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== 分類 ==
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 ヒストンアセチル基転移酵素はその細胞内局在に基づいて核局在型のタイプAと細胞質局在型のタイプBの2つのクラスに大別されている<ref name=Sheikh2019><pubmed>30390049</pubmed></ref>。しかし、核・細胞質の両方で機能するなど、特定のクラスに分類できないヒストンアセチル基転移酵素もある。
 ヒストンアセチル基転移酵素はその細胞内局在に基づいて核局在型のタイプAと細胞質局在型のタイプBの2つのクラスに大別されている('''表1''')<ref name=Sheikh2019><pubmed>30390049</pubmed></ref>。しかし、核・細胞質の両方で機能するなど、特定のクラスに分類できないヒストンアセチル基転移酵素もある。


=== タイプA ===
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|+表1. ヒストンアセチル基転移酵素の分類
|+表1. ヒトのヒストンアセチル基転移酵素の分類
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2023年5月31日 (水) 23:45時点における最新版

内田 周作
京都大学大学院医学研究科
DOI:10.14931/bsd.7707 原稿受付日:2023年5月22日 原稿完成日:2023年5月31日
担当編集委員:和田 圭司(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)

英: histone acetyltransferase
略称: HAT

 ヒストンアセチル基転移酵素は、アセチルCoAからアセチル基を転移して、ヒストンタンパク質のリジン残基にアセチル基を結合させる酵素。一般的に、ヒストンのアセチル化は遺伝子発現の活性化と関連する。

ヒストンアセチル基転移酵素とは

 
図1. ヒストンのアセチル化、脱アセチル化による転写活性状態の変化
ヒストンがヒストンアセチル基転移酵素 (HAT)によりアセチル化された状態ではヒストン-DNA間の結合が緩むことで、TFやPolⅡの結合が可能となり、転写は活性化される。逆にヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)により、ヒストンが脱アセチル化されるとTF、PolⅡが結合出来ないため転写は抑制される。
GTF:general transcription factor:基本転写因子群、Ac:acetylation:アセチル化
村尾 直哉作成。アセチル化の項目より。

 ヒストンタンパク質はリジンアルギニン残基を豊富に含む塩基性の高いタンパク質で、ゲノムDNAが巻きつくことでヌクレオソームと呼ばれる構造単位を作り出している。ヒストンには、H1/H5(リンカーヒストン)、H2H3、およびH4(コアヒストン)の5つのファミリーがある。ヌクレオソームは、2つのH2A-H2B二量体と1つのH3-H4四量体から形成されている。ヒストンタンパク質に対する化学修飾の1つにリジン残基のアセチル化がある。ヒストンタンパク質のリジン残基のアセチル化は、リジンの正電荷を中性化し、ヒストンとDNAの間の静電引力を弱めることでDNAを部分的に解くことができ、これにより転写活性化因子がリクルートされるため、遺伝子発現の活性化と関連している(図1)。ヒストンタンパク質のリジン残基のアセチル化を担う酵素を総称してヒストンアセチル基転移酵素と呼んでいる。ヒストンアセチル基転移酵素の主な標的はヒストンH3とH4であるが、ヒストンH2AとH2Bもアセチル化されることが知られている[1]

分類

 ヒストンアセチル基転移酵素はその細胞内局在に基づいて核局在型のタイプAと細胞質局在型のタイプBの2つのクラスに大別されている(表1)[2]。しかし、核・細胞質の両方で機能するなど、特定のクラスに分類できないヒストンアセチル基転移酵素もある。

タイプA

 主に5つのファミリーに分類されている。1) Gcn5関連N-アセチルトランスフェラーゼGNAT)ファミリー、2) CBP/p300、3) MOZ、酵母YBF2、SAS2、TIP60(MYST)ファミリー、4) 転写因子関連ヒストンアセチル基転移酵素、5) 核受容体関連ヒストンアセチル基転移酵素がある。これらタイプAのヒストンアセチル基転移酵素はブロモドメインを含んでおり、ヒストンのリジン残基をアセチル化することによって遺伝子発現の調節に関与している。

Gcn5関連N-アセチルトランスフェラーゼファミリー

 Gcn5関連N-アセチルトランスフェラーゼ(GNAT)ファミリーの主要メンバーには、最初に同定されたgeneral control of amino acid synthesis 5 (Gcn5)に加えてelongation protein 3 (ELP3)、p300/CBP-associated factor (PCAF)、chromodomain on chromosome Y proteinestablishment of cohesion 1establishment of cohesion 1 homolog 1establishment of cohesion 1 homolog 2(establishment of cohesion 1 homolog 1のパラログ)、ADA-two-A containing 2mechanosensory abnormal 17などが含まれる。これらのヒストンアセチル基転移酵素にはブロモドメインが存在し、ヒストンH2B、H3、H4のリジン残基をアセチル化することが示されている[3]

