16,039
回編集
細編集の要約なし |
|||
12行目: | 12行目: | ||
== 概念が誕生するまでの報告の歴史 == | == 概念が誕生するまでの報告の歴史 == | ||
じっと座っていられないことに苦痛を感じる状態についての医学分野での記載は、1685年に[[wj:トーマス・ウィリス|Willis]]<ref name=Willis1685>'''Willis, T. (1685)'''<br>The London Practice of Physick, Or, the Whole Practical Part of Physick Contained in the Works of Dr. Willis Faithfully Made English, and Printed Together for the Publick Good. [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/2/21/Willis_Restless_leg_syndrom.pdf PDF]</ref>に始まり、1880年にBeardはその原因が[[神経衰弱]]にあると報告している。その後、1902年に [[w:Ladislav Haškovec|Haškovec]] <ref name=Haskovec1902>'''Haskovec, L. (1902).'''<br>Akathisie. Arch Bohemes Med Clin 17: 704-708.</ref> | じっと座っていられないことに苦痛を感じる状態についての医学分野での記載は、1685年に[[wj:トーマス・ウィリス|Willis]]<ref name=Willis1685>'''Willis, T. (1685)'''<br>The London Practice of Physick, Or, the Whole Practical Part of Physick Contained in the Works of Dr. Willis Faithfully Made English, and Printed Together for the Publick Good. [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/2/21/Willis_Restless_leg_syndrom.pdf PDF]</ref>に始まり、1880年にBeardはその原因が[[神経衰弱]]にあると報告している。その後、1902年に [[w:Ladislav Haškovec|Haškovec]] <ref name=Haskovec1902>'''Haskovec, L. (1902).'''<br>Akathisie. Arch Bohemes Med Clin 17: 704-708.</ref>がギリシャ語由来の「すわっていることができない」という意味の“Akathisie”という用語を用いて、[[ヒステリー]]または神経衰弱の症状としてこの病態を記載したことで、この病態に対して「アカシジア」という用語が定着するようになった。1904年には[[w:Fulgence Raymond|Raymond]]と[[wj:ピエール・ジャネ|Janet]]がこの症状を精神衰弱に関連づけた精神症状の病態像として報告している<ref name=Raymond1902>'''Raymond F, Janet P (1902).'''<br>Le syndrome psychasthénique de l’akathisie. ''Nouv Iconogr Salpêtrière'' 15: 241-246 [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/7/73/Inada_Akathisia_Raymond_and_Janet_1902.pdf [PDF<nowiki>]</nowiki>]</ref>。Bing & Sicard (1923)は脳炎後にパーキンソニズムを呈した患者に、精神症状として「アカシジア」がみられた患者を報告している<ref name=Lohr2015><pubmed>26683525</pubmed></ref>。その後、独語圏や仏語圏からもこの病態が[[脳炎]]後遺症嗜眠性脳炎の経過中にも発現することが報告され、1940年にWilsonは、この病態が脳炎後遺症や[[パーキンソン病]]の患者にもみられることに注意を喚起した<ref name=八木1991>'''八木剛平, 稲田俊也, 神庭重信 (1991).'''<br>アカシジアの診断と治療-とくに精神症状との関連について-. 精神科治療学 6: 13-26</ref>。一方、Ekbom (1945)は当初はアカシジアという用語は使っていないものの下肢限局性に内的不穏感を伴う症例を集積して、ムズムズ脚症候群として報告した<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref><ref name=Ekbom1945>'''Ekbom, K.A. (1945).'''<br>Restless legs. ''Acta Med Scand'' 158 Suppl: 1-123.</ref>。 | ||
薬原性アカシジアの記載はSigwaldら(1947)<ref>'''Sigwald, J. (1947).'''<br>Le traitement de la maladie de Parkinson et des manifestations extrapyramadalles par le diethylaminoethyl n-thiophyenylamine (2987RP) : Resulltants d'une anee d'application. ''Rev Neurol'' 79:683-687</ref>に始まり、1950年代前半に[[抗精神病薬]]が導入されると基礎薬理学的に中枢[[ドパミン]][[遮断作用]]を有する抗精神病薬の服用中にしばしばみられるようになり、薬原性[[錐体外路症状]]の一型として位置づけられるようになった<ref name=八木1991></ref> | 薬原性アカシジアの記載はSigwaldら(1947)<ref>'''Sigwald, J. (1947).'''<br>Le traitement de la maladie de Parkinson et des manifestations extrapyramadalles par le diethylaminoethyl n-thiophyenylamine (2987RP) : Resulltants d'une anee d'application. ''Rev Neurol'' 79:683-687</ref>に始まり、1950年代前半に[[抗精神病薬]]が導入されると基礎薬理学的に中枢[[ドパミン]][[遮断作用]]を有する抗精神病薬の服用中にしばしばみられるようになり、薬原性[[錐体外路症状]]の一型として位置づけられるようになった<ref name=八木1991></ref>。 | ||
