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== 要約 == | == 要約 == | ||
== 歴史的推移 == | |||
1997年、チロシンキナーゼSrcに結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、mouse disabled-1 homologue 1 (mDab1)(Drosophilaで同定されていたdisabled-1遺伝子と相同性があった為命名)が同定された。mDab1は N末端領域にPTBドメインを持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった。dab1ノックアウトマウスが作成されたこと、及び自然発症変異マウスyotari, scramblerの原因遺伝子がdab1であることが明らかになったことにより、dab1が大脳新皮質、海馬、小脳、脳幹の神経核等における神経細胞を正しい位置に配置するのに必須の遺伝子であることが明らかになった。またDab1欠損・変異マウスの表現型が、1951年に報告され、その原因遺伝子reelinが1995年に明らかにされた、リーラー(reeler)マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)と酷似していたことから、ReelinとDab1の関連が示唆された。実際、reelerマウスでは、(1)Dab1のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、(2)Reelinは脳表層に分布するCajal-Retzius細胞に発現が観察され、Dab1は神経細胞に発現が観察され、相補的な関係になっていること、(3)Reelin刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること等から、Dab1はReelinシグナルを細胞内で伝達する役割を果たしているのではないかと推定された。 | |||
2000年になり、low density lipoprotein receptor-related protein 8 (LRP8またはApoER2)とvery low density lipoprotein receptor(VLDLR)のダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになることが明らかになり、さらに生化学的結合実験により、ApoER2とVLDLRがReelinのレセプターであることが示された。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はReelinシグナルをApoER2、VLDLRを介して受け取る事が示唆された。 | |||
また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させたノックインマウスが、リーラーフェノタイプになる事が示された。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。 | |||
2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までにPI3K、SOCS3、Nckbeta、Lis1、SFKs、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうちCrkとCrkLダブルノックアウトマウス、C3Gのジーントラップ系統マウス、及びSrcとFynのダブルノックアウトマウスにおいてリーラフェノタイプが報告されている。 | |||
2004年には、dab1欠損マウスの海馬歯状回の顆粒細胞の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること、dab1欠損マウス由来の培養海馬神経細胞の樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少することが報告された。また、2006年、Dab1のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること、生後三日目からdab1を時期特異的にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害されることが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、神経細胞の樹状突起の発達にも関与することが示唆された。 | |||
2011年から現在にかけて、これまでの観察で培養神経細胞をReelin刺激するとDab1を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化することが報告されていたことから、神経細胞移動においてもその機能が調べられ、Rap1のエフェクター分子としてN-cadherinとIntegrinがそれぞれ神経細胞のロコモーションとターミナルトランスロケーションの過程に関与している可能性が示された。また、Reelinにより、ゴルジ体の樹状突起へのトランスロケーションが促進されこれはStk25-LKB1によって、拮抗的に制御されていることが報告された。 | |||
== 分子構造 == | == 分子構造 == | ||
