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有髄線維のうち最も細いものをAδ線維、無髄神経をC線維と呼ぶ。Aδ線維終末には[[痛み]]および[[冷感覚]]情報を伝える感覚受容器(それぞれ[[侵害受容器]]、[[冷受容器]])がある。C線維は痛み感覚、[[痒み感覚]]、快感を起こすような(sensual)[[触感覚]]、[[温感覚]]を伝えている。その終末は特別な小体構造を造らない[[自由神経終末]]であり、感覚受容器となっている。
英語名:Aδ fiber and C fiber 独:Aδ-Faser und C-Faser 仏:fibre Aδ et fibre C
同義語:III群線維とIV群線維、細径有髄神経と無髄神経


同義語:III群線維とIV群線維、細径有髄神経と無髄神経
 有髄線維のうち最も細いものをAδ線維、無髄神経をC線維と呼ぶ。Aδ線維終末には[[痛み]]および[[冷感覚]]情報を伝える感覚受容器(それぞれ[[侵害受容器]]、[[冷受容器]])がある。C線維は痛み感覚、[[痒み感覚]]、快感を起こすような(sensual)[[触感覚]]、[[温感覚]]を伝えている。その終末は特別な小体構造を造らない[[自由神経終末]]であり、感覚受容器となっている。


== Aδ線維とC線維とは ==
== Aδ線維とC線維とは ==


 末梢神経の神経線維は髄鞘の有無、直径、伝導速度等で分類される。[[有髄線維]]と[[無髄線維]]では有髄線維が、同じ種類の線維間では直径の大きい方が伝導速度が速い。前者は跳躍伝導により、後者の[[電気緊張電位]]の広がりを利用した伝導よりも速い伝導速度を得ている。  
 末梢神経の神経線維は髄鞘の有無、直径、伝導速度等で分類される(表1)。[[有髄線維]]と[[無髄線維]]では有髄線維が、同じ種類の線維間では直径の大きい方が伝導速度が速い。前者は跳躍伝導により、後者の[[電気緊張電位]]の広がりを利用した伝導よりも速い伝導速度を得ている。  


 有髄線維のうち最も細いものをAδ線維、無髄神経をC線維と呼ぶが、区別することが難しい場合があり、また機能的に重なっている部分もあるので、両者を合わせて[[細径線維]]ということもある。  
 有髄線維のうち最も細いものをAδ線維、無髄神経をC線維と呼ぶが、区別することが難しい場合があり、また機能的に重なっている部分もあるので、両者を合わせて[[細径線維]]ということもある。  
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== 構造 ==
== 構造 ==


=== Aδ線維  ===
=== Aδ線維  ===


 感覚性の細い[[有髄神経]]であり、筋(感覚性なのに筋というのは筋紡錘などの線維についてでしょうか?)についてはIII群線維ともいう<ref name="ref1"><pubmed>18865009</pubmed></ref>。  
 感覚性の細い[[有髄神経]]であり、筋(感覚性なのに筋というのは筋紡錘などの線維についてでしょうか?ここまで出てきてないので、ご説明願います)についてはIII群線維ともいう<ref name="ref1"><pubmed>18865009</pubmed></ref>。  


 伝導速度は大型の動物では2.5 または3 m/sから25または30 m/sであるが、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]では最速の伝導速度を12 m/s<ref name="ref2"><pubmed>1770443</pubmed></ref>としている文献もあれば20 m/s<ref name="ref3"><pubmed>1770437</pubmed></ref>としているものもある。  
 伝導速度は大型の動物では2.5 または3 m/sから25または30 m/sであるが、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]では最速の伝導速度を12 m/s<ref name="ref2"><pubmed>1770443</pubmed></ref>としている文献もあれば20 m/s<ref name="ref3"><pubmed>1770437</pubmed></ref>としているものもある。  
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=== C線維  ===
=== C線維  ===