MYSTファミリー

 MOZ、酵母YBF2、SAS2、TIP60(MYST)ファミリーには、Tip60MOZMOFMORF、およびHBO1が含まれる。これらのヒストンアセチル基転移酵素には、カノニカルなアセチルCoA結合部位とC2HC型ジンクフィンガーモチーフを持つ240アミノ酸長のMYST領域がある。MYSTファミリーのほとんどのヒストンアセチル基転移酵素は、タンパク質-タンパク質相互作用に関与するクロモドメインを有している。構造的なアライメントは、これらのクロモドメインがカノニカルなポリコンブ関連クロモドメインとわずかに異なることを示唆している[4] 。MYSTファミリーのヒストンアセチル基転移酵素は、ヒストンH2A、H3、H4のリジン残基をアセチル化することが知られている。

CBP/p300

 CBPとp300はCBP/p300ファミリーのパラログである。CBPとp300の主要なタンパク質相互作用ドメインは、核受容体相互作用ドメイン、リン酸化型CREB結合ドメイン、システイン/ヒスチジン領域(CH1およびCH3)、インターフェロン応答結合ドメインである[5] 。CBP/p300は、アセチルトランスフェラーゼドメイン、ブロモドメイン、プラントホメオドメインタイプのジンクフィンガーモチーフを持っている。CBP/p300はヒストン以外にも多くの基質を有している。

タイプB

 細胞質に存在し、新しく合成されたヒストンをヌクレオソームに組み込む前にアセチル化する。タイプBのヒストンアセチル基転移酵素によってヒストンに付加されたアセチル基は、核に移行してヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によって脱アセチル化される。Hat1は、タイプBのヒストンアセチル基転移酵素の数少ない例の1つであるが、構造的・機能的にはGNATファミリーに属するとも考えられている。

表1. ヒトのヒストンアセチル基転移酵素の分類
ファミリー メンバー 他の名称 基質
Gcn5関連N-アセチルトランスフェラーゼ(GNAT)ファミリー
KAT1 HAT1 H4, (H2A)
KAT2A GCN5 H3, (H4, H2B)
KAT2B PCAF H3, H4
MYSTファミリー
KAT5 Tip60 H2A, H4, (H3)
KAT6A MOZ, MYST3 H3, H4
KAT6B MORF, MYST4 H3, H4
KAT7 HBO1, MYST2 H3, H4
KAT8 MOF, MYST1 H4
CBP/p300ファミリー
KAT3A CBP H2A, H2B, H3, H4
KAT3B p300 H2A, H2B, H3, H4
転写因子関連ヒストンアセチル基転移酵素
KAT4 TAF1, TBP H3, H4, (H2A)
KAT12 TIFIIIC90 H3
核受容体関連ヒストンアセチル基転移酵素
KAT13A SRC1 H3, H4
KAT13C SRC2 H3, H4
KAT13B SRC3 H3, H4
KAT13D CLOCK H3, H4
細胞質型ヒストンアセチル基転移酵素
KAT1 HAT1 H4, (H2A)
HAT4 NAA60 H4

機能

触媒活性

 ヒストンH3の9番、14番、18番、23番目のリジン残基、ヒストンH4の5番、8番、12番、16番目のリジン残基は全てアセチル化の標的となる [6][1] 。ヒストンH2Aでは5番と9番目リジン残基、ヒストンH2Bでは5番、12番、15番、20番目のリジン残基がアセチル化される[6][1]

活性調節

 ヒストンアセチル基転移酵素の活性は、自己アセチル化、細胞内シグナル、細胞内代謝系など様々なメカニズムによって調節されると考えられている。自己アセチル化は、ヒストンタンパク質リジン残基のアセチル化を介して酵素活性が調節されることを意味する。


 Tip60は最初に自己アセチル化が報告されたヒストンアセチル基転移酵素で、MYSTドメインの活性部位である327番目のリジン残基のアセチル化は酵素活性の重要な調節マーカーとして機能する。

 p300/CBP-associated factor(PCAF)の自己アセチル化は、核局在化シグナルの5つのリジン残基を特異的にターゲットとする。自己アセチル化されたPCAFは核に局在し、遺伝子発現を活性化する。一方、脱アセチル化されたPCAFは、アポトーシス細胞の細胞質に主に存在していることから、PCAFの自己アセチル化による転写誘導が細胞の生存に関わることが示唆されている[7] 。同様に、p300およびCBPの活性も自己アセチル化を介して調節される[8]

 CBPによるアセチル化は、カルシウムイオンやcAMPなどのセカンドメッセンジャー経路の下流に存在するリン酸化カスケードなどのシグナル伝達経路によって調節されることで酵素活性に影響を与える[9][10]