マウスではオルタナティブスプライシングにより13種のバリアントが存在することが報告されているが、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している。Dab1 (Dab1 555)はN末端側からPhosphotyrosine-binding (PTB) domain、チロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。この結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインにはplekstrin homology (PH)ドメイン様構造が含まれており、リン脂質(PtdIns4P and PtdIns4,5P2)に結合することが出来る。また、PTBドメインのN末端側には核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)、PTBドメインのC末端側に二つの核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 興奮性神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つが、YQXIとYXVP配列の間では冗長性を持たない。 | |||
ユビキチン化により、分解される。 | |||
== 結合タンパク質 == | |||
Reelin刺激依存的にチロシンリン酸化されたDab1に結合する分子としてPI3K、SOCS3、Nckbeta、Lis1、SFKs、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)、が知られている。Dab1のチロシンリン酸化とは関係なく、あるいは関係がわかっていなく、Dab1に結合する分子として、Notch、Dab2IP、mPcdh18、APP、APLP1、 APLP2、N-WASPが知られている。 | |||
表を作る検出方法とリン酸化の必要の有無 | |||
== サブファミリー == | |||
ほ乳類ではDab2が存在しており、細胞表面分子のターンオーバー、エンドサイトーシス等に関与していることが知られている。 | |||
== 発現分布 == | == 発現分布 == | ||
BGEM | |||
http://www.stjudebgem.org/web/view/probe/viewProbeDetails.php?id=1 | |||
ALLEN | |||
http://developingmouse.brain-map.org/data/search/gene/index.html?term=dab1 | |||
== 機能 == | == 機能 == | ||
前述の通り、dab1のノックアウトマウス及び、自然変異マウスで、大脳新皮質、海馬、小脳、脊髄等の神経細胞移動が障害されていることから、Dab1は神経細胞移動において大変重要な役割を行ってると考えられている。他の組織・臓器における機能についてはいくつか報告があるのみで、あまりよくわかっていない。 | |||
===大脳新皮質における機能=== | |||
大脳新皮質のニューロンは脳室帯で誕生後、脳の表面方向に移動し、最初期に誕生したニューロンで形成されるプレプレートと呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これを辺縁帯とサブプレートと呼ばれる二つの層に分離する。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終分化を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早いニューロンに追い越されより脳の表層側に配置されるようになる。この配置パターンは“インサイドアウト”と呼ばれ、ほ乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な細胞構築様式である。 | |||
Dab1欠損マウスでは神経細胞は正常に産生されるが、プレプレートのスプリッティングが起こらず、誕生したニューロンは脳表面から順番に深層に積み重なって行き、異常な層構造を形成するようになる。この変異は1951年、Falconarによって最初に報告されたreelerマウスで見られる脳の層構造異常と全く同一な表現型であった(リーラーフェノタイプ)。 | |||
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Dab1ノックアウトマウスやDab1変異マウス等では神経細胞の移動が障害されているが、これが細胞内在的な原因で起ったのか、あるいは細胞外因性の原因によって起ったのかを区別する為に、野生型Dab1を持つ細胞とDab1を欠損した細胞のキメラマウスが作成された。その結果、野生型のDab1を持つ細胞群がDab1を欠損した細胞群の上に配置されるような大脳新皮質が形成され、Dab1の欠損は細胞内細胞内因性の障害によって起っていることが示唆された。また、dab1を欠損したyotariマウスにdab1をin utero エレクトロポレーション(electroporation)法により、導入してやることにより、Dab1をレスキューした場合においても | |||
さらに、in utero エレクトロポレーション(electroporation)法により、移動中のニューロンのDab1をsiRNAによりノックダウンした実験では、ニューロンが移動途中で移動を障害されることなく、脳表面まで到達するが、辺縁帯まで到達する際に行われるターミナルトランスケーションと呼ばれる過程が阻害されており、さらに、移動終了後に起る樹状突起形成も阻害されていた。 | |||
