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英語名:Bone Morphogenetic Protein 英語略称名:BMP | |||
歴史 | |||
もともとはBone Morphogenetic Protein [[wikipedia:Bone_Morphogenetic_Protein|Bone Morphogenetic Protein]] という名が示す通り、骨組織や軟骨の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。その7種類のうち、BMP2〜BMP7はtransforming growth factor beta (TGF−β)superfamily [[wikipedia:transforming_growth_factor_beta_superfamily|transforming growth factor beta superfamily]] に属するが、BMP1はmetalloprotease [[wikipedia:metalloproteinase|metalloproteinase]] である。その後、さらに多くのメンバーが同定されている。本稿で扱うのは、TGF−β superfamilyに属するBMPとする。両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。 | |||
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シグナル伝達<ref><pubmed> 21565618</pubmed></ref> | |||
BMPを含むTGF−β superfamilyタンパク質はホモもしくはヘテロ二量体としてリガンド活性を持ち、2本のペプチド鎖はジスルフィド結合によって結合している。膜貫通型のセリン/スレオニンリン酸化酵素受容体であるI型、II型BMP受容体のヘテロ二量体に結合して、シグナルが細胞内に伝達される。TAK1/TAB1/2を介した経路やPKAを介した経路等も知られているが、主要なシグナル伝達経路はSMADタンパク質を介した経路である。リガンドの結合によって活性化された受容体がSMAD1/5/8のセリン/スレオニン残基をリン酸化すると、リン酸化SMAD1/5/8は細胞質にあるSMAD4と結合して核に移行する。そこでターゲット遺伝子のcis制御領域に結合し、その転写を活性化する。一義的にはBMPを産生する細胞からの濃度勾配がパターンを形成するために重要であるが、細胞外ではノギン(noggin) やコーディン(chordin)などのようなBMPに結合する分泌性タンパク質によって細胞外で活性を抑制されるし、細胞内ではSMAD1/5/8に結合する抑制性SMAD6/7によってもBMPシグナルの調節がおこなわれる。一般には、SMAD1/5/8のリン酸化部位に対する抗体を用いた検出で、BMPシグナルの活性化分布を検出することができる。 | |||
神経発生における機能と活性 | |||
神経系の初期発生では主としてパターンの形成に関与している。例えば、非神経外胚葉で発現し、それに隣接する領域の[[神経堤]]細胞の誘導に関与している<ref><pubmed> 7553857</pubmed></ref>。また、体幹部[[神経堤]]の移動開始を促進する。また、背側[[神経管]]で発現し、[[神経上皮細胞]]に背側特異的な遺伝子発現を誘導する。これにより、神経管背側ではそれに対応したサブタイプのニューロンが分化してくることになる<ref><pubmed> 9335341</pubmed></ref>。このように、神経前駆細胞に対してどのようなニューロンに分化するかを決定する作用もあるが、ショウジョウバエにおいてFMRFamideを神経ペプチドとして分泌するニューロンの分化の場合のように、軸索の投射先から供給されたBMPが逆行性にニューロンの細胞体まで伝達されてその遺伝子発現/分化形質を制御するような例もある<ref><pubmed>12679036</pubmed></ref>。これらの例以外にも様々な場面で神経分化の制御に関わっている。また、BMP シグナルは特定の細胞種の分化を促進するのみでなく、抑制もおこなう。神経管背側から分泌されるBMPによるシグナルは、Olig2を発現する[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]が分化するのを抑制する<ref><pubmed>18682850</pubmed></ref>。したがって、オリゴデンドロサイト前駆細胞が形成される際にはBMPによる抑制はFGFシグナルによってさらに抑制されていなければならない。成体マウスの海馬においては、[[神経幹細胞]]がゆっくりと増殖しながら分化したニューロン(顆粒細胞)を産生しているが、BMPシグナルのレベルを下げてしまうと[[神経幹細胞]]が一時的に増殖を早める一方でゆっくり増殖する幹細胞のプールが枯渇してしまい、結果的に産生するニューロンの数が減る<ref><pubmed> 20621052</pubmed></ref>。したがって、この場合ではBMPは[[神経幹細胞]]の維持をおこなっていると考えられる。 | |||
神経筋接合、神経変性疾患とBMPシグナル | |||
