「くも膜下出血」の版間の差分

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==病態==
==病態==
===病態機構===
===病態生理===
 頭蓋内動脈には、頭蓋外動脈と異なり外弾性板が存在せず、内皮細胞・内弾性板・中膜・外膜によって構成される。脳動脈瘤では、内弾性板の消失や中膜平滑筋細胞の脱落・消失などの血管壁の退行性変化が認められる。外膜に好中球・リンパ球・マクロファージなどの炎症細胞の浸潤がみられ、外膜から中膜にかけて補体や免疫グロブリンの沈着が認められる。脳動脈瘤壁における中膜の菲薄化、膠原繊維の減少、平滑筋細胞の脱落と炎症所見は破裂脳動脈瘤で顕著である。
 頭蓋内動脈には、頭蓋外動脈と異なり外弾性板が存在せず、内皮細胞・内弾性板・中膜・外膜によって構成される。脳動脈瘤では、内弾性板の消失や中膜平滑筋細胞の脱落・消失などの血管壁の退行性変化が認められる。外膜に好中球・リンパ球・マクロファージなどの炎症細胞の浸潤がみられ、外膜から中膜にかけて補体や免疫グロブリンの沈着が認められる。脳動脈瘤壁における中膜の菲薄化、膠原繊維の減少、平滑筋細胞の脱落と炎症所見は破裂脳動脈瘤で顕著である。


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 血行力学的なストレスにはwall shear stressのみならずmechanical stretchも関与していることや、瘤形成初期からのマクロファージの関与、動脈瘤壁の線維芽細胞の活性化、新生血管の増生と破裂リスクの上昇なども報告されており、今後これらの解析により、破裂に関わる因子、動脈瘤壁の画像診断による脆弱性評価、破裂予防のための薬物治療介入などの開発につながることが期待される。
 血行力学的なストレスにはwall shear stressのみならずmechanical stretchも関与していることや、瘤形成初期からのマクロファージの関与、動脈瘤壁の線維芽細胞の活性化、新生血管の増生と破裂リスクの上昇なども報告されており、今後これらの解析により、破裂に関わる因子、動脈瘤壁の画像診断による脆弱性評価、破裂予防のための薬物治療介入などの開発につながることが期待される。
===臨床病態===
===臨床病態===
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の病態を特徴づけるprimary brain damageは、本疾患が頭蓋内という閉鎖空間で、その内圧の調整機能を担っている脳脊髄液内に、動脈血(圧)の出血が生じることで、ほぼ瞬時に頭蓋内圧が収縮期血圧まで上昇するため、重症例では脳灌流圧が著しく低下する高度の脳虚血が全脳的に発生する状態と言い換えることができる。これを後述する脳血管攣縮後の遅発性虚血性神経障害 (delayed ischemic neurological deficits : DIND)と対比させて急性虚血性神経障害(acute ischemic neurological deficits : AIND)と呼称する場合がある。特徴的症状である「突発する激しい頭痛と嘔吐、意識障害」はこのAINDと出血自身による髄膜刺激症候からなる。
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の病態を特徴づけるprimary brain damageは、本疾患が頭蓋内という閉鎖空間で、その内圧の調整機能を担っている脳脊髄液内に、動脈血(圧)の出血が生じることで、ほぼ瞬時に頭蓋内圧が収縮期血圧まで上昇するため、重症例では脳灌流圧が著しく低下する高度の脳虚血が全脳的に発生する状態と言い換えることができる。これを後述する脳血管攣縮後の遅発性虚血性神経障害 (delayed ischemic neurological deficits : DIND)と対比させて急性虚血性神経障害(acute ischemic neurological deficits : AIND)と呼称する場合がある。特徴的症状である「突発する激しい頭痛と嘔吐、意識障害」はこのAINDと出血自身による髄膜刺激症候からなる。