 C線維は[[無髄神経]]であり、伝導速度は2.5 m/s以下である(ラットでは2 m/s や1.3 m/sが使われる)。  
 C線維は[[無髄神経]]であり、伝導速度は2.5 m/s以下である(ラットでは2 m/s や1.3 m/sが使われる)。  


 [[感覚神経]]([[求心性神経]])と[[交感神経]][[節後線維]]が含まれる(この項では交感神経節後線維についての説明は省略する)。筋求心神経の無髄神経はIV群線維とも呼ばれる<ref name="ref1" />。その数(交感神経節後線維を含む)は筋では[[運動神経]]も含む全有髄神経線維の2倍にもなる<ref name="ref4"><pubmed>5802932</pubmed></ref>。Aδ線維は[[A線維]]の中でも少ないので、C線維と比較すると圧倒的に少ない。  
 [[感覚神経]]([[求心性神経]])と[[交感神経]][[節後線維]]が含まれる(この項では交感神経節後線維についての説明は省略する)。筋求心神経(ご説明願います)の無髄神経はIV群線維とも呼ばれる<ref name="ref1" />。その数(交感神経節後線維を含む)は筋(ご説明願います)では[[運動神経]]も含む全有髄神経線維の2倍にもなる<ref name="ref4"><pubmed>5802932</pubmed></ref>。Aδ線維は[[A線維]]の中でも少ないので、C線維と比較すると圧倒的に少ない。  


=== 細胞体ならびに軸索終止 ===
=== 細胞体ならびに軸索終止 ===


 [[細胞体]]は[[後根神経節]](または[[三叉神経節]])に存在し、C線維は小型で(直径<30 μm)、Aδ線維はそれよりやや大きい(<35 μm)が、両者はかなりオーバーラップする。  
 [[細胞体]]は[[後根神経節]](または[[三叉神経節]])に存在し、C線維は小型で(直径<30 μm)、Aδ線維はそれよりやや大きい(<35 μm)が、両者はかなりオーバーラップする。  
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 [[脊髄]]内での終枝は、皮膚Aδ線維は[[後角]]第I層とV層に、C線維は第II層に主として分布する。筋C線維はI、II層に、内臓C線維は主としてI、IIに終枝するが、V、X層にも見られる。  
 [[脊髄]]内での終枝は、皮膚Aδ線維は[[後角]]第I層とV層に、C線維は第II層に主として分布する。筋C線維はI、II層に、内臓C線維は主としてI、IIに終枝するが、V、X層にも見られる。  


== 機能 ==
== 機能 ==


=== 感覚受容 ===
=== 感覚受容 ===


 感覚受容器は種々の[[wikipedia:ja:エネルギー|エネルギー]]([[wikipedia:ja:熱エネルギー|熱エネルギー]]、[[wikipedia:ja:機械エネルギー|機械エネルギー]]、[[wikipedia:ja:化学エネルギー|化学エネルギー]])を電気的な神経の信号([[脱分極]])、さらには[[活動電位]])に変換して、情報を[[中枢神経]]に送る。  
 感覚受容器は種々の[[wikipedia:ja:エネルギー|エネルギー]]([[wikipedia:ja:熱エネルギー|熱エネルギー]]、[[wikipedia:ja:機械エネルギー|機械エネルギー]]、[[wikipedia:ja:化学エネルギー|化学エネルギー]])を電気的な神経の信号([[脱分極]])、さらには[[活動電位]])に変換して、情報を[[中枢神経]]に送る。  


 Aδ線維の受容器もC線維の受容器も感覚終末は特別な小体構造を造らない[[自由神経終末]]である。  
 Aδ線維終末には[[痛み]]および[[冷感覚]]情報を伝える感覚受容器(それぞれ[[侵害受容器]]、[[冷受容器]])がある。ただし、ラットでは冷受容器は主として後述のC線維である。 C線維は痛み感覚を伝えていると一般には考えられているが、痛み感覚ばかりではなく、[[痒み]]感覚、快感を起こすような(sensual)[[触感覚]]、[[温感覚]](ラットでは冷感覚も)も伝えている。Aδ線維の受容器もC線維の受容器も感覚終末は特別な小体構造を造らない[[自由神経終末]]である。


