「空間記憶」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
6行目: 6行目:


 Tolman (1948)は、動物の空間行動を「認知地図」という概念によって説明した。これは、動物が空間内を移動するとき、その空間の地図用のイメージを描いて、餌探し行動や危険回避行動をするという考えである。認知地図に基づく行動は、環境内にある複数の刺激の空間的関係性と、複数の刺激と出来事との関係性の構築によって実行される。認知地図以前の単純なS-R理論では、刺激を与えられても行動が実行されない場合や行動しても刺激が与えられない場合には学習が生じないと考えられてきた。しかし、台車に載せての受動的な移動(McNamara, Long & Wike, 1956)や、ゴール地点において報酬を与えられない移動(Tolman & Honzik, 1930)によっても潜在的な学習が生じているという実験的証拠が得られ、それまでの単純なS-R理論で説明することができなかった空間行動は認知地図の概念によって説明された。
 Tolman (1948)は、動物の空間行動を「認知地図」という概念によって説明した。これは、動物が空間内を移動するとき、その空間の地図用のイメージを描いて、餌探し行動や危険回避行動をするという考えである。認知地図に基づく行動は、環境内にある複数の刺激の空間的関係性と、複数の刺激と出来事との関係性の構築によって実行される。認知地図以前の単純なS-R理論では、刺激を与えられても行動が実行されない場合や行動しても刺激が与えられない場合には学習が生じないと考えられてきた。しかし、台車に載せての受動的な移動(McNamara, Long & Wike, 1956)や、ゴール地点において報酬を与えられない移動(Tolman & Honzik, 1930)によっても潜在的な学習が生じているという実験的証拠が得られ、それまでの単純なS-R理論で説明することができなかった空間行動は認知地図の概念によって説明された。
== 空間記憶を査定する行動テスト  ==
水迷路課題、放射状迷路課題、物体探索課題、バーンズ迷路課題


== 空間記憶の神経基盤  ==
== 空間記憶の神経基盤  ==
11行目: 14行目:
=== 空間記憶と海馬  ===
=== 空間記憶と海馬  ===
 海馬を含む側頭葉内側部の切除手術を受けたH.M.が宣言記憶の障害を示すという報告(Scoville & Millner, 1957)以来、齧歯類を対象とした海馬損傷研究が盛んに行われた。この流れの中で、Tolmanの認知地図の概念はO'Keefe & Nadel (1978)によって海馬認知地図仮説へと発展し、海馬が空間認知の神経基盤であると考えられた。海馬認知地図仮説の中で、O'KeefeらはLocaleシステムとTaxonシステムという2つの記憶システムを提案した。Localeシステムは環境の中で自分の位置を特定する、いわゆる認知地図を利用した空間行動を支えるシステムであり、Taxonシステムは特定の手掛りに対する接近行動と回避行動の強化によって駆動されるシステムである。O'Keefe & Conway (1980)は、これらのシステムと海馬の関係について検討した。この実験では、Localeシステムを要する課題として①十字型迷路の周辺に分散された複数の手掛りから報酬位置を特定する課題と、Taxonシステムを要する課題として②複数手掛りが報酬走路近くにまとめて配置された課題が設けられ、各システムに及ぼす海馬損傷が検討された。海馬損傷により①の課題の成績が著しく悪化したが、②の課題の成績は手術前よりもむしろ改善された。これにより、Localeシステムに基づく行動は海馬依存的であるが、Taxonシステムに基づく行動は海馬非依存的であることが明らかになった。同様の結論がMorris水迷路を用いたMorris, Garrud, Rawlins & O'Keefe(1982)においても報告されている。プール内の一か所の水面下に隠れたプラットホームの位置をプール周囲の複数の刺激の位置との関係で記憶させる場所課題の学習には海馬損傷の効果があった。しかし、目印刺激のある見える逃避台への接近行動を測定する手掛り課題の学習には海馬損傷の効果がなかった。この効果の分離は、O'Keefe & Conway (1980)による海馬依存的なLocaleシステムと海馬非依存的Taxonシステムの分離に対応するものと考えられる。
 海馬を含む側頭葉内側部の切除手術を受けたH.M.が宣言記憶の障害を示すという報告(Scoville & Millner, 1957)以来、齧歯類を対象とした海馬損傷研究が盛んに行われた。この流れの中で、Tolmanの認知地図の概念はO'Keefe & Nadel (1978)によって海馬認知地図仮説へと発展し、海馬が空間認知の神経基盤であると考えられた。海馬認知地図仮説の中で、O'KeefeらはLocaleシステムとTaxonシステムという2つの記憶システムを提案した。Localeシステムは環境の中で自分の位置を特定する、いわゆる認知地図を利用した空間行動を支えるシステムであり、Taxonシステムは特定の手掛りに対する接近行動と回避行動の強化によって駆動されるシステムである。O'Keefe & Conway (1980)は、これらのシステムと海馬の関係について検討した。この実験では、Localeシステムを要する課題として①十字型迷路の周辺に分散された複数の手掛りから報酬位置を特定する課題と、Taxonシステムを要する課題として②複数手掛りが報酬走路近くにまとめて配置された課題が設けられ、各システムに及ぼす海馬損傷が検討された。海馬損傷により①の課題の成績が著しく悪化したが、②の課題の成績は手術前よりもむしろ改善された。これにより、Localeシステムに基づく行動は海馬依存的であるが、Taxonシステムに基づく行動は海馬非依存的であることが明らかになった。同様の結論がMorris水迷路を用いたMorris, Garrud, Rawlins & O'Keefe(1982)においても報告されている。プール内の一か所の水面下に隠れたプラットホームの位置をプール周囲の複数の刺激の位置との関係で記憶させる場所課題の学習には海馬損傷の効果があった。しかし、目印刺激のある見える逃避台への接近行動を測定する手掛り課題の学習には海馬損傷の効果がなかった。この効果の分離は、O'Keefe & Conway (1980)による海馬依存的なLocaleシステムと海馬非依存的Taxonシステムの分離に対応するものと考えられる。
=== 空間記憶と海馬下位領域における機能分離  ===
利根川らの研究 
CA1ノックアウトとCA3ノックアウトの違い
岡田らの研究
CA1,CA3の単独破壊
Moserらの研究、東北大飯島らの研究
背側と腹側の機能分離


=== 場所細胞の発見  ===
=== 場所細胞の発見  ===