE-twenty six (ETS)転写ファミリー(ETS transcription factor family)に属し、DNA結合ドメインであるETSドメインを持つ<sup>[22]</sup>。<br>  TCFは、CArGボックス近傍のDNA配列(GGAA/T)とSRFに結合して三量体を形成し、下流遺伝子の発現を制御する<sup>[22]</sup>。またMAPキナーゼによりリン酸化されて活性調節される[22]。c-fos遺伝子の転写調節に重要な因子として同定され、解析が進んだ<sup>[23]</sup>。しかし、TCFによる転写の正負制御はシグナル、遺伝子、細胞の種類によって異なると考えられる。  
25行目: 25行目:
MyocardinとMKL/MRTF(図)<br> Myocardinとmegakaryoblastic leukemia (MKL)/myocardin-related transcription factor (MRTF)もSRFに結合するコファクターである<sup>[18]</sup>。MyocardinとMKL/MRTFは、ドメイン構造が類似しているが、アクチン動態のシグナルに対しては応答性が異なる<sup>[24]</sup>。主にNIH3T3細胞等の非神経細胞において、MKL/MRTFはRhoシグナル活性化によるアクチン細胞骨格の再編成によってG-アクチンから解離し、核移行して下流遺伝子の発現を制御するモデルが提唱されている(図)<sup>[25]</sup>。一方、myocardinはRhoシグナルに対する応答性は低いとされている<sup>[24]</sup>。MKL/MRTFは、異なる遺伝子にコードされるMKL1/MRTF-A (別名megakaryocytic acute leukemia (MAL), basic, SAP, and coiled-coil domain (BSAC))とMKL2/MRTF-B (別名MAL16)の2種類が知られている<sup>[21]</sup>。Myocardinは、心臓、骨格筋に高発現し、平滑筋関連遺伝子の発現を制御する<sup>[26]</sup>が、MKL1/MRTF-Aは、精巣と脳、MKL/MRTF-Bは脳に高い発現が認められる<sup>[20]</sup>。MKL/MRTFによる転写の正負制御もシグナル、遺伝子、細胞の種類によって異なっていると考えられる。  
MyocardinとMKL/MRTF(図)<br> Myocardinとmegakaryoblastic leukemia (MKL)/myocardin-related transcription factor (MRTF)もSRFに結合するコファクターである<sup>[18]</sup>。MyocardinとMKL/MRTFは、ドメイン構造が類似しているが、アクチン動態のシグナルに対しては応答性が異なる<sup>[24]</sup>。主にNIH3T3細胞等の非神経細胞において、MKL/MRTFはRhoシグナル活性化によるアクチン細胞骨格の再編成によってG-アクチンから解離し、核移行して下流遺伝子の発現を制御するモデルが提唱されている(図)<sup>[25]</sup>。一方、myocardinはRhoシグナルに対する応答性は低いとされている<sup>[24]</sup>。MKL/MRTFは、異なる遺伝子にコードされるMKL1/MRTF-A (別名megakaryocytic acute leukemia (MAL), basic, SAP, and coiled-coil domain (BSAC))とMKL2/MRTF-B (別名MAL16)の2種類が知られている<sup>[21]</sup>。Myocardinは、心臓、骨格筋に高発現し、平滑筋関連遺伝子の発現を制御する<sup>[26]</sup>が、MKL1/MRTF-Aは、精巣と脳、MKL/MRTF-Bは脳に高い発現が認められる<sup>[20]</sup>。MKL/MRTFによる転写の正負制御もシグナル、遺伝子、細胞の種類によって異なっていると考えられる。  


 
<br>


SRF標的遺伝子<br> CArGボックスを有する遺伝子がSRFの標的となりうる。しかし、SRFが結合して転写を制御しているかどうかの判断をCArGボックスというDNA配列の有無だけで行うのは困難である。現在、代表的なSRF標的遺伝子としてc-fos、egr-1などの最初期遺伝子が知られている<sup>[5]</sup>。β-アクチン遺伝子も代表的な標的遺伝子である<sup>[5]</sup>。近年、神経系SRF標的遺伝子としてactivity-regulated cytoskeleton-associated protein (Arc)遺伝子が報告されている<sup>[5][27]</sup>。また、最初期遺伝子に加え、多くの細胞骨格関連遺伝子にCArGボックスが存在している<sup>[16][17][18]</sup>。  
SRF標的遺伝子<br> CArGボックスを有する遺伝子がSRFの標的となりうる。しかし、SRFが結合して転写を制御しているかどうかの判断をCArGボックスというDNA配列の有無だけで行うのは困難である。現在、代表的なSRF標的遺伝子としてc-fos、egr-1などの最初期遺伝子が知られている<sup>[5]</sup>。β-アクチン遺伝子も代表的な標的遺伝子である<sup>[5]</sup>。近年、神経系SRF標的遺伝子としてactivity-regulated cytoskeleton-associated protein (Arc)遺伝子が報告されている<sup>[5][27]</sup>。また、最初期遺伝子に加え、多くの細胞骨格関連遺伝子にCArGボックスが存在している<sup>[16][17][18]</sup>。  


 