このように、精神症状の病態像としての記述を語源としてアカシジアという用語が誕生し、その後の報告ではこの病態がさまざまな精神疾患・神経疾患でみられることが報告されてきたが、抗精神病薬の導入後は、薬剤性の錐体外路系副作用として頻繁にみられることから、この用語が広く用いられるようになった。ここでは抗精神病薬で発症する薬原性アカシジアについて述べる('''表1''')。 | このように、精神症状の病態像としての記述を語源としてアカシジアという用語が誕生し、その後の報告ではこの病態がさまざまな精神疾患・神経疾患でみられることが報告されてきたが、抗精神病薬の導入後は、薬剤性の錐体外路系副作用として頻繁にみられることから、この用語が広く用いられるようになった。ここでは抗精神病薬で発症する薬原性アカシジアについて述べる('''表1''')。 | ||
37行目: | 37行目: | ||
|- | |- | ||
| | | | ||
* Ekbom (1945)「ムズムズ脚症候群」として, 主に非薬原性の下肢不穏症候群の症例を集積<ref name= | * Ekbom (1945)「ムズムズ脚症候群」として, 主に非薬原性の下肢不穏症候群の症例を集積<ref name=Ekbom1945 />。 | ||
|- | |- | ||
| '''薬原性アカシジア(狭義のアカシジア): 抗精神病薬による錐体外路症状の1型と位置づけられる。''' | | '''薬原性アカシジア(狭義のアカシジア): 抗精神病薬による錐体外路症状の1型と位置づけられる。''' | ||
58行目: | 58行目: | ||
== 臨床診断 == | == 臨床診断 == | ||
=== 診断基準と下位分類 === | === 診断基準と下位分類 === | ||
[[DSM-5]]<ref name=American2013>'''American Psychiatric Association. (2013).'''<br>333.99 (G25.71) Medication-induced acute akathisia. In: Diagnostic and statistical manual of mental disorders. Fifth edition. DSM-5TM American Psychiatric Publishing, Washington DC, pp711</ref> | [[DSM-5]]<ref name=American2013>'''American Psychiatric Association. (2013).'''<br>333.99 (G25.71) Medication-induced acute akathisia. In: Diagnostic and statistical manual of mental disorders. Fifth edition. DSM-5TM American Psychiatric Publishing, Washington DC, pp711</ref>における薬原性アカシジアは、[[遅発性アカシジア]]と[[急性アカシジア]]に分けて記載され、急性アカシジアは薬剤の投与に関連して発症することと、代表的な臨床症状のいくつかを列記しているだけのごく簡潔な内容のみであったが、[[DSM-5TR]]<ref name=American2022>'''American Psychiatric Association (2022).'''<br>G25.71 Medication-induced acute akathisia. In: Diagnostic and statistical manual of mental disorders. Fifth edition Text Revision. DSM-5-TR TM American Psychiatric Publishing, Washington DC, pp813-814</ref>では臨床症状の補足的記述に加え、原因薬剤・有病率・鑑別疾患等の概略的な記載が追記されるようになった。アカシジアの診断にあたっては、上記の臨床症状が存在すること(症状診断)に加え、薬原性アカシジアではその原因薬剤を特定する必要がある。アカシジアは、その発症時期や経過により急性アカシジア、遅発性アカシジア、[[離脱性アカシジア]]、[[慢性アカシジアに分類される]]('''表2''') <ref name=八木1991></ref><ref name=堀口2010>'''堀口淳, 稲見康司, 竹内賢, 内藤宏 (2010).'''<br>アカシジア 重篤副作用疾患別対応マニュアル. 厚生労働省 2010年3月 [http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j09.pdf [PDF<nowiki>]</nowiki>]</ref><ref name=稲田2013>'''稲田俊也 (2013).<br>'''アカシジア. ''Clinical Neuroscience'' 31: 1334-1335, 2013. </ref>。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
78行目: | 78行目: | ||
=== 臨床症状 === | === 臨床症状 === | ||
