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行動分析学とは、アメリカの心理学者スキナー (B.F. Skinner)によって創始された行動研究の体系である。行動の制御変数を環境の中に求めるという一貫した考え方に基づき、基礎・応用・臨床の各分野でアプローチをする特徴を持つ。 | |||
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研究対象は行動そのものであり、行動とは「個体の営みのうちで外的環境に働きかけあるいは相互交渉をもつすべての営み」<ref name=ref1>'''佐藤方哉'''<br>第1章 言語への行動分析学的アプローチ<br>日本行動分析学会 (編)、浅野俊夫・山本淳一 (責任編集)<br>ことばと行動、''ブレーン出版'' (東京)、2001</ref>と定義される。行動は操作的に定義できるものであり、その妥当性は、その行動を扱う上での有効性により評価され、社会での公共的一致を前提としない<ref name=ref2>'''小川隆監修、 杉本助男、佐藤方哉、河嶋孝共編'''<br>行動心理ハンドブック<br>''培風館'' (東京)、 1989</ref> | 研究対象は行動そのものであり、行動とは「個体の営みのうちで外的環境に働きかけあるいは相互交渉をもつすべての営み」<ref name=ref1>'''佐藤方哉'''<br>第1章 言語への行動分析学的アプローチ<br>日本行動分析学会 (編)、浅野俊夫・山本淳一 (責任編集)<br>ことばと行動、''ブレーン出版'' (東京)、2001</ref>と定義される。行動は操作的に定義できるものであり、その妥当性は、その行動を扱う上での有効性により評価され、社会での公共的一致を前提としない<ref name=ref2>'''小川隆監修、 杉本助男、佐藤方哉、河嶋孝共編'''<br>行動心理ハンドブック<br>''培風館'' (東京)、 1989</ref>。 | ||
このため、行動分析学では、行動主義が研究対象として除外していた私的出来事、[[心的過程]]、[[内言]]、[[意識]]といった外的に観察不可能なものまで含められる。これらはすべて単一の原理に従い、環境変数にその原因を求められるとする。ある行動を理解したということは、環境変数を特定することにより、その行動の予測と制御ができたことと同義とされる。 | |||
このような行動分析学での行動の見方は、[[徹底的行動主義]] (radical behaviorism)という独自のものである。直接観察不可能な意識などを推定するために行動を指標とするような、[[方法論的行動主義]] (methodological behaviorism)とは異なる立場を取る <ref name=ref1 />。 | |||
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=== レスポンデント条件づけ === | |||
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=== オペラント条件づけ === | |||
個体が環境に働きかける行動を自発し、これに後続する事象がその行動の頻度を変化させる過程を指す。例えば、空腹の[[ラット]]が実験箱のレバーを押したら餌が出て食べることができ、その後レバー押しの頻度が増加したとする。この時、自発されたボタン押しは[[オペラント]]と呼ばれる。 | |||
オペラントは同じ機能を持つ反応の集まり(クラス)であり、この場合ボタンを手、足、鼻のどれで押しても一つのオペラントと分類される。オペラントに、ある結果が後続することを[[随伴性]]と呼ぶ。オペラントが自発される際に存在する環境刺激は、後にオペラントの自発確率を高める手掛かりとなる機能を持つようになる。これを弁別刺激という。 | |||
弁別刺激、オペラント、および後続した結果は[[三項随伴性]]と呼ばれ、自発行動と環境刺激との関係を記述する最も小さな単位として分析される。 | |||
オペラントに結果を随伴させないことにより、反応を消失あるいは減少させる手続きを[[消去]]という。レスポンデント条件づけとは異なり、オペラント条件づけで学習されるのは反応と結果との関係である。 | |||
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技能の習得や危険な行動の除去を目的とするような場合、条件を反転することが現実的、倫理的でないという理由でA-B- | 技能の習得や危険な行動の除去を目的とするような場合、条件を反転することが現実的、倫理的でないという理由でA-B-A法が適さない場合がある。そのような時、複数の行動や事態、被験者に対し、時間をずらして実験変数を導入することにより、観察された行動変化が、導入時期やその他の要因ではないことを確認する方法。 | ||
対象とする行動や事態が独立であることが、適用の前提条件となる。 | |||
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===基礎分野:実験的行動分析=== | ===基礎分野:実験的行動分析=== | ||
