「軸索再生」の版間の差分

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=== 軸索再生の再評価  ===
=== 軸索再生の再評価  ===


 O. Stewardらによると中枢神経の軸索再生は以下の様に定義されている <ref><pubmed> 12629662 </pubmed></ref>。<br>1) 中枢神経系から、中枢神経系ではない環境 (特に損傷などにより生じた瘢痕組織)へ、再生した軸索が伸長する<br>2) 宿主以外に由来する移植組織へ、再生した軸索が伸長する<br>3) 切断部またはその周囲から再生した軸索が生じている<br>4) もとの中枢神経系とは異なる経路で再生した軸索が走行している<br>5) 再生した軸索が妥当な再生距離を示す <br>損傷後5 ~ 7日: 損傷からの回復と、伸長反応の開始<br>損傷後7 ~ 10日: 再生軸索が損傷部位に達する<br>損傷後10 ~ 14日: 再生軸索が損傷部周囲を伸長<br>損傷後14 ~ 21日: 再生軸索が遠位の非損傷部位へ侵入<br>損傷後21日以降: 再生軸索が最大で約1mm /日の速度で遠位部の中を伸長<br>6) 再生中には、軸索が伸長時に観察されるような形態 (成長円錐のような先端)を示す <br>7) 再生した軸索は、通常の軸索のような走行を示さず、蛇行性に伸長する<br> 中枢神経の軸索再生の研究には、脊髄損傷モデルがよく使われる。完全損傷モデルの場合、全ての軸索が切断されるため、切断された脊髄の段端がはなれて、脳脊髄液で満たされた間隙ができる。また、損傷部周辺では二次的な変性がおこり、切断面をさらに遠ざけてしまう。そこで、組織へのダメージを最小限にするため、不完全損傷モデルが使用されることが多い。不完全損傷モデルには、腹側皮質脊髄路のみを残し、他の皮質脊髄路の繊維は全て切断するdorsal hemisectionモデルや、一側を完全切断して反対側を残すlateral hemisetionモデルがある。最近の研究から、成体哺乳類の中枢神経系においても、薬剤投与や遺伝子操作により、脊髄損傷モデル動物における軸索再生が誘導されることが報告されている。しかし一方で、これらの結果の再現性に疑問を投げかける研究結果も報告されている。2003年に、National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS)により、Facilities of Research Excellence – Spinal Cord Injury (FORE – SCI)というプログラムが開始され、それまでに報告されていた脊髄損傷モデル動物を用いた軸索再生研究の再評価がなされた。その結果、再現性が確認されたのは、12件中2件 (うち1件は報告されていたものよりも、弱い回復)のみであった <ref><pubmed> 22078756 </pubmed></ref>。これらの研究結果からも、中枢神経の軸索再生を実現することの難しさが伺える。
 O. Stewardらによると中枢神経の軸索再生は以下の様に定義されている <ref><pubmed> 12629662 </pubmed></ref>。


# 中枢神経系から、中枢神経系ではない環境 (特に損傷などにより生じた瘢痕組織)へ、再生した軸索が伸長する
# 宿主以外に由来する移植組織へ、再生した軸索が伸長する
# 切断部またはその周囲から再生した軸索が生じている
# もとの中枢神経系とは異なる経路で再生した軸索が走行している
# 再生した軸索が妥当な再生距離を示す <br>損傷後5 ~ 7日: 損傷からの回復と、伸長反応の開始 <br>損傷後7 ~ 10日: 再生軸索が損傷部位に達する <br>損傷後10 ~ 14日: 再生軸索が損傷部周囲を伸長 <br>損傷後14 ~ 21日: 再生軸索が遠位の非損傷部位へ侵入 <br>損傷後21日以降: 再生軸索が最大で約1mm /日の速度で遠位部の中を伸長
# 再生中には、軸索が伸長時に観察されるような形態 (成長円錐のような先端)を示す
# 再生した軸索は、通常の軸索のような走行を示さず、蛇行性に伸長する
 中枢神経の軸索再生の研究には、脊髄損傷モデルがよく使われる。完全損傷モデルの場合、全ての軸索が切断されるため、切断された脊髄の段端がはなれて、脳脊髄液で満たされた間隙ができる。また、損傷部周辺では二次的な変性がおこり、切断面をさらに遠ざけてしまう。そこで、組織へのダメージを最小限にするため、不完全損傷モデルが使用されることが多い。不完全損傷モデルには、腹側皮質脊髄路のみを残し、他の皮質脊髄路の繊維は全て切断するdorsal hemisectionモデルや、一側を完全切断して反対側を残すlateral hemisetionモデルがある。最近の研究から、成体哺乳類の中枢神経系においても、薬剤投与や遺伝子操作により、脊髄損傷モデル動物における軸索再生が誘導されることが報告されている。しかし一方で、これらの結果の再現性に疑問を投げかける研究結果も報告されている。2003年に、National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS)により、Facilities of Research Excellence – Spinal Cord Injury (FORE – SCI)というプログラムが開始され、それまでに報告されていた脊髄損傷モデル動物を用いた軸索再生研究の再評価がなされた。その結果、再現性が確認されたのは、12件中2件 (うち1件は報告されていたものよりも、弱い回復)のみであった <ref><pubmed> 22078756 </pubmed></ref>。これらの研究結果からも、中枢神経の軸索再生を実現することの難しさが伺える。


== 末梢神経系における軸索再生  ==
== 末梢神経系における軸索再生  ==