「カリウムチャネル」の版間の差分
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+カリウムチャネルのクラス、機能、薬理学<ref | |+カリウムチャネルのクラス、機能、薬理学<ref><pubmed>16382103</pubmed><ref><pubmed>16382104</pubmed><ref><pubmed>16382105</pubmed><ref><pubmed>16382106</pubmed> | ||
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!活性化薬(EC<sub>50</sub>) | !活性化薬(EC<sub>50</sub>) | ||
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|rowspan= | |rowspan=19 | [[電位依存性カリウムチャネル]] <br /> 6[[transmembrane helix|T]] & 1[[pore-forming loop|P]] | ||
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Kv1.1-1.3 | |||
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KCNA1-3 | |||
|rowspan=6 |Shaker-related | |||
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Kvb | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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神経細胞、骨格筋細胞における興奮性の制御(遅延性整流性カリウム電流 Kv1.2) | |||
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4-Aminopyridine(< mM), TEA(0.3 mM)(Kv1.1) | |||
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Kv1.4 | |||
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KCNA4 | |||
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Kvb | |||
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脱分極によって活性化、早い不活性化(A-type) | |||
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A-type電流、神経細胞における脱分極後過分極AHP | |||
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4-Aminopyridine(13 µM), TEA(>100 mM) | |||
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Kv1.5 | |||
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KCNA5 | |||
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Kvb | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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心臓におけるIKur | |||
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quinidine(0.6 µM), propafenone(4.4 µM), 4-Aminopyridine(270 µM), TEA(330 mM) | |||
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Kv1.6 | |||
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KCNA6 | |||
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Kvb | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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神経細胞における膜電位の制御 | |||
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a-dendrotoxin(20 nM), 4-Aminopyridine(1.5 mM), TEA(7 mM) | |||
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Kv1.7 | |||
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KCNA7 | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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心臓におけるIKur | |||
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flecainide(8 µM), quinidine(15 µM), verapamil(16 µM), amiodarone(35 µM), 4-Aminopyridine(150 µM), TEA(150 mM) | |||
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Kv1.8 | |||
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KCNA10 | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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腎近位尿細管における膜電位の制御 | |||
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Ba<sup>2+</sup>(5 mM), charybdotoxin(100 nM), 4-Aminopyridine(1.5 mM), TEA(50 mM) | |||
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Kv2.1, 2.2 | |||
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KCNB1,2 | |||
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Shab-related | |||
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Kv5,6,8,9, KChaP | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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神経細胞、骨格筋細胞における興奮性の制御 | |||
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Hanatoxin(42 nM)(Kv2.1), 細胞内TEA, 細胞外TEA(2.6 mM)(Kv2.2), 4-Aminopyridine(18 mM for Kv2.1; 1.5 mM for Kv2.2) | |||