<br>


構造<br> SRFは、N末端側に約56アミノ酸残基で構成されるMADSボックス(MADS-box)<sup>[1]</sup>、それに続くSRFコファクターとの相互作用部位、C末端側に転写活性化ドメイン[28][29]を有する。MADSボックス内にDNA結合ドメイン、二量体形成ドメインが存在する<sup>[4]</sup>。<br> SRFコアホモ二量体とDNAとの複合体の構造がX線構造解析により明らかにされた<sup>[4]</sup>。SRFコアドメインは、約90アミノ酸残基から成り、DNA結合領域、二量体形成、SRFコファクターとの相互作用部位を持つ。SRFコアの各サブユニットから伸びる両親媒性α-ヘリックス(αI)が逆平行コイルドコイルを形成し、CArGボックスの小溝内に平行に配置している<sup>[4]</sup>。αIから伸びる塩基性N末端はDNAの主溝にはまり込んでいる<sup>[4]</sup>。また、βI、βIIから成る4本の逆並行βシートが二量体形成のための中心的要素となっている[4]。C末端は変則的なコイル構造と短いα-へリックス(αII)をとっている<sup>[4]</sup>。したがって、SRF コアドメインはDNA結合領域であるコイルドコイルの下層、βシートから成る中間層、C末端領域からなる上層という3層から成る。SRFコアホモ二量体と結合しているDNAは折れ曲がり、通常とは異なる構造をとっている<sup>[4]</sup>。  
構造<br> SRFは、N末端側に約56アミノ酸残基で構成されるMADSボックス(MADS-box)<sup>[1]</sup>、それに続くSRFコファクターとの相互作用部位、C末端側に転写活性化ドメイン[28][29]を有する。MADSボックス内にDNA結合ドメイン、二量体形成ドメインが存在する<sup>[4]</sup>。<br> SRFコアホモ二量体とDNAとの複合体の構造がX線構造解析により明らかにされた<sup>[4]</sup>。SRFコアドメインは、約90アミノ酸残基から成り、DNA結合領域、二量体形成、SRFコファクターとの相互作用部位を持つ。SRFコアの各サブユニットから伸びる両親媒性α-ヘリックス(αI)が逆平行コイルドコイルを形成し、CArGボックスの小溝内に平行に配置している<sup>[4]</sup>。αIから伸びる塩基性N末端はDNAの主溝にはまり込んでいる<sup>[4]</sup>。また、βI、βIIから成る4本の逆並行βシートが二量体形成のための中心的要素となっている[4]。C末端は変則的なコイル構造と短いα-へリックス(αII)をとっている<sup>[4]</sup>。したがって、SRF コアドメインはDNA結合領域であるコイルドコイルの下層、βシートから成る中間層、C末端領域からなる上層という3層から成る。SRFコアホモ二量体と結合しているDNAは折れ曲がり、通常とは異なる構造をとっている<sup>[4]</sup>。  
37行目: 37行目:
<br>生理機能<br> SRFは、標的遺伝子に存在するSREに結合し、転写調節を制御することで機能を発揮する。標的遺伝子は、最初期遺伝子と細胞骨格関連遺伝子に分類されるものが多いため、細胞レベルでは、それらに関連した細胞移動、細胞形態などの面で重要とされている<sup>[32]</sup>。個体レベルにおいても解析が進んでいる。SRFノックアウト(KO)マウスは、胚発生時の中胚葉形成不全で胎生致死であるため<sup>[6]</sup>、現在では主にCre-loxPシステムを用いて作製した30種類近い組織•細胞特異的SRFKOマウスが報告されている<sup>[7]</sup>。筋分化<sup>[7]</sup>、心機能<sup>[7]</sup>、免疫系細胞の成熟<sup>[7]</sup>など多彩な生命現象に関与するとの指摘がある。神経系における機能は後述する。<br> 中枢神経系を標的としたSRFKOマウスは、これまでに少なくとも6系統が報告されている。<br> CaMKIIαプロモーターでCreレコンビナーゼを発現させ、前脳特異的にSRFをKOしたマウスが3系統あるが<sup>[5][9][10][12][13]</sup>、それぞれCreレコンビナーゼの発現時期が異なるため、表現型は異なっている。周産期や出生前においてSRFをKOさせたマウス系統の解析では、脳室下帯から嗅球への細胞移動<sup>[13]</sup>、海馬層形成と樹状突起形態<sup>[10]</sup>、海馬における軸索ガイダンス<sup>[9]</sup>への重要性が示されている。また、神経細胞におけるSRF依存性遺伝子発現が細胞非自律的なオリゴデンドロサイトの分化に重要であるとの指摘がある<sup>[33]</sup>。また、生後8週目からSRFがKOされるマウス系統の解析では、海馬依存性即時記憶や長期抑圧現象への重要性が指摘されている<sup>[12]</sup>。一方、生後数ヶ月でSRFがKOされるマウス系統では、脳の構造上の変化や細胞移動、致死性はなく、β-アクチンやc''-fos'', ''egr''-1, Arc遺伝子というSRF標的遺伝子の神経活動依存的発現に重要であること、それは豊富環境下(enriched environment, EE)でも認められることが示された<sup>[5]</sup>。さらに長期増強現象への重要性も指摘されている<sup>[5]</sup>。<br> また、シナプシンI(synapsin I)プロモーターでCreレコンビナーゼを発現させ、SRFをKOしたマウス系統もあり、CaMKIIプロモーターの系統と行動学的な違いを比較検討している<sup>[34]</sup>。<br> 近年、ネスチン(nestin)プロモーターでCreレコンビナーゼを発現させた神経前駆細胞特異的SRFKOマウスとneuronal helix-loop-helix protein-1 (NEX) プロモーターを用いた大脳皮質と海馬のグルタミン酸作動性神経特異的SRFKOマウスが報告され、皮質軸索投射へのSRFの関与が指摘された<sup>[35]</sup>。<br> 末梢神経系においては、Wnt1プロモーターでCreレコンビナーゼを発現させた後根神経節特異的SRFKOマウスの解析で軸索投射への重要性が指摘された<sup>[14]</sup>。  
