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英語名:retrieval、false retrieval | 英語名:retrieval、false retrieval | ||
[[想起]] | [[想起]]とは,記憶の基本的過程のひとつであり、保持している情報を適切なタイミングと場所で「思い出す」過程のことを指す。[[誤想起]]とは想起エラーのひとつであり、実際には[[記憶]]として[[保持]]していない事象を、保持しているものとして想起してしまうことである。想起はすべてのタイプの記憶に共通の過程であるが、想起意識がある場合([[顕在的想起]])とない場合([[潜在的想起]])とがある。これまでの[[認知神経科学]]的研究の成果から、特に[[エピソード記憶]]の想起には[[側頭葉内側面]],[[前頭前野]]、[[頭頂葉]]などの領域が重要であることが知られている。また、エピソード記憶の想起時には誤想起時と比較して、記憶に付随している知覚的特徴の処理に関連する脳領域が、より大きな賦活を示すことが報告されている。 | ||
== 心理学的概要 == | == 心理学的概要 == | ||
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すなわち、前方の海馬傍回はfamiliarityの過程に関与し、海馬と後方の海馬傍回はrecollectionに関連するとされる。さらに、recollectionに関連する海馬と後方の海馬傍回の間にも異なった役割があり、後方の海馬傍回はエピソード記憶の文脈情報の処理に関与する一方、海馬はエピソード記憶の文脈と前方の海馬傍回で処理されるエピソード記憶の項目とを連合する役割を担っているようである。エピソード記憶の想起におけるこのような側頭葉内側面領域での機能解離に関しては、現在も盛んに研究が進められている。 | すなわち、前方の海馬傍回はfamiliarityの過程に関与し、海馬と後方の海馬傍回はrecollectionに関連するとされる。さらに、recollectionに関連する海馬と後方の海馬傍回の間にも異なった役割があり、後方の海馬傍回はエピソード記憶の文脈情報の処理に関与する一方、海馬はエピソード記憶の文脈と前方の海馬傍回で処理されるエピソード記憶の項目とを連合する役割を担っているようである。エピソード記憶の想起におけるこのような側頭葉内側面領域での機能解離に関しては、現在も盛んに研究が進められている。 | ||
エピソード記憶の想起過程に重要な他の脳領域は[[前頭前野]] | エピソード記憶の想起過程に重要な他の脳領域は[[前頭前野]]である。これまでの[[脳機能イメージング]]研究において、エピソード記憶の想起過程における前頭前野領域の役割について研究が進められ,多くの理論的枠組みが提唱されてきたが<ref><pubmed>8134342</pubmed></ref>、近年になってrecollectionとfamiliarityの間で異なった前頭前野領域が関与する可能性が示されている。すなわち、左の[[背外側前頭前野]]はrecollectionの過程に関連し、右の背外側前頭前野はfamiliarityの過程に関連するというものである<ref><pubmed>10234026</pubmed></ref><ref><pubmed>12457757</pubmed></ref>。他にも右背側前頭前野がエピソード記憶の想起中のモニタリングに関連するという報告<ref><pubmed>16400154</pubmed></ref>もあり、エピソード記憶の想起と前頭前野の関係については、さらなる研究が必要である。 | ||
[[頭頂葉]]領域もエピソード記憶の想起過程に関与していることが知られている。古くから、[[内側頭頂葉]]([[楔前部]]、[[後部帯状回]]、[[脳梁膨大後方]])とエピソード記憶の想起には関連があることが知られており、特に楔前部は記憶に関連した[[視覚]]イメージの生成に重要な役割を果たすとされている<ref><pubmed>9343602</pubmed></ref>。しかし、近年になって[[外側頭頂葉]]もエピソード記憶の想起に関連していることが指摘されている<ref><pubmed>18641668</pubmed></ref>。これまでの脳機能イメージング研究では、recollectionの過程には腹側の外側頭頂葉皮質がより関与し、familiarityの過程にはより背側の外側頭頂葉皮質が関与することが示されている。古くから頭頂葉皮質は注意の機構に関連すると言われていることから<ref><pubmed>2183676</pubmed></ref>、エピソード記憶の想起に関連する背側の外側頭頂葉皮質はトップダウンな注意機構を反映し、腹側の外側頭頂葉皮質はボトムアップな注意機構を反映していることが示唆されている。しかし、エピソード記憶の想起における頭頂葉の関与については、未だに多くの謎が残っている。 | [[頭頂葉]]領域もエピソード記憶の想起過程に関与していることが知られている。古くから、[[内側頭頂葉]]([[楔前部]]、[[後部帯状回]]、[[脳梁膨大後方]])とエピソード記憶の想起には関連があることが知られており、特に楔前部は記憶に関連した[[視覚]]イメージの生成に重要な役割を果たすとされている<ref><pubmed>9343602</pubmed></ref>。しかし、近年になって[[外側頭頂葉]]もエピソード記憶の想起に関連していることが指摘されている<ref><pubmed>18641668</pubmed></ref>。これまでの脳機能イメージング研究では、recollectionの過程には腹側の外側頭頂葉皮質がより関与し、familiarityの過程にはより背側の外側頭頂葉皮質が関与することが示されている。古くから頭頂葉皮質は注意の機構に関連すると言われていることから<ref><pubmed>2183676</pubmed></ref>、エピソード記憶の想起に関連する背側の外側頭頂葉皮質はトップダウンな注意機構を反映し、腹側の外側頭頂葉皮質はボトムアップな注意機構を反映していることが示唆されている。しかし、エピソード記憶の想起における頭頂葉の関与については、未だに多くの謎が残っている。 | ||
誤想起に関連する神経基盤に関しては、正しい記憶の想起に関連する神経基盤と部分的に異なった神経基盤が報告されている。想起と誤想起を分ける神経基盤に関する仮説として、先行研究の多くは、誤想起の際には正しい記憶を想起する際に認められる[[知覚]]・[[感覚皮質]]の活動が認められなくなる可能性を示唆している。たとえばある[[fMRI]]研究は、抽象図形に対する記憶の想起と誤想起に関連する賦活パターンを比較して、先に記銘した抽象図形を正しく想起している際に、実際には記銘していない抽象図形を誤想起している際と比較して、正しい記憶の知覚特徴の処理を反映する視覚皮質の活動が認められたことを報告している<ref><pubmed>15156146</pubmed></ref>。実験参加者の主観では、想起と誤想起の間には違いがないはずであり、記銘した記憶項目に付随する知覚特徴の詳細の有無が、想起と誤想起の神経基盤を分けている点なのかもしれない。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
*[[機能的磁気共鳴画像法(fMRI) | *[[機能的磁気共鳴画像法]] (fMRI) | ||
*[[記憶の分類]] | *[[記憶の分類]] | ||
*[[エピソード記憶]] | *[[エピソード記憶]] |