 Aδ線維終末には[[痛み]]および[[冷感覚]]情報を伝える感覚受容器(それぞれ[[侵害受容器]]、[[冷受容器]])がある。ただし、ラットでは冷受容器は主として後述のC線維である。
 つまり、その終末(この文脈ではC線維の終末でしょうか、それとも、Aδ線維とC線維両方でしょうか)はそれぞれそれらの受容器(それぞれ侵害受容器、[[C線維低閾値機械受容器]]、[[温受容器]])となっている。侵害受容器には熱にも機械刺激にも反応する[[侵害受容器|ポリモーダル(侵害)受容器]]、機械刺激にのみ反応する[[機械侵害受容器]]、機械刺激に反応せず熱刺激にのみ反応する[[熱侵害受容器]]、正常な組織では活動しておらず炎症時などで活動する[[非活動性侵害受容器]]等がある、後者の2つはC線維のみに存在する(表2)。痒み感覚の受容器には、[[ポリモーダルタイプ]](痒み物質のもならず機械刺激、熱刺激にも反応する)のものと、痒み物質にのみ特異的に反応する[[化学受容器]]タイプとがある。  
 
 C線維は痛み感覚を伝えていると一般には考えられているが、痛み感覚ばかりではなく、[[痒み感覚]]、快感を起こすような(sensual)[[触感覚]]、[[温感覚]](ラットでは冷感覚も)も伝えている。
 
 つまり、その終末(この文脈ではC線維の終末でしょうか、それとも、Aδ線維とC線維両方でしょうか)はそれぞれそれらの受容器(それぞれ侵害受容器、[[C線維低閾値機械受容器]]、[[温受容器]])となっている。侵害受容器には熱にも機械刺激にも反応する[[ポリモーダル(侵害)受容器]]、機械刺激にのみ反応する[[機械侵害受容器]]、機械刺激に反応せず熱刺激にのみ反応する[[熱侵害受容器]]、正常な組織では活動しておらず炎症時などで活動する[[非活動性侵害受容器]]等がある、後者の2つはC線維のみに存在する。痒み感覚の受容器には、[[ポリモーダルタイプ]](痒み物質のもならず機械刺激、熱刺激にも反応する)のものと、痒み物質にのみ特異的に反応する[[化学受容器]]タイプとがある。  


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=== 感覚受容機構 ===
=== 感覚受容機構 ===


 各種のエネルギーを神経の信号に変換する分子を[[トランスジューサー分子]]といい、最近これがいろいろわかってきた。  
 各種のエネルギーを神経の信号に変換する分子を[[トランスジューサー分子]]といい、最近これがいろいろわかってきた。  


==== 温度受容 ====
==== 温度受容 ====


 熱を電気的な変化に変換するものとして[[TRPV1]]、[[TRPV2|V2]]、[[TRPV3|V3]]、[[TRPV4|V4]]が、冷却を電気的変化に変換するものとして[[TRPM8]]が見出された。機械エネルギーのトランスジューサーとしてはまだ確固としたものは見出されていないが、[[Piezo1]]、[[Piezo2|2]]という分子が注目を浴びている。  
 熱を電気的な変化に変換するものとして[[TRPV1]]、[[TRPV2|V2]]、[[TRPV3|V3]]、[[TRPV4|V4]]が、冷却を電気的変化に変換するものとして[[TRPM8]]が見出された。機械エネルギーのトランスジューサーとしてはまだ確固としたものは見出されていないが、[[Piezo1]]、[[Piezo2|2]]という分子が注目を浴びている。  