大脳新皮質の興奮性神経細胞は脳室帯(ventricular zone)で誕生し、脳室下帯(subventricular zone)の直上で多極性の形態(多極性細胞)をとりしばらく停滞した後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面に移動する(ロコモーション)。脳表面付近ではニューロンはリーディングプロセスと呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる特殊な移動を行う。これまでの研究でDab1はロコモーション(locomotion)とターミナルトランスロケーション(terminal translocation)両方の過程に関与しており、さらに、前者ではN-cadherinを、後者ではa5b1インテグリンを介してその機能を発揮していることが示唆されている。 | |||
大脳新皮質神経細胞移動ではReelin刺激により、Dab1のチロシンリン酸化が起こり、ここにCrkを介するC3Gの活性化、Rap1の活性化が起こることが培養細胞を用いた実験知られていた。実際にRap1の不活性化因子であるRap1GAPを強制発現させると、神経細胞の移動が障害され、皮質板に侵入する神経細胞の割合が減少する。Rap1はN-cadherinの細胞内から細胞表面への輸送に関わっていることが知られていたことから、Rap1GAPとN-cadherinを同時に発現させた所、Rap1GAPによる神経細胞の移動障害が抑制されることが示唆された。この結果により、間接的ではあるが、Reelin-Dab1シグナルがRap1を介してN-cadherinの細胞表面への輸送制御を行うことにより、神経細胞移動を制御している可能性が示唆された。 | |||
さらに、dab1、Crk・CrkLのノックダウン、C3Gのドミナントネガティブ体の強制発現がターミナルトランスロケーションを障害することから、 | |||
これまでにReelin刺激により活性化されたDab1はN-cadherinの細胞膜への輸送を促進することにより、神経細胞の | |||
dab1キメラマウス及び、ノックダウン実験等により、Dab1の機能について様々な仮説が提唱されている。Hammondらは、Dab1ノックアウトマウス由来の胚盤胞に野生型Dab1をインジェクションして得られたキメラマウスを解析した。その結果、野生型Dab1を持つニューロン群がDab1を持たないニューロン群の上に層を作り、スーパープレートと呼ばれる構造を作ることが示された。 | |||
発生中の神経細胞でReelinシグナルを細胞内で伝達していると考えられるが、 | |||
自然発症変異マウス及び、ノックアウトマウス | 自然発症変異マウス及び、ノックアウトマウス | ||
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== 関連語== | |||
Reelin, ApoER2, VLDLR | Reelin, ApoER2, VLDLR | ||
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(執筆者:本田岳夫、仲嶋一範、担当編集委員:大隅典子) | (執筆者:本田岳夫、仲嶋一範、担当編集委員:大隅典子) | ||
前述の通り、dab1のノックアウトマウス及び、自然変異マウスで、大脳新皮質、海馬、小脳、脊髄の神経細胞移動が障害されていることから、神経細胞移動において大変重要な役割を行っていることが示されている。Dab1の機能の全体像はまだ明らかではないが、大脳新皮質に於ける放射状移動を行う興奮性神経細胞の移動過程に於けるDab1の役割については、徐々に明らかになって来ている |
2013年1月11日 (金) 16:23時点における版
英語名:Disabled-1、英略語:Dab1
要約
歴史的推移
1997年、チロシンキナーゼSrcに結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、mouse disabled-1 homologue 1 (mDab1)(Drosophilaで同定されていたdisabled-1遺伝子と相同性があった為命名)が同定された。mDab1は N末端領域にPTBドメインを持つアダプタータンパク質で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった。dab1ノックアウトマウスが作成されたこと、及び自然発症変異マウスyotari, scramblerの原因遺伝子がdab1であることが明らかになったことにより、dab1が大脳新皮質、海馬、小脳、脳幹の神経核等における神経細胞を正しい位置に配置するのに必須の遺伝子であることが明らかになった。またDab1欠損・変異マウスの表現型が、1951年に報告され、その原因遺伝子reelinが1995年に明らかにされた、リーラー(reeler)マウスの表現型(リーラーフェノタイプ)と酷似していたことから、ReelinとDab1の関連が示唆された。実際、reelerマウスでは、(1)Dab1のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、(2)Reelinは脳表層に分布するCajal-Retzius細胞に発現が観察され、Dab1は神経細胞に発現が観察され、相補的な関係になっていること、(3)Reelin刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること等から、Dab1はReelinシグナルを細胞内で伝達する役割を果たしているのではないかと推定された。