<br>生理機能<br> SRFは、標的遺伝子に存在するSREに結合し、転写調節を制御することで機能を発揮する。標的遺伝子は、最初期遺伝子と細胞骨格関連遺伝子に分類されるものが多いため、細胞レベルでは、それらに関連した細胞移動、細胞形態などの面で重要とされている<sup>[32]</sup>。個体レベルにおいても解析が進んでいる。SRFノックアウト(KO)マウスは、胚発生時の中胚葉形成不全で胎生致死であるため<sup>[6]</sup>、現在では主にCre-loxPシステムを用いて作製した30種類近い組織•細胞特異的SRFKOマウスが報告されている<sup>[7]</sup>。筋分化<sup>[7]</sup>、心機能<sup>[7]</sup>、免疫系細胞の成熟<sup>[7]</sup>など多彩な生命現象に関与するとの指摘がある。神経系における機能は後述する。<br> 中枢神経系を標的としたSRFKOマウスは、これまでに少なくとも6系統が報告されている。<br> CaMKIIαプロモーターでCreレコンビナーゼを発現させ、前脳特異的にSRFをKOしたマウスが3系統あるが<sup>[5][9][10][12][13]</sup>、それぞれCreレコンビナーゼの発現時期が異なるため、表現型は異なっている。周産期や出生前においてSRFをKOさせたマウス系統の解析では、脳室下帯から嗅球への細胞移動<sup>[13]</sup>、海馬層形成と樹状突起形態<sup>[10]</sup>、海馬における軸索ガイダンス<sup>[9]</sup>への重要性が示されている。また、神経細胞におけるSRF依存性遺伝子発現が細胞非自律的なオリゴデンドロサイトの分化に重要であるとの指摘がある<sup>[33]</sup>。また、生後8週目からSRFがKOされるマウス系統の解析では、海馬依存性即時記憶や長期抑圧現象への重要性が指摘されている<sup>[12]</sup>。一方、生後数ヶ月でSRFがKOされるマウス系統では、脳の構造上の変化や細胞移動、致死性はなく、β-アクチンやc''-fos'', ''egr''-1, Arc遺伝子というSRF標的遺伝子の神経活動依存的発現に重要であること、それは豊富環境下(enriched environment, EE)でも認められることが示された<sup>[5]</sup>。さらに長期増強現象への重要性も指摘されている<sup>[5]</sup>。<br> また、シナプシンI(synapsin I)プロモーターでCreレコンビナーゼを発現させ、SRFをKOしたマウス系統もあり、CaMKIIプロモーターの系統と行動学的な違いを比較検討している<sup>[34]</sup>。<br> 近年、ネスチン(nestin)プロモーターでCreレコンビナーゼを発現させた神経前駆細胞特異的SRFKOマウスとneuronal helix-loop-helix protein-1 (NEX) プロモーターを用いた大脳皮質と海馬のグルタミン酸作動性神経特異的SRFKOマウスが報告され、皮質軸索投射へのSRFの関与が指摘された<sup>[35]</sup>。<br> 末梢神経系においては、Wnt1プロモーターでCreレコンビナーゼを発現させた後根神経節特異的SRFKOマウスの解析で軸索投射への重要性が指摘された<sup>[14]</sup>。  


<br>
参考文献<br>1. Shore P, Sharrocks AD.<br>The MADS-box family of transcription factors.<br>Eur J Biochem. 1995 Apr 1;229(1):1-13. Review.<br>PMID: 7744019
2. Miwa T, Kedes L.<br>Duplicated CArG box domains have positive and mutually dependent regulatory roles in expression of the human alpha-cardiac actin gene.<br>Mol Cell Biol. 1987 Aug;7(8):2803-13.<br>PMID: 2823106
3. Norman C, Runswick M, Pollock R, Treisman R.<br>Isolation and properties of cDNA clones encoding SRF, a transcription factor that binds to the c-fos serum response element.<br>Cell. 1988 Dec 23;55(6):989-1003.<br>PMID: 3203386
4. Pellegrini L, Tan S, Richmond TJ.<br>Structure of serum response factor core bound to DNA.<br>Nature. 1995 Aug 10;376(6540):490-8.<br>PMID: 7637780
