「一次体性感覚野」の版間の差分
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担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中啓治](理化学研究所 脳科学総合研究センター 認知機能表現研究チーム)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中啓治](理化学研究所 脳科学総合研究センター 認知機能表現研究チーム)<br> | ||
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2018年7月23日 (月) 14:41時点における最新版
田岡三希
理化学研究所 生命機能科学研究センター 象徴概念発達研究チーム
DOI:10.14931/bsd.7610 原稿受付日:20018年3月12日 原稿完成日:2018年7月23日
担当編集委員:田中啓治(理化学研究所 脳科学総合研究センター 認知機能表現研究チーム)
英語名:primary somatosensory cortex, first somatosensory cortex 独:primärer somatosensorischer Cortex 仏:cortex somatosensoriel primaire
同義語:第一次体性感覚野、第一体性感覚野
一次体性感覚野は、頭頂葉最前部に位置し、中心溝に沿って内外側に帯状に広がる大脳皮質の脳領域で、ブロードマン脳地図の3a、3b、1、2野から構成される。視床中継核を経由して入力する末梢からの体性感覚情報を処理し、二次体性感覚野、頭頂連合野、運動野等に対象物の触識別や運動制御に必要な体性感覚情報を出力する重要な一次感覚皮質である。
一次体性感覚野とは
一次体性感覚野は頭頂葉前部の中心後回のうち、ブロードマンの脳地図の3a、3b、1、2野を含む領域をさす。中心溝に沿って内外側に帯状に広がる大脳皮質の領域で、視床中継核を経由して入力する末梢からの体性感覚情報を処理し、対象物の触識別や運動制御に必要な体性感覚情報を二次体性感覚野、頭頂連合野、運動野等に出力する重要な一次感覚皮質である。
ヒトを含む多くの哺乳類の大脳皮質で存在が確認されているが、ここでは主にマカク属サル、ヒトの研究から得られた知見を中心にして説明する。
構造
肉眼解剖
一次体性感覚野は大脳皮質頭頂葉の前部の前頭葉に接する位置に存在し、中心溝に沿って内外側に帯状に広がる。内側は大脳半球内側面に、外側はシルヴィウス裂に達する。一般的には前方からブロードマン脳地図の3a、3b、1、2野の領域から構成されるとされている。前方は一次運動野(4野)、後方は頭頂連合野(5、7野)と接する。
組織構築
一次体性感覚野を構成する領野のうち、3b野はIV層が発達した典型的な顆粒皮質である。その前方の一次運動野と接する3a野は無顆粒皮質である4野との中間的特徴を示す。すなわち、3a野のIV層では、3bに比べて顆粒細胞が減り、大型の錐体細胞が見られるようになる。3b野から後方に続く1野、2野では錐体細胞が増加し、頭頂連合野の特徴に近づく。これらの細胞構築学的特徴はマカク属サルで詳細な報告がある[1][2][3]
入出力
末梢からの体性感覚情報のうち視床中継核を経由して、深部感覚は3a野に、皮膚感覚は3b野に主に入力する。これらの情報は1、2野に運ばれる。また、3a野は4野にも連絡する。これらの各領野はその外側に存在する二次体性感覚野を含む頭頂弁蓋部体性感覚野に連絡している。また、最後部の2野には5野、7野などの頭頂連合野及び運動野と連絡がある。
他の哺乳類の一次体性感覚野とKaasの説
霊長類以外の哺乳類でも一次体性感覚野の報告が多数ある。Kaasは種々の哺乳類の一次体性感覚野を系統樹に沿って比較検討し、ほぼ共通する特徴として、以下の点を明らかにした[4] 。
それによると一次体性感覚野とひとくくりにされた領域には、IV層が発達し