「細胞外マトリックス」の版間の差分

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==ECMの種類==
==ECMの種類==
 ECMには、[[プロテオグリカン]]ファミリー([[アグリン]]、[[アグレカン]]、[[シンデカン]]、[[ニューロカン]]、[[バーシカン]]、[[フォスファカン]]、[[ブレビカン]]など)、[[コラーゲン]]、[[テネイシンC]]、[[テネイシンR]]、[[トロンボスポンジン]]、[[ヒアルロン酸]]、[[フィブロネクチン]]、[[ラミニン]]、[[リーリン]]などがある。プロテオグリカンは、コアタンパク質に、多糖である[[wikipedia:JA:|グリコサミノグリカン]](Glycosaminoglycan; GAG)鎖が枝分かれするようにつながった糖タンパク質である。GAG鎖は、糖の種類や硫酸化の部位により多くの種類が存在し、[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]](Chondroitin sulfate proteoglycan; CSPG)、[[へパラン硫酸プロテオグリカン]](Heparan sulfate proteoglycan; HPSG)などがある。
 ECMには、[[プロテオグリカン]]ファミリー([[アグリン]]、[[アグレカン]]、[[シンデカン]]、[[ニューロカン]]、[[バーシカン]]、[[フォスファカン]]、[[ブレビカン]]など)、[[コラーゲン]]、[[テネイシンC]]、[[テネイシンR]]、[[トロンボスポンジン]]、[[ヒアルロン酸]]、[[フィブロネクチン]]、[[ラミニン]]、[[リーリン]]などがある。プロテオグリカンは、コアタンパク質に、多糖である[[wikipedia:JA:グリコサミノグリカン|グリコサミノグリカン]](Glycosaminoglycan; GAG)鎖が枝分かれするようにつながった糖タンパク質である。GAG鎖は、糖の種類や硫酸化の部位により多くの種類が存在し、[[コンドロイチン硫酸プロテオグリカン]](Chondroitin sulfate proteoglycan; CSPG)、[[へパラン硫酸プロテオグリカン]](Heparan sulfate proteoglycan; HPSG)などがある。


==ECMが形成する構造==
==ECMが形成する構造==
===基底膜===
===基底膜===
 [[ラミニン]]などが主な構成成分となり、シート状構造の基底膜が形成される。基底膜は、[[神経幹細胞ニッチ]]<ref name=ref1><pubmed> 21898854 </pubmed></ref>や[[血液脳関門]]などの[[wikipedia:JA:|血管内皮細胞]]直下に存在する<ref name=ref2><pubmed> 21780303 </pubmed></ref>。
 [[ラミニン]]などが主な構成成分となり、シート状構造の基底膜が形成される。基底膜は、[[神経幹細胞ニッチ]]<ref name=ref1><pubmed> 21898854 </pubmed></ref>や[[血液脳関門]]などの[[wikipedia:JA:血管内皮細胞|血管内皮細胞]]直下に存在する<ref name=ref2><pubmed> 21780303 </pubmed></ref>。


===グリア瘢痕===
===グリア瘢痕===
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===ペリニューロナルネット===
===ペリニューロナルネット===
 ペリニューロナルネット(perineuronal net; PN)は、[[細胞体]]や[[樹状突起]]近位部を取り囲むメッシュ状の構造物である。ペリニューロナルネットは、[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[視床]]、[[小脳]]、[[脳幹]]、[[脊髄]]と中枢神経に広く認められる。PNは、アグレカン、テネイシンR、ニューロカン、バーシカン、ヒアルロン酸、フォスファカン、ブレビカンに加え、[[リンクタンパク質]]である[[HAPLN1]]/Cartilage link protein1や[[HAPLN4]]/Brain link protien1,2から構成される。ヒアルロン酸、レクティカン、テネイシンは、ネット状の複合体を形成していると考えられている。ペリニューロナルネットの形成は、生後かなり経ってからおこる。[[wikipedia:JA:|げっ歯類]]ではちょうど[[臨界期]]の終わる生後2~5週間である。PNの発達に神経活動が必要である。
 ペリニューロナルネット(perineuronal net; PN)は、[[細胞体]]や[[樹状突起]]近位部を取り囲むメッシュ状の構造物である。ペリニューロナルネットは、[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[視床]]、[[小脳]]、[[脳幹]]、[[脊髄]]と中枢神経に広く認められる。PNは、アグレカン、テネイシンR、ニューロカン、バーシカン、ヒアルロン酸、フォスファカン、ブレビカンに加え、[[リンクタンパク質]]である[[HAPLN1]]/Cartilage link protein1や[[HAPLN4]]/Brain link protien1,2から構成される。ヒアルロン酸、レクティカン、テネイシンは、ネット状の複合体を形成していると考えられている。ペリニューロナルネットの形成は、生後かなり経ってからおこる。[[wikipedia:JA:げっ歯類|げっ歯類]]ではちょうど[[臨界期]]の終わる生後2~5週間である。PNの発達に神経活動が必要である。


 発達初期の未熟なPNは、[[神経栄養因子]]を捕まえる役割をしていると考えられている。一方、発達が進むにつれ、より複雑に密にニューロンを覆うように成熟したPNは、接近する[[神経線維]]や[[成長円錐]]に対して反発する性質を持つ。つまりPNは、新しくシナプスが作られるのを妨げるバリアの役割をする。またPNは興奮毒性から保護する役割をもつ<ref name=ref4><pubmed> 20048772 </pubmed></ref>。
 発達初期の未熟なPNは、[[神経栄養因子]]を捕まえる役割をしていると考えられている。一方、発達が進むにつれ、より複雑に密にニューロンを覆うように成熟したPNは、接近する[[神経線維]]や[[成長円錐]]に対して反発する性質を持つ。つまりPNは、新しくシナプスが作られるのを妨げるバリアの役割をする。またPNは興奮毒性から保護する役割をもつ<ref name=ref4><pubmed> 20048772 </pubmed></ref>。
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====ランビエ絞輪====
====ランビエ絞輪====
 ランビエ絞輪の周りにはプロテオグリカンやテネイシンR、ラミニン、ジストログリカンが覆っており、局所的な[[wikipedia:JA:|陽イオン]]の濃度や[[電位依存性ナトリウム+チャネル]]集合化を制御していると考えられている<ref name=ref6 />。
 ランビエ絞輪の周りにはプロテオグリカンやテネイシンR、ラミニン、ジストログリカンが覆っており、局所的な[[wikipedia:JA:陽イオン|陽イオン]]の濃度や[[電位依存性ナトリウム+チャネル]]集合化を制御していると考えられている<ref name=ref6 />。


===可塑性とECM===
===可塑性とECM===
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====シナプス可塑性====
====シナプス可塑性====
 リーリンが[[very–low-density lipoprotein receptor]](VLDLR)や[[apolipoprotein E receptor type2]](APOER2)のリポタンパク質受容体に結合することで細胞内アダプタータンパク質[[disabled1]](DAB1)を活性化する<ref name=ref10 />。それがSrc family tyrosine kinase(SFK)を活性化し、NMDA受容体のチロシンリン酸化を引き起こす<ref name=ref10 />。これにより、NMDA受容体のCa2+の流入量が増え、シナプス可塑性を誘導する<ref name=ref10 />。
 リーリンが[[very–low-density lipoprotein receptor]](VLDLR)や[[apolipoprotein E receptor type2]](APOER2)のリポタンパク質受容体に結合することで細胞内アダプタータンパク質[[disabled1]](DAB1)を活性化する<ref name=ref10 />。それが[[Src family tyrosine kinase]](SFK)を活性化し、[[NMDA受容体]]の[[チロシンリン酸]]化を引き起こす<ref name=ref10 />。これにより、NMDA受容体のCa2+の流入量が増え、シナプス可塑性を誘導する<ref name=ref10 />。


 テネイシンCやヒアルロン酸が、[[L-type voltage-dependent Ca2+ channel]](LVDCC)の活性をサポートし、LVDCCのCa2+流入量が増えることでLTPが誘導されると考えられている<ref name=ref10 />。しかし、テネイシンCもしくはヒアルロン酸のLVDCCへの直接的結合はまだ示されていない<ref name=ref10 />。
 テネイシンCやヒアルロン酸が、[[L-type voltage-dependent Ca2+ channel]](LVDCC)の活性をサポートし、LVDCCのCa2+流入量が増えることでLTPが誘導されると考えられている<ref name=ref10 />。しかし、テネイシンCもしくはヒアルロン酸のLVDCCへの直接的結合はまだ示されていない<ref name=ref10 />。


 ヒアルロン酸を骨格としたPNがAMPA型受容体のシナプス外の膜領域への移行を妨げ、シナプス領域の区画化の役割を果たすことが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref6 />。テネイシンRは、LTPの誘導をGABA作動性介在ニューロンによる海馬CA1錐体細胞の細胞体周辺抑制([[perisomatic inhibition]])のレベルを設定することによって起こす<ref name=ref10 />。
 ヒアルロン酸を骨格としたPNが[[AMPA型受容体]]のシナプス外の膜領域への移行を妨げ、シナプス領域の区画化の役割を果たすことが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref6 />。テネイシンRは、LTPの誘導を[[GABA]]作動性[[介在ニューロン]]による海馬[[CA1]][[錐体細胞]]の[[細胞体周辺抑制]]([[perisomatic inhibition]])のレベルを設定することによって起こす<ref name=ref10 />。


 神経可塑性においてCSPGは、形態の安定性に関わっていると考えられる。[[単眼遮蔽]]により成体において生じた[[眼優位性]]の固定は、[[chondroitinase ABC]](ChABC)よりCSPGを酵素消化によって可塑的になる<ref name=ref6 />。海馬スライスをChABCで処理すると、CA1のLTPやLTDが阻害される<ref name=ref10 />。恐怖記憶実験では、CSPGは記憶の安定性に関わる<ref name=ref10 />。
 神経可塑性においてCSPGは、形態の安定性に関わっていると考えられる。[[単眼遮蔽]]により成体において生じた[[眼優位性]]の固定は、[[chondroitinase ABC]](ChABC)よりCSPGを酵素消化によって可塑的になる<ref name=ref6 />。海馬スライスをChABCで処理すると、CA1の[[LTP]]や[[LTD]]が阻害される<ref name=ref10 />。[[恐怖記憶実験]]では、CSPGは記憶の安定性に関わる<ref name=ref10 />。


===再生とECM===
===再生とECM===