「探索眼球運動」の版間の差分

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== 探索眼球運動とは何か ==
== 探索眼球運動とは何か ==


 診察場面では患者の表情や目の動きに注目し精神内界の一端を推察しようとする。こうしたことを踏まえて昭和43年頃、統合失調症患者の注視点の動きを客観的に記録する研究が始まった。日本独自の研究である。Neisser11)によれば、ものを見るとき漠然と見ているのではなく、スキーマ(構え)に基づいて注視点による探索行動が行われ、得られた情報に基づき構えが修正され、また探索行動がなされ構えが修正される。このような循環の中で[[知覚]]が生じるという(図1)。つまり注視点を調べることによりどのような構えで見ようとしているのか、換言すれば被験者の自発性、主体性を調べることができるという特徴を持っている。精神病理学的にいえば統合失調症の中核的障害は自発性、主体性の障害であるといわれており統合失調症研究には探索眼球運動は最適と考えられた。
 診察場面では患者の表情や目の動きに注目し精神内界の一端を推察しようとする。こうしたことを踏まえて昭和43年頃、統合失調症患者の注視点の動きを客観的に記録する研究が始まった。日本独自の研究である。Neisser<ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>によれば、ものを見るとき漠然と見ているのではなく、スキーマ(構え)に基づいて注視点による探索行動が行われ、得られた情報に基づき構えが修正され、また探索行動がなされ構えが修正される。このような循環の中で[[知覚]]が生じるという(図1)。つまり注視点を調べることによりどのような構えで見ようとしているのか、換言すれば被験者の自発性、主体性を調べることができるという特徴を持っている。精神病理学的にいえば統合失調症の中核的障害は自発性、主体性の障害であるといわれており統合失調症研究には探索眼球運動は最適と考えられた。


== 測定方法 ==
== 測定方法 ==
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===呈示図について===
===呈示図について===
 NortonとStark12)によると被験者が自由な気持ちで単純な図形を見るとき注視点が図の角張ったところに集中するという特徴があることを報告した。そこで角張ったところが4か所ある横S字型の単純な図形を採用した。単純図形は解析に便利であるという側面もある。
 NortonとStark<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref>によると被験者が自由な気持ちで単純な図形を見るとき注視点が図の角張ったところに集中するという特徴があることを報告した。そこで角張ったところが4か所ある横S字型の単純な図形を採用した。単純図形は解析に便利であるという側面もある。


===課題の特徴===
===課題の特徴===
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===探索眼球運動の実際の記録法===
===探索眼球運動の実際の記録法===
14)
<ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref>


 検査は図2の3種類の図を用いて行う。
 検査は図2の3種類の図を用いて行う。
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== 反応的探索スコアの抽出 ==
== 反応的探索スコアの抽出 ==
6,7,14)
<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14 />


 反応的探索スコアは、標的図との違いの有無について質問し、被験者が回答した後に、「他に違いはありませんか」と念押しの質問をし、被験者が「違いはありません」と答えた際の5秒間(質問中・回答中)の注視点の記録である。標的図と一部異なった図2枚について、図全体を7領域に分け注視点が何か所に停留したかをスコアした。そして2枚の図について合計し反応的探索スコアとした。14点が最高点である。
 反応的探索スコアは、標的図との違いの有無について質問し、被験者が回答した後に、「他に違いはありませんか」と念押しの質問をし、被験者が「違いはありません」と答えた際の5秒間(質問中・回答中)の注視点の記録である。標的図と一部異なった図2枚について、図全体を7領域に分け注視点が何か所に停留したかをスコアした。そして2枚の図について合計し反応的探索スコアとした。14点が最高点である。
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 この指標が何を意味するのかについて述べたい。
 この指標が何を意味するのかについて述べたい。


