「セマフォリン」の版間の差分

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 いくつかのセマフォリンはプレキシン以外の受容体と結合することが知られている。[[CD72]]、[[Tim-2]]、[[インテグリン]]等が該当するが、それらはセマドメインを持たず、共通性が見られない。今後、これらの非プレキシン型受容体に関しても解明が進むものと思われる。
 いくつかのセマフォリンはプレキシン以外の受容体と結合することが知られている。[[CD72]]、[[Tim-2]]、[[インテグリン]]等が該当するが、それらはセマドメインを持たず、共通性が見られない。今後、これらの非プレキシン型受容体に関しても解明が進むものと思われる。


== 機能 ==
 セマフォリンの作用は、上記の情報伝達系を基本とし、さらに細胞外のリガンド分子、[[細胞膜]]分子、そして細胞内の情報伝達分子などによって修飾される。
 セマフォリンの作用は、上記の情報伝達系を基本とし、さらに細胞外のリガンド分子、[[細胞膜]]分子、そして細胞内の情報伝達分子などによって修飾される。例えば、リガンド分子としてVEGFのスプライス変異体VEGF165はニューロピリン1に結合し、Sema3Aに拮抗的に作用する。プレキシン-Aに直接結合するクラス6セマフォリンもSema3A作用を修飾する。ニューロピリン1と相互作用する細胞膜タンパク質として、[[L1]]や類縁のCHL1が報告されている。ニューロピリン1と複合体を形成したL1は、接着班キナーゼと[[MAPキナーゼ]]活性化を活性化する。CHL1はSema3A/NRP1で制御される視床皮質路の軸索投射に関与する。一方、プレキシン-Aはoff-Track、VEGFR2、TREM2、DAP12などの膜タンパク質と相互作用する<ref name=ref9 />。これら相互作用分子の発現は組織や細胞により異なり、セマフォリンがそれぞれの細胞で引きおこす反応の違いに寄与する。細胞内分子cGMPはセマフォリン作用に影響する。Sema3Aは末梢[[知覚]]神経軸索を反発するが、高濃度cGMPが存在する皮質[[錐体細胞]]の尖端樹状突起は、Sema3A濃度勾配に沿って脳表方向へ誘引される。


 セマフォリンシグナリングの細胞生物学的な機能は細胞骨格の再構成と細胞接着の調節である。これらの結果、セマフォリンは細胞の形態や移動を制御すると考えられる。神経系においては、軸索伸長、軸索ガイダンス、樹状突起スパインの形態・機能の制御を介して神経回路網形成や[[シナプス]]可塑性に関与すると考えられる。セマフォリンはその発見の経緯から、当初は神経回路形成や軸索伸長制御因子としての役割が注目され、解明が進められたが、その後、Sema3Aの遺伝子欠損[[マウス]]の表現型解析から、回路選択からシナプス形成に至る神経回路形成の各過程に広く関わることが示された<ref name=ref13><pubmed>   16540575</pubmed></ref>。神経回路選択やシナプス形成の過程が一つのガイダンス分子により制御されていることは興味深い。この発見を経緯に、セマフォリンのシナプスや樹状突起パターン形成における作用が解析された。Kolodkinらのグループは同じクラス3セマフォリンに属するSema3Fの作用を追究する過程で、Sema3Fが樹状突起スパインの数や興奮性シナプス電流の減少を引き起こすことを報告した。一方、同グループは、Sema3Aとの結合を欠失したニューロピリン1をノックインしたマウスの解析から、Sema3Aは樹状突起パターンには作用するが、スパインの数や形態には影響を与えないと報告しており、研究グループ間にSema3A作用の解釈をめぐって相違がある<ref name=ref13 /> <ref name=ref14><pubmed>20010807</pubmed></ref>。セマフォリンが学習・記憶等の生理学的過程にどのような役割を果たしているかは今後の重要課題の一つである。
 例えば、リガンド分子としてVEGFのスプライス変異体[[VEGF165]]はニューロピリン1に結合し、Sema3Aに拮抗的に作用する。[[プレキシン-A]]に直接結合するクラス6セマフォリンもセマフォリン3A作用を修飾する。
 
 ニューロピリン1と相互作用する細胞膜タンパク質として、[[L1]]や類縁の[[CHL1]]が報告されている。ニューロピリン1と複合体を形成したL1は、[[接着班キナーゼ]]と[[MAPキナーゼ]]を活性化する。CHL1はSema3A/NRP1で制御される[[視床皮質路]]の軸索投射に関与する。
 
 一方、プレキシン-Aは[[off-Track]]、[[VEGFR2]]、[[TREM2]]、[[DAP12]]などの膜タンパク質と相互作用する<ref name=ref9 />。これら相互作用分子の発現は組織や細胞により異なり、セマフォリンがそれぞれの細胞で引きおこす反応の違いに寄与する。細胞内分子[[cGMP]]はセマフォリン作用に影響する。セマフォリン3Aは末梢[[知覚]]神経軸索を反発するが、高濃度cGMPが存在する皮質[[錐体細胞]]の[[尖端樹状突起]]は、セマフォリン3A濃度勾配に沿って脳表方向へ誘引される。
 
==生理機能 ==
 セマフォリンシグナリングの細胞生物学的な機能は[[細胞骨格]]の再構成と[[細胞接着]]の調節である。これらの結果、セマフォリンは細胞の形態や移動を制御すると考えられる。神経系においては、軸索伸長、軸索ガイダンス、樹状突起スパインの形態・機能の制御を介して神経回路網形成や[[シナプス可塑性]]に関与すると考えられる。セマフォリンはその発見の経緯から、当初は神経回路形成や軸索伸長制御因子としての役割が注目され、解明が進められたが、その後、セマフォリン3Aの[[遺伝子欠損マウス]]の表現型解析から、回路選択からシナプス形成に至る神経回路形成の各過程に広く関わることが示された<ref name=ref13><pubmed>16540575</pubmed></ref>。神経回路選択やシナプス形成の過程が一つのガイダンス分子により制御されていることは興味深い。
 
 この発見を経緯に、セマフォリンのシナプスや樹状突起パターン形成における作用が解析された。Kolodkinらのグループは同じクラス3セマフォリンに属するセマフォリン3Fの作用を追究する過程で、セマフォリン3Fが樹状突起スパインの数や興奮性シナプス電流の減少を引き起こすことを報告した。一方、同グループは、セマフォリン3Aとの結合を欠失したニューロピリン1をノックインしたマウスの解析から、セマフォリン3Aは樹状突起パターンには作用するが、スパインの数や形態には影響を与えないと報告しており、研究グループ間にセマフォリン3A作用の解釈をめぐって相違がある<ref name=ref13 /> <ref name=ref14><pubmed>20010807</pubmed></ref>
 
 セマフォリンが学習・記憶等の生理学的過程にどのような役割を果たしているかは今後の重要課題の一つである。


==関連項目==
==関連項目==