主観的な[[内的不穏症状]]と客観的な[[運動亢進症状]]で構成される。主観的な自覚症状としては、静座不能に対する自覚、下肢のムズムズ感、ソワソワ感、絶えず動いていたいという衝動などの自覚的な内的不穏症状がみられ、「体や足がソワソワして、じっと座っていられない、横になっていられない、動きたくなる」、「じっとしておれず、歩きたくなる」、「体や足を動かしたくなる」、「足がムズムズする」、「じっと立っていられない」、「体が揺れる」、「足踏みしたくなる」などの訴えがみられ、重度になると不安焦燥感が顕著となり、苦痛に耐えられなくなると、自傷行為や自殺企図など危険な行為に及ぶことがあり注意を要する。自覚症状に伴って認められる客観的な運動亢進症状としては、身体の揺り動かし、下肢の振り回し、「貧乏揺すり」のような足踏み、足の組み換え、ウロウロ歩き、ベッド上での体動の繰り返しなどがみられる<ref name=稲田2011>'''稲田俊也 (2011).'''<br>精神科・わたしの診療手順. 薬原性アカシジア. 臨床精神医学40増刊号: 125-127</ref> | 主観的な[[内的不穏症状]]と客観的な[[運動亢進症状]]で構成される。主観的な自覚症状としては、静座不能に対する自覚、下肢のムズムズ感、ソワソワ感、絶えず動いていたいという衝動などの自覚的な内的不穏症状がみられ、「体や足がソワソワして、じっと座っていられない、横になっていられない、動きたくなる」、「じっとしておれず、歩きたくなる」、「体や足を動かしたくなる」、「足がムズムズする」、「じっと立っていられない」、「体が揺れる」、「足踏みしたくなる」などの訴えがみられ、重度になると不安焦燥感が顕著となり、苦痛に耐えられなくなると、自傷行為や自殺企図など危険な行為に及ぶことがあり注意を要する。自覚症状に伴って認められる客観的な運動亢進症状としては、身体の揺り動かし、下肢の振り回し、「貧乏揺すり」のような足踏み、足の組み換え、ウロウロ歩き、ベッド上での体動の繰り返しなどがみられる<ref name=稲田2011>'''稲田俊也 (2011).'''<br>精神科・わたしの診療手順. 薬原性アカシジア. 臨床精神医学40増刊号: 125-127</ref>。 | ||
=== 評価尺度による重症度評価 === | === 評価尺度による重症度評価 === | ||
薬原性アカシジアの重症度評価に用いられる[[バーンズ・アカシジア尺度]]<ref name=Barnes1989><pubmed>2574607</pubmed></ref><ref name=稲田2002>'''稲田俊也, 野崎昭子 (2002).''' <br>薬原性錐体外路症状の適正な評価. 臨床精神薬理 5: 31-38</ref><ref name=Inada1996>'''Inada T, Matsuda G, Kitao Y, Nakamura A, Miyata R, et al. (1996).'''<br>Barnes Akathisia Scale: usefulness of standardized videotape method in evaluation of the reliability and in training raters. Int J Meth Psychiatr Res 6: 49-52.</ref> | 薬原性アカシジアの重症度評価に用いられる[[バーンズ・アカシジア尺度]]<ref name=Barnes1989><pubmed>2574607</pubmed></ref><ref name=稲田2002>'''稲田俊也, 野崎昭子 (2002).''' <br>薬原性錐体外路症状の適正な評価. 臨床精神薬理 5: 31-38</ref><ref name=Inada1996>'''Inada T, Matsuda G, Kitao Y, Nakamura A, Miyata R, et al. (1996).'''<br>Barnes Akathisia Scale: usefulness of standardized videotape method in evaluation of the reliability and in training raters. Int J Meth Psychiatr Res 6: 49-52.</ref>は、客観症状、主観症状、主観症状に対する苦痛の3項目に、6段階評価の総括評価1項目を加えた計4項目で構成される。抗精神病薬による治療中にみられる副作用としての錐体外路症状の評価を行う際には、[[薬原性錐体外路症状評価尺度]]([[drug-induced extrapyramidal symptoms scale]]; [[DIEPSS]])の個別重症度評価8項目のうちの1項目としてアカシジアの重症度評価が行われる<ref name=稲田2012>'''稲田俊也 (2012).'''<br>DIEPSSを使いこなす 改訂版 薬原性錐体外路症状の評価と診断 -DIEPSSの解説と利用の手引き-. 星和書店, 東京</ref><ref name=稲田2017>'''稲田俊也 (2017).'''<br>薬原性アカシジア. Brain and Nerve 69: 1417-1424</ref><ref name=Inada2009>Inada T: DIEPSS: A second-generation rating scale for antipsychotic-induced extrapyramidal symptoms: Drug-induced Extrapyramidal Symptoms Scale. Seiwa Shoten Publishers, Tokyo, 2009. </ref>。 | ||
'''表3'''はDIEPSSによるアカシジアの重症度評価と評価診断面接のポイント、および面接における典型的な患者の回答例を示したものである<ref name=稲田2013></ref> | '''表3'''はDIEPSSによるアカシジアの重症度評価と評価診断面接のポイント、および面接における典型的な患者の回答例を示したものである<ref name=稲田2013></ref>。アカシジアの評価にあたっては自覚症状の程度を優先して評価し、運動亢進症状は、主観症状を支持する所見として用いることが原則である。アカシジアに特徴的な運動不穏の症状が顕著に認められても、内的不穏の自覚がない場合には、仮性アカシジアの位置づけとなる<ref name=稲田2012></ref><ref name=Inada2009></ref>。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
112行目: | 112行目: | ||
=== 鑑別疾患 === | === 鑑別疾患 === | ||
[[不安]]・[[焦燥感]]・[[常同行動]]などの精神症状の悪化、[[ムズムズ脚症候群]]、[[遅発性ジスキネジア]]などがしばしば鑑別すべき病態として取りあげられる<ref name=稲田2014>'''稲田俊也 (2014).'''<br>アカシジア. 別冊日本臨牀 新領域別症候群シリーズ 30 神経症候群(第2版) -その他の神経疾患を含めて-: 568-572</ref><ref name=稲田2019>'''稲田俊也 (2019)'''<br>アカシジア. 日本臨牀 医薬品副作用学(第3版)下 -薬剤の安全使用アップデート-, ''日本臨牀'' 77 (増刊号4): 389-394</ref> | [[不安]]・[[焦燥感]]・[[常同行動]]などの精神症状の悪化、[[ムズムズ脚症候群]]、[[遅発性ジスキネジア]]などがしばしば鑑別すべき病態として取りあげられる<ref name=稲田2014>'''稲田俊也 (2014).'''<br>アカシジア. 別冊日本臨牀 新領域別症候群シリーズ 30 神経症候群(第2版) -その他の神経疾患を含めて-: 568-572</ref><ref name=稲田2019>'''稲田俊也 (2019)'''<br>アカシジア. 日本臨牀 医薬品副作用学(第3版)下 -薬剤の安全使用アップデート-, ''日本臨牀'' 77 (増刊号4): 389-394</ref>。 | ||