5. Ramanan N, Shen Y, Sarsfield S, Lemberger T, Schütz G, Linden DJ, Ginty DD.<br>SRF mediates activity-induced gene expression and synaptic plasticity but not neuronal viability.<br>Nat Neurosci. 2005 Jun;8(6):759-67. Epub 2005 May 8.<br>PMID: 15880109
6. Arsenian S, Weinhold B, Oelgeschläger M, Rüther U, Nordheim A.<br>Serum response factor is essential for mesoderm formation during mouse embryogenesis.<br>EMBO J. 1998 Nov 2;17(21):6289-99.<br>PMID: 9799237
7. Miano JM.<br>Role of serum response factor in the pathogenesis of disease.<br>Lab Invest. 2010 Sep;90(9):1274-84. Epub 2010 May 24. Review.<br>PMID: 20498652
8. Knöll B, Nordheim A.<br>Functional versatility of transcription factors in the nervous system: the SRF paradigm.<br>Trends Neurosci. 2009 Aug;32(8):432-42. Epub 2009 Jul 28. Review.<br>PMID: 19643506
9. Knöll B, Kretz O, Fiedler C, Alberti S, Schütz G, Frotscher M, Nordheim A.<br>Serum response factor controls neuronal circuit assembly in the hippocampus.<br>Nat Neurosci. 2006 Feb;9(2):195-204. Epub 2006 Jan 15.<br>PMID: 16415869
10. Stritt C, Knöll B.<br>Serum response factor regulates hippocampal lamination and dendrite development and is connected with reelin signaling.<br>Mol Cell Biol. 2010 Apr;30(7):1828-37. Epub 2010 Feb 1.<br>PMID: 20123976
11. Lu PP, Ramanan N.<br>Serum response factor is required for cortical axon growth but is dispensable for neurogenesis and neocortical lamination.<br>J Neurosci. 2011 Nov 16;31(46):16651-64.<br>PMID: 22090492
12. Etkin A, Alarcón JM, Weisberg SP, Touzani K, Huang YY, Nordheim A, Kandel ER.<br>A role in learning for SRF: deletion in the adult forebrain disrupts LTD and the formation of an immediate memory of a novel context.<br>Neuron. 2006 Apr 6;50(1):127-43.<br>PMID: 16600861
13. Alberti S, Krause SM, Kretz O, Philippar U, Lemberger T, Casanova E, Wiebel FF, Schwarz H, Frotscher M, Schütz G, Nordheim A.<br>Neuronal migration in the murine rostral migratory stream requires serum response factor.<br>Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Apr 26;102(17):6148-53. Epub 2005 Apr 18.<br>PMID: 15837932
14. Wickramasinghe SR, Alvania RS, Ramanan N, Wood JN, Mandai K, Ginty DD.<br>Serum response factor mediates NGF-dependent target innervation by embryonic DRG sensory neurons.<br>Neuron. 2008 May 22;58(4):532-45.<br>PMID: 18498735
15. Treisman R.<br>Identification of a protein-binding site that mediates transcriptional response of the c-fos gene to serum factors.<br>Cell. 1986 Aug 15;46(4):567-74.<br>PMID: 3524858
