「Na-K-2Cl共輸送体」の版間の差分

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 16世紀から[[浮腫]]に対する[[利尿薬]]の治療効果が知られていた。20世紀に入り合成化学が進歩すると、1950年代に[[サイアザイド系利尿薬]]が、1960年代に[[ループ利尿薬]]が開発された<ref name=野田裕美2011>'''野田裕美 (2011).'''<br>利尿薬の歴史と作用機序. Fluid Management Renaissance 1:20-24.</ref> 。ループ利尿薬の標的の分子実態を探す目的で、[[イヌ]]の[[腎臓]]の[[膜タンパク質]]抽出液を用いて放射線同位元素で標識したループ利尿薬と結合する分子を同定し、[[モノクローナル抗体]]を作成した<ref name=Lytle1992><pubmed> 1460038 </pubmed></ref> 。それらを用い、[[λファージ]]の[[cDNAライブラリー]]を利用した[[発現クローニング]]で[[NKCC1]] ([[SLC12A2]])<ref name=Xu1994><pubmed>8134373</pubmed></ref>と[[NKCC2]] ([[SLC12A1]])<ref name=Payne1994><pubmed>7514306</pubmed></ref> がクローニングされ、その後各生物のNKCC1及びNKCC2の遺伝子が次々に同定された。
 16世紀から[[浮腫]]に対する[[利尿薬]]の治療効果が知られていた。20世紀に入り合成化学が進歩すると、1950年代に[[サイアザイド系利尿薬]]が、1960年代に[[ループ利尿薬]]が開発された<ref name=野田裕美2011>'''野田裕美 (2011).'''<br>利尿薬の歴史と作用機序. Fluid Management Renaissance 1:20-24.</ref> 。ループ利尿薬の標的の分子実態を探す目的で、[[イヌ]]の[[腎臓]]の[[膜タンパク質]]抽出液を用いて放射線同位元素で標識したループ利尿薬と結合する分子を同定し、[[モノクローナル抗体]]を作成した<ref name=Lytle1992><pubmed> 1460038 </pubmed></ref> 。それらを用い、[[λファージ]]の[[cDNAライブラリー]]を利用した[[発現クローニング]]で[[NKCC1]] ([[SLC12A2]])<ref name=Xu1994><pubmed>8134373</pubmed></ref>と[[NKCC2]] ([[SLC12A1]])<ref name=Payne1994><pubmed>7514306</pubmed></ref> がクローニングされ、その後各生物のNKCC1及びNKCC2の遺伝子が次々に同定された。


[[ファイル:Inoue NKCC Fig1.png|thumb|'''図1. NKCC1/2の構造'''<br>
NKCC1/2(オレンジ色)はいずれも12回膜貫通型の膜タンパク質で、両末端は細胞質に局在している。いずれもエクソン4によってコードされる膜貫通領域(transmembrane region; TM)2付近(緑色の領域)のアミノ酸配列がイオン輸送に重要であることが示唆されており、NKCC2では異なるエクソン4が挿入されることにより、イオンへの親和性が異なるバリアントが存在する<ref name=Gimenez2002><pubmed>11815599</pubmed></ref>[6] 。NKCC1/2はいずれもN末の細胞質領域(P)の複数のセリン/スレオニン残基がリン酸化酵素SPAK及びOSR1によりリン酸化されることによりイオントランスポート活性が増強される。文献<ref name=Garneau2020><pubmed>33052775</pubmed></ref>に基づき筆者作成。]]
==構造==
==構造==
[[ファイル:Inoue NKCC Fig1.png|thumb|'''図1. NKCC1/2の構造'''<br>
 [[Solute carrier protein]] ([[溶質輸送体タンパク質]], Slc)12ファミリーに属する膜タンパク質は12回膜貫通型でN末、C末が細胞内に局在する構造を取る('''図1''')。NKCC1は約1200アミノ酸(サメ型は1191残基)を含み、[[ウェスタンブロッティング]]では見かけ上195kDaほどの大きさとなる。[[膜貫通領域]](transmembrane, TM)7-8の細胞外領域で[[グリコシル化]]([[糖鎖修飾]])を受けており、[[グルコシダーゼ]]による[[脱グリコシル化]]で、分子量から期待されるサイズである~130kDaでの検出となる<ref name=Xu1994><pubmed>8134373</pubmed></ref> 。
 NKCC1/2(オレンジ色)はいずれも12回膜貫通型の膜タンパク質で、両末端は細胞質に局在している。いずれもエクソン4によってコードされる膜貫通領域(transmembrane region; TM)2付近(緑色の領域)のアミノ酸配列がイオン輸送に重要であることが示唆されており、NKCC2では異なるエクソン4が挿入されることにより、イオンへの親和性が異なるバリアントが存在する<ref name=Gimenez2002><pubmed>11815599</pubmed></ref>[6] 。NKCC1/2はいずれもN末の細胞質領域(P)の複数のセリン/スレオニン残基がリン酸化酵素SPAK及びOSR1によりリン酸化されることによりイオントランスポート活性が増強される。文献<ref name=Garneau2020><pubmed>33052775</pubmed></ref>に基づき筆者作成。]]
 
 [[Solute carrier protein]] ([[溶質輸送体タンパク質]], Slc)12ファミリーに属する膜タンパク質は12回膜貫通型でN末、C末が細胞内に局在する構造を取る。NKCC1は約1200アミノ酸(サメ型は1191残基)を含み、[[ウェスタンブロッティング]]では見かけ上195kDaほどの大きさとなる。[[膜貫通領域]](transmembrane, TM)7-8の細胞外領域で[[グリコシル化]]([[糖鎖修飾]])を受けており、[[グルコシダーゼ]]による[[脱グリコシル化]]で、分子量から期待されるサイズである~130kDaでの検出となる<ref name=Xu1994><pubmed>8134373</pubmed></ref> 。


 [[ヒト]]のNKCC1遺伝子は5番目の染色体上にあり、27のエクソンが連なり、mRNAが作製される。21番目のエクソン(16アミノ酸をコード)がスキップしたスプライスバリアントが存在し、NKCC1B と呼ばれる。NKCC2は15番目の染色体上にあり、約1100アミノ酸(ヒト型は1099残基)を含み、NKCC1同様グリコシル化を受けている<ref name=Payne1994><pubmed>7514306</pubmed></ref> 。NKCC2のORFは26のエクソンにまたがっているが、NKCC2のクローニングの際、4番目のエクソンが異なる3つのスプライスバリアント(NKCC2A, B, F)が見いだされている<ref name=Igarashi1995><pubmed>7573490</pubmed></ref> 。
 [[ヒト]]のNKCC1遺伝子は5番目の染色体上にあり、27のエクソンが連なり、mRNAが作製される。21番目のエクソン(16アミノ酸をコード)がスキップしたスプライスバリアントが存在し、NKCC1B と呼ばれる。NKCC2は15番目の染色体上にあり、約1100アミノ酸(ヒト型は1099残基)を含み、NKCC1同様グリコシル化を受けている<ref name=Payne1994><pubmed>7514306</pubmed></ref> 。NKCC2のORFは26のエクソンにまたがっているが、NKCC2のクローニングの際、4番目のエクソンが異なる3つのスプライスバリアント(NKCC2A, B, F)が見いだされている<ref name=Igarashi1995><pubmed>7573490</pubmed></ref> 。