16,040
回編集
細 (→治療) |
細編集の要約なし |
||
29行目: | 29行目: | ||
| CDD = | | CDD = | ||
}} | }} | ||
==背景== | ==背景== | ||
64行目: | 56行目: | ||
===成人腸管定着性ボツリヌス症=== | ===成人腸管定着性ボツリヌス症=== | ||
1歳以上の子供や成人でも乳児ボツリヌス症と同様に、腸管内で芽胞が発芽、増殖して発病することが報告されている。起因は外科手術や[[wj:抗菌剤|抗菌剤]]の投与によって[wj:腸管細菌叢|腸管細菌叢]]が変化することによると考えられている。 | 1歳以上の子供や成人でも乳児ボツリヌス症と同様に、腸管内で芽胞が発芽、増殖して発病することが報告されている。起因は外科手術や[[wj:抗菌剤|抗菌剤]]の投与によって[wj:腸管細菌叢|腸管細菌叢]]が変化することによると考えられている。 | ||
[[Image:ボツリヌス毒素4.jpg|thumb|300px|'''図1. ボツリヌス毒素の構造'''<br>M毒素は、1分子の神経毒素と1分子の血球凝集活性のない無毒成分(non-toxic non-HA:NTHA)から構成されている。A, B, C, D型のNTHAは、酵素によりN末端側が切断されるが、E, F型菌では、その部位近傍の33残基が欠損している。L毒素はM毒素にHAが結合している。HAは4つのサブコンポーネント(HA-52, HA-35, HA-20, HA-15)で構成され、型により、多少分子量が異なる。LL毒素は、2分子のL毒素がHA-35を介して結合している。図はA型毒素の構成成分を記載している。神経毒素は血球凝集活性の有無にかかわらず、生体内の弱アルカリ条件下で解離し、神経毒素が作用部位に到達すると考えられている。<ref><pubmed>8521962</pubmed></ref>]] | |||
[[ファイル:Botulinus toxin 1.png|right|thumb|250px|'''図2. ボツリヌス神経毒素の構造''']] | |||
==構造== | ==構造== | ||
===複合体毒素=== | ===複合体毒素=== | ||
すべての型の毒素は菌体内で分子量約15万の神経毒素と無毒成分の複合体毒素として、菌融解時に放出される。 | すべての型の毒素は菌体内で分子量約15万の神経毒素と無毒成分の複合体毒素として、菌融解時に放出される。 | ||
複合体毒素は分子量の違いにより、LL毒素(分子量90万)、L毒素(分子量50万)、M毒素(分子量30万)に分けられる(図1)。LL毒素、L毒素の無毒成分は[[wj:血球凝集|血球凝集]]活性を持っている。A型菌は3種類(LL、L、M)の毒素、B、C、D型菌は2種類(L、M)の毒素、EおよびF型菌はM毒素、G型菌はL毒素のそれぞれ1種類のみを産生する<ref name=ref2><pubmed>6763707</pubmed></ref>。 | |||
弱アルカリ(pH 7. | 弱アルカリ(pH 7.2以上)条件下で神経毒素(図2)と無毒成分に速やかに解離する。このため食品内で産生された毒素は複合体の形で経口的に摂取され、[[wj:小腸|小腸]]上部で吸収された後、[[wj:リンパ管|リンパ管]]内あるいは血中で神経毒素と無毒成分に解離する。 | ||
===神経毒素=== | ===神経毒素=== | ||
78行目: | 72行目: | ||
===無毒成分=== | ===無毒成分=== | ||
神経毒素を[[wj:胃酸|胃酸]]、あるいは[[wj:ペプシン|ペプシン]]などの[[wj:消化酵素|消化酵素]]による分解から保護し、[[wj:腸管上皮|腸管上皮]]細胞への吸収を促進する働きがあることから、ボツリヌス毒素が食餌性ボツリヌス症を起こす経口毒の活性を持つために重要な役割を果たしていると考えられている。 | 神経毒素を[[wj:胃酸|胃酸]]、あるいは[[wj:ペプシン|ペプシン]]などの[[wj:消化酵素|消化酵素]]による分解から保護し、[[wj:腸管上皮|腸管上皮]]細胞への吸収を促進する働きがあることから、ボツリヌス毒素が食餌性ボツリヌス症を起こす経口毒の活性を持つために重要な役割を果たしていると考えられている。 | ||