16. Minty A, Kedes L.<br>Upstream regions of the human cardiac actin gene that modulate its transcription in muscle cells: presence of an evolutionarily conserved repeated motif.<br>Mol Cell Biol. 1986 Jun;6(6):2125-36.<br>PMID: 3785189
17. Miano JM.<br>Serum response factor: toggling between disparate programs of gene expression.<br>J Mol Cell Cardiol. 2003 Jun;35(6):577-93. Review.<br>PMID: 12788374
18. Olson EN, Nordheim A.<br>Linking actin dynamics and gene transcription to drive cellular motile functions.<br>Nat Rev Mol Cell Biol. 2010 May;11(5):353-65. Review.<br>PMID: 20414257
19. Kalita K, Kharebava G, Zheng JJ, Hetman M.<br>Role of megakaryoblastic acute leukemia-1 in ERK1/2-dependent stimulation of serum response factor-driven transcription by BDNF or increased synaptic activity.<br>J Neurosci. 2006 Sep 27;26(39):10020-32.<br>PMID: 17005865
20. Ishikawa M, Nishijima N, Shiota J, Sakagami H, Tsuchida K, Mizukoshi M, Fukuchi M, Tsuda M, Tabuchi A.<br>Involvement of the serum response factor coactivator megakaryoblastic leukemia (MKL) in the activin-regulated dendritic complexity of rat cortical neurons.<br>J Biol Chem. 2010 Oct 22;285(43):32734-43. Epub 2010 Aug 13.<br>PMID: 20709749
21. Posern G, Treisman R.<br>Actin' together: serum response factor, its cofactors and the link to signal transduction.<br>Trends Cell Biol. 2006 Nov;16(11):588-96. Epub 2006 Oct 10. Review.<br>PMID: 17035020
22. Buchwalter G, Gross C, Wasylyk B.<br>Ets ternary complex transcription factors.<br>Gene. 2004 Jan 7;324:1-14. Review.<br>PMID: 14693367
23. Shaw PE, Schröter H, Nordheim A.<br>The ability of a ternary complex to form over the serum response element correlates with serum inducibility of the human c-fos promoter.<br>Cell. 1989 Feb 24;56(4):563-72.<br>PMID: 2492906
24. Guettler S, Vartiainen MK, Miralles F, Larijani B, Treisman R.<br>RPEL motifs link the serum response factor cofactor MAL but not myocardin to Rho signaling via actin binding.<br>Mol Cell Biol. 2008 Jan;28(2):732-42. Epub 2007 Nov 19.<br>PMID: 18025109
25. Miralles F, Posern G, Zaromytidou AI, Treisman R.<br>Actin dynamics control SRF activity by regulation of its coactivator MAL.<br>Cell. 2003 May 2;113(3):329-42.<br>PMID: 12732141
26. Wang Z, Wang DZ, Pipes GC, Olson EN.<br>Myocardin is a master regulator of smooth muscle gene expression.<br>Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Jun 10;100(12):7129-34. Epub 2003 May 19.<br>PMID: 12756293