1958年に専門誌[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/journals/299/ Journal of the Experimental Analysis of Behavior]が発刊され、[[ヒト]] | 1958年に専門誌[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/journals/299/ Journal of the Experimental Analysis of Behavior]が発刊され、[[ヒト]]、[[wj:ハト|ハト]]、ラット、[[サル]]の他、様々な[[動物]]種を対象とし、行動の原理、法則を見出すことを主な目的として行われた基礎実験結果が報告されてきた。[[wj:経済学|経済学]]、[[wj:行動生態学|行動生態学]]、[[wj:認知科学|認知科学]]、[[wj:言語学|言語学]]、神経科学などとの学際的研究も盛んに行われている。 | ||
===応用・臨床分野:応用行動分析=== | ===応用・臨床分野:応用行動分析=== | ||
1968年に専門誌[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/journals/309/ Journal of Applied Behavior Analysis] | 1968年に専門誌[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/journals/309/ Journal of Applied Behavior Analysis]が発刊され、基礎研究での知見を学校、会社、コミュニティなどにおいて応用し評価した研究や、[[精神病]]患者や[[発達障害]]者などを対象とし、問題行動の制御や日常行動スキルの形成などを目的とした介入を行う臨床研究が報告されている。 | ||
==学会活動== | ==学会活動== | ||
[https://www.abainternational.org/ ABAI (Association for Behavior Analysis International] | [https://www.abainternational.org/ ABAI (Association for Behavior Analysis International]は1974年発足の、行動分析学の最大級の学会であり、年次大会開催や[http://link.springer.com/journal/40614 The Behavior Analyst]などの学会誌の発刊を行っている。 | ||
[http://www.behavior.org Cambridge center for behavioral studies]は、行動分析学をはじめとする行動諸科学の研究者や実践家に対する教育や情報交換を目的とした、非営利団体である。 | [http://www.behavior.org Cambridge center for behavioral studies]は、行動分析学をはじめとする行動諸科学の研究者や実践家に対する教育や情報交換を目的とした、非営利団体である。 |
2017年3月16日 (木) 19:46時点における最新版
山崎 由美子
慶應義塾大学
DOI:10.14931/bsd.7341 原稿受付日:2017年1月11日 原稿完成日:2017年2月7日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)
英:behavior analysis 独:Verhaltensanalyse 仏:analyse du comportement
行動分析学とは、アメリカの心理学者スキナー (B.F. Skinner)によって創始された行動研究の体系である。行動の制御変数を環境の中に求めるという一貫した考え方に基づき、基礎・応用・臨床の各分野でアプローチをする特徴を持つ。
行動分析学における研究対象
研究対象は行動そのものであり、行動とは「個体の営みのうちで外的環境に働きかけあるいは相互交渉をもつすべての営み」[1]と定義される。行動は操作的に定義できるものであり、その妥当性は、その行動を扱う上での有効性により評価され、社会での公共的一致を前提としない[2]。
このため、行動分析学では、行動主義が研究対象として除外していた私的出来事、心的過程、内言、意識といった外的に観察不可能なものまで含められる。これらはすべて単一の原理に従い、環境変数にその原因を求められるとする。ある行動を理解したということは、環境変数を特定することにより、その行動の予測と制御ができたことと同義とされる。
このような行動分析学での行動の見方は、徹底的行動主義 (radical behaviorism)という独自のものである。直接観察不可能な意識などを推定するために行動を指標とするような、方法論的行動主義 (methodological behaviorism)とは異なる立場を取る [1]。
行動を形成する原理
本能行動や無条件反応以外の個体発生後に学習される行動は、レスンポンデント条件づけあるいはオペラント条件づけにより形成されるとする[3]。
レスポンデント条件づけ
古典的条件づけと同義であり、生体が持つ刺激と反応との無条件的な関係に基づいて、別の刺激が新しく機能を獲得する過程をさす。
例えば、イヌの舌に肉片 (無条件刺激)を置くと唾液分泌が生じる (無条件反応)が、メトロノームの音 (中性刺激)を肉片とともに提示する (対提示)ことを繰り返すと、メトロノームだけでも唾液分泌を生じさせるようになる。この現象は、元来唾液分泌に対し機能を持たなかったメトロノームが、対提示の操作によって条件刺激としての機能を有するようになった、と説明できる。レスポンデント条件づけによって学習されるのは、刺激と刺激の関係である。
オペラント条件づけ