主にショウジョウバエの研究から、[[運動神経]]と筋肉の接合部([[wikipedia:neuromauscular_junction|neuromauscular junction]]、[[神経筋接合部]]の項を参照)における[[シナプス]]形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP(Glass bottom boat(Gbb))がプレシナプスにあるWishful thinking(Wit)、Thickveins(Tkv)、Saxophone(Sax)からなる受容体複合体に結合する。これにより、LIMK1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によってMad(Mothers against decepentaplegic、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行してターゲット遺伝子の転写を活性化する。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や神経伝達の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えばDaughters against decapetaplegic (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。[[神経変性疾患]]の中には原因遺伝子のいくつかが同定されているものがあるが、その中にはBMPシグナルとの関連が認められる場合がある。例えば、Hereditary Spastic Paraplegiaにみられる変異遺伝子の一つであるNIPA1のショウジョウバエホモログであるspichthyinの変異体では、リン酸化Madが正常の4倍ほどに増え、神経筋接合部のブートンの数も2倍に増えてしまう。哺乳類細胞の培養実験からもNIPA1がBMPシグナルを抑制することが示されている。[[筋萎縮性側索硬化症(ALS)]](Amyotrophic Lateral Sclerosis)の場合、90%は自然発症だが、家族性のものにはVapB遺伝子に変異があるケースがある。ショウジョウバエのVapB変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、過剰発現した場合にはブートンの数の増加と神経筋接合部の肥大がおこる。このような表現型はそれぞれリン酸化Madの減少、増加を伴っており、やはりBMPシグナルとの関連が示唆される。また、自然発症型ALS患者の運動ニューロンにおいて、リン酸化SMADの減少が報告されている。I型のSpinal Muscular Atrophyの患者ではしばしばSurvival Motor Neuron1(Smn1)遺伝子の欠損やコピー数の異常がみられる。Smn1遺伝子の異常とSpinal Muscular Atrophyとの関連はまだはっきりしないが、ショウジョウバエのSmn1変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、リン酸化Madの量も減少する。また、この表現型はBMPシグナルの低下によって増強される。[[多発性硬化症]](Multiple Sclerosis)については、Clec16A遺伝子の多型との関連が示唆されている。ショウジョウバエのClec16Aホモログであるendosomal maturation defective(ema)変異体ではシナプスの肥大が見られ、Tkvの発現量が2倍、リン酸化Madも4倍に増加する。多発性硬化症患者の異常部位ではBMP4やBMP5、多発性硬化症モデルマウスではBMP4、6、7の発現上昇が報告されている。これらのことから、さまざまな神経変性疾患とBMPシグナルの異常の関連が示唆されており、治療への応用が期待される。 | |||
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2012年5月9日 (水) 16:02時点における版
英語名:Bone Morphogenetic Protein 英語略称名:BMP
歴史 もともとはBone Morphogenetic Protein Bone Morphogenetic Protein という名が示す通り、骨組織や軟骨の分化を誘導、促進する分子として同定された一群のタンパク質である。その7種類のうち、BMP2〜BMP7はtransforming growth factor beta (TGF−β)superfamily transforming growth factor beta superfamily に属するが、BMP1はmetalloprotease metalloproteinase である。その後、さらに多くのメンバーが同定されている。本稿で扱うのは、TGF−β superfamilyに属するBMPとする。両生類等を用いた実験から、胚の背腹軸の決定に関与していることが示され、その後も発生期の組織や器官の誘導、パターン形成、細胞死の誘導、細胞分化の制御など、発生過程の様々な場面で重要な役割をしていることが明らかとなっている。
シグナル伝達[1] BMPを含むTGF−β superfamilyタンパク質はホモもしくはヘテロ二量体としてリガンド活性を持ち、2本のペプチド鎖はジスルフィド結合によって結合している。膜貫通型のセリン/スレオニンリン酸化酵素受容体であるI型、II型BMP受容体のヘテロ二量体に結合して、シグナルが細胞内に伝達される。TAK1/TAB1/2を介した経路やPKAを介した経路等も知られているが、主要なシグナル伝達経路はSMADタンパク質を介した経路である。リガンドの結合によって活性化された受容体がSMAD1/5/8のセリン/スレオニン残基をリン酸化すると、リン酸化SMAD1/5/8は細胞質にあるSMAD4と結合して核に移行する。そこでターゲット遺伝子のcis制御領域に結合し、その転写を活性化する。一義的にはBMPを産生する細胞からの濃度勾配がパターンを形成するために重要であるが、細胞外ではノギン(noggin) やコーディン(chordin)などのようなBMPに結合する分泌性タンパク質によって細胞外で活性を抑制されるし、細胞内ではSMAD1/5/8に結合する抑制性SMAD6/7によってもBMPシグナルの調節がおこなわれる。一般には、SMAD1/5/8のリン酸化部位に対する抗体を用いた検出で、BMPシグナルの活性化分布を検出することができる。
