「CREB制御転写コアクチベーター」の版間の差分
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<font size="+1">[https://researchmap.jp/yukinorihirano 平野 恭敬]</font><br> | |||
''香港科学技術大学''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年12月27日 原稿完成日:2026年1月6日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之](東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 薬理学分野)<br> | |||
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英語名:CREB-regulated transcriptional coactivator<br> | 英語名:CREB-regulated transcriptional coactivator<br> | ||
英略語:CRTC | 英略語:CRTC | ||
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==発見== | ==発見== | ||
CRTCファミリータンパクである[[哺乳類]][[CRTC1]]と[[CRTC2]]は、[[cAMP応答配列結合タンパク質]] ([[CREB]])結合配列である[[cAMP応答配列]]の下流で[[ルシフェラーゼ]]を発現するレポーターを用い、CRE依存的な転写を活性化させる因子として同定された。さらにアミノ酸の相同性から[[CRTC3]]も報告された<ref name=Conkright2003><pubmed>14536081</pubmed></ref>。その後、[[ショウジョウバエ]]と[[線虫]]でもCRTCが同定されたことから、進化的に保存されたCREB活性化因子だと考えられる<ref name=Altarejos2011><pubmed>21346730</pubmed></ref>。CREB活性化因子として他にも、CREBのリン酸化を介してCREBに結合する[[ヒストンアセチル化酵素]][[CREB-binding protein]], | CRTCファミリータンパクである[[哺乳類]][[CRTC1]]と[[CRTC2]]は、[[cAMP応答配列結合タンパク質]] ([[CREB]])結合配列である[[cAMP応答配列]]の下流で[[ルシフェラーゼ]]を発現するレポーターを用い、CRE依存的な転写を活性化させる因子として同定された。さらにアミノ酸の相同性から[[CRTC3]]も報告された<ref name=Conkright2003><pubmed>14536081</pubmed></ref>。その後、[[ショウジョウバエ]]と[[線虫]]でもCRTCが同定されたことから、進化的に保存されたCREB活性化因子だと考えられる<ref name=Altarejos2011><pubmed>21346730</pubmed></ref>。CREB活性化因子として他にも、CREBのリン酸化を介してCREBに結合する[[ヒストンアセチル化酵素]][[CREB-binding protein]], | ||
[[CBP]])および[[p300]]タンパク質が知られているが、CBP/p300が[[ヒストンアセチル化]] | [[CBP]])および[[p300]]タンパク質が知られているが、CBP/p300が[[ヒストンアセチル化]]を介してCREB依存的遺伝子発現を誘導する一方、CRTCは脱リン酸化をトリガーとして核内に移行し、CREBと結合して転写複合体を形成することで遺伝子発現を誘導する。 | ||
[[ファイル:Hirano CRTC Fig.png|サムネイル|'''図1. CRTCのドメイン構造とリン酸化セリン'''<br> | |||
A. N末のCBDを介してCREBと結合し、C末のTADを介して転写を活性化させる。<br> | |||
B. 定常状態ではセリン残基のリン酸化によりCRTCは細胞質に局在し、脱リン酸化後、核内に移行して遺伝子発現を活性化させる。]] | |||
==構造== | ==構造== | ||
CRTCファミリータンパクは共通して、N末端にCREB結合ドメインを持ち、C末端に[[transcription factor IID]] ([[TFIID]])転写複合体サブユニットである[[TATA-box binding protein–associated factor 4]] ([[TAF4]])と結合する転写活性化ドメインを持つ<ref name=Conkright2003><pubmed>14536081</pubmed></ref>。CRTCのN末端ドメインおよびC末端ドメイン以外の領域は制御領域として考えられ、特に[[セリン]]・[[スレオニン]]が豊富で、これら[[アミノ酸]]がリン酸化されることで核外移行し、CRTCを負に制御している。マウスCRTC2に関しては構造解析が行われ、CRTC2のN末ドメインがCREBの[[dZipドメイン]]と結合し、CREB/CRTC2複合体が二量体になってCRE配列と結合することがわかっている<ref name=Song2018><pubmed>29733854</pubmed></ref>。 | CRTCファミリータンパクは共通して、N末端にCREB結合ドメインを持ち、C末端に[[transcription factor IID]] ([[TFIID]])転写複合体サブユニットである[[TATA-box binding protein–associated factor 4]] ([[TAF4]])と結合する転写活性化ドメインを持つ<ref name=Conkright2003><pubmed>14536081</pubmed></ref>。CRTCのN末端ドメインおよびC末端ドメイン以外の領域は制御領域として考えられ、特に[[セリン]]・[[スレオニン]]が豊富で、これら[[アミノ酸]]がリン酸化されることで核外移行し、CRTCを負に制御している。マウスCRTC2に関しては構造解析が行われ、CRTC2のN末ドメインがCREBの[[dZipドメイン]]と結合し、CREB/CRTC2複合体が二量体になってCRE配列と結合することがわかっている<ref name=Song2018><pubmed>29733854</pubmed></ref>。 | ||
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==機能== | ==機能== | ||
CRTCが[[核]]移行すると、CREBと結合することでCREBを活性化し、遺伝子発現を誘導する。CBPはCREBの[[リン酸化]]を必要とする一方、CRTCには必要ない。CREB/CBPとCREB/CRTC経路の下流因子の一部は共通であるものの、それぞれに特異的な標的遺伝子も存在する<ref name=Kasper2010><pubmed>20859256</pubmed></ref>。CBPとCRTCの活性化の時間軸が異なる例も報告され<ref name=Hirano2016><pubmed>27841260</pubmed></ref>、さらにCBPとCRTCによるCREBを介した記憶制御にも異なる役割が報告されている<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。CRTCのクロマチン結合領域はCREBとほぼ共局在することから<ref name=Hirano2016><pubmed>27841260</pubmed></ref>、CRTCは主にCREBを介して転写制御に関与すると考えられる。 | |||
===翻訳後修飾=== | ===翻訳後修飾=== | ||
CRTCの調節にはリン酸化及びアセチル化による翻訳後修飾が関わっている。 | CRTCの調節にはリン酸化及びアセチル化による翻訳後修飾が関わっている。 | ||
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===生体での機能=== | ===生体での機能=== | ||
神経で特に発現するCRTC1について、[[視床下部]]における[[食欲]]制御、また[[扁桃体]]および[[海馬]]における記憶制御に関わることが報告されている。視床下部でのCREB/CRTC1は[[レプチン]]の下流で機能し、レプチンシグナル下流である[[食欲抑制因子]]、[[プレプロコカイン・アンフェタミン調節性転写産物]]遺伝子[[CART prepropeptide]] ([[CARTPT]])および[[Kiss1]]の発現を誘導することにより、食欲を減衰させる機能がある<ref name=Altarejos2008><pubmed>18758446</pubmed></ref>。扁桃体と海馬においてCREBが記憶固定化に重要な転写制御因子として古くから知られてきたのと一致して、CRTC1は海馬[[後期長期増強]]([[L-LTP]])に必須であること<ref name=Ch'ng2012><pubmed>22770221</pubmed></ref><ref name=Zhou2006><pubmed>17183642</pubmed></ref>、扁桃体および海馬CRTC1は[[ | 神経で特に発現するCRTC1について、[[視床下部]]における[[食欲]]制御、また[[扁桃体]]および[[海馬]]における記憶制御に関わることが報告されている。視床下部でのCREB/CRTC1は[[レプチン]]の下流で機能し、レプチンシグナル下流である[[食欲抑制因子]]、[[プレプロコカイン・アンフェタミン調節性転写産物]]遺伝子[[CART prepropeptide]] ([[CARTPT]])および[[Kiss1]]の発現を誘導することにより、食欲を減衰させる機能がある<ref name=Altarejos2008><pubmed>18758446</pubmed></ref>。扁桃体と海馬においてCREBが記憶固定化に重要な転写制御因子として古くから知られてきたのと一致して、CRTC1は海馬[[後期長期増強]]([[L-LTP]])に必須であること<ref name=Ch'ng2012><pubmed>22770221</pubmed></ref><ref name=Zhou2006><pubmed>17183642</pubmed></ref>、扁桃体および海馬CRTC1は[[恐怖条件づけ]]学習における[[記憶固定化]]に重要であることが示された<ref name=Nonaka2014><pubmed>25277455</pubmed></ref> <ref name=Uchida2017><pubmed>28076781</pubmed></ref>。CRTC1下流制御遺伝子について[[脳由来神経栄養因子]] ([[brain-derived neurotrophic factor]] ([[BDNF]]))、[[核内受容体サブファミリー4A]] ([[Nr4a]])、[[c-fos]]、[[線維芽細胞増殖因子1b]] ([[fibroblast growth factor 1b]], [[Fgf1b]])等遺伝子が報告されており、これらはCBP下流遺伝子と共通であることから、CBPとCRTC1は協調的に働くこと、またCRTC1とCBPのCREB制御における使い分けが提案されてきた。 | ||
