「皮質板」の版間の差分

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== 皮質板形成の流れ  ==
== 皮質板形成の流れ  ==


 初期の神経管では神経上皮細胞(neuroepithelial cell)が側脳室(lateral ventricle)の拡大に伴って脳室面(ventricular surface)において対称分裂を繰り返して増殖しているが、神経細胞の産生が始まる時期になると放射状グリア細胞(radial glial cells)が現れ、これが非対称分裂を行って自身と神経細胞を産生する。(つまり、放射状グリア細胞は神経幹細胞neural stem cellsである。)産生された神経細胞(主にグルタミン酸作動性神経細胞、ヒトではGABA作動性神経細胞の一部も含むとされる)は脳室面から中間層(intermediate zone)を通って皮質の表面に向かって放射状に移動する(radial migration)。最初に産生される神経細胞は脳室帯に重層するプレプレート(preplate、原子網状層primordial plexiform zone)を形成する。その後に産生された神経細胞が同様に法線方向に移動してプレプレートに侵入すると、プレプレートは上層の辺縁帯と下層のサブプレートに分かれ、移動してきた神経細胞はこれら2層の間で皮質板を形成する。その後も神経細胞の産生は続くが、皮質板内では、早く産生された神経細胞がより下層(深層)を占め、後から産生された神経細胞はすでに皮質板内に存在する神経細胞を追い抜いてより上層(浅層)に分布する(インサイドアウト・パターン)ので、分化した神経細胞としては、最初は将来VI層になる細胞だけが存在し、次第により浅層の神経細胞が加わって厚みを増していく。ただし、よくある大脳皮質の発達のモデル図にはあまり描かれていないが、大脳皮質の形成期にはサブプレートと成熟した神経細胞の間に、移動中の未成熟な細胞のかなり厚い層が存在している<<Sekine 2011>&gt21697392 ;。また発生後期には神経細胞の産生が終わり、アストロサイト(astrocyte、アストログリアastroglia、星状膠細胞)が産生され、やはり法線方向に移動して皮質板に加わる。  
 初期の神経管では神経上皮細胞(neuroepithelial cell)が側脳室(lateral ventricle)の拡大に伴って脳室面(ventricular surface)において対称分裂を繰り返して増殖しているが、神経細胞の産生が始まる時期になると放射状グリア細胞(radial glial cells)が現れ、これが非対称分裂を行って自身と神経細胞を産生する。(つまり、放射状グリア細胞は神経幹細胞neural stem cellsである。)産生された神経細胞(主にグルタミン酸作動性神経細胞、ヒトではGABA作動性神経細胞の一部も含むとされる)は脳室面から中間層(intermediate zone)を通って皮質の表面に向かって放射状に移動する(radial migration)。最初に産生される神経細胞は脳室帯に重層するプレプレート(preplate、原子網状層primordial plexiform zone)を形成する。その後に産生された神経細胞が同様に法線方向に移動してプレプレートに侵入すると、プレプレートは上層の辺縁帯と下層のサブプレートに分かれ、移動してきた神経細胞はこれら2層の間で皮質板を形成する。その後も神経細胞の産生は続くが、皮質板内では、早く産生された神経細胞がより下層(深層)を占め、後から産生された神経細胞はすでに皮質板内に存在する神経細胞を追い抜いてより上層(浅層)に分布する(インサイドアウト・パターン)ので、分化した神経細胞としては、最初は将来VI層になる細胞だけが存在し、次第により浅層の神経細胞が加わって厚みを増していく。ただし、よくある大脳皮質の発達のモデル図にはあまり描かれていないが、大脳皮質の形成期にはサブプレートと成熟した神経細胞の間に、移動中の未成熟な細胞のかなり厚い層が存在している<ref name=Sekine><pubmed>21697392</pubmed></ref>。また発生後期には神経細胞の産生が終わり、アストロサイト(astrocyte、アストログリアastroglia、星状膠細胞)が産生され、やはり法線方向に移動して皮質板に加わる。  


== 法線方向の細胞移動と層構造の形成  ==
== 法線方向の細胞移動と層構造の形成  ==


 法線方向の細胞移動に関しては、放射状グリア細胞が重要な役割を果たしている。放射状グリア細胞は神経幹細胞として神経細胞(およびアストロサイト)を産生すると同時に、脳室帯にある細胞体から皮質表面の辺縁帯にまで届く放射状グリア線維(radial glial fiber)を伸ばしており、産生された神経細胞はこの線維を伝って法線方向に移動する(glia-guided locomotion)。脳室帯で産生された神経細胞は中間層では多極性の形態を示すが、突起の一つで放射状グリア線維を掴むと双極性に形態を変化させ、線維を伝って皮質板へと移動する。皮質板では先に到着している神経細胞を追い越し、その時点での皮質板の最上層に到達すると線維から離れ、terminal translocationにより最終的な分布位置に移動する。皮質板の最上層には成熟しきっていないNeuN陰性の神経細胞の層(PCZ, primitive cortical zone &lt;&lt;Sekine 2011&gt;&gt;)があり、放射状グリア線維を辿ってきた神経細胞はPCZに入る直前で一旦停止し、leading process(radial migrationを始める際に放射状グリア線維を掴んだ突起)の先端に発現するインテグリンが辺縁帯の細胞外マトリクス中のフィブロネクチンと結合すると、放射状グリア線維から離れてterminal translocationによりPCZ内に入り&lt;&lt;Sekine 2012&gt;&gt23083738 ;、最終的な分化のステップを経て各層に特徴的な形態と遺伝子発現を獲得する。PCZ内へ進入する際に、すでに分化を終えた早生まれの神経細胞よりも上層に出るので、結果としてインサイドアウト・パターンが形成される。  
 法線方向の細胞移動に関しては、放射状グリア細胞が重要な役割を果たしている。放射状グリア細胞は神経幹細胞として神経細胞(およびアストロサイト)を産生すると同時に、脳室帯にある細胞体から皮質表面の辺縁帯にまで届く放射状グリア線維(radial glial fiber)を伸ばしており、産生された神経細胞はこの線維を伝って法線方向に移動する(glia-guided locomotion)。脳室帯で産生された神経細胞は中間層では多極性の形態を示すが、突起の一つで放射状グリア線維を掴むと双極性に形態を変化させ、線維を伝って皮質板へと移動する。皮質板では先に到着している神経細胞を追い越し、その時点での皮質板の最上層に到達すると線維から離れ、terminal translocationにより最終的な分布位置に移動する。皮質板の最上層には成熟しきっていないNeuN陰性の神経細胞の層(PCZ, primitive cortical zone &lt;&lt;Sekine 2011&gt;&gt;)があり、放射状グリア線維を辿ってきた神経細胞はPCZに入る直前で一旦停止し、leading process(radial migrationを始める際に放射状グリア線維を掴んだ突起)の先端に発現するインテグリンが辺縁帯の細胞外マトリクス中のフィブロネクチンと結合すると、放射状グリア線維から離れてterminal translocationによりPCZ内に入り<ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>、最終的な分化のステップを経て各層に特徴的な形態と遺伝子発現を獲得する。PCZ内へ進入する際に、すでに分化を終えた早生まれの神経細胞よりも上層に出るので、結果としてインサイドアウト・パターンが形成される。  


== 層構造形成の分子機構  ==
== 層構造形成の分子機構  ==
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