2000年になり、low density lipoprotein receptor-related protein 8 (LRP8またはApoER2)とvery low density lipoprotein receptor(VLDLR)のダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになることが明らかになり、さらに生化学的結合実験により、ApoER2とVLDLRがReelinのレセプターであることが示された。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はReelinシグナルをApoER2、VLDLRを介して受け取る事が示唆された。 また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させたノックインマウスが、リーラーフェノタイプになる事が示された。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。
2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までにPI3K、SOCS3、Nckbeta、Lis1、SFKs、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうちCrkとCrkLダブルノックアウトマウス、C3Gのジーントラップ系統マウス、及びSrcとFynのダブルノックアウトマウスにおいてリーラフェノタイプが報告されている。
2004年には、dab1欠損マウスの海馬歯状回の顆粒細胞の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること、dab1欠損マウス由来の培養海馬神経細胞の樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少することが報告された。また、2006年、Dab1のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること、生後三日目からdab1を時期特異的にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害されることが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、神経細胞の樹状突起の発達にも関与することが示唆された。
2011年から現在にかけて、これまでの観察で培養神経細胞をReelin刺激するとDab1を介してCrk-C3G-Rap1パスウェイを活性化することが報告されていたことから、神経細胞移動においてもその機能が調べられ、Rap1のエフェクター分子としてN-cadherinとIntegrinがそれぞれ神経細胞のロコモーションとターミナルトランスロケーションの過程に関与している可能性が示された。また、Reelinにより、ゴルジ体の樹状突起へのトランスロケーションが促進されこれはStk25-LKB1によって、拮抗的に制御されていることが報告された。
分子構造
マウスではオルタナティブスプライシングにより13種のバリアントが存在することが報告されているが、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している。Dab1 (Dab1 555)はN末端側からPhosphotyrosine-binding (PTB) domain、チロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。この結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインにはplekstrin homology (PH)ドメイン様構造が含まれており、リン脂質(PtdIns4P and PtdIns4,5P2)に結合することが出来る。また、PTBドメインのN末端側には核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)、PTBドメインのC末端側に二つの核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 興奮性神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つが、YQXIとYXVP配列の間では冗長性を持たない。 ユビキチン化により、分解される。
結合タンパク質
Reelin刺激依存的にチロシンリン酸化されたDab1に結合する分子としてPI3K、SOCS3、Nckbeta、Lis1、SFKs、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)、が知られている。Dab1のチロシンリン酸化とは関係なく、あるいは関係がわかっていなく、Dab1に結合する分子として、Notch、Dab2IP、mPcdh18、APP、APLP1、 APLP2、N-WASPが知られている。
表を作る検出方法とリン酸化の必要の有無
サブファミリー
ほ乳類ではDab2が存在しており、細胞表面分子のターンオーバー、エンドサイトーシス等に関与していることが知られている。
発現分布
BGEM http://www.stjudebgem.org/web/view/probe/viewProbeDetails.php?id=1
ALLEN http://developingmouse.brain-map.org/data/search/gene/index.html?term=dab1
機能
前述の通り、dab1のノックアウトマウス及び、自然変異マウスで、大脳新皮質、海馬、小脳、脊髄等の神経細胞移動が障害されていることから、Dab1は神経細胞移動において大変重要な役割を行ってると考えられている。他の組織・臓器における機能についてはいくつか報告があるのみで、あまりよくわかっていない。