ショウジョウバエにおいては飢餓状態の低[[インスリン]]状態がCRTCの脱リン酸化を誘導してCRTCを活性化させ、CBP非依存的に記憶能力を高めることが示された<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。また、ショウジョウバエ[[匂い嫌悪学習]]において長期記憶の固定化そのものにはCRTCは必要なく、CBPが重要な役割を果たしている<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。しかし、長期記憶が形成された1日後からCRTCをノックダウンするとその後の記憶の保持や消失に影響が生じる。これらより、ショウジョウバエではCBPとCRTCに記憶過程における時間軸で使い分けがあり、CBPは長期記憶固定化に、CRTCは固定化1日後以降の長期記憶の維持、および消失といった記憶の柔軟性を司ると考えられる<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。マウスでもCBP依存的CREB活性化が一過的な遺伝子発現を誘導し、CRTC1依存的CREB活性化はより持続的な遺伝子発現を制御することが示唆されている<ref name=Uchida2017><pubmed>28076781</pubmed></ref>。CRTC2に関しては、マウス胚由来[[線維芽細胞]]においてCRTC2とCBPが独立に制御する遺伝子が報告されていることから<ref name=Kasper2010><pubmed>20859256</pubmed></ref>、CRTC1の下流遺伝子についてもCRTC1とCBPが独立に制御する下流遺伝子が存在する可能性がある。 | ショウジョウバエにおいては飢餓状態の低[[インスリン]]状態がCRTCの脱リン酸化を誘導してCRTCを活性化させ、CBP非依存的に記憶能力を高めることが示された<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。また、ショウジョウバエ[[匂い嫌悪学習]]において長期記憶の固定化そのものにはCRTCは必要なく、CBPが重要な役割を果たしている<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。しかし、長期記憶が形成された1日後からCRTCをノックダウンするとその後の記憶の保持や消失に影響が生じる。これらより、ショウジョウバエではCBPとCRTCに記憶過程における時間軸で使い分けがあり、CBPは長期記憶固定化に、CRTCは固定化1日後以降の長期記憶の維持、および消失といった記憶の柔軟性を司ると考えられる<ref name=Hirano2013><pubmed>23349290</pubmed></ref>。マウスでもCBP依存的CREB活性化が一過的な遺伝子発現を誘導し、CRTC1依存的CREB活性化はより持続的な遺伝子発現を制御することが示唆されている<ref name=Uchida2017><pubmed>28076781</pubmed></ref>。CRTC2に関しては、マウス胚由来[[線維芽細胞]]においてCRTC2とCBPが独立に制御する遺伝子が報告されていることから<ref name=Kasper2010><pubmed>20859256</pubmed></ref>、CRTC1の下流遺伝子についてもCRTC1とCBPが独立に制御する下流遺伝子が存在する可能性がある。 | ||
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CRTCファミリータンパク質と[[肥満]]および[[生活習慣病]]との関連も示唆されている。上述の[[視床下部]]におけるCRTC1の[[食欲]]減衰作用、および肝臓CRTC2の糖新生を介した血糖値の制御、褐色脂肪細胞CRTC3による脂肪量の調節が肥満および生活習慣病治療の標的となりうると考えられる。それらに加え、慢性高血糖下では血中グルコースに応答してマウス肝臓においてCRTC2の[[O-グリコシル化]]が起きる。これによりCRTC2の過剰な活性化が起きることで血糖値が高く保たれることが示唆され、CRTC2のO-グリコシル化を阻害することで慢性高血糖における耐糖能異常を改善しうることが提案された<ref name=Dentin2008><pubmed>18323454</pubmed></ref>。 | CRTCファミリータンパク質と[[肥満]]および[[生活習慣病]]との関連も示唆されている。上述の[[視床下部]]におけるCRTC1の[[食欲]]減衰作用、および肝臓CRTC2の糖新生を介した血糖値の制御、褐色脂肪細胞CRTC3による脂肪量の調節が肥満および生活習慣病治療の標的となりうると考えられる。それらに加え、慢性高血糖下では血中グルコースに応答してマウス肝臓においてCRTC2の[[O-グリコシル化]]が起きる。これによりCRTC2の過剰な活性化が起きることで血糖値が高く保たれることが示唆され、CRTC2のO-グリコシル化を阻害することで慢性高血糖における耐糖能異常を改善しうることが提案された<ref name=Dentin2008><pubmed>18323454</pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | |||
* [[サイクリックAMP応答配列結合タンパク質]] | |||
* [[p300]] | |||
==参考文献== | ==参考文献== | ||