「社会脳」の版間の差分

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 社会脳という言葉が浸透したのは、1990年にアメリカの生理学者Leslie Brothers<ref name=ref1>'''Brothers L.'''<br>The social brain: A project for integrating primate behavior and neurophysiology in a new domain.<br>''Concepts in neuroscience.'' 1990; 1, 27-51.</ref>がsocial brainという言葉を使用し、社会認知能力に特に重要な部位として[[扁桃体]]と[[眼窩前頭野]]と[[側頭葉]]をあげたのがひとつの転機と考えられる。その後の[[損傷研究]]や[[非侵襲的脳機能画像研究]]で、扁桃体は[[情動認知]]、眼窩前頭野は[[意思決定]]、側頭葉下面は[[相貌認知]]に重要であることわかってきた。
 社会脳という言葉が浸透したのは、1990年にアメリカの生理学者Leslie Brothers<ref name=ref1>'''Brothers L.'''<br>The social brain: A project for integrating primate behavior and neurophysiology in a new domain.<br>''Concepts in neuroscience.'' 1990; 1, 27-51.</ref>がsocial brainという言葉を使用し、社会認知能力に特に重要な部位として[[扁桃体]]と[[眼窩前頭野]]と[[側頭葉]]をあげたのがひとつの転機と考えられる。その後の[[損傷研究]]や[[非侵襲的脳機能画像研究]]で、扁桃体は[[情動認知]]、眼窩前頭野は[[意思決定]]、側頭葉下面は[[相貌認知]]に重要であることわかってきた。


 ヒトにおいては、脳は体重の約2%にすぎないのに体全体で使われるエネルギーの約20%も消費する。このような高コストの器官が進化するには、それだけの理由が必要である。イギリスのRobin Dunberは全脳に対する新皮質の割合を霊長類の種間で比較した。その結果、新皮質の割合と相関があったのは生態的要因ではなく、集団のグループサイズという社会的要因であることを見出し、霊長類の新皮質の進化は集団生活、社会的環境に適応するために進化したという社会脳仮説を1998年に発表した<ref name=ref2>'''Dunbar RIM.'''<br>The social brain hypothesis.<br>''Evolutionary Anthropology.'' 1998; 6: 178-190.</ref>。この実証的な以前から、イギリスのNicholas Humphreyらによって大型の霊長類の知能は社会的な状況に適応するために進化してきたのではないかと議論されていた<ref name=ref3>'''Humphrey N'''<br>in Growing Points in Ethology: The social function of intellect, eds Bateson PPG.,<br>Hinde RA (Cambridge University Press, Cambridge,), 1976, pp 303–317.</ref>。
 ヒトにおいては、脳は体重の約2%にすぎないのに体全体で使われるエネルギーの約20%も消費する。このような高コストの器官が進化するには、それだけの理由が必要である。イギリスのRobin Dunberは全脳に対する新皮質の割合を霊長類の種間で比較した。その結果、新皮質の割合と相関があったのは生態的要因ではなく、集団のグループサイズという社会的要因であることを見出し、霊長類の新皮質の進化は集団生活、社会的環境に適応するために進化したという社会脳仮説を1998年に発表した<ref name=ref2>'''Dunbar RIM.'''<br>The social brain hypothesis.<br>''Evolutionary Anthropology.'' 1998; 6: 178-190.</ref>。この実証的な報告以前から、イギリスのNicholas Humphreyらによって大型の霊長類の知能は社会的な状況に適応するために進化してきたのではないかと議論されていた<ref name=ref3>'''Humphrey N'''<br>in Growing Points in Ethology: The social function of intellect, eds Bateson PPG.,<br>Hinde RA (Cambridge University Press, Cambridge,), 1976, pp 303–317.</ref>。


 その後、1990年代後半から2000年前後にかけて非侵襲的脳機能画像を用いた、他人のこころを読み取るのに重要な能力である心の理論に関する研究が進み、[[内側前頭前野]]や[[側頭頭頂移行部]]([[後側上側頭溝]])も社会脳の重要な一部であることがわかってきた<ref name=ref4><pubmed>10576727</pubmed></ref>。さらに1996年にイタリアの[[wikipedia:Giacomo Rizzolatti|Giacomo Rizzolatti]]らによって、サルにおいて[[ミラーニューロン]]が発見され、その後、ヒトでも[[前頭葉]]から[[頭頂葉]]にかけてミラーニューロンシステムが確認された。ミラーニューロンシステムも他者の意図の理解などにかかわるとされ、社会脳研究で精力的に研究されているテーマである<ref name=ref5><pubmed>15217330</pubmed></ref>。
 その後、1990年代後半から2000年前後にかけて非侵襲的脳機能画像を用いた、他人のこころを読み取るのに重要な能力である心の理論に関する研究が進み、[[内側前頭前野]]や[[側頭頭頂移行部]]([[後側上側頭溝]])も社会脳の重要な一部であることがわかってきた<ref name=ref4><pubmed>10576727</pubmed></ref>。さらに1996年にイタリアの[[wikipedia:Giacomo Rizzolatti|Giacomo Rizzolatti]]らによって、サルにおいて[[ミラーニューロン]]が発見され、その後、ヒトでも[[前頭葉]]から[[頭頂葉]]にかけてミラーニューロンシステムが確認された。ミラーニューロンシステムも他者の意図の理解などにかかわるとされ、社会脳研究で精力的に研究されているテーマである<ref name=ref5><pubmed>15217330</pubmed></ref>。