[[Image:Botulinus toxin 2.png|thumb|300px|'''図3.ボツリヌス毒素の作用機構'''<br>神経毒素は重鎖C末端領域を介して受容体に結合し、receptor -mediated endocytosisにより、神経細胞内に侵入する。エンドソーム内の酸性化に伴い、HCの構造変化とHNによるエンドソーム膜のチャネル形成により、軽鎖が細胞質内に移行する。軽鎖は毒素型特異的なSNAREタンパク質群を切断することにより、シナプス小胞のシナプス前膜への融合が阻止され、神経伝達物質放出の阻害が起こると考えられている。]] | |||
[[Image:yoshikatsuaikawa_fig_2.jpg|thumb|300px|'''図4. クロストリジウム属毒素の基質一覧'''<br>クロストリジウム属毒素である[[テタヌス毒素]]とボツリヌス毒素について示す<br>相川義勝、高森茂雄らによるテタヌス毒素の項目より引用]] | |||
==作用機能== | ==作用機能== | ||
84行目: | 81行目: | ||
===SNARE分解活性=== | ===SNARE分解活性=== | ||
シナプス小胞内の神経伝達物質を放出するには[[シナプス前]]膜との融合が必要であり、その一連の過程で[[SNARE|SNAP(soluble NSF attachment protein)受容体]](SNARE)と呼ばれタンパク質群([[VAMP]]/[[シナプトブレビン]]、[[SNAP-25]]、[[シンタキシン]])が関与している。軽鎖は亜鉛依存性プロテアーゼ活性を持ち、これらSNAREタンパク質のいずれかを分解する<ref name=ref9><pubmed>22289120</pubmed></ref> | シナプス小胞内の神経伝達物質を放出するには[[シナプス前]]膜との融合が必要であり、その一連の過程で[[SNARE|SNAP(soluble NSF attachment protein)受容体]](SNARE)と呼ばれタンパク質群([[VAMP]]/[[シナプトブレビン]]、[[SNAP-25]]、[[シンタキシン]])が関与している。軽鎖は亜鉛依存性プロテアーゼ活性を持ち、これらSNAREタンパク質のいずれかを分解する<ref name=ref9><pubmed>22289120</pubmed></ref>(図3)。B, D, F, G型毒素はVAMP/シナプトブレビンを(図4)、A, E型毒素はSNAP-25を、C型毒素はSNAP-25とシンタキシンを、それぞれ切断する<ref name=ref10936621><pubmed>10936621</pubmed></ref>。その結果、シナプス小胞と前膜の融合が起こらず神経伝達物質の放出が阻止される。軽鎖の持つプロテアーゼ活性は基質特異性が高く、これがボツリヌス毒素の持つ神経に対する高い毒性を反映している。 | ||
一方、脳[[シナプトソーム]]や[[初代神経培養細胞]]に対する毒作用解析から、神経毒素は[[シナプス前膜]]に存在する特異的な受容体に結合後、神経細胞内に侵入し、アセチルコリン以外の種々の神経伝達物質の放出も阻害することが明らかになっている<ref name=ref4><pubmed>19264088</pubmed></ref>。臨床的に中枢神経作用があまり問題にならないのは、テタヌス毒素とは異なり、ボツリヌス毒素は脳血液関門を通らないためと考えられている。 | 一方、脳[[シナプトソーム]]や[[初代神経培養細胞]]に対する毒作用解析から、神経毒素は[[シナプス前膜]]に存在する特異的な受容体に結合後、神経細胞内に侵入し、アセチルコリン以外の種々の神経伝達物質の放出も阻害することが明らかになっている<ref name=ref4><pubmed>19264088</pubmed></ref>。臨床的に中枢神経作用があまり問題にならないのは、テタヌス毒素とは異なり、ボツリヌス毒素は脳血液関門を通らないためと考えられている。 |