==== 不安・焦燥感・常同行動などの精神症状 ==== | ==== 不安・焦燥感・常同行動などの精神症状 ==== | ||
120行目: | 120行目: | ||
==== ムズムズ脚症候群 ==== | ==== ムズムズ脚症候群 ==== | ||
ムズムズ脚症候群(restless-leg syndrom, RLS)<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref><ref name=稲田2017></ref> | ムズムズ脚症候群(restless-leg syndrom, RLS)<ref name=Ekbom1960><pubmed>13726241</pubmed></ref><ref name=稲田2017></ref>とアカシジアはいずれも内的不穏症状と下肢の運動亢進症状という症候学的類似性から、両者の異同はしばしば鑑別診断に挙げられる。八木ら(1991)<ref name=八木1991></ref>は、広義のアカシジア概念のなかに、[[神経症性アカシジア]]、[[下肢限局性アカシジア]](ムズムズ脚症候群)、薬原性アカシジアが含まれるとし、特発性ムズムズ脚症候群と薬原性アカシジアは、広義のアカシジア概念の中に棲み分けられている。類似の臨床症状を呈する両者は同様の病態生理が考えられているが、抗精神病薬等で発症する薬原性アカシジアを狭義のアカシジアと捉え、広義のアカシジアに含まれる特発性のムズムズ脚症候群との鑑別がしばしば論じられている<ref name=Ekbom2009><pubmed>19817966</pubmed></ref><ref name=堀口1999>'''堀口淳、山下英尚、倉本恭成、水野創一 (1999).<br>'''アカシジアの最近の動向. ''日本神経精神薬理学雑誌'' 19: 1-9</ref>。抗精神病薬服用患者の約3%は疫学的にムズムズ脚症候群素因者であると見積もられており、特発性ムズムズ脚症候群でしばしば認められる血清鉄値の低下は薬原性アカシジアの危険因子と考えられている。特発性ムズムズ脚症候群では下肢の異常感覚が一次症状としてあり、症状は夜間就床時の眠気とともに発現し、入眠困難をきたすといった特徴があるのに対して、薬原性アカシジアは日中の起きている時間に症状が増強し、「動きたい」という強い衝動が一次症状である点が異なる。抗精神病薬惹起性のアカシジアでは他の薬原性錐体外路症状と同様に睡眠中にはみられない<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref>。 | ||
==== 遅発性ジスキネジア ==== | ==== 遅発性ジスキネジア ==== | ||
アカシジアの自覚症状がみられなくなり、下肢の運動亢進症状だけが目立つようなケースは、しばしば遅発性ジスキネジアへの移行例として報告される<ref name=Kahn1992><pubmed>1353716</pubmed></ref> | アカシジアの自覚症状がみられなくなり、下肢の運動亢進症状だけが目立つようなケースは、しばしば遅発性ジスキネジアへの移行例として報告される<ref name=Kahn1992><pubmed>1353716</pubmed></ref>。抗精神病薬の長期投与に関連して発症する遅発性ジスキネジアは、顔面、口部、舌、顎、四肢、躯幹等に出現する他覚的に無目的で不規則な異常[[不随意運動]]である。下肢や躯幹に運動亢進症状がみられるアカシジアでは内的不穏症状を訴えるのに対し、遅発性ジスキネジアにみられる下肢や躯幹の異常不随意運動には内的不穏の自覚がないことから鑑別が可能である。 | ||
== 原因薬剤と発症頻度 == | == 原因薬剤と発症頻度 == | ||
=== 原因薬剤 === | === 原因薬剤 === | ||
薬原性アカシジアは抗精神病薬による発症が大多数を占めるものの、さまざまな医薬品で報告がみられる('''表4''')<ref name=八木1991></ref><ref name=堀口2010></ref><ref name=稲田2011></ref><ref name=稲田2017></ref><ref name=稲田2019></ref> | 薬原性アカシジアは抗精神病薬による発症が大多数を占めるものの、さまざまな医薬品で報告がみられる('''表4''')<ref name=八木1991></ref><ref name=堀口2010></ref><ref name=稲田2011></ref><ref name=稲田2017></ref><ref name=稲田2019></ref>。最近では[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]]([[SSRI]])などドパミン遮断作用を有しない薬剤での報告もみられ、このほか一般診療で使用される[[制吐薬]]や[[胃腸薬]]なども含め、アカシジアを起こしうる医薬品は多岐にわたる。 | ||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+表4. アカシジアを引き起こす可能性のある医薬品 | |+表4. アカシジアを引き起こす可能性のある医薬品 | ||
199行目: | 199行目: | ||
| || [[インターフェロン]]など | | || [[インターフェロン]]など | ||
|} | |} | ||
文献<ref name=八木1991 /><ref name=堀口2010 /><ref name=稲田2011 /><ref name=稲田2017 /><ref name=稲田2019 /><ref name=堀2022>'''堀輝, 嶽北佳輝,高江洲義和,竹内啓善, 坪井貴嗣,冨田哲,三浦至 (2022).'''<br>アカシジア 重篤副作用疾患別対応マニュアル. pp307-330,厚生労働省,東京,2022年3月</ref> | 文献<ref name=八木1991 /><ref name=堀口2010 /><ref name=稲田2011 /><ref name=稲田2017 /><ref name=稲田2019 /><ref name=堀2022>'''堀輝, 嶽北佳輝,高江洲義和,竹内啓善, 坪井貴嗣,冨田哲,三浦至 (2022).'''<br>アカシジア 重篤副作用疾患別対応マニュアル. pp307-330,厚生労働省,東京,2022年3月</ref>をもとに作成。 | ||
