「In situハイブリダイゼーション法」の版間の差分

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=== プローブの調製 ===
=== プローブの調製 ===


 目的のmRNAを検出するために、そのmRNAと特異的にハイブリダイズする、つまり、目的のmRNAと相補的な配列をもったRNAまたはDNAプローブが必要である。プローブとして、<br>
 目的のmRNAを検出するために、そのmRNAと特異的にハイブリダイズする、つまり、目的のmRNAと相補的な配列をもったRNAまたはDNAプローブが必要である。プローブとして、
 
A. 化学合成したDNAを用いるオリゴヌクレオチドプローブ<br>
A. 化学合成したDNAを用いるオリゴヌクレオチドプローブ<br>
B. DNA合成酵素によりin vitroで合成したDNAプローブ<br>
B. DNA合成酵素によりin vitroで合成したDNAプローブ<br>
C. RNA合成酵素によりin vitroで合成したRNAプローブ<br>
C. RNA合成酵素によりin vitroで合成したRNAプローブ<br>
の3種類がよく用いられている。DNAオリゴプローブは、DNA合成装置で合成する。B, Cにおいては、プローブ合成のための鋳型DNAが必要である。RNA-RNAハイブリッドが3者の中で最も安定であり、現在RNAプローブを用いる方法が一般的である。合成したRNAが分解されないように細心の注意を払う。他にlocked nucleic acid (LNA)(後述)やペプチド核酸をプローブとして用いる方法がある。プローブを可視化のために標識する方法には主に次の2つの方法がある。<br>
 
の3種類がよく用いられている。DNAオリゴプローブは、DNA合成装置で合成する。B, Cにおいては、プローブ合成のための鋳型DNAが必要である。RNA-RNAハイブリッドが3者の中で最も安定であり、現在RNAプローブを用いる方法が一般的である。合成したRNAが分解されないように細心の注意を払う。他にlocked nucleic acid (LNA)(後述)やペプチド核酸をプローブとして用いる方法がある。プローブを可視化のために標識する方法には主に次の2つの方法がある。
 
a. 酵素抗体法または蛍光抗体法:適当な抗原(ジゴキシゲニンdigoxigenin [DIG], フルオレセインfluorescein, ビオチン biotinなど)の結合したヌクレオチドを用いてプローブを標識し、その抗原に対する抗体を用いて発色または蛍光により可視化する。<br>
a. 酵素抗体法または蛍光抗体法:適当な抗原(ジゴキシゲニンdigoxigenin [DIG], フルオレセインfluorescein, ビオチン biotinなど)の結合したヌクレオチドを用いてプローブを標識し、その抗原に対する抗体を用いて発色または蛍光により可視化する。<br>
b. 放射性同位元素(radioisotope: RI)を用いて、オートラジオグラフィー法により可視化する。
b. 放射性同位元素(radioisotope: RI)を用いて、オートラジオグラフィー法により可視化する。
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 DNAの二重らせん構造は、塩基対A:Tに形成される2つの水素結合と塩基対G:Cに形成される3つの水素結合により安定に保たれている。この二本鎖を一本鎖にする方法の1つとして、熱変性がある。二重らせんDNA溶液の温度を高くしながら、DNA溶液の260 nmの吸光度A260を測定すると、しだいにA260は高くなる。これはDNAの二重らせんが壊れ、一本鎖になるためで、この温度による吸光度の変化を表す曲線をDNAの融解曲線とよんでいる。この現象は、らせんが消失して塩基間の相互作用が少なくなるため、塩基の光吸収の効率が変化し(深色効果)、各塩基の分子吸光係数が高くなるために生じる。温度の低い時のDNAをヘリックス100%とし、高温での吸光度が一定になる状態でヘリックス0%と仮定すると、ヘリックス50%になる温度(融解温度melting temperature: Tm)を決定することができる。
 DNAの二重らせん構造は、塩基対A:Tに形成される2つの水素結合と塩基対G:Cに形成される3つの水素結合により安定に保たれている。この二本鎖を一本鎖にする方法の1つとして、熱変性がある。二重らせんDNA溶液の温度を高くしながら、DNA溶液の260 nmの吸光度A260を測定すると、しだいにA260は高くなる。これはDNAの二重らせんが壊れ、一本鎖になるためで、この温度による吸光度の変化を表す曲線をDNAの融解曲線とよんでいる。この現象は、らせんが消失して塩基間の相互作用が少なくなるため、塩基の光吸収の効率が変化し(深色効果)、各塩基の分子吸光係数が高くなるために生じる。温度の低い時のDNAをヘリックス100%とし、高温での吸光度が一定になる状態でヘリックス0%と仮定すると、ヘリックス50%になる温度(融解温度melting temperature: Tm)を決定することができる。