神経発生における機能と活性 神経系の初期発生では主としてパターンの形成に関与している。例えば、非神経外胚葉で発現し、それに隣接する領域の神経堤細胞の誘導に関与している[2]。また、体幹部神経堤の移動開始を促進する。また、背側神経管で発現し、神経上皮細胞に背側特異的な遺伝子発現を誘導する。これにより、神経管背側ではそれに対応したサブタイプのニューロンが分化してくることになる[3]。このように、神経前駆細胞に対してどのようなニューロンに分化するかを決定する作用もあるが、ショウジョウバエにおいてFMRFamideを神経ペプチドとして分泌するニューロンの分化の場合のように、軸索の投射先から供給されたBMPが逆行性にニューロンの細胞体まで伝達されてその遺伝子発現/分化形質を制御するような例もある[4]。これらの例以外にも様々な場面で神経分化の制御に関わっている。また、BMP シグナルは特定の細胞種の分化を促進するのみでなく、抑制もおこなう。神経管背側から分泌されるBMPによるシグナルは、Olig2を発現するオリゴデンドロサイト前駆細胞が分化するのを抑制する[5]。したがって、オリゴデンドロサイト前駆細胞が形成される際にはBMPによる抑制はFGFシグナルによってさらに抑制されていなければならない。成体マウスの海馬においては、神経幹細胞がゆっくりと増殖しながら分化したニューロン(顆粒細胞)を産生しているが、BMPシグナルのレベルを下げてしまうと神経幹細胞が一時的に増殖を早める一方でゆっくり増殖する幹細胞のプールが枯渇してしまい、結果的に産生するニューロンの数が減る[6]。したがって、この場合ではBMPは神経幹細胞の維持をおこなっていると考えられる。
神経筋接合、神経変性疾患とBMPシグナル 主にショウジョウバエの研究から、運動神経と筋肉の接合部(neuromauscular junction、神経筋接合部の項を参照)におけるシナプス形成に逆行性(retrograde)のBMPシグナルが重要な役割を果たしていることが示されている。すなわち、神経筋接合部の筋肉側から分泌されるBMP(Glass bottom boat(Gbb))がプレシナプスにあるWishful thinking(Wit)、Thickveins(Tkv)、Saxophone(Sax)からなる受容体複合体に結合する。これにより、LIMK1を活性化させてシナプスを安定化するとともに、受容体によってMad(Mothers against decepentaplegic、ショウジョウバエのSMADホモログ)がリン酸化されて核内に移行してターゲット遺伝子の転写を活性化する。これらのBMPシグナル構成因子の変異体では神経筋接合部の縮小や神経伝達の低下が見られ、逆にBMPシグナルの抑制因子(例えばDaughters against decapetaplegic (Dad))の変異は神経筋接合部の過形成/肥大が認められる。神経変性疾患の中には原因遺伝子のいくつかが同定されているものがあるが、その中にはBMPシグナルとの関連が認められる場合がある。例えば、Hereditary Spastic Paraplegiaにみられる変異遺伝子の一つであるNIPA1のショウジョウバエホモログであるspichthyinの変異体では、リン酸化Madが正常の4倍ほどに増え、神経筋接合部のブートンの数も2倍に増えてしまう。哺乳類細胞の培養実験からもNIPA1がBMPシグナルを抑制することが示されている。筋萎縮性側索硬化症(ALS)(Amyotrophic Lateral Sclerosis)の場合、90%は自然発症だが、家族性のものにはVapB遺伝子に変異があるケースがある。ショウジョウバエのVapB変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、過剰発現した場合にはブートンの数の増加と神経筋接合部の肥大がおこる。このような表現型はそれぞれリン酸化Madの減少、増加を伴っており、やはりBMPシグナルとの関連が示唆される。また、自然発症型ALS患者の運動ニューロンにおいて、リン酸化SMADの減少が報告されている。I型のSpinal Muscular Atrophyの患者ではしばしばSurvival Motor Neuron1(Smn1)遺伝子の欠損やコピー数の異常がみられる。Smn1遺伝子の異常とSpinal Muscular Atrophyとの関連はまだはっきりしないが、ショウジョウバエのSmn1変異体では神経筋接合部のブートンの数が減少し、リン酸化Madの量も減少する。また、この表現型はBMPシグナルの低下によって増強される。多発性硬化症(Multiple Sclerosis)については、Clec16A遺伝子の多型との関連が示唆されている。ショウジョウバエのClec16Aホモログであるendosomal maturation defective(ema)変異体ではシナプスの肥大が見られ、Tkvの発現量が2倍、リン酸化Madも4倍に増加する。多発性硬化症患者の異常部位ではBMP4やBMP5、多発性硬化症モデルマウスではBMP4、6、7の発現上昇が報告されている。これらのことから、さまざまな神経変性疾患とBMPシグナルの異常の関連が示唆されており、治療への応用が期待される。
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