=== 発症頻度 === | === 発症頻度 === | ||
薬原性アカシジアの発症頻度は、服用している薬剤の種類・用量・投与期間や対象となる患者集団などによって異なり、ドパミン遮断薬服用中の患者の20-75%<ref name=American2021>'''American Psychiatric Association (2021).'''<br>Practice guideline for the treatment of patients with schizophrenia. Third edition. American Psychiatric Publishing, Washington DC. [https://doi.org/10.1176/appi.books.9780890424841 {DOI}]</ref> | 薬原性アカシジアの発症頻度は、服用している薬剤の種類・用量・投与期間や対象となる患者集団などによって異なり、ドパミン遮断薬服用中の患者の20-75%<ref name=American2021>'''American Psychiatric Association (2021).'''<br>Practice guideline for the treatment of patients with schizophrenia. Third edition. American Psychiatric Publishing, Washington DC. [https://doi.org/10.1176/appi.books.9780890424841 {DOI}]</ref>、抗精神病薬を服用中の患者の5-50% <ref name=Zareifopoulos2021><pubmed>34337722</pubmed></ref>、[[定型抗精神病薬]]服用中の患者の20-40%<ref name=稲田2017></ref><ref name=稲田2019></ref>、[[第2世代抗精神病薬]]を服用中の患者の2.9-13.0% <ref name=Chow2020><pubmed>32342999</pubmed></ref>、10-30%<ref name=American2021></ref>にみられると報告されているが、用量依存性に発現頻度が高くなるため、大量投与時には誰にでも起こり得る危険性のある副作用である。 | ||
近年は[[統合失調症]]の薬物療法においては錐体外路症状の発現率が低い[[非定型抗精神病薬]]の投与が主流となっているが、これらの薬剤は、中枢ドパミン神経系のレベルが低いとされる気分障害圏の患者に対しても適応拡大されて広く使用されるようになり、発症頻度はそれほど低下していないと指摘されている<ref name=Miller2008><pubmed>18827289</pubmed></ref> | 近年は[[統合失調症]]の薬物療法においては錐体外路症状の発現率が低い[[非定型抗精神病薬]]の投与が主流となっているが、これらの薬剤は、中枢ドパミン神経系のレベルが低いとされる気分障害圏の患者に対しても適応拡大されて広く使用されるようになり、発症頻度はそれほど低下していないと指摘されている<ref name=Miller2008><pubmed>18827289</pubmed></ref>。また、患者が副作用ではなく精神症状と取り違える場合もあり、過小診断を危惧する報告もみられる<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref>。わが国での長期試験における非定型抗精神病薬によるアカシジアの発症率は、[[リスペリドン]]が22.9%、[[ペロスピロン]]が40%、[[クエチアピン]]が5.2%、[[オランザピン]]が17.6%、[[ブレクスピプラゾール]]が7.8%である<ref name=堀口2010></ref>。[[アリピプラゾール]]は対象疾患によって用量の違いもあり、統合失調症患者で11.7%、[[双極性気分障害]][[躁病]]エピソード患者で30.2%、[[うつ病]]患者で28.1%と添付文書に記されており、[[気分障害]]群の疾患での発現頻度は高くなっている。[[小胞モノアミントランスポーター2]]([[VMAT2]])阻害剤での添付文書に記載のアカシジアの発症頻度は、[[バルベナジン]]が6.8%、[[テトラベナジン]]が20.0%(米国で実施された非盲検非対照長期投与試験)である。 | ||
== 病態生理 == | == 病態生理 == | ||
薬原性アカシジアの病態生理については、原因薬剤や治療効果のある薬剤の薬理学的機序から様々な神経系の関与が想定されている<ref name=妹尾2004>'''妹尾 久, 稲田俊也 (2004).'''<br>薬原性錐体外路症状に関する仮説. 石郷岡純 (編): 精神疾患100の仮説 (改訂版). 星和書店, 東京, pp 381-384</ref><ref name=稲田2014></ref><ref name=稲田2017></ref><ref name=稲田2019></ref><ref name=Stahl2011><pubmed>21406165</pubmed></ref> | 薬原性アカシジアの病態生理については、原因薬剤や治療効果のある薬剤の薬理学的機序から様々な神経系の関与が想定されている<ref name=妹尾2004>'''妹尾 久, 稲田俊也 (2004).'''<br>薬原性錐体外路症状に関する仮説. 石郷岡純 (編): 精神疾患100の仮説 (改訂版). 星和書店, 東京, pp 381-384</ref><ref name=稲田2014></ref><ref name=稲田2017></ref><ref name=稲田2019></ref><ref name=Stahl2011><pubmed>21406165</pubmed></ref>。 | ||
=== 中脳辺縁系・中脳皮質系のドパミン機能低下 === | === 中脳辺縁系・中脳皮質系のドパミン機能低下 === | ||