==== 化学受容 ====
==== 化学受容 ====


 化学的な物質に対するものには[[イオンチャネル型受容体]]と[[代謝型受容体]](これ自身だけでは電位変化は起こせない、[[細胞内情報伝達系]]を駆動して、他の[[イオンチャネル]]を修飾して電位変化を起こす)とがあり、[[ブラジキニン]][[B2受容体]]、[[プロスタグランジン]]受容体、[[ATP]]に対する[[P2X受容体]]や[[P2Y受容体]]等、多くのものが知られている。これらの分子がいろいろの組み合わせで受容器終末に発現し、その受容器の反応特性を作っている。  
 化学的な物質に対するものには[[イオンチャネル型受容体]]と[[代謝型受容体]](これ自身だけでは電位変化は起こせない、[[細胞内情報伝達系]]を駆動して、他の[[イオンチャネル]]を修飾して電位変化を起こす)とがあり、[[ブラジキニン]][[B2受容体]]、[[プロスタグランジン]]受容体、[[ATP]]に対する[[P2X受容体]]や[[P2Y受容体]]等、多くのものが知られている。これらの分子がいろいろの組み合わせで受容器終末に発現し、その受容器の反応特性を作っている。  


==== 侵害受容 ====
==== 侵害受容 ====


 Aδ線維のものとC線維のものとがあるが、それらが引き起こす感覚には違いがある。Aδ線維による痛みは、鋭く、識別性、局在性がよく、同じ部位の刺激では最初に(速く)感じられるので「[[速い痛み]]」または「[[一次痛]]」といわれる。逃避反射を引き起こす求心神経であると考えられている。  
 Aδ線維のものとC線維のものとがあるが、それらが引き起こす感覚には違いがある。Aδ線維による痛みは、鋭く、識別性、局在性がよく、同じ部位の刺激では最初に(速く)感じられるので「[[速い痛み]]」または「[[一次痛]]」といわれる。逃避反射を引き起こす求心神経であると考えられている。  
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 一方、C線維による痛みは鈍く、局在性が悪く、一次痛よりも後に感じられるので、「[[二次痛]]」「[[遅い痛み]]」といわれる。  
 一方、C線維による痛みは鈍く、局在性が悪く、一次痛よりも後に感じられるので、「[[二次痛]]」「[[遅い痛み]]」といわれる。  


=== 受容器タイプと軸索伝導特性 ===
=== 受容器タイプと軸索伝導特性 ===


 伝導速度以外にも軸索の伝導特性がAδ線維とC線維で異なり、さらにC線維においても受容器タイプによって異なることが示された<ref name="ref5"><pubmed>8809788</pubmed> </ref><ref name="ref51"><pubmed>19913997</pubmed></ref>。  
 伝導速度以外にも軸索の伝導特性がAδ線維とC線維で異なり、さらにC線維においても受容器タイプによって異なることが示された<ref name="ref5"><pubmed>8809788</pubmed> </ref><ref name="ref51"><pubmed>19913997</pubmed></ref>。  
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 Aδ線維についての報告は少ないが、遅延ではなくスピードアップが見られている<ref name="ref6">'''Taguchi''''' et al.,''<br>''Pain'' in press.</ref>。  
 Aδ線維についての報告は少ないが、遅延ではなくスピードアップが見られている<ref name="ref6">'''Taguchi''''' et al.,''<br>''Pain'' in press.</ref>。  


 この特性は神経線維の受容器タイプを知るうえで役に立つ。また、遅延は利用可能な[[NaV1.8]]という電位依存性Naチャネルの数によると報告されており<ref name="ref7"><pubmed>18096592</pubmed></ref>、痛みに関連する受容器の軸索が特に強い伝導遅延を示すことは、NaV1.8がC線維に特異的に発現することと関連している。  
 この特性は神経線維の受容器タイプを知るうえで役に立つ。また、遅延は利用可能な[[ナトリウムチャネル#αサブユニット|NaV1.8]]という[[電位依存性ナトリウムチャネル]]の数によると報告されており<ref name="ref7"><pubmed>18096592</pubmed></ref>、痛みに関連する受容器の軸索が特に強い伝導遅延を示すことは、NaV1.8がC線維に特異的に発現することと関連している。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==