 Tmは二重らせんの安定度の目安になる。非常に安定ならせんであれば、Tmは80〜90℃になる。逆に不安定であれば、30〜40℃になる。TmはGC塩基対の含量、核酸の長さ、核酸の塩基対のミスマッチなどに依存し、DNA溶液のイオン強度(塩濃度)や組成により変化する。Tmに関する経験的な式は、例えば、RNA-RNAハイブリッドの場合、<br>
 Tmは二重らせんの安定度の目安になる。非常に安定ならせんであれば、Tmは80〜90℃になる。逆に不安定であれば、30〜40℃になる。TmはGC塩基対の含量、核酸の長さ、核酸の塩基対のミスマッチなどに依存し、DNA溶液のイオン強度(塩濃度)や組成により変化する。Tmに関する経験的な式は、例えば、RNA-RNAハイブリッドの場合、
Tm=79.8+18.5(logM)+0.584(%G+C)+0.118 × 10-2(%G+C)2−0.35(%formamide)− 820/l<br>
 
Tm=79.8+18.5(logM)+0.584(%G+C)+0.118 × 10<sup>-2</sup>(%G+C)<sup>2</sup>−0.35(%formamide)− 820/l<br>


 ここで、Mは1価の正イオンのモル濃度、%G+CはGC含量、%formamideはホルムアミド濃度、lはプローブの長さ(bp)である。
 ここで、Mは1価の正イオンのモル濃度、%G+CはGC含量、%formamideはホルムアミド濃度、lはプローブの長さ(bp)である。
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1.野地澄晴編、免疫染色&in situハイブリダイゼーション、羊土社、東京、2006.
1.野地澄晴編、免疫染色&in situハイブリダイゼーション、羊土社、東京、2006.
2.In Situ Hybridization, A Practical Approach, 2nd Edition, Edited by D.G. Wilkinson, Oxford University Press, Oxford, 1999.
2.In Situ Hybridization, A Practical Approach, 2nd Edition, Edited by D.G. Wilkinson, Oxford University Press, Oxford, 1999.
3.DIG
3.DIG
https://e-labdoc.roche.com/LFR_PublicDocs/ras/11209256910_en_15.pdf
https://e-labdoc.roche.com/LFR_PublicDocs/ras/11209256910_en_15.pdf
4.発色反応、発色基質全般
4.発色反応、発色基質全般
http://www.piercenet.com/browse.cfm?fldID=5A423056-5056-8A76-4E25-1E5F9C0596B2
http://www.piercenet.com/browse.cfm?fldID=5A423056-5056-8A76-4E25-1E5F9C0596B2
5.発色基質(HNPP, Fast Red)
5.発色基質(HNPP, Fast Red)
https://e-labdoc.roche.com/LFR_PublicDocs/ras/11758888001_en_07.pdf
https://e-labdoc.roche.com/LFR_PublicDocs/ras/11758888001_en_07.pdf
6.チラミドを用いたISHとシグナル増強(CARD)
6.チラミドを用いたISHとシグナル増強(CARD)
http://www.perkinelmer.co.jp/products_ls/resrch/pdf/BRO_TSA_TSAPlus.pdf
http://www.perkinelmer.co.jp/products_ls/resrch/pdf/BRO_TSA_TSAPlus.pdf
7.Choi HM, Chang JY, Trinh le A, Padilla JE, Fraser SE, Pierce NA. Programmable in situ amplification for multiplexed imaging of mRNA expression. Nat Biotechnol. 2010 Nov;28(11):1208-1212.  
7.Choi HM, Chang JY, Trinh le A, Padilla JE, Fraser SE, Pierce NA. Programmable in situ amplification for multiplexed imaging of mRNA expression. Nat Biotechnol. 2010 Nov;28(11):1208-1212.  
8.マイクロRNAのISH (locked nucleic acid)
8.マイクロRNAのISH (locked nucleic acid)
http://www.cosmobio.co.jp/product/bunshiseibutsu/mirna/mirna_5/exq_20101007.asp?entry_id=6535
http://www.cosmobio.co.jp/product/bunshiseibutsu/mirna/mirna_5/exq_20101007.asp?entry_id=6535
9.アレン ブレイン アトラス
9.アレン ブレイン アトラス
Lein ES et al. Genome-wide atlas of gene expression in the adult mouse brain. Nature. 2007 Jan 11;445(7124):168-176.  
Lein ES et al. Genome-wide atlas of gene expression in the adult mouse brain. Nature. 2007 Jan 11;445(7124):168-176.  
10. 基礎生物学研究所山森研究室(渡我部昭哉博士作成)ホームページBraInSitu (http://www.nibb.ac.jp/brish/index.html) :脳の組織切片ISH法(特に浮遊法)について詳細なプロトコールが紹介されている。
10. 基礎生物学研究所山森研究室(渡我部昭哉博士作成)ホームページBraInSitu (http://www.nibb.ac.jp/brish/index.html) :脳の組織切片ISH法(特に浮遊法)について詳細なプロトコールが紹介されている。




(執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)
(執筆者:大内淑代 担当編集委員:大隅典子)