薬原性アカシジアは薬原性錐体外路症状の1型として位置づけられており、その大多数がドパミン神経系を遮断する抗精神病薬の投与と関連して発現し、その減量・中止により症状は軽減ないし消失することから、中枢ドパミン神経系の機能低下がアカシジア発症の主たる要因と考えられている。急性期に発現する薬原性錐体外路症状に対しては、ドパミン・[[アセチルコリン]]不均衡仮説に基づいて[[抗コリン薬]]による治療が行われ、その有効性は80~90%と高いのに対して、アカシジアに対する抗コリン薬の反応性は50%程度と、他の薬原性パーキンソニズムに対する80~90%の有効性に比べると明らかに低いことから<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref> | 薬原性アカシジアは薬原性錐体外路症状の1型として位置づけられており、その大多数がドパミン神経系を遮断する抗精神病薬の投与と関連して発現し、その減量・中止により症状は軽減ないし消失することから、中枢ドパミン神経系の機能低下がアカシジア発症の主たる要因と考えられている。急性期に発現する薬原性錐体外路症状に対しては、ドパミン・[[アセチルコリン]]不均衡仮説に基づいて[[抗コリン薬]]による治療が行われ、その有効性は80~90%と高いのに対して、アカシジアに対する抗コリン薬の反応性は50%程度と、他の薬原性パーキンソニズムに対する80~90%の有効性に比べると明らかに低いことから<ref name=Hirose2003><pubmed>14609248</pubmed></ref>、[[黒質線条体]]系の機能低下が想定されているパーキンソン症状とは異なり、[[中脳辺縁系]]や[[中脳皮質系]]の機能低下がアカシジアの発症に関与していると想定されている。パーキンソン病の運動減退症状とアカシジアの運動亢進症状の併発があること、またパーキンソン病等の運動減退症状とは異なり、アカシジアでは客観的な運動亢進症状が認められることに加え、主観的な内的不隠症状も有していることから、パーキンソン病の発症機序と考えられている黒質線条体系のドパミン神経機能の低下以外にも、中脳辺縁系や中脳皮質系のドパミン神経系の低下がアカシジアの発症機序に関与していると想定されている。 | ||
=== セロトニン神経系(5-HT2A 受容体)の機能亢進 === | === セロトニン神経系(5-HT2A 受容体)の機能亢進 === | ||
選択的セロトニン再取り込み阻害薬でアカシジアの発症例が報告されていること、[[セロトニン]][[5-HT2A受容体]]遮断作用を有する非定型抗精神病薬では薬原性錐体外路症状の発現頻度が低いこと、またセロトニン5-HT2A受容体遮断作用を有する抗うつ薬の一群がアカシジアの治療に有効であることから、アカシジアの発症要因にセロトニン5-HT2A 受容体の機能亢進が想定されている<ref name=Poyurovsky2015><pubmed>26488676</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2010><pubmed>20118449</pubmed></ref><ref name=Laoutidis2014><pubmed>24286228</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2006><pubmed>16497273</pubmed></ref> | 選択的セロトニン再取り込み阻害薬でアカシジアの発症例が報告されていること、[[セロトニン]][[5-HT2A受容体]]遮断作用を有する非定型抗精神病薬では薬原性錐体外路症状の発現頻度が低いこと、またセロトニン5-HT2A受容体遮断作用を有する抗うつ薬の一群がアカシジアの治療に有効であることから、アカシジアの発症要因にセロトニン5-HT2A 受容体の機能亢進が想定されている<ref name=Poyurovsky2015><pubmed>26488676</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2010><pubmed>20118449</pubmed></ref><ref name=Laoutidis2014><pubmed>24286228</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2006><pubmed>16497273</pubmed></ref>。セロトニン神経系5-HT2A受容体の機能亢進が、[[腹側被蓋野]]から中脳辺縁系と中脳皮質系のドパミン神経系に対して抑制的に働くことでアカシジアが発症すると考えられている。 | ||
=== γアミノ酪酸神経系の機能低下 === | === γアミノ酪酸神経系の機能低下 === | ||
[[γアミノ酪酸]] ([[GABA]])作動薬である[[ジアゼパム]]や[[ロラゼパム]]などの[[ベンゾジアゼピン]]系薬剤がアカシジアの症状を軽減することから、アカシジアの発症にGABA神経系の機能低下が想定されている<ref name=妹尾2004></ref> | [[γアミノ酪酸]] ([[GABA]])作動薬である[[ジアゼパム]]や[[ロラゼパム]]などの[[ベンゾジアゼピン]]系薬剤がアカシジアの症状を軽減することから、アカシジアの発症にGABA神経系の機能低下が想定されている<ref name=妹尾2004></ref>。 | ||
=== ノルアドレナリン系の機能亢進 === | === ノルアドレナリン系の機能亢進 === | ||
[[プロプラノロール]]などのβ遮断薬がアカシジアの治療に有効であること、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]でアカシジアの発症例がみられること、アカシジア患者において単核白血球上の[[β2受容体]]密度の高くなっているという報告がみられること等の知見から、中枢あるいは末梢におけるノルアドレナリン系の機能亢進がアカシジアの発症に関与していると考えられている<ref name=妹尾2004 /> | [[プロプラノロール]]などのβ遮断薬がアカシジアの治療に有効であること、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]でアカシジアの発症例がみられること、アカシジア患者において単核白血球上の[[β2受容体]]密度の高くなっているという報告がみられること等の知見から、中枢あるいは末梢におけるノルアドレナリン系の機能亢進がアカシジアの発症に関与していると考えられている<ref name=妹尾2004 />。 | ||
=== 鉄欠乏=== | === 鉄欠乏=== | ||
229行目: | 229行目: | ||