 まず注視点の動き、探索眼球運動はNeisserが述べているように、スキーム(構え)を反映しており、被験者の主体性を表していると考えられる。そこでこの主体性を具体的に眼に見える形で明らかにした。諏訪ら13,14)は以下に述べる実験を行った。標的図と一部異なった図2枚と標的図1枚、合計3枚の図について異なった図、標的図、異なった図の順序でみせ、標的図との異同がわかったらボタンを押してもらう課題を与えた。[[反応時間]](呈示からボタン押しまでの時間)については、標的図と同じ図では、標的図と異なった図と比べて、健常者で有意に延長していた。一方、統合失調症患者では図による差が見られなかった。その時の注視点が停留した領域数をスコアした指標について調べると、健常者では、標的図と同じ図で、異なった図と比べて有意に高いスコアを示した。これに対して統合失調患者では図による差はみられなかった(Effective Search Score :ESS)。更にボタンを押した直後の5秒間の注視点をみると健常者では異なった図、同じ図共によく動き、そのスコアは統合失調症患者と比べて有意に高かった(Post-cognitive Search Score:PSS)。
 まず注視点の動き、探索眼球運動はNeisserが述べているように、スキーム(構え)を反映しており、被験者の主体性を表していると考えられる。そこでこの主体性を具体的に眼に見える形で明らかにした。諏訪ら<ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14 />は以下に述べる実験を行った。標的図と一部異なった図2枚と標的図1枚、合計3枚の図について異なった図、標的図、異なった図の順序でみせ、標的図との異同がわかったらボタンを押してもらう課題を与えた。[[反応時間]](呈示からボタン押しまでの時間)については、標的図と同じ図では、標的図と異なった図と比べて、健常者で有意に延長していた。一方、統合失調症患者では図による差が見られなかった。その時の注視点が停留した領域数をスコアした指標について調べると、健常者では、標的図と同じ図で、異なった図と比べて有意に高いスコアを示した。これに対して統合失調患者では図による差はみられなかった(Effective Search Score :ESS)。更にボタンを押した直後の5秒間の注視点をみると健常者では異なった図、同じ図共によく動き、そのスコアは統合失調症患者と比べて有意に高かった(Post-cognitive Search Score:PSS)。


 筆者が注目したこれら2つの指標(ESS,PSS)は、被験者が課題に直接反応したものではなく、求められている課題と関連して被験者が瞬時の内に独自に判断し反応したものである。その一つは健常者が同じ図になると詳しく見ようとして時間をかけ、注視点がよく動いていることである(ESS)。もう一つはボタンを押した後、健常者では自己の行動を確認するかのように注視点が頻回に動いていることである(PSS)。これらの2つの結果は、注視点が被験者の主体性を表していることを明瞭に示している。
 筆者が注目したこれら2つの指標(ESS,PSS)は、被験者が課題に直接反応したものではなく、求められている課題と関連して被験者が瞬時の内に独自に判断し反応したものである。その一つは健常者が同じ図になると詳しく見ようとして時間をかけ、注視点がよく動いていることである(ESS)。もう一つはボタンを押した後、健常者では自己の行動を確認するかのように注視点が頻回に動いていることである(PSS)。これらの2つの結果は、注視点が被験者の主体性を表していることを明瞭に示している。
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== 急性・慢性・寛解統合失調症の探索眼球運動 ==
== 急性・慢性・寛解統合失調症の探索眼球運動 ==
4)
<ref name=ref4><pubmed></pubmed></ref>


 記憶課題時の要素的指標である運動数は急性、慢性、[[寛解]]統合失調症群とも健常者群よりも有意に減少していた。守屋9)の報告によれば統合失調症の家族でも健常者に比べて運動数が少なく、運動数は統合失調症の素因を反映していると考えられた。しかし別に調べたうつ病患者や[[覚せい剤]][[精神疾患]]患者でも運動数の減少があり統合失調症に特徴的な所見とはいえない。総移動距離は慢性患者群が他の3群に比し有意に短い結果であった。急性患者群の総移動距離は健常者群に比べて有意に短いものの、寛解患者群と健常者群との間に有意差はなかった。平均移動距離は慢性患者群でのみ他の3群に比べて有意に短い値を示していた。平均移動距離は統合失調症の慢性化の指標を示していると考えられた。
 記憶課題時の要素的指標である運動数は急性、慢性、[[寛解]]統合失調症群とも健常者群よりも有意に減少していた。守屋<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>の報告によれば統合失調症の家族でも健常者に比べて運動数が少なく、運動数は統合失調症の素因を反映していると考えられた。しかし別に調べたうつ病患者や[[覚せい剤]][[精神疾患]]患者でも運動数の減少があり統合失調症に特徴的な所見とはいえない。総移動距離は慢性患者群が他の3群に比し有意に短い結果であった。急性患者群の総移動距離は健常者群に比べて有意に短いものの、寛解患者群と健常者群との間に有意差はなかった。平均移動距離は慢性患者群でのみ他の3群に比べて有意に短い値を示していた。平均移動距離は統合失調症の慢性化の指標を示していると考えられた。