大脳新皮質における機能
大脳新皮質のニューロンは脳室帯で誕生後、脳の表面方向に移動し、最初期に誕生したニューロンで形成されるプレプレートと呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これを辺縁帯とサブプレートと呼ばれる二つの層に分離する。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終分化を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早いニューロンに追い越されより脳の表層側に配置されるようになる。この配置パターンは“インサイドアウト”と呼ばれ、ほ乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な細胞構築様式である。
Dab1欠損マウスでは神経細胞は正常に産生されるが、プレプレートのスプリッティングが起こらず、誕生したニューロンは脳表面から順番に深層に積み重なって行き、異常な層構造を形成するようになる。この変異は1951年、Falconarによって最初に報告されたreelerマウスで見られる脳の層構造異常と全く同一な表現型であった(リーラーフェノタイプ)。 。 Dab1ノックアウトマウスやDab1変異マウス等では神経細胞の移動が障害されているが、これが細胞内在的な原因で起ったのか、あるいは細胞外因性の原因によって起ったのかを区別する為に、野生型Dab1を持つ細胞とDab1を欠損した細胞のキメラマウスが作成された。その結果、野生型のDab1を持つ細胞群がDab1を欠損した細胞群の上に配置されるような大脳新皮質が形成され、Dab1の欠損は細胞内細胞内因性の障害によって起っていることが示唆された。また、dab1を欠損したyotariマウスにdab1をin utero エレクトロポレーション(electroporation)法により、導入してやることにより、Dab1をレスキューした場合においても さらに、in utero エレクトロポレーション(electroporation)法により、移動中のニューロンのDab1をsiRNAによりノックダウンした実験では、ニューロンが移動途中で移動を障害されることなく、脳表面まで到達するが、辺縁帯まで到達する際に行われるターミナルトランスケーションと呼ばれる過程が阻害されており、さらに、移動終了後に起る樹状突起形成も阻害されていた。 大脳新皮質の興奮性神経細胞は脳室帯(ventricular zone)で誕生し、脳室下帯(subventricular zone)の直上で多極性の形態(多極性細胞)をとりしばらく停滞した後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面に移動する(ロコモーション)。脳表面付近ではニューロンはリーディングプロセスと呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる特殊な移動を行う。これまでの研究でDab1はロコモーション(locomotion)とターミナルトランスロケーション(terminal translocation)両方の過程に関与しており、さらに、前者ではN-cadherinを、後者ではa5b1インテグリンを介してその機能を発揮していることが示唆されている。 大脳新皮質神経細胞移動ではReelin刺激により、Dab1のチロシンリン酸化が起こり、ここにCrkを介するC3Gの活性化、Rap1の活性化が起こることが培養細胞を用いた実験知られていた。実際にRap1の不活性化因子であるRap1GAPを強制発現させると、神経細胞の移動が障害され、皮質板に侵入する神経細胞の割合が減少する。Rap1はN-cadherinの細胞内から細胞表面への輸送に関わっていることが知られていたことから、Rap1GAPとN-cadherinを同時に発現させた所、Rap1GAPによる神経細胞の移動障害が抑制されることが示唆された。この結果により、間接的ではあるが、Reelin-Dab1シグナルがRap1を介してN-cadherinの細胞表面への輸送制御を行うことにより、神経細胞移動を制御している可能性が示唆された。 さらに、dab1、Crk・CrkLのノックダウン、C3Gのドミナントネガティブ体の強制発現がターミナルトランスロケーションを障害することから、 これまでにReelin刺激により活性化されたDab1はN-cadherinの細胞膜への輸送を促進することにより、神経細胞の dab1キメラマウス及び、ノックダウン実験等により、Dab1の機能について様々な仮説が提唱されている。Hammondらは、Dab1ノックアウトマウス由来の胚盤胞に野生型Dab1をインジェクションして得られたキメラマウスを解析した。その結果、野生型Dab1を持つニューロン群がDab1を持たないニューロン群の上に層を作り、スーパープレートと呼ばれる構造を作ることが示された。
発生中の神経細胞でReelinシグナルを細胞内で伝達していると考えられるが、
自然発症変異マウス及び、ノックアウトマウス
5Fノックイン
キメラ
レスキュー
関連語
Reelin, ApoER2, VLDLR
参考文献
(執筆者:本田岳夫、仲嶋一範、担当編集委員:大隅典子)
前述の通り、dab1のノックアウトマウス及び、自然変異マウスで、大脳新皮質、海馬、小脳、脊髄の神経細胞移動が障害されていることから、神経細胞移動において大変重要な役割を行っていることが示されている。Dab1の機能の全体像はまだ明らかではないが、大脳新皮質に於ける放射状移動を行う興奮性神経細胞の移動過程に於けるDab1の役割については、徐々に明らかになって来ている