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Kv3.1, 3.2 | |||
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KCNC1,2 | |||
|rowspan=2 |Shaw-related | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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神経細胞の高頻度発火、fast spiking | |||
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4-Aminopyridine(29 µM for Kv3.1; 0.1 mM for Kv3.2), TEA(0.2 mM for Kv3.1; 0.1 mM for Kv3.2) | |||
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Kv3.3, 3.4 | |||
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KCNC3,4 | |||
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脱分極によって活性化、早い不活性化(A-type) | |||
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書く | |||
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4-Aminopyridine(1.2 mM for Kv3.3), TEA(0.14 mM for Kv3.3; 0.3 mM for Kv3.4) | |||
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Kv4.1-4.3 | |||
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KCND1-3 | |||
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Shal-related | |||
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KChiP1, KChiPs, DPPX, DPP10(Kv4.2) | |||
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脱分極によって活性化、早い不活性化(A-type) | |||
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心臓におけるIto(Kv4.2/Kv4.3/KChiP2)、神経細胞の細胞体におけるISA | |||
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4-Aminopyridine(9 mM for Kv4.1; 5 mM for Kv4.2), TEA(>10 mM for Kv4.1) | |||
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Kv5.1 | |||
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KCNF1 | |||
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modifier | |||
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Kv2 familyのmodifier | |||
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Kv6.1-6.4 | |||
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KCNG1-4 | |||
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modifiers | |||
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Kv2 familyのmodifiers | |||
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Kv7.1 | |||
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KCNQ1 | |||
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KVLQT, KQT | |||
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KCNE1-3 | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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活動電位の再分極、心臓におけるIKs電流(Kv7.1(KCNQ1)/KCNE1)、LQT1の原因遺伝子 | |||
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Chlomanol 298B(1 µM)(Kv7.1) | |||
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Kv7.2-7.5 | |||
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KCNQ2-5 | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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神経細胞におけるM電流(Kv7.2/7.3, Kv7.5)、内耳機能(Kv7.4) | |||
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Retigabine(10 µM for Kv7.2; 0.6 µM for Kv7.3; 1 µM for Kv7.4; 1.4 µM for Kv7.3/Kv7.5) | |||
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Kv8.1-8.2 | |||
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KCNV1-2 | |||
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modifiers | |||
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Kv2 familyのmodifiers | |||
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Kv9.1-9.3 | |||
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KCNS1-3 | |||
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modifiers | |||
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Kv2 familyのmodifiers | |||
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Kv10.1, 10.2 | |||