 反応的探索スコアについてみると、急性・慢性・寛解統合失調症群のいずれでも健常群よりも有意に低い値を示していた。これまで覚せい剤精神疾患患者3)、うつ病患者4,8,14)、てんかん患者6,14)、[[前頭葉]]損傷患者6,14)、アルコール依存患者6,14)等について検査を行ってきたがいずれの群でも反応的探索スコアは統合失調症群のそれよりも有意に高かった。このスコアの低値が統合失調症の特徴を示す指標と考えられた。
 反応的探索スコアについてみると、急性・慢性・寛解統合失調症群のいずれでも健常群よりも有意に低い値を示していた。これまで覚せい剤精神疾患患者<ref name=ref3><pubmed></pubmed></ref>、うつ病患者<ref name=ref4 /> <ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14 />、てんかん患者<ref name=ref6><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14 />、[[前頭葉]]損傷患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />、アルコール依存患者<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />等について検査を行ってきたがいずれの群でも反応的探索スコアは統合失調症群のそれよりも有意に高かった。このスコアの低値が統合失調症の特徴を示す指標と考えられた。


== 精神症状および神経心理学的検査 ==
== 精神症状および神経心理学的検査 ==
5,6,14)
<ref name=ref5><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />


 記銘課題時の3つの要素的指標および反応的探索スコアとBPRS (Brief Psychiatric Rating Scale)で測定した精神症状、SANS (Scale for Assessment of Negative Symptoms)で測定した精神症状の関係を調べたところ、反応的探索スコアとBPRSの感情的ひきこもり(-0.52),[[情動]]鈍麻もしくは不適切な情動(-0.57)SANSの情動の平板化・情動鈍麻(-0.50)、意欲・発動性欠如(-0.64)、注意の障害(-0.62)と逆相関していた。運動数とBPRSの心気的訴え(0.40)、高揚気分(0.47)と相関していた。すなわち反応的探索スコアが陰性症状と逆相関していた。また反応的探索スコアはWAISの動作性IQと相関していた(0.74)
 記銘課題時の3つの要素的指標および反応的探索スコアとBPRS (Brief Psychiatric Rating Scale)で測定した精神症状、SANS (Scale for Assessment of Negative Symptoms)で測定した精神症状の関係を調べたところ、反応的探索スコアとBPRSの感情的ひきこもり(-0.52),[[情動]]鈍麻もしくは不適切な情動(-0.57)SANSの情動の平板化・情動鈍麻(-0.50)、意欲・発動性欠如(-0.64)、注意の障害(-0.62)と逆相関していた。運動数とBPRSの心気的訴え(0.40)、高揚気分(0.47)と相関していた。すなわち反応的探索スコアが陰性症状と逆相関していた。また反応的探索スコアはWAISの動作性IQと相関していた(0.74)
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== 統合失調症のハイリスク者と探索眼球運動 ==
== 統合失調症のハイリスク者と探索眼球運動 ==


