「バーグマングリア」の版間の差分

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同義語:ベルグマン膠細胞、ゴルジ上皮細胞  
同義語:ベルグマン膠細胞、ゴルジ上皮細胞  


 
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長く発達した放射状線維(バーグマン線維)をもつ[[小脳皮質]]の[[wikipedia:astrocyte|アストロサイト]]の一種。小脳皮質[[分子層]]を縦断する放射状線維は皮質の支持構造として機能し、発生中には[[顆粒細胞]]と[[プルキンエ細胞]]を含む小脳皮質ニューロンの[[神経細胞移動]]と突起伸展の足場を提供する。成体では出力細胞のプルキンエ細胞[[シナプス]]を被包して[[シナプス放出]]された[[グルタミン酸]]を吸収し、細胞外環境の維持と神経回路機能の調節に重要な役割を果たす。  
長く発達した放射状線維(バーグマン線維)をもつ[[小脳皮質]]の[[wikipedia:astrocyte|アストロサイト]]の一種。小脳皮質[[分子層]]を縦断する放射状線維は皮質の支持構造として機能し、発生中には[[顆粒細胞]]と[[プルキンエ細胞]]を含む小脳皮質ニューロンの[[神経細胞移動]]と突起伸展の足場を提供する。成体では出力細胞のプルキンエ細胞[[シナプス]]を被包して[[シナプス放出]]された[[グルタミン酸]]を吸収し、細胞外環境の維持と神経回路機能の調節に重要な役割を果たす。  
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バーグマングリアの細胞体は、小脳皮質[[プルキンエ細胞層]]に整列するプルキンエ細胞の[[細胞体]]周辺に不規則に配置する(図1)。プルキンエ細胞とバーグマングリアの割合はおよそ1:8とされる。細胞体から垂線方向に伸び脳表の[[軟膜]]へ到達する特徴的な放射状線維(radial fiber)は細胞毎に5本程度で、幹に多数の薄片状  
バーグマングリアの細胞体は、小脳皮質[[プルキンエ細胞層]]に整列するプルキンエ細胞の[[細胞体]]周辺に不規則に配置する(図1)。プルキンエ細胞とバーグマングリアの割合はおよそ1:8とされる。細胞体から垂線方向に伸び脳表の[[軟膜]]へ到達する特徴的な放射状線維(radial fiber)は細胞毎に5本程度で、幹に多数の薄片状  


または刺状の突起を形成する。同じ細胞由来の放射状線維は、扇形に展開するプルキンエ細胞[[樹状突起]]と垂直に小脳冠状面(正中面に垂直な面)に広がる傾向がある(図2)。樹状突起と異なり、放射状線維は分岐が少なく先細りしない。先端で膨張してendfeetを形成し、軟膜と結合する。&nbsp;[[Image:Kengaku_Fig_3.jpg|thumb|right|351px|図3 バーグマングリア細胞体(BG)とプルキンエ細胞 (PC)および顆粒細胞 (GC)(スケールバーは2 µm) 写真提供:京都府立医大 小野勝彦博士]]  
または刺状の突起を形成する。同じ細胞由来の放射状線維は、扇形に展開するプルキンエ細胞[[樹状突起]]と垂直に小脳冠状面(正中面に垂直な面)に広がる傾向がある(図2)。樹状突起と異なり、放射状線維は分岐が少なく先細りしない。先端で膨張してendfeetを形成し、軟膜と結合する。&nbsp;[[Image:Kengaku Fig 3.jpg|thumb|right|351px|図3 バーグマングリア細胞体(BG)とプルキンエ細胞 (PC)および顆粒細胞 (GC)(スケールバーは2 µm) 写真提供:京都府立医大 小野勝彦博士]]  


=== 微細構造  ===
=== 微細構造  ===
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=== 分子発現  ===
=== 分子発現  ===