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KCNH1, 5 | |||
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eag | |||
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脱分極によって活性化、遅延性整流性 | |||
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quinidine(1.4 µM for Kv10.4) | |||
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Kv11.1-11.3 | |||
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KCNH2,6,7 | |||
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erg | |||
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minK, KCNE2(Kv11.1) | |||
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脱分極によって活性化、早い不活性化機構(C-type)による内向き整流性 | |||
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活動電位の再分極、心臓におけるIKr電流、LQT2の原因遺伝子、薬物誘発性不整脈の分子機構(Kv11.1) | |||
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astemizol(1 nM for Kv11.1), dofetilide(15-35 nM for Kv11.1), sertindole(3 nM for Kv11.1; 43 nM for Kv11.3) | |||
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|- | |||
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Kv12.1-12.3 | |||
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KCNH8,3,4 | |||
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elk | |||
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|rowspan=5 | [[カルシウム活性化カリウムチャネル] <br /> 6[[transmembrane helix|T]] & 1[[pore-forming loop|P]] | |||
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K<sub>Ca</sub>1.1 | K<sub>Ca</sub>1.1 | ||
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|- | |- | ||
|rowspan=8 | [[ | |rowspan=8 | [[内向き整流性カリウムチャネル]] <br /> 2[[transmembrane helix|T]] & 1[[pore-forming loop|P]] | ||
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K<sub>ir</sub>1.1 | K<sub>ir</sub>1.1 | ||
292行目: | 559行目: | ||
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|rowspan=18 | [[ | |rowspan=18 | [[Two-pore domainカリウムチャネル]] <br /> 4[[transmembrane helix|T]] & 2[[pore-forming loop|P]] | ||
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K<sub>2P</sub>1.1 | K<sub>2P</sub>1.1 | ||
531行目: | 798行目: | ||
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静止膜電位形成への関与 | 静止膜電位形成への関与 | ||
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2013年8月20日 (火) 11:35時点における版
英:potassium channel、英略語:K+ channel 独:Kaliumkanal 仏:canal potassique
カリウムチャネルはカリウムイオンを選択的に透過させるイオンチャネルである。静止膜電位の形成や電気的な細胞応答、シナプス伝達やカリウム濃度の恒常性維持に関わっている。100種類以上の遺伝子群から構成されているが、六回膜貫通型の「電位依存性カリウムチャネル」と「カルシウム活性化カリウムチャネル」、二回膜貫通型の「内向き整流性カリウムチャネル」、四回膜貫通型の「Two-pore domainカリウムチャネル」に大別される。
カリウムチャネルとは
カリウムチャネルはカリウムイオンを選択的に透過させるイオンチャネルである。静止膜電位の形成や電気的な細胞応答、シナプス伝達やカリウム濃度の恒常性維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央部分にカリウムを通す小孔(ポア)が開くようになっている。電気生理学的特性やαサブユニットの膜貫通領域の構造の違いにより、六回膜貫通型の「電位依存性カリウムチャネル」と「カルシウム活性化カリウムチャネル」、二回膜貫通型の「内向き整流性カリウムチャネル」、四回膜貫通型の「Two-pore domainカリウムチャネル」に大別される。イオン透過経路を構成するαサブユニットと電流特性や膜発現量を制御するβサブユニットあわせると100種類以上の遺伝子群から構成されており、これら豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、さらにβサブユニットとの複合体形成がカリウムチャネルの多様性の実体的理由である。イオンチャネルの中で、電気生理学的な解析、生化学・構造生物学的な解析が最も行われているのがカリウムチャネルであり、イオンチャネルの分子機構に関する極めて重要な研究成果がカリウムチャネルを用いた研究から得られている。
基本的分子機能と構造
細胞は脂質二重膜に囲まれているため、荷電したイオンは自由に細胞に出入りすることは出来ない。そこで細胞はイオンを通すための小孔(ポア)を膜に持っている。電気化学ポテンシャルを駆動力として、カリウムイオン(K+)の選択的な膜透過をつかさどるタンパク質がカリウムチャネルである[1][2]。従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つカリウムチャネルの存在が明らかにされてきた。しかしそれらに共通する機能として、生体膜のエネルギー障壁(ボルンエネルギー)を克服しカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。また、多くは小孔の開閉を制御する特徴的なゲート機能を備えている。
二次構造
