「レット症候群」の版間の差分

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 MeCP2によって転写が抑制される標的遺伝子の探索が盛んに行われており、これまでに[[脳由来神経栄養因子]](BDNF)、[[ゲノム刷り込み]]遺伝子[[DLX5]]や[[インスリン様成長因子結合タンパク質]]IGFBP3、[[シナプス]]間の接着に関与する[[PCDHB1]]などが報告されている。しかしながら2008年、MeCP2[[ノックアウトマウス]]とMeCP2過剰発現マウスを用いた発現マイクロアレイを用いた解析から、[[視床下部]]において数千の遺伝子が調節を受けていること, そしてその標的遺伝子の85%はMeCP2により転写が活性化されているという報告がなされた。MeCP2が直接、遺伝子のプロモーター領域に結合し、[[転写因子]][[CREB1]]などとともに標的遺伝子の発現を活性化することも報告され、MeCP2が転写抑制・活性化双方に関与していることが示唆されている<ref name=ref4><pubmed> 21632916 </pubmed></ref>。
 MeCP2によって転写が抑制される標的遺伝子の探索が盛んに行われており、これまでに[[脳由来神経栄養因子]](BDNF)、[[ゲノム刷り込み]]遺伝子[[DLX5]]や[[インスリン様成長因子結合タンパク質]]IGFBP3、[[シナプス]]間の接着に関与する[[PCDHB1]]などが報告されている。しかしながら2008年、MeCP2[[ノックアウトマウス]]とMeCP2過剰発現マウスを用いた発現マイクロアレイを用いた解析から、[[視床下部]]において数千の遺伝子が調節を受けていること, そしてその標的遺伝子の85%はMeCP2により転写が活性化されているという報告がなされた。MeCP2が直接、遺伝子のプロモーター領域に結合し、[[転写因子]][[CREB1]]などとともに標的遺伝子の発現を活性化することも報告され、MeCP2が転写抑制・活性化双方に関与していることが示唆されている<ref name=ref4><pubmed> 21632916 </pubmed></ref>。


==神経病態==
===神経病態===


 本症のモデルマウス(Mecp2欠損マウス)や本症患者の死後脳の解析から神経細胞の[[樹状突起]]の数や分岐の減少がみられることから、本症の神経病態は[[シナプス形成]]や[[シナプス伝達]]機能の異常であると想定されてきた。この仮説をサポートするように、Mecp2欠損マウスでは神経伝達物質の自発的放出や[[シナプス可塑性]]が減少していることも報告された。
 本症のモデルマウス(Mecp2欠損マウス)や本症患者の死後脳の解析から神経細胞の[[樹状突起]]の数や分岐の減少がみられることから、本症の神経病態は[[シナプス形成]]や[[シナプス伝達]]機能の異常であると想定されてきた。この仮説をサポートするように、Mecp2欠損マウスでは神経伝達物質の自発的放出や[[シナプス可塑性]]が減少していることも報告された。
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 また、さまざまなMecp2コンディショナルノックアウトマウスが作製され、神経細胞の種類や脳領域特異的なMeCP2欠損マウスによる研究が行われ、[[ドーパミン]]ニューロン特異的Mecp2欠損マウスは[[運動失調]]を、[[セロトニン]]ニューロン特異的Mecp2欠損マウスは[[攻撃性]]の増加を、さらに[[扁桃体]]特異的Mecp2欠損マウスは[[学習]]や[[記憶]]の障害を、[[視床下部]]特異的Mecp2欠損マウスは[[摂食障害]]や[[攻撃性]]などの、ストレスに対する反応が見られることが報告された。これらのマウスはいずれもレット症候群の症状の一部しか呈していなかったが、最近作製された前脳の[[GABA作動性ニューロン]]特異的にMecp2を欠損させたマウスにおいては、GABA作動性ニューロンの機能異常症状だけでなく、レット症候群の多様な症状を呈していた。このことから、GABA作動性ニューロンの正常機能にはMeCP2が必須であり、GABA作動性ニューロンの機能障害が多様な精神・神経症状の発現に関与していることが示唆された。
 また、さまざまなMecp2コンディショナルノックアウトマウスが作製され、神経細胞の種類や脳領域特異的なMeCP2欠損マウスによる研究が行われ、[[ドーパミン]]ニューロン特異的Mecp2欠損マウスは[[運動失調]]を、[[セロトニン]]ニューロン特異的Mecp2欠損マウスは[[攻撃性]]の増加を、さらに[[扁桃体]]特異的Mecp2欠損マウスは[[学習]]や[[記憶]]の障害を、[[視床下部]]特異的Mecp2欠損マウスは[[摂食障害]]や[[攻撃性]]などの、ストレスに対する反応が見られることが報告された。これらのマウスはいずれもレット症候群の症状の一部しか呈していなかったが、最近作製された前脳の[[GABA作動性ニューロン]]特異的にMecp2を欠損させたマウスにおいては、GABA作動性ニューロンの機能異常症状だけでなく、レット症候群の多様な症状を呈していた。このことから、GABA作動性ニューロンの正常機能にはMeCP2が必須であり、GABA作動性ニューロンの機能障害が多様な精神・神経症状の発現に関与していることが示唆された。


 さらに近年、[[グリア細胞]]([[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]、[[ミクログリア]])にもMeCP2が発現し、脳機能に寄与していることが報告されている。グリア細胞から分泌される突起形成を促進する分子の減少や神経細胞へ毒性を与える分子の増加を引き起こしている事が示唆され、グリア細胞においてもMeCP2が重要な遺伝子発現調節をしていると考えられる。神経細胞のみならずグリア細胞の異常もレット症候群の病態に大きく関与していると考えられ、グリア細胞を標的とした新たな治療法の開発につながることが期待される。  
 さらに近年、[[グリア細胞]]([[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]、[[ミクログリア]])にもMeCP2が発現し、脳機能に寄与していることが報告されている。グリア細胞から分泌される突起形成を促進する分子の減少や神経細胞へ毒性を与える分子の増加を引き起こしている事が示唆され、グリア細胞においてもMeCP2が重要な遺伝子発現調節をしていると考えられる。神経細胞のみならずグリア細胞の異常もレット症候群の病態に大きく関与していると考えられ、グリア細胞を標的とした新たな治療法の開発につながることが期待される。


==治療戦略==
==治療戦略==