=== 薬原性アカシジアに対する治療薬 === | === 薬原性アカシジアに対する治療薬 === | ||
抗精神病薬の調整だけでアカシジアの症状がうまく軽減できない場合には、有効性が確立されている治療薬を対症療法的に投与する<ref name=Poyurovsky2015></ref><ref name=山本2014></ref> | 抗精神病薬の調整だけでアカシジアの症状がうまく軽減できない場合には、有効性が確立されている治療薬を対症療法的に投与する<ref name=Poyurovsky2015></ref><ref name=山本2014></ref>。対症療法的に行われる治療薬としては、β遮断薬(プロプラノロール、[[カルテオロール]])、中枢性抗コリン薬([[ビペリデン]]、[[トリヘキシフェニジル]])、ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、クロナゼパム)、セロトニン5-HT2A受容体遮断薬([[ミアンセリン]]、[[シプロヘプタジン]]、[[ミルタザピン]]、[[トラゾドン]])、[[クロニジン]]等の薬剤が推奨されている<ref name=稲田2013></ref><ref name=稲田2014></ref><ref name=山本2014>'''山本暢朋, 稲田俊也 (2014).'''<br>錐体外路系副作用の治療. 染矢俊幸 (編) 臨床精神薬理学テキストブック第3版. 星和書店, 東京, pp252-260. </ref>。抗[[ヒスタミン]]作用を有する抗パーキンソン薬で、薬剤性パーキンソニズムの治療に広く用いられる[[プロメタジン]]は、アカシジアへの治療適応はなく、ムズムズ脚症候群に対しては症状を増悪させることがある<ref name=稲田2017></ref>。 | ||
==== β遮断薬 ==== | ==== β遮断薬 ==== | ||
プロプラノロールは脂溶性が高いβ遮断薬であり、Limaらの系統的レビュー<ref name=Lima2004><pubmed>15495022</pubmed></ref> | プロプラノロールは脂溶性が高いβ遮断薬であり、Limaらの系統的レビュー<ref name=Lima2004><pubmed>15495022</pubmed></ref>ではアカシジアに対するβ遮断薬の有用性については結論を出すにはエビデンスが不十分であったが、米国<ref name=American2021></ref>、カナダ<ref name=Canadian2005>'''Canadian Psychiatric Association Working Group (2015)'''<br>Extrapyramidal side effects In: Clinical practice guidelines for the treatment of schizophrenia. Can J Psychiatry 50 (Suppl 1); pp26S,</ref>、英国<ref name=Taylor2015>'''Taylor D, Paton C, Kapur S (2015).'''<br>The Maudsley prescribing guidelines l2th Edition Wiley-Blackwell, Oxford, pp88-89</ref><ref name=Taylor2021>'''Taylor D, Barnes TRE, Young AH (2021).'''<br> Akathisia In: The Maudsley prescribing guidelines. l2th Edition Wiley-Blackwell, Oxford, pp114-116, [https://doi.org/10.1002/9781119870203 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref>等の主要な治療ガイドラインでは、アカシジアに対する対症療法として薬物療法を行う際には第1選択薬として取り上げられている。初期の臨床試験では[[炭酸リチウム]]誘発性振戦に対する有効性も認められたが、薬原性パーキンソニズムや遅発性ジスキネジアには効果がないこと<ref name=Lipinski1984><pubmed>6142657</pubmed></ref>から、アカシジアに対する選択的な治療薬と位置づけられている。アカシジアと他の錐体外路系副作用が併発している患者では、抗コリン性パーキンソン薬を先行して使用することを推奨する<ref name=Comaty1987>'''Comaty JE (1987).'''<br>Propranolol treatment of neuroleptic-induced akathisia. Psychiatric Annals 17: 150-155. [https://doi.org/10.3928/0048-5713-19870301-06 [DOI<nowiki>]</nowiki>]</ref>見解もある。 | ||
==== ベンゾジアゼピン系薬剤 ==== | ==== ベンゾジアゼピン系薬剤 ==== | ||
ロラゼパム(1~3mg/日)、クロナゼパム(0.5~3mg/日)、ジアゼパム(5~15mg/日)などのベンゾジアゼピン系薬剤がアカシジアに対する対症療法的治療薬の1つとして各種ガイドラインで推奨されている。質の高い系統的レビューでは、薬原性アカシジアに対するベンゾジアゼピンの有用性は確認されたが、包括基準を満たした研究は2報のみで対象患者は27名でしかなかった<ref name=American2021></ref> | ロラゼパム(1~3mg/日)、クロナゼパム(0.5~3mg/日)、ジアゼパム(5~15mg/日)などのベンゾジアゼピン系薬剤がアカシジアに対する対症療法的治療薬の1つとして各種ガイドラインで推奨されている。質の高い系統的レビューでは、薬原性アカシジアに対するベンゾジアゼピンの有用性は確認されたが、包括基準を満たした研究は2報のみで対象患者は27名でしかなかった<ref name=American2021></ref>。アカシジアに対するベンゾジアゼピン系薬剤の有効性は,アカシジアの病態に特異的に対処する効果というよりも、むしろ一般的な鎮静・抗不安作用による対症療法的な症状緩和によるものと考えられている<ref name=Zareifopoulos2021><pubmed>34337722</pubmed></ref>。 | ||
==== セロトニン2A受容体遮断薬 ==== | ==== セロトニン2A受容体遮断薬 ==== | ||
