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細 (→神経系での機能) |
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<font size="+1">石井 宏史、[http://researchmap.jp/ToshihideYamashita 山下 俊英]</font><br> | <font size="+1">石井 宏史、[http://researchmap.jp/ToshihideYamashita 山下 俊英]</font><br> | ||
''大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学''<br> | ''大阪大学 大学院医学系研究科分子神経科学 分子神経科学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年1月25日 原稿完成日:2012年2月2日 修正日:2014年6月15日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | ||
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{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
|+表 熱ショックタンパク質の分類(Wikipediaより改変) | |+表 熱ショックタンパク質の分類(Wikipediaより改変) | ||
!分子量!![[真正細菌]]!!古細菌!![[真核生物]]!!機能 | !分子量!![[真正細菌]]!![[wj:古細菌|古細菌]]!![[真核生物]]!!機能 | ||
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|10kDa||GroES||Hsp10||[[Hsp10]]||[[Hsp60]](GroEL)の機能を補助する[[コシャペロン]]として働く。 | |10kDa||GroES||Hsp10||[[Hsp10]]||[[Hsp60]](GroEL)の機能を補助する[[コシャペロン]]として働く。 | ||
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===分子機能=== | ===分子機能=== | ||
[[Image:PDB 3hsc EBI.jpg|thumb|right|500px|'''図. Hsp70の分子構造と基質結合'''<br>基質結合部位と基質がATP加水分解により捕獲される。<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>]] | [[Image:PDB 3hsc EBI.jpg|thumb|right|500px|'''図. Hsp70の分子構造と基質結合'''<br>基質結合部位と基質がATP加水分解により捕獲される。<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>]] | ||
合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質の[[wj:フォールディング|フォールディング]](折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref> | 合成されたタンパク質に結合することによりタンパク質の[[wj:フォールディング|フォールディング]](折り畳み)を制御する分子シャペロンとしての機能を持ち、また分子シャペロンの多くはHSPである<ref><pubmed> 4219221 </pubmed></ref>。高温条件化において変性したタンパク質や、あるいはフォールディングの段階に問題があり機能できない新生タンパク質には熱ショックタンパク質が結合することが知られている。熱ショックタンパク質はこのような高次構造が破壊されたタンパク質修復機能やタンパク質[[wj:変性|変性]]抑制機能を有する。修復が不可能なタンパク質は[[ユビキチン]]化を受け、[[プロテアソーム]]と呼ばれる[[wj:酵素|酵素]]複合体へ運搬されて分解される。 | ||
===神経系での機能=== | ===神経系での機能=== | ||
フォールディング過程の異常のために不良品タンパク質が細胞内に蓄積するとフォールディング病と呼ばれる一連の疾患を引き起こす。神経変性疾患である[[筋萎縮性側索硬化症]](Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)、[[アルツハイマー病]](Altzheimer’s disease | フォールディング過程の異常のために不良品タンパク質が細胞内に蓄積するとフォールディング病と呼ばれる一連の疾患を引き起こす。神経変性疾患である[[筋萎縮性側索硬化症]](Amyotrophic lateral sclerosis; ALS)、[[アルツハイマー病]](Altzheimer’s disease)や[[パーキンソン病]](Parkinson’s disease)はフォールディング病と考えられている<ref><pubmed> 15516999 </pubmed></ref>。 | ||
==== Hsp70による脳虚血保護作用==== | ==== Hsp70による脳虚血保護作用==== | ||
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====熱ショックによる前処理と神経保護作用==== | ====熱ショックによる前処理と神経保護作用==== | ||
