「傍腫瘍性神経症候群」の版間の差分

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=== 主に細胞内抗原を認識する抗体が検出される群  ===
=== 主に細胞内抗原を認識する抗体が検出される群  ===


 細胞内抗原であるHu/Yo/Riなどに反応する抗体を生じる群では,罹患神経組織と密接に関連する抗体が,病初期から高い力価で検出され,抗体が中枢神経内で産生されると考えられること,剖検組織では神経細胞や腫瘍にIgGが沈着しているなどの知見がある。しかしながら,血漿交換や免疫療法では神経症状の改善が得られにくい。また、抗体を用いた動物への受動免疫では病態の再現が得られないため24)、この群では抗体そのものの病態への関与は低く、細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cell: CTL)の関与が推測されている<ref name=ref25><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref>。
 細胞内抗原であるHu/Yo/Riなどに反応する抗体を生じる群では,罹患神経組織と密接に関連する抗体が,病初期から高い力価で検出され,抗体が中枢神経内で産生されると考えられること,剖検組織では神経細胞や腫瘍にIgGが沈着しているなどの知見がある。しかしながら,血漿交換や免疫療法では神経症状の改善が得られにくい。また、抗体を用いた動物への受動免疫では病態の再現が得られないため<ref name=ref24><pubmed>7707074</pubmed></ref>、この群では抗体そのものの病態への関与は低く、細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cell: CTL)の関与が推測されている<ref name=ref25><pubmed>11489286</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>9809559</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>10371077</pubmed></ref>。


 抗Hu/Yo/Ri抗体を有する群では,病初期には罹患神経組織および腫瘍内にCTLのマーカーであるCD8陽性CD11b陰性Tリンパ球が浸潤している。 PCDではYo抗原特異的T 細胞が末梢血、髄液で増加し,抗Hu抗体陽性群の血中にもHu抗原特異的に反応する CTLが検出されている。  
 抗Hu/Yo/Ri抗体を有する群では,病初期には罹患神経組織および腫瘍内にCTLのマーカーであるCD8陽性CD11b陰性Tリンパ球が浸潤している。 PCDではYo抗原特異的T 細胞が末梢血、髄液で増加し,抗Hu抗体陽性群の血中にもHu抗原特異的に反応する CTLが検出されている。  
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 担癌患者の頻度を考慮すると,PNSの発症は極めてまれといわざるを得ない。PNS発症の有無で,腫瘍の組織学的特徴に差はないとされる。また,Hu抗体陽性SCLC患者の腫瘍に発現するHu蛋白のDNAにも変異は見られていない。PNS発症の要因として,腫瘍組織内では,抗原提示細胞である樹状細胞がアポトーシスに陥った腫瘍細胞を取り込んで,class I 上にonconeural proteinを提示する可能性が考えられ、感作されたPNS抗原特異的なT 細胞がclass Iを発現する神経組織を傷害する可能性もある。  
 担癌患者の頻度を考慮すると,PNSの発症は極めてまれといわざるを得ない。PNS発症の有無で,腫瘍の組織学的特徴に差はないとされる。また,Hu抗体陽性SCLC患者の腫瘍に発現するHu蛋白のDNAにも変異は見られていない。PNS発症の要因として,腫瘍組織内では,抗原提示細胞である樹状細胞がアポトーシスに陥った腫瘍細胞を取り込んで,class I 上にonconeural proteinを提示する可能性が考えられ、感作されたPNS抗原特異的なT 細胞がclass Iを発現する神経組織を傷害する可能性もある。  


 筆者らは,PNSが多くの担癌患者のごく一部にしか生じない理由の一つの可能性として,患者側の要因を検討した。自己免疫疾患の発症要因としては、免疫自己寛容の破綻が生じていると考えられる。末梢血中制御性T細胞(regulatory T cell: Treg)は末梢性免疫寛容に重要な働きをしていることから,PNSにおける免疫動態の評価のため、Treg分画の機能遺伝子の発現を定量した。PNS,神経症状のない癌患者および健常者の末梢血リンパ球からTreg分画を分取し、リアルタイムRT-PCR法でFOXP3を代表とするTregの機能遺伝子のmRNAの発現を定量した。PNS患者末梢血では,免疫制御に関わるTregの複数の機能遺伝子に発現低下がみられた。Tregの機能低下は,免疫寛容の破綻を引き起こし,自己免疫機序による組織傷害を生じうるため、PNSの宿主要因になりうると考えられた<ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref>。  
 筆者らは,PNSが多くの担癌患者のごく一部にしか生じない理由の一つの可能性として,患者側の要因を検討した。自己免疫疾患の発症要因としては、免疫自己寛容の破綻が生じていると考えられる。末梢血中制御性T細胞(regulatory T cell: Treg)は末梢性免疫寛容に重要な働きをしていることから,PNSにおける免疫動態の評価のため、Treg分画の機能遺伝子の発現を定量した。PNS,神経症状のない癌患者および健常者の末梢血リンパ球からTreg分画を分取し、リアルタイムRT-PCR法でFOXP3を代表とするTregの機能遺伝子のmRNAの発現を定量した。PNS患者末梢血では,免疫制御に関わるTregの複数の機能遺伝子に発現低下がみられた。Tregの機能低下は,免疫寛容の破綻を引き起こし,自己免疫機序による組織傷害を生じうるため、PNSの宿主要因になりうると考えられた<ref name=ref28><pubmed>18455243</pubmed></ref>。  


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