「両眼視野闘争」の版間の差分
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さらに関連する現象として、連続フラッシュ抑制(continuous flash suppression;図4)が挙げられる。連続フラッシュ抑制とは、短時間で激しく変化する図形を片目に呈示した際に、もう片方の目に呈示された視覚図形が長時間知覚にのぼらなくなる現象である。両眼視野闘争では数秒で知覚が交代するのに対し、連続フラッシュ抑制を用いると、1分あるいはそれ以上の時間、片目の知覚が抑制され続ける<ref name="ref28"><pubmed>15995700 </pubmed></ref>。そのため、時間解像度に制約のあるfMRIを用いた実験などに応用することが容易であり、今日では視覚刺激に対する気づきをコントロールする手法として幅広く用いられている<ref name="ref29"><pubmed>17129748 </pubmed></ref><ref><pubmed>21833272 </pubmed></ref>。連続フラッシュ抑制は、2005年にカリフォルニア工科大学(当時)の[[wikipedia:ja:土谷尚嗣|土谷尚嗣]]と[[wikipedia:ja:クリストフ・コッホ|クリストフ・コッホ]](Christof Koch)によって初めて報告された<ref name="ref28" />。 | さらに関連する現象として、連続フラッシュ抑制(continuous flash suppression;図4)が挙げられる。連続フラッシュ抑制とは、短時間で激しく変化する図形を片目に呈示した際に、もう片方の目に呈示された視覚図形が長時間知覚にのぼらなくなる現象である。両眼視野闘争では数秒で知覚が交代するのに対し、連続フラッシュ抑制を用いると、1分あるいはそれ以上の時間、片目の知覚が抑制され続ける<ref name="ref28"><pubmed>15995700 </pubmed></ref>。そのため、時間解像度に制約のあるfMRIを用いた実験などに応用することが容易であり、今日では視覚刺激に対する気づきをコントロールする手法として幅広く用いられている<ref name="ref29"><pubmed>17129748 </pubmed></ref><ref><pubmed>21833272 </pubmed></ref>。連続フラッシュ抑制は、2005年にカリフォルニア工科大学(当時)の[[wikipedia:ja:土谷尚嗣|土谷尚嗣]]と[[wikipedia:ja:クリストフ・コッホ|クリストフ・コッホ]](Christof Koch)によって初めて報告された<ref name="ref28" />。 | ||
== 両眼視野闘争の神経基盤 == | |||
両眼視野闘争では、大脳以降での視覚処理システムへの入力が一定であるにもかかわらず、[[意識]]にのぼる知覚像が切り替わる。そのため、両眼視野闘争によって起こる知覚の切り替わりと神経活動の関係を探ることで、意識経験の報告にぴったりと相関するような神経活動[[wikipedia:ja:意識に相関した脳活動|(the Neuronal Correlates of Consciousness, NCC)]]の実態を明らかにできるのではないかと期待されている(「[[意識]]」の項目参照)。 | |||
両眼視野闘争の神経基盤に関する研究は、主に[[wikipedia:ja:サル|サル]]を対象とした単一ニューロン記録研究と、ヒトを対象とした脳機能イメージング([[機能的磁気共鳴画像法(fMRI)]])研究を中心に近年大きな発展をとげた。 | |||
サルを対象とした単一[[ニューロン]]記録の研究では、一次視覚野などの低次視覚野では両眼視野闘争時の知覚交代に関連した活動を示すニューロンが少なく(20%程度)、[[下側頭連合皮質]](inferior temporal cortex; IT)などの高次の視覚領野では多い(90%程度)<ref><pubmed>8596635 </pubmed></ref><ref><pubmed>9096407 </pubmed></ref>。一方で、fMRIで得られる[[血液酸素処理レベル依存性信号]](blood oxygenation level dependent (BOLD) signal)によって間接的にヒト脳の神経活動を測った一連の研究によると、[[一次視覚野]]や<ref><pubmed>11036274</pubmed></ref><ref><pubmed>11346796</pubmed></ref>さらに初期の[[外側膝状体]]における神経活動も視野闘争中に変化する意識の中身と相関している<ref><pubmed>16244649</pubmed></ref>。 | |||