: あらかじめ熱ショックを組織に加えることにより、Hsp70、[[Hsc70]] | : あらかじめ熱ショックを組織に加えることにより、Hsp70、[[Hsc70]]、[[Hsp32]]や[[Hsp27]]が亢進し、神経保護作用を示すことが分かっている<ref><pubmed> 10341239 </pubmed></ref>。熱ストレスによりHsc70が[[大脳皮質]][[神経細胞]]のシナプスに局在し、[[Hsp40]]と会合し、変性タンパク質をリフォールディングする。また熱ストレスによりグリア細胞においてHsp70が産生され、細胞間を移動し、隣り合う神経細胞の突起に輸送される<ref><pubmed> 3947949 </pubmed></ref>。この反応を応用し、[[坐骨神経]]細胞の切断端にHsp70/Hsc70を細胞外から添加すると、神経細胞死が抑制される<ref><pubmed> 9222601 </pubmed></ref>。 | ||
====シャペロン介在オートファジーによるハンチントン病の治療==== | ====シャペロン介在オートファジーによるハンチントン病の治療==== | ||
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====自己免疫疾患とHsp70==== | ====自己免疫疾患とHsp70==== | ||
: Hsp70は[[wj:抗原|抗原]]に結合して、[[wj:主要組織適合遺伝子複合体|MHCIおよびMHCII]]依存的に[[wj:抗原|抗原]]性を高める<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。また[[多発性硬化症]](multiple | : Hsp70は[[wj:抗原|抗原]]に結合して、[[wj:主要組織適合遺伝子複合体|MHCIおよびMHCII]]依存的に[[wj:抗原|抗原]]性を高める<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。また[[多発性硬化症]](multiple sclerosis)の[[動物モデル]]である実験的[[自己免疫性脳脊髄炎]](experimental autoimmune encephalomyelitis)の発症および増悪にHsp70が関わる<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。多発性硬化症患者の[[脳脊髄液]]には、Hsp70に対する自己抗体が、運動神経疾患の患者と比較して高い頻度で観察される。そして多発性硬化症患者において、自己抗原である[[ミエリン塩基性タンパク質]](myelin basic protein; MBP)や[[Myelin proteolipid protein]](PLP)とHsp70との会合も観察されている。しかし一方でHsp70が[[wj:ナチュラルキラー細胞|ナチュラルキラー細胞]]に働きかけて自己免疫性脳脊髄炎の増悪を抑制するとの報告もあるため[[中枢神経系]]の[[wj:自己免疫疾患|自己免疫疾患]]における役割が議論されている<ref name="Turturici"><pubmed> 21403864 </pubmed></ref>。 | ||
==== 熱ショックタンパク質作動薬==== | ==== 熱ショックタンパク質作動薬==== | ||
: 熱ショックタンパク質の[[作動薬]]である[[w:Arimoclomol|Arimoclomol]]は、マウスALSモデルにおいてHsp70、Hsp90の発現を亢進させ、病気の進行を抑えることが分かっている<ref name="Arimo"><pubmed> 15034571 </pubmed></ref>。培養脊髄組織に熱ショックあるいは[[グルタミン酸]]処理によりストレスを与えた場合に、アストロサイトにおいてHsp70の発現が上昇する。しかし同様のストレスを与えても、運動神経におけるHsp70の発現は上昇しない。このようなストレス下で、Arimoclomolを加えると、神経細胞のHsp70の発現が上昇して神経保護作用を示す<ref name="Arimo"><pubmed> 15034571 </pubmed></ref>。製薬会社の[[w:CytRx|CytRx]] | : 熱ショックタンパク質の[[作動薬]]である[[w:Arimoclomol|Arimoclomol]]は、マウスALSモデルにおいてHsp70、Hsp90の発現を亢進させ、病気の進行を抑えることが分かっている<ref name="Arimo"><pubmed> 15034571 </pubmed></ref>。培養脊髄組織に熱ショックあるいは[[グルタミン酸]]処理によりストレスを与えた場合に、アストロサイトにおいてHsp70の発現が上昇する。しかし同様のストレスを与えても、運動神経におけるHsp70の発現は上昇しない。このようなストレス下で、Arimoclomolを加えると、神経細胞のHsp70の発現が上昇して神経保護作用を示す<ref name="Arimo"><pubmed> 15034571 </pubmed></ref>。製薬会社の[[w:CytRx|CytRx]]社は、[[wj:臨床試験|臨床試験]]第2相を施行している<ref>[http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00706147 Phase II/III Randomized, Placebo-Controlled Trial of Arimoclomol in SOD1 Positive Familial Amyotrophic Lateral Sclerosis - Full Text View - ClinicalTrials.gov]</ref>。 | ||
: [[wj:ニシキギ科|ニシキギ科]]の植物から抽出した[[w:Quinone methide|キノンメチド]][[wj:トリテルペン|トリテルペン]]である[[w:Celastrol|Celastrol]] | : [[wj:ニシキギ科|ニシキギ科]]の植物から抽出した[[w:Quinone methide|キノンメチド]][[wj:トリテルペン|トリテルペン]]である[[w:Celastrol|Celastrol]]はパーキンソン病、ALSそして[[ハンチントン病]]などの動物モデルにおいて、Hsp70を誘導し、保護的に働く<ref>|<pubmed> 16092942 </pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== |