 統合失調症になりやすさを反映する指標、脆弱性マーカーを調べるために、統合失調症のハイリスク群について探索眼球運動を調べた。反応的探索スコアは統合失調症の一卵性双生児の例で、一方が統合失調症患者、他方が健常者という不一致例同士の間においてその値が近似していた6,14)。うつ病患者で1度の親族に統合失調症患者がいると、統合失調症患者がいないうつ病患者に比べてこのスコアが低値を示した,6,14)。統合失調症患者の同胞のスコアは統合失調症を発症していなくても健常者のスコアよりも有意に低かった14,16)。統合失調症で1度の親族に統合失調症患者が多いほどこのスコアが低値を示した6,14)。以上の結果は反応的探索スコアが強力な統合失調症の脆弱性素因マーカー(遺伝素因マーカー)であることを示している。また、記銘課題時の注視点の運動数、総移動距離については、統合失調症の家族の値が統合失調症患者と健常者の間に位置していた9)。このことは運動数や総移動距離も程度は弱くても脆弱性素因マーカーということができる。
 統合失調症になりやすさを反映する指標、脆弱性マーカーを調べるために、統合失調症のハイリスク群について探索眼球運動を調べた。反応的探索スコアは統合失調症の一卵性双生児の例で、一方が統合失調症患者、他方が健常者という不一致例同士の間においてその値が近似していた<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。うつ病患者で1度の親族に統合失調症患者がいると、統合失調症患者がいないうつ病患者に比べてこのスコアが低値を示した<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。統合失調症患者の同胞のスコアは統合失調症を発症していなくても健常者のスコアよりも有意に低かった<ref name=ref14 /> <ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref> 。統合失調症で1度の親族に統合失調症患者が多いほどこのスコアが低値を示した<ref name=ref6 /> <ref name=ref14 />。以上の結果は反応的探索スコアが強力な統合失調症の脆弱性素因マーカー(遺伝素因マーカー)であることを示している。また、記銘課題時の注視点の運動数、総移動距離については、統合失調症の家族の値が統合失調症患者と健常者の間に位置していた<ref name=ref9 />。このことは運動数や総移動距離も程度は弱くても脆弱性素因マーカーということができる。


== 遺伝子研究 ==
== 遺伝子研究 ==


 探索眼球運動とくに反応的探索スコアの異常が統合失調症の[[中間表現型]]であることがわかり、これを用いて統合失調症患者、同胞を用いて連鎖解析を行ったところ、反応的探索時運動数(反応的探索スコア時の運動数)と22q11.2-12.1との連鎖が認められた15)。22q11は、統合失調症の連鎖領域の中でも最も注目されている場所のひとつであり、22q11.2欠失症候群患者は高い確率で統合失調症と診断されている1)
 探索眼球運動とくに反応的探索スコアの異常が統合失調症の[[中間表現型]]であることがわかり、これを用いて統合失調症患者、同胞を用いて連鎖解析を行ったところ、反応的探索時運動数(反応的探索スコア時の運動数)と22q11.2-12.1との連鎖が認められた<ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。22q11は、統合失調症の連鎖領域の中でも最も注目されている場所のひとつであり、22q11.2欠失症候群患者は高い確率で統合失調症と診断されている<ref name=ref1><pubmed></pubmed></ref>


== 統合失調症とその他の疾患との判別分析―診断補助装置の開発 ==
== 統合失調症とその他の疾患との判別分析―診断補助装置の開発 ==


 統合失調症診断補助装置を開発し自動的に解析できるようにして多施設大量の対象者に判別分析を行った。統合失調症の脆弱性素因マーカーである、反応的探索スコアを含む探索眼球運動の4つの指標を用いた。すなわち「後で描いてもらいますからよくみてください」という記銘課題時の運動数、平均移動距離、総移動距離と「他に違いはありませんか」と聞く、念押し課題時の反応的探索スコア、合わせて4指標を用いて判別分析を行ったが、ステップワイズの指標選択でまず反応的探索スコアが選択され、次に運動数か総移動距離(記銘課題)が選択され、2つの指標で判別式が構成された10,14,17)。反応的探索スコアは遺伝的素因と精神症状(陰性症状)を、運動数や総移動距離は主に精神症状(興味関心の低下など抑うつ症状)と一部遺伝素因を反映すると考えられる。これらの判別分析の研究結果では、臨床診断された統合失調症のうち探索眼球運動の2つの指標で統合失調症と診断できた割合(感受性)は70~75%であった。この値70%という割合は何を意味するだろうか。Gottesman2)によれば「人類遺伝学者が分裂病の罹病性における遺伝因の重要性を推定したところ、統計学でいう遺伝率は約70%である」と書かれており、統合失調症の遺伝率に近いと考えられる。判別結果は遺伝的素因を強く反映する反応的探索スコアと弱い遺伝的素因と精神症状等を反映する運動数や総移動距離によって判別されているが、主に反応的探索スコアによって素因の強い統合失調症が70%程度判別されていることを示唆している。
 統合失調症診断補助装置を開発し自動的に解析できるようにして多施設大量の対象者に判別分析を行った。統合失調症の脆弱性素因マーカーである、反応的探索スコアを含む探索眼球運動の4つの指標を用いた。すなわち「後で描いてもらいますからよくみてください」という記銘課題時の運動数、平均移動距離、総移動距離と「他に違いはありませんか」と聞く、念押し課題時の反応的探索スコア、合わせて4指標を用いて判別分析を行ったが、ステップワイズの指標選択でまず反応的探索スコアが選択され、次に運動数か総移動距離(記銘課題)が選択され、2つの指標で判別式が構成された<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14 /> <ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。反応的探索スコアは遺伝的素因と精神症状(陰性症状)を、運動数や総移動距離は主に精神症状(興味関心の低下など抑うつ症状)と一部遺伝素因を反映すると考えられる。これらの判別分析の研究結果では、臨床診断された統合失調症のうち探索眼球運動の2つの指標で統合失調症と診断できた割合(感受性)は70~75%であった。この値70%という割合は何を意味するだろうか。Gottesman<ref name=ref2><pubmed></pubmed></ref>によれば「人類遺伝学者が分裂病の罹病性における遺伝因の重要性を推定したところ、統計学でいう遺伝率は約70%である」と書かれており、統合失調症の遺伝率に近いと考えられる。判別結果は遺伝的素因を強く反映する反応的探索スコアと弱い遺伝的素因と精神症状等を反映する運動数や総移動距離によって判別されているが、主に反応的探索スコアによって素因の強い統合失調症が70%程度判別されていることを示唆している。