個体が環境に働きかける行動を自発し、これに後続する事象がその行動の頻度を変化させる過程を指す。例えば、空腹のラットが実験箱のレバーを押したら餌が出て食べることができ、その後レバー押しの頻度が増加したとする。この時、自発されたボタン押しはオペラントと呼ばれる。
オペラントは同じ機能を持つ反応の集まり(クラス)であり、この場合ボタンを手、足、鼻のどれで押しても一つのオペラントと分類される。オペラントに、ある結果が後続することを随伴性と呼ぶ。オペラントが自発される際に存在する環境刺激は、後にオペラントの自発確率を高める手掛かりとなる機能を持つようになる。これを弁別刺激という。
弁別刺激、オペラント、および後続した結果は三項随伴性と呼ばれ、自発行動と環境刺激との関係を記述する最も小さな単位として分析される。
オペラントに結果を随伴させないことにより、反応を消失あるいは減少させる手続きを消去という。レスポンデント条件づけとは異なり、オペラント条件づけで学習されるのは反応と結果との関係である。
随伴性には、行動の頻度の増加あるいは減少、結果の提示あるいは除去、の4つの組み合わせ要因により、正の強化、罰、負の強化、負の罰がある(表1)[4]。
刺激の出現 | 刺激の除去 | |
---|---|---|
行動頻度の増加 | 正の強化 | 負の強化 |
行動頻度の減少 | 罰 | 負の罰 |
研究方法における特徴
群間比較を行い平均値などの代表値を用い統計的検定で仮説を検証する方法ではなく、実験変数(独立変数)の導入に対する被験体の行動(従属変数)の継続的変化を検討し、両者の関数関係を明らかにする単一被験体法を積極的に用いることが、方法論における特徴の一つである。
繰り返し独立変数を導入することと、それに同期した行動変化を観察することにより、その行動を制御する環境変数を同定する[2]。これは基礎、応用、臨床のどの場面においても、一人の被験者を対象としても、客観的に効果を評価できる方法として用いられる。代表的にはA-B-A法、多層ベースライン法、条件交替法が挙げられる[5]。
A-B-A法
A-B-A designs
A期間においてベースライン行動を評価した後、実験変数の導入を行うB期間において行動変化が観察された場合、この変化がBによるものであり、偶然同期した別の変数によるものではないことを確認するために、実験変数を除去したA期間に戻す方法。
望ましい行動の形成を目標とした場合などは最後に実験変数Bを再導入するため、ABAB法と呼ばれる。
多層ベースライン法
multiple baseline designs
技能の習得や危険な行動の除去を目的とするような場合、条件を反転することが現実的、倫理的でないという理由でA-B-A法が適さない場合がある。そのような時、複数の行動や事態、被験者に対し、時間をずらして実験変数を導入することにより、観察された行動変化が、導入時期やその他の要因ではないことを確認する方法。
対象とする行動や事態が独立であることが、適用の前提条件となる。
条件交替法
alternating treatments designs
単一被験体に対し複数の実験変数の効果を比較するため、ランダム化(あるいはセミランダム化)された系列に従って条件を交替させながら評価する方法。適用するには条件間の干渉について考慮する必要がある。
行動分析学の分野
行動分析学は基礎、応用、臨床の各分野の3つの柱を持ち、多様な研究対象、分野に広がっている。
基礎分野:実験的行動分析
1958年に専門誌Journal of the Experimental Analysis of Behaviorが発刊され、ヒト、ハト、ラット、サルの他、様々な動物種を対象とし、行動の原理、法則を見出すことを主な目的として行われた基礎実験結果が報告されてきた。経済学、行動生態学、認知科学、言語学、神経科学などとの学際的研究も盛んに行われている。
応用・臨床分野:応用行動分析
1968年に専門誌Journal of Applied Behavior Analysisが発刊され、基礎研究での知見を学校、会社、コミュニティなどにおいて応用し評価した研究や、精神病患者や発達障害者などを対象とし、問題行動の制御や日常行動スキルの形成などを目的とした介入を行う臨床研究が報告されている。
学会活動
ABAI (Association for Behavior Analysis Internationalは1974年発足の、行動分析学の最大級の学会であり、年次大会開催やThe Behavior Analystなどの学会誌の発刊を行っている。
Cambridge center for behavioral studiesは、行動分析学をはじめとする行動諸科学の研究者や実践家に対する教育や情報交換を目的とした、非営利団体である。
日本では1979年に日本行動分析学会が発足している。
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 佐藤方哉
第1章 言語への行動分析学的アプローチ
日本行動分析学会 (編)、浅野俊夫・山本淳一 (責任編集)
ことばと行動、ブレーン出版 (東京)、2001 - ↑ 2.0 2.1 小川隆監修、 杉本助男、佐藤方哉、河嶋孝共編
行動心理ハンドブック
培風館 (東京)、 1989 - ↑ 佐藤方哉
行動理論への招待
大修館書店 (東京)、1976> - ↑ ジェームズ・E.メイザー著、磯博行、坂上貴之、川合伸幸訳
メイザーの学習と行動 第3版
二瓶社 (大阪)、2008 - ↑ D.H.バーロー、M.ハーセン著、高木俊一郎、佐久間徹監訳
一事例の実験デザイン―ケーススタディの基本と応用―
叢書・現代の心理学 別巻1
二瓶社 (大阪)、1997