ほとんどのカリウムチャネルはポアドメイン形成に関わるタンパク質(αサブユニット)が4つ一組になって働く。カリウムチャネルのαサブユニットの二次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルが含まれる六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルが含まれる二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜貫通領域(セグメント)のS5とS6(2TM型ではTM1とTM2)はカリウムイオンを透過させるためのポアドメインを構成する。またこの二つの膜貫通領域間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたシグネチャ配列(signature sequence, 選択的特異配列とも; TXTTVGYG, 特にGYGまたはGFGはよく保存されている)を含むP領域が存在し、ここはイオン選択フィルター機能に関わる。一方、S1-S4で構成される領域は電位センサーとして機能し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内Ca2+によって活性化されるカリウムチャネルも存在する。2TMの内向き整流性カリウムチャネルは6TM型の電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、代わりに大きな細胞内領域をもつ。また、2TM及びP領域がサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のカリウムチャネルも存在する。このαサブユニットは二量体を形成しイオンチャネルとして機能する。ポアドメインを構成する領域を分子内に2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメイン(tandem pore domain)チャネルと呼ばれる。
結晶構造
カリウムチャネルの結晶化とその構造解析が進んでいる。1998年の原核生物由来の2TM型カリウムチャネルKcsAのX線構造解析に始まり(図1,2)[3]、Ca依存的/活性化カリウムチャネル(MthK, hBK)、電位依存性カリウムチャネル(KvAP, Kv1.2-Kv2.1 paddle chimera channel)、Kirチャネル(KirBac、Kir2、Kir3)、K2Pチャネル(TRAAK、TWIK-1)と原核生物に留まらず近年では真核生物のカリウムチャネルの構造も相次いで報告されている。共通の性質として(図2)、①2つの膜貫通領域から水性のポアが形成される、②P領域がポアヘリックスとイオン選択フィルターを形成し、シグネチャ配列がイオン選択性フィルターの一部を形成し、それは細胞膜の中心から外側にかけて存在する、③イオン選択フィルターの細胞内側に中心腔(central cavity)とよばれる水性の空間が存在する、④ポアヘリックスが4対称軸の中心に向いておりC末側が中心腔に到達している、ことなどがあげられる。これらの水性ポアドメインの構造に関わる共通点から、カリウムチャネルの選択イオン透過機能に関わる立体構造はほぼ等価であるといえる。
選択的イオン透過機能を支える構造基盤
イオンチャネルの電気生理学的な解析によって、単一チャネル電流を定量的に記録することが可能である。この方法によって単一のイオンチャネルを透過するイオンの速度を見積もることが出来る。この実験から、カリウムチャネルではK+イオンがNa+イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている(一価陽イオンの選択性序列は K+>Rb+>Cs+>Na+>Li+。これはEisenman IV型であり、イオン選択フィルターがやや弱い静電場をもつことを示唆する)。しかも、開いた小孔を電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の、1秒間に数百万個ものイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりカリウムチャネルは極めて高いイオン選択性と非常に早いイオン透過速度という一見相容れない特性を両立する。
特定のイオンを透過させる機構としては大きさによる分子フィルター機構がまず考えられる。しかしながら、イオン半径では、Na+(イオン半径r=0.95 Å)はK+(r=1.33 Å)はよりも小さく、なぜK+を透過してNa+を透過させないのか説明がつかない。カリウムチャネルのこのカリウム選択的透過機構はこのチャネルがもつ小孔の最も狭い領域、イオン選択フィルターの構造に関係がある[3][4]。イオンは水分子と相互作用(水和)した状態で水に溶けている(図3a)。イオンチャネルの細いフィルター内に入る際に、イオンは水分子との相互作用をフィルターを形成するアミノ酸の酸素原子を含むカルボニル基との相互作用に置き換える(図3a, b)。小孔の大きさがK+イオンに適切であり、K+イオンは4つサブユニットのカルボニル基から均等に作用を受け、安定な8水和様構造をとり安定する(図3a, c)[5][6]。一方、Na+イオンはイオン半径が小さくK+イオンのようには相互作用が出来ず(図3a)、K+イオンに比べ不安定に存在する。このような違いがK+イオンの選択的な透過に寄与していると考えられている。この機構は最適合close-fit説とよばれる。
カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK+イオン結合部位が認められる(図3b)。しかし近接した結合部位にK+イオンが同時に結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位を細胞外側から1-4サイトとすると、K+イオンとチャネルの結合には[1,3]サイトに結合した状態と[2,4]サイトに結合した状態があると考えられる(図3c)。また、フィルター内に複数のイオンが同時に入ることによってイオン間に静電気的反発力が発生し、玉突き状態になることが早いイオン透過に寄与していると考えられている[7]。
イオンは膜を透過しようとするとボルンエネルギーというエネルギー障壁を超える必要がある。小孔はそのボルンエネルギーを低くする役目がある。もし小孔が均一な内径の形状であるとすると、ボルンエネルギーは均一に低下し、ボルンエネルギーの極大値は膜の中央部分にくる。結晶構造で存在が知られたイオンチャネルの内腔は大量の水分子で満たされている(図2)。またポアヘリックスがそのC末端側を中心腔の内部に向けていることで、αヘリックスの双極子モーメントが空洞内に陽イオンが留まりやすい環境を作り出す。こういった中心腔の存在により、本来ボルンエネルギーの高いはずの膜中央部でイオンは水和して安定に存在できる。一方で、イオン透過経路を形成するチャネル壁は疎水性の残基で裏打ちされている。これにより水和したイオンはイオン壁と強い相互作用をすることなく、言い換えればポテンシャルの谷間に落ち込んで出られなくなることなく、細胞質からイオン選択フィルターまでの早いイオン流を確保している。生理的な実験とこれまでに述べたようなイオン透過経路の構造から、膜にかけられた外部電位によるポア内電場のおよそ80%は選択フィルターで生じていると推測される(図2)。
カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオンチャネルの本質的特徴の一つである選択的イオン透過機構の謎を解明したロデリック・マッキノンは2003年ノーベル化学賞を受賞している。
分子機構と構造による分類
各カリウムチャネルのゲート機構は、カリウムチャネルの構造的、機能的多様性の根源である。以下では各カリウムチャネルの生理的ゲート機構を概説する。
電位依存性カリウムチャネル
電位依存性カリウム(Kv)チャネルは静止膜電位付近ではポアが閉じているが、脱分極によって活性化(開口確率が上昇)し小孔が開口するカリウムチャネルである(図4)。Kvチャネルファミリーのαサブユニットの遺伝子はKv1-12の12クラス、さらにサブファミリーも存在し40種類ほど単離されている[8][9]。先に述べたように、6TM型の二次構造をとり、N末端から5番目、6番目の膜貫通領域(S5, S6)がポアドメインの形成に関与し、1番目から4番目の膜貫通領域(S1-S4)が電位センサーとして機能する構造を形成する。結晶構造が報告され、電位センサードメインが隣接するサブユニット由来のポアドメインと近接しているという特徴的なドメイン配置が明らかにされている(図1)。