サルを対象とした単一[[ニューロン]]記録の研究では、一次視覚野などの低次視覚野では両眼視野闘争時の知覚交代に関連した活動を示すニューロンが少なく(20%程度)、[[下側頭連合皮質]](inferior temporal cortex; IT)などの高次の視覚領野では多い(90%程度)<ref><pubmed>8596635 </pubmed></ref><ref><pubmed>9096407 </pubmed></ref>。一方で、fMRIで得られる[[血液酸素処理レベル依存性信号]](blood oxygenation level dependent (BOLD) | |||
単一ニューロン記録とfMRIで、両眼視野闘争中に意識の中身と相関する神経活動が異なる理由には様々な可能性があり、現在でも研究が続いている。一つの可能性として、計測手法の違いが挙げられる。Maierらは、同一の刺激条件を用い、サルを対象とした両眼視野闘争知覚時の単一ニューロン活動、[[局所細胞外電位]](Local field potential; LFP)、BOLD信号の比較を行った<ref><pubmed>18711393 </pubmed></ref>。彼らは、一次視覚野での単一ニューロン記録では、大半のニューロンは知覚交代が生じても発火率を変化させないが、LFPとBOLD信号においては一次視覚野においても知覚交代によって活動が変化することを示した。 | 単一ニューロン記録とfMRIで、両眼視野闘争中に意識の中身と相関する神経活動が異なる理由には様々な可能性があり、現在でも研究が続いている。一つの可能性として、計測手法の違いが挙げられる。Maierらは、同一の刺激条件を用い、サルを対象とした両眼視野闘争知覚時の単一ニューロン活動、[[局所細胞外電位]](Local field potential; LFP)、BOLD信号の比較を行った<ref><pubmed>18711393 </pubmed></ref>。彼らは、一次視覚野での単一ニューロン記録では、大半のニューロンは知覚交代が生じても発火率を変化させないが、LFPとBOLD信号においては一次視覚野においても知覚交代によって活動が変化することを示した。 | ||
また、両眼視野闘争中に、意識の中身が顔や建物の間で交代する時には、私たちが注意を向ける対象もそれに伴って交代する。そのため、両眼視野闘争と関わる神経活動は、意識的な知覚の切り替わりと関連するだけでなく、どの図形に注意が向いているかと関連している可能性がある。意識的な知覚が生じることと、注意が向くことは、同じようなことにも思えるが、近年の研究では両者が異なるメカニズムによって生じる可能性が指摘されている(<ref name="ref29" /><ref><pubmed>8052596</pubmed></ref> [http://www.frontiersin.org/consciousness_research/researchtopics/Attention_and_consciousness_in/357 Frontiers in Consciousness Research のリサーチトピック]も参照)。 2011年に、過去のfMRI実験で示された一次視覚野における意識に相関する神経活動は、実は注意に相関する神経活動であるという報告がなされた<ref><pubmed>22076381</pubmed></ref> 。両眼視野闘争に関わる神経活動にどの程度注意の影響が及んでいるのかは今後慎重に解明されるべき課題である。 | |||
== まとめ・今後の展望 == | == まとめ・今後の展望 == | ||
両眼視野闘争は、視覚システムへの入力が一定であるにもかかわらず、意識にのぼる知覚像がランダムに切り替わる。実験状況がシンプルであるために、古くから哲学者から医学者、一般人まで広く興味を引きつけ、多くの心理学者や神経科学者がさまざまな研究を行なってきた。しかし、本稿でも触れたように、両眼視野闘争については未解明の部分がまだ多く、その時間空間的特性、「何」が闘争しているのか、注意や意識との関連性、神経基盤については現在も世界中で研究が行われている。広範な文献を総括した専門書や、最新の知見が得られるウェブサイトを下記に挙げたので、興味のある読者は参考にされたい。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
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[[意識]] | [[意識]] | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == |