「損失回避」の版間の差分

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<math>EU=\textstyle \sum p_i u(x_i) \! </math>
<math>EU=\textstyle \sum p_i u(x_i) \! </math>


と記述することができる。<math>u(x_i) \!</math>が上に凸(concave)である(<math>u''(x_i) <0 \!</math>)とすると、個人は大きな結果をあまり高く評価せず、リスク回避的(risk averse)であると言える。逆に下に凸の場合は、リスク愛好的(risk love)、線形であればリスク中立的(risk neutral)と呼ばれる。期待効用理論は個人のリスク態度を考慮できる簡便な方法であり、経済学のモデルに幅広く用いられている。
と記述することができる。<math>u(x_i) \!</math>が上に凸(concave)である(<math>u''(x_i) <0 \!</math>)とすると、個人は大きな額をあまり高く評価せず、リスク回避的(risk averse)であると言える。逆に下に凸の場合は、リスク愛好的(risk love)、線形であればリスク中立的(risk neutral)と呼ばれる。期待効用理論は個人のリスク態度を考慮できる簡便な方法であり、経済学のモデルに幅広く用いられている。


 しかし、期待効用理論にも欠点があり、多数の「パラドックス」があることが知られている。例えば、有名な「アレのパラドックス(Allais paradox)」<ref>'''Maurice Allais'''<br>Le Comportement de l'Homme Rationnel devant le Risque: Critique des Postulats et Axiomes de l'Ecole Americaine. <br>''Econometrica'': 1953, 21(4);503-546</ref><ref name=KT1979>'''Daniel Kahneman, Amos Tversky'''<br>Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. <br>''Econometrica'': 1979, 47(2);263-292</ref>
 しかし、期待効用理論にも欠点があり、多数の「パラドックス」があることが知られている。例えば、有名な「アレのパラドックス(Allais paradox)」<ref>'''Maurice Allais'''<br>Le Comportement de l'Homme Rationnel devant le Risque: Critique des Postulats et Axiomes de l'Ecole Americaine. <br>''Econometrica'': 1953, 21(4);503-546</ref><ref name=KT1979>'''Daniel Kahneman, Amos Tversky'''<br>Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. <br>''Econometrica'': 1979, 47(2);263-292</ref>
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*問題2:「20%の確率で40万円」または「25%の確率で30万円」
*問題2:「20%の確率で40万円」または「25%の確率で30万円」


問題1では多くの人が後者を、問題2では多くの人が前者を選ぶ。問題1ではより確実な選択肢が選ばれているが、問題2はどちらもリスクが高く、結果がより大きいものが選ばれていると考えられる。しかし、問題2は問題1の確率をそれぞれ単に1/4にしたものであり、期待効用理論から言うと問題1と問題2の選択は「どちらも前者」または「どちらも後者」という一貫したものになるはずである。
問題1では多くの人が後者を、問題2では多くの人が前者を選ぶ。問題1ではより確実な選択肢が選ばれ、問題2はリスクが高いくじの中から、結果がより大きいものが選ばれていると考えられる。しかし、問題2は問題1の確率をそれぞれ単に1/4にしたものであり、期待効用理論から言うと問題1と問題2の選択は「どちらも前者」または「どちらも後者」という一貫したものになるはずである。


==プロスペクト理論と損失回避==
==プロスペクト理論と損失回避==
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 金銭的には同じだが、表現が異なる(「損失が発生する」または「利益を得られる」)くじを比較した研究では、「損失」ではリスク愛好的な、「利益」ではリスク回避的な行動が見られた。そのような行動をとる際には、情動が司る[[扁桃体]]が賦活化し、逆に[[報酬系]]である[[前帯状皮質]]が賦活化しなくなることが示された。また、表現に影響されない「合理的な」人は、[[眼窩前頭皮質]]がより賦活化していた。<ref><pubmed>16888142</pubmed></ref>
 金銭的には同じだが、表現が異なる(「損失が発生する」または「利益を得られる」)くじを比較した研究では、「損失」ではリスク愛好的な、「利益」ではリスク回避的な行動が見られた。そのような行動をとる際には、情動が司る[[扁桃体]]が賦活化し、逆に[[報酬系]]である[[前帯状皮質]]が賦活化しなくなることが示された。また、表現に影響されない「合理的な」人は、[[眼窩前頭皮質]]がより賦活化していた。<ref><pubmed>16888142</pubmed></ref>


 同じくくじの表現の違いに着目した研究では、「大きい利益」と「大きい罰」と表現したほうが、眼窩前頭皮質の外側と腹内側部が賦活化したことが示されている。<ref><pubmed>16839292</pubmed></ref>
 同じくくじの表現の違いに着目した研究では、くじの結果を『「大きい利益」と「大きい罰」』の組合せと表現したほうが、眼窩前頭皮質の外側と腹内側部が賦活化したことが示されている。<ref><pubmed>16839292</pubmed></ref>


 様々な利益・損失を組み合わせたくじによる研究では、利益が増えるにつれ[[線条体]]・[[前頭前皮質]]・前帯状皮質などの部位が賦活化するが、損失が増えても賦活化せず、むしろ賦活化しなくなる部位があることが示されている。また、賦活量にも「損失回避」の傾向が見られ、実際の損失回避行動と相関があることも検証されている。<ref><pubmed>17255512</pubmed></ref>
 様々な利益・損失を組み合わせたくじによる研究では、利益が増えるにつれ[[線条体]]・[[前頭前皮質]]・前帯状皮質などの部位が賦活化するが、損失が増えても賦活化せず、むしろ賦活化しなくなる部位があることが示されている。また、賦活量にも「損失回避」の傾向が見られ、実際の損失回避行動と相関があることも検証されている。<ref><pubmed>17255512</pubmed></ref>
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