Kvチャネルは、活性化の電位依存性や不活性化の有無、薬物感受性などから様々なタイプに細分類される。脱分極刺激による活性化後直ぐに不活性化され、一過的な電流を流す早期不活性化カリウムチャネル(A型Kチャネル)と不活性化が殆どおこらず活性化が持続する遅延整流性カリウムチャネルに分けることができる。また活性化のスピードから「早い成分」と「遅い成分」とに、あるいは活性化の閾値から「低閾値(low-voltage-activated, LVA)型」と「高閾値(high-voltage-activated, HVA)型」とに分類されることもある。
Kvチャネルの活性化の機構としては、膜電位変化に応じて電位センサードメインの構造変化が起こることが想定されている。この電位センサードメインの構造変化が、チャネルの開閉時に測定されるゲート電流と呼ばれる小さな電流を担っていると考えられている。電位センサードメインが脂質二重膜を横切る膜電位の変化をどのように感知し、そして小孔の開閉を制御する仕組みが精力的に研究されているが、その分子機構は明らかではない。近年は電位センサードメインの結晶構造が報告され、その構造変化とその結果起こる小孔の開口のメカニズムに関して議論が続いている。
Kvチャネルの不活性化の機構としては、活性化された後急速におこる不活性化機構としては、活性化後早い不活性化を担うN型の不活性化と、N型と比べて遅い不活性化機構であるC型の不活性化機構という異なる機構が報告されている。N型の不活性化機構にはKvチャネルのN末端のアミノ酸が関与している。また、βサブユニットがN型の不活性化機構に大きく影響を与えることも知られている[10]。
チャネルのN型不活性化に関わる領域は、以前はボール状の構造をとりS4-S5のリンカー部分に結合し細胞のポア領域を塞ぐような機構(ball-and-chain機構)が提唱されていたが、最近の解析からはもう少し細い線状の構造がポア内に侵入してポアを塞ぐと考えられるようになってきた。
一方、C型の不活性化機構にはP領域とS6(あるいはM2)の一部が関与していると見られる。この領域はポアの細胞外の入り口付近にあたり、この部分の構造変化が基盤であると考えられている。
カルシウム活性化カリウムチャネル
カルシウム活性化カリウムチャネル(KCaチャネル)は細胞質のCa2+濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである[11][12][13]。シングルチャネルコンダクタンスの違いから大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネルと小(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネル、そしてBKチャネルとIKチャネルの中間のコンダクタンスを持つ中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネルに分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化がおこり、アミノ酸の相同性の面からも電位依存性カリウムチャネルに分類されることも多いが、本項ではKCaチャネルの項目で扱う。BKチャネルにCa2+が結合することで電位依存的な活性化の特性が影響をうける。一方、IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca2+濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内カルモデュリン(CaM)が必要である。
サブユニットの構造としてはKvチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。SK、IKチャネルサブユニット(KCNN1-3, or SK1-4)はS4に正電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的であることに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、哺乳類のBKチャネル[KCNMA1, MaxiK or Slo1(ショウジョウバエのslowpoke mutantから見つかったことに由来)]はS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもつ。S4が電位センサーの中心として機能し、C末端の二つのRCK(Regulators of the K conductance)領域はCa2+依存的な活性化機構に重要な役割を果す。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。BKチャネルのβサブユニットSlob(slowpoke channel binding protein)も同定されている。
BKチャネルと同じsloサブファミリーに属するSlo2(Slo2.1, 2.2)チャネルはCa2+によってではなく、Na+によって活性化される。このチャネルは神経細胞などで観察されるNa活性化カリウムチャネルの分子実体であると考えられている。
内向き整流性カリウムチャネル
内向き整流性カリウム(Kir)チャネルは、遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位EKよりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである(図4)[14]。遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流特性はチャネルの電位依存的な活性化によるものだが、Kirチャネルの外向き整流特性は細胞内のポリアミンやマグネシウムイオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルファミリーのサブユニットの遺伝子がKir1-7サブファミリー、15種類ほど単離されている。Kirチャネルサブユニットによって内向き整流特性の強さは大きく異なる。整流性が強く古典的な内向き整流性カリウム電流を担うKir2サブファミリーの他に、整流性が中程度、もしくは殆どなくカリウム輸送などに関わるKir1、Kir4、Kir5、Kir7サブファミリー、細胞の心臓の迷走神経依存的な徐脈や抑制性のシナプス伝達などに関わるGタンパク質制御K(KG)チャネルの分子実体であるKir3サブファミリーや、グルコース依存的な膵臓β細胞からのインスリン分泌に関わるATP感受性カリウムチャネル(KATP)のポア領域もKir6サブファミリーのKirチャネルに属する。
Kirチャネルのサブユニットは二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、Kvカリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。Kirチャネルサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成し機能する。
Two-pore domainカリウムチャネル
2TM型(二回膜貫通領域と一つのP領域)が二個直列につながったサブユニット構造をしているのがtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネルである[15][16]。タンデム(直列)ポアドメインtandem pore domain K チャネルとも呼ばれる。すなわち、ポアの形成に関わるドメインが一つのサブユニット上に二つ存在し、二量体を形成することで一つのイオン透過経路をもったイオンチャネルとなる。これまでに15種のK2Pチャネルサブユニットが同定されており、電気生理学的特性や薬理学的な特性から6つのサブファミリー(TWIK、TREK、TASK、TALK、THINK、TRAAK)に分類されている。
比較的最近遺伝子が単離されたカリウムチャネルであり、他のカリウムチャネルに比べると生理的な機能や構造活性相関の解析は進んでいない。電気生理学的特性から背景(漏洩)カリウム電流を担っていると考えられ静止膜電位の形成や膜抵抗の決定に関与していると考えられている。TREK1で形成されるイオンチャネルは最もよく研究されているK2Pチャネルであり、膜電位や細胞膜のホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸との相互作用、リン酸化、pH、膜の伸展、熱などによる制御が示され、多様式polymodalな制御を受けるイオンチャネルであると知られてきている[17]。