== 中核型統合失調症の抽出―異種性の問題を超えて ==
== 中核型統合失調症の抽出―異種性の問題を超えて ==


 Suzukiら18)は多施設共同研究で行った判別分析の結果の中から、判別分析で統合失調症と判別できた群(統合失調症判別群)と判別できなかった群(統合失調症非判別群)の間でBPRSで評価した臨床症状を比較した。まず統合失調症全体251名の臨床症状を因子分析したところ、5つの因子①hostility/excitement因子、②negative symptoms 因子、③depression/anxiety因子 ④positive symptoms因子  ⑤disorganization因子に分けられた。これらの因子とBPRS総得点について、統合失調症判別群と統合失調症非判別群の間で比較したところ、統合失調症判別群で①hostility/excitement因子、②negative symptoms 因子、⑤disorganization因子、BPRS総得点が有意に高く、統合失調症判別群は中核型統合失調症であることがわかった。
 Suzukiら<ref name=ref18><pubmed></pubmed></ref>は多施設共同研究で行った判別分析の結果の中から、判別分析で統合失調症と判別できた群(統合失調症判別群)と判別できなかった群(統合失調症非判別群)の間でBPRSで評価した臨床症状を比較した。まず統合失調症全体251名の臨床症状を因子分析したところ、5つの因子①hostility/excitement因子、②negative symptoms 因子、③depression/anxiety因子 ④positive symptoms因子  ⑤disorganization因子に分けられた。これらの因子とBPRS総得点について、統合失調症判別群と統合失調症非判別群の間で比較したところ、統合失調症判別群で①hostility/excitement因子、②negative symptoms 因子、⑤disorganization因子、BPRS総得点が有意に高く、統合失調症判別群は中核型統合失調症であることがわかった。


 国際診断基準で診断される統合失調症は成因的には異種の統合失調症が含まれている。これらのうち、興奮や敵意を示しやすく、陰性症状が強く、まとまりが悪く、重症な統合失調症は遺伝的素因も強く中核型の統合失調症として探索眼球運動によって抽出され、統合失調症全体の70~75%程度存在することが分かった。また、これらの統合失調症は精神病理学でいう主体性の障害を示す一群であるということもできる。
 国際診断基準で診断される統合失調症は成因的には異種の統合失調症が含まれている。これらのうち、興奮や敵意を示しやすく、陰性症状が強く、まとまりが悪く、重症な統合失調症は遺伝的素因も強く中核型の統合失調症として探索眼球運動によって抽出され、統合失調症全体の70~75%程度存在することが分かった。また、これらの統合失調症は精神病理学でいう主体性の障害を示す一群であるということもできる。