バーグマングリアは[[中間系フィラメント]][[GFAP (glial fibrillary acidic protein)]]、グリア型[[グルタミン酸輸送体|グルタミン酸輸[[Image:Kengaku_Fig_4.jpg|thumb|right|350 pxpx|図4 平行線維(PF)ープルキンエ細胞スパイン(PC)間のシナプスを被包するバーグマングリア線維突起 (BG)(スケールバーは0.5 µm) 写真提供:京都府立医大 小野勝彦博士]]送体]][[EAAT1(GLAST)]]、脂質結合分子[[BLBP(brain lipid-binding protein]](別名FABP7)などのアストロサイト系譜細胞のマーカー分子の多くを発現する。その他、成熟したアストロサイトには消失する[[ヴィメンチン(vimentin)]]の強い発現が見られ、Sox1,Sox2,Hes1,RC1抗原などの幹細胞マーカーの発現がある。[[網膜ミューラーグリア]]と共に、放射状線維をもつ形態的特徴と未分化なアストロサイト特有の分子発現から胚性[[神経幹細胞]]の[[放射状グリア]]と比較されるが、2012年現在ではバーグマングリアが幹細胞として機能する証拠はない。&nbsp;  
バーグマングリアは[[中間系フィラメント]][[GFAP (glial fibrillary acidic protein)]]、グリア型[[グルタミン酸輸送体|グルタミン酸輸[[Image:Kengaku Fig 4.jpg|thumb|right|350px|図4 平行線維(PF)ープルキンエ細胞スパイン(PC)間のシナプスを被包するバーグマングリア線維突起 (BG)(スケールバーは0.5 µm) 写真提供:京都府立医大 小野勝彦博士]]送体]][[EAAT1(GLAST)]]、脂質結合分子[[BLBP(brain lipid-binding protein]](別名FABP7)などのアストロサイト系譜細胞のマーカー分子の多くを発現する。その他、成熟したアストロサイトには消失する[[ヴィメンチン(vimentin)]]の強い発現が見られ、Sox1,Sox2,Hes1,RC1抗原などの幹細胞マーカーの発現がある。[[網膜ミューラーグリア]]と共に、放射状線維をもつ形態的特徴と未分化なアストロサイト特有の分子発現から胚性[[神経幹細胞]]の[[放射状グリア]]と比較されるが、2012年現在ではバーグマングリアが幹細胞として機能する証拠はない。&nbsp;  


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== 発生  ==
== 発生  ==


バーグマングリアは、[[興奮性ニューロン]]を除く多くの小脳皮質細胞(プルキンエ細胞、抑制性介在ニューロン、各種グリア細胞)が産生される[[第4脳室]]に面する[[脳室帯]]の放射状グリア(神経幹細胞)から分化する。同じ脳室帯からアストロサイトや[[オリゴデンドロサイト]]などが胎生期から生後の長い期間に産生され続けるのに対し、バーグマングリアはプルキンエ細胞の産生が終る直後の短い期間(マウスでは胎生13.5日から14.5日)に誕生することが確かめられている<ref><pubmed> 21795554 </pubmed></ref>。脳室帯で誕生したバーグマングリアは小脳皮質へ細胞移動し、生後1週目(マウス)までにプルキンエ細胞層周辺に配置して複数の放射状線維を形成する(Yamada 2000, Yuasa 1996)。この時期にもバーグマンクリアは分裂により数を増やしているとされる<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Das 1974; Shiga 1983)。放射状線維は生後発達中に次第に径を増し、グルタミン酸輸送体EAAT1が集積する薄片状突起を多数形成する。薄片状突起はまず細胞体付近で形成され、プルキンエ細胞樹状突起の伸展に伴い徐々に先端へ広がり、プルキンエ細胞樹状突起上のスパインを被包する<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Altman 1972; Yamada 2000)。プルキンエ細胞樹状突起に発現する[[Notch]]リガンドのDNER (Delta/Notch-like EGF-related protein)の欠損動物で放射状線維の分化が遅延することから、プルキンエ細胞との相互作用によりバーグマングリアのNotchシグナルが活性化することが放射状線維分化を促進すると考えられる<ref><pubmed> 15965470 </pubmed></ref>。  
バーグマングリアは、[[興奮性ニューロン]]を除く多くの小脳皮質細胞(プルキンエ細胞、抑制性介在ニューロン、各種グリア細胞)が産生される[[第4脳室]]に面する[[脳室帯]]の放射状グリア(神経幹細胞)から分化する。同じ脳室帯からアストロサイトや[[オリゴデンドロサイト]]などが胎生期から生後の長い期間に産生され続けるのに対し、バーグマングリアはプルキンエ細胞の産生が終る直後の短い期間(マウスでは胎生13.5日から14.5日)に誕生することが確かめられている<ref><pubmed> 21795554 </pubmed></ref>。脳室帯で誕生したバーグマングリアは小脳皮質へ細胞移動し、生後1週目(マウス)までにプルキンエ細胞層周辺に配置して複数の放射状線維を形成する(Yamada 2000, Yuasa 1996)。この時期にもバーグマンクリアは分裂により数を増やしているとされる<ref><pubmed> 4817907 </pubmed></ref><ref><pubmed> 6614505 </pubmed></ref>(Das 1974; Shiga 1983)。放射状線維は生後発達中に次第に径を増し、グルタミン酸輸送体EAAT1が集積する薄片状突起を多数形成する。薄片状突起はまず細胞体付近で形成され、プルキンエ細胞樹状突起の伸展に伴い徐々に先端へ広がり、プルキンエ細胞樹状突起上のスパインを被包する<ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14426011 </pubmed></ref>(Altman 1972; Yamada 2000)。プルキンエ細胞樹状突起に発現する[[Notch]]リガンドのDNER (Delta/Notch-like EGF-related protein)の欠損動物で放射状線維の分化が遅延することから、プルキンエ細胞との相互作用によりバーグマングリアのNotchシグナルが活性化することが放射状線維分化を促進すると考えられる<ref><pubmed> 15965470 </pubmed></ref>。  


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