神経発達における役割

 CBP/p300が神経発生において重要であることを示す研究がいくつかある。これらヒストンアセチル基転移酵素の遺伝子欠損マウスにおいて、神経発生の初期段階である胎生(E)9.0からE11.5で胚性致死となることが報告されており、造血血管新生心臓、および臓器形成が障害されている[11][12][13][14]

 マウス発生過程でのp300メッセンジャーRNA(mRNA)は、神経組織での発現が高いことが示されており、p300が神経発生に関与していることを示唆している。事実、CBPまたはp300をノックアウトすると神経管の異常が生じ、twistpaired box 3PAX3)、およびactivating enhancer binding protein 2AP2)などの他の転写因子に影響を与えることで、神経発生に障害を及ぼすことが示されている[15][14]

シナプス可塑性における役割

 マウス海馬CA1領域におけるヒストンH3のアセチル化は文脈学習後に亢進し、このヒストンアセチル化の上昇は、N-メチル-D-アスパラギン酸型グルタミン酸受容体NMDA受容体)とERKシグナル伝達経路の両方の活性化と関連している[16] 。2010年、Pelegらは、ゲノムワイド解析により、ヒストンH4の12番目のリジン残基(H4K12)のアセチル化が長期記憶形成に必須の転写活性化と関連していることを見出した[17] 。多くの可塑性関連遺伝子(c-FosBdnf遺伝子)の発現上昇も、CBPなどのヒストンアセチル基転移酵素活性の増加に関連して同定されている。マウス前脳特異的CBP欠損マウスは、長期記憶形成の障害、シナプス可塑性の障害、シナプス機能や可塑性に関与する遺伝子の発現低下を示した[18] 。別の研究においても、CBPノックアウトマウス(ヘテロ型)において、海馬依存性の学習記憶課題の障害や、学習・記憶に関わるとされる長期増強(LTP)の低下が報告されている[19] 。これらの知見から、CBPは、特に学習・記憶やシナプス可塑性において重要な役割を担っていることが示唆されている。

 MYSTファミリーのTip60は、転写調節、DNA修復、クロマチンリモデリングを含む様々な細胞機能において重要な役割を果たすヒストンアセチル基転移酵素である。Tip60は、記憶形成やシナプス可塑性に関与していることが示唆されている。海馬においてTip60をノックダウンしたマウスは、H4K12アセチル化レベルの低下、長期記憶形成の阻害、長期増強(LTP)の維持に障害を認めた[20] 。ショウジョウバエにおいて、Tip60とGNATファミリーのGcn5は長期記憶の維持に必要であることが示されている[21] 。このように、ヒストンアセチル基転移酵素によるヒストンアセチル化が記憶形成やシナプス可塑性に重要な役割を果たすことが示唆されている。

疾患との関わり

 神経変性疾患においてヒストンアセチル基転移酵素活性およびヒストンタンパク質のアセチル化の障害が報告されており、認知機能の低下や運動障害との関連が示唆されている。CBPがpolyQ凝集体に存在することが示され、神経変性疾患との関連が想定されている[22] 。事実、CAGリピートの異常な伸長はCBPやPCAFを含む転写制御因子の機能低下を誘発し、遺伝子発現の低下が示されている[23]ハンチントン病モデルマウス及び患者脳において、CBPを介した転写活性化異常の存在が示唆されている[24]

 CBP/p300は発生において重要な酵素であり、これらヒストンアセチル基転移酵素の突然変異や欠失は、知的障害などの症状を呈するRubinstein-Taybi症候群との関連が示唆されている[25]

 筋萎縮性側索硬化症マウスモデル(SOD1 G86R)では、腰部脊髄コリン作動性運動ニューロンにおいてCBPの減少とヒストンH3アセチル化の減少が見出されている[26]

 野生型Presenilin 1(PS1)はCBPとp300の転写活性能を促進するが、家族性アルツハイマー病関連遺伝子のPS1変異はこの効果を示さなかったことから、CBP/p300とアルツハイマー病との関連が示唆されている[27] 。アルツハイマー病モデルマウスにおいて、CBPの発現誘導はBdnfの発現亢進を介して記憶学習能力を回復させることが示されている[28] 。また、CBP/p300の内因性阻害分子であるEID1は、アルツハイマー病患者の海馬において細胞質から核へ移行すること、EID1の過剰発現は、ヒストンH3のアセチル化の低下、海馬におけるLTPの低下、空間記憶障害を引き起こすことが示された。この結果はCBP/p300がアルツハイマー病態に関わることを示唆している[29]

 CBP/p300以外のヒストンアセチル基転移酵素と脳疾患との関連研究はまだ少なく、今後の解析が待たれる。

関連語

参考文献

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