セロトニン2A受容体遮断薬(ミアンセリン、シプロヘプタジン、トラゾドン、ミルタザピン)が、アカシジアの治療薬として近年、注目されつつある<ref name=稲田2017></ref><ref name=Poyurovsky2015></ref><ref name=Poyurovsky2010><pubmed>20118449</pubmed></ref><ref name=Laoutidis2014><pubmed>24286228</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2006><pubmed>16497273</pubmed></ref> | セロトニン2A受容体遮断薬(ミアンセリン、シプロヘプタジン、トラゾドン、ミルタザピン)が、アカシジアの治療薬として近年、注目されつつある<ref name=稲田2017></ref><ref name=Poyurovsky2015></ref><ref name=Poyurovsky2010><pubmed>20118449</pubmed></ref><ref name=Laoutidis2014><pubmed>24286228</pubmed></ref><ref name=Poyurovsky2006><pubmed>16497273</pubmed></ref>。モーズレイ処方ガイドラインでは、第11版(2012)から、抗コリン薬の選択順位が2つ下げられた第12版(2015)<ref name=Taylor2015></ref>以降、最新の第14版(2021)<ref name=Taylor2021></ref>においてもβ遮断薬の次に少量のミルタザピン(15mg/日)やミアンセリン(30mg/日)が位置づけられるようになっている。 | ||
==== 抗コリン薬 ==== | ==== 抗コリン薬 ==== | ||
抗コリン性抗パーキンソン薬は、海外では[[ベンズトロピン]]が使われているが、わが国ではビペリデンや[[トリヘキシフェニジル]]が広く使用されている。抗コリン薬の薬原性錐体外路症状に対する有効率は、パーキンソン症状に対しては80~90%あるのに対して、アカシジアに対しては50%程度と低いこと<ref name=稲田2014></ref><ref name=稲田2019></ref> | 抗コリン性抗パーキンソン薬は、海外では[[ベンズトロピン]]が使われているが、わが国ではビペリデンや[[トリヘキシフェニジル]]が広く使用されている。抗コリン薬の薬原性錐体外路症状に対する有効率は、パーキンソン症状に対しては80~90%あるのに対して、アカシジアに対しては50%程度と低いこと<ref name=稲田2014></ref><ref name=稲田2019></ref>、抗精神病薬誘発性アカシジアに対して、プラセボと比較して抗コリン薬の有用性を支持できる信頼できるエビデンスが存在しないこと<ref name=Rathbone2006><pubmed>17054182</pubmed></ref>から、米国(2021)<ref name=American2022></ref>およびカナダ(2005) <ref name=Canadian2005></ref>のガイドラインでは抗コリン薬の使用を推奨していない。モーズレイ処方ガイドラインでは、第12版から推奨順位を2つ下げて、掲載している。アカシジアに対する有効性のエビデンスは限られているものの、「他の錐体外路症状が併発する例では効くかもしれない。」としている。 | ||
==== その他の薬剤 ==== | ==== その他の薬剤 ==== | ||
その他の薬剤としては、[[ビタミンB6]]、[[アマンタジン]]、[[アポモルヒネ]]、[[クロニジン]]、[[ガバペンチン]]、[[プレガバリン]]等の薬剤で、薬原性アカシジアに対する臨床試験が行われている<ref name=Pringsheim2018><pubmed>29685069</pubmed></ref> | その他の薬剤としては、[[ビタミンB6]]、[[アマンタジン]]、[[アポモルヒネ]]、[[クロニジン]]、[[ガバペンチン]]、[[プレガバリン]]等の薬剤で、薬原性アカシジアに対する臨床試験が行われている<ref name=Pringsheim2018><pubmed>29685069</pubmed></ref>。 | ||
A型インフルエンザウィルス感染症治療薬としても用いられるアマンタジンは、神経末端からのドパミン放出促進や再取り込み阻害によって錐体外路系副作用を軽減すると考えられている<ref name=松田1991>'''松田源一 (1991).'''<br>抗パーキンソン薬の使い方.浅井昌弘,八木剛平監修:精神分裂病治療のストラテジー:薬物療法と精神療法の接点を求めて. 国際医書出版, 東京, pp189-193. </ref> | A型インフルエンザウィルス感染症治療薬としても用いられるアマンタジンは、神経末端からのドパミン放出促進や再取り込み阻害によって錐体外路系副作用を軽減すると考えられている<ref name=松田1991>'''松田源一 (1991).'''<br>抗パーキンソン薬の使い方.浅井昌弘,八木剛平監修:精神分裂病治療のストラテジー:薬物療法と精神療法の接点を求めて. 国際医書出版, 東京, pp189-193. </ref>。抗コリン作用のない錐体外路症状治療薬で、効果の発現までに1週間程度を要し<ref name=Ananth1975><pubmed>239908</pubmed></ref>、その後作用は4週間持続する<ref name=Nemeroff1999>'''Nemeroff CB, Schatzberg AF (1999).'''<br>Drugs for extrapyramidal side effects. In: Recognition and Treatment of Psychiatric Disorders. A Psychopharmacology Handbook for primary care, American Psychiatric Press, Washington DC, pp145-150. </ref>。理論的には精神病症状を悪化させる危険性もあり注意を要する。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
253行目: | 253行目: | ||
* [[ムズムズ脚症候群]] | * [[ムズムズ脚症候群]] | ||
* [[錐体外路症状]] | * [[錐体外路症状]] | ||
==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> |