27. Kawashima T, Okuno H, Nonaka M, Adachi-Morishima A, Kyo N, Okamura M, Takemoto-Kimura S, Worley PF, Bito H.<br>Synaptic activity-responsive element in the Arc/Arg3.1 promoter essential for synapse-to-nucleus signaling in activated neurons.<br>Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Jan 6;106(1):316-21. Epub 2008 Dec 30.<br>PMID: 19116276
28. Sharrocks AD, Gille H, Shaw PE.<br>Identification of amino acids essential for DNA binding and dimerization in p67SRF: implications for a novel DNA-binding motif.<br>Mol Cell Biol. 1993 Jan;13(1):123-32.<br>PMID: 8417320
29. Liu SH, Ma JT, Yueh AY, Lees-Miller SP, Anderson CW, Ng SY.<br>The carboxyl-terminal transactivation domain of human serum response factor contains DNA-activated protein kinase phosphorylation sites.<br>J Biol Chem. 1993 Oct 5;268(28):21147-54.<br>PMID: 8407951
30. Stringer JL, Belaguli NS, Iyer D, Schwartz RJ, Balasubramanyam A.<br>Developmental expression of serum response factor in the rat central nervous system.<br>Brain Res Dev Brain Res. 2002 Sep 20;138(1):81-6.<br>PMID: 12234660
31. Herdegen T, Blume A, Buschmann T, Georgakopoulos E, Winter C, Schmid W, Hsieh TF, Zimmermann M, Gass P.<br>Expression of activating transcription factor-2, serum response factor and cAMP/Ca response element binding protein in the adult rat brain following generalized seizures, nerve fibre lesion and ultraviolet irradiation.<br>Neuroscience. 1997 Nov;81(1):199-212.<br>PMID: 9300412
32. Schratt G, Philippar U, Berger J, Schwarz H, Heidenreich O, Nordheim A.<br>Serum response factor is crucial for actin cytoskeletal organization and focal adhesion assembly in embryonic stem cells.<br>J Cell Biol. 2002 Feb 18;156(4):737-50. Epub 2002 Feb 11.<br>PMID: 11839767
33. Stritt C, Stern S, Harting K, Manke T, Sinske D, Schwarz H, Vingron M, Nordheim A, Knöll B.<br>Paracrine control of oligodendrocyte differentiation by SRF-directed neuronal gene expression.<br>Nat Neurosci. 2009 Apr;12(4):418-27. Epub 2009 Mar 8.<br>PMID: 19270689


34. Johnson AW, Crombag HS, Smith DR, Ramanan N.<br>Effects of serum response factor (SRF) deletion on conditioned reinforcement.<br>Behav Brain Res. 2011 Jul 7;220(2):312-8. Epub 2011 Feb 15.<br>PMID: 21329726


参考文献
35. Lu PP, Ramanan N.<br>Serum response factor is required for cortical axon growth but is dispensable for neurogenesis and neocortical lamination.<br>J Neurosci. 2011 Nov 16;31(46):16651-64.<br>PMID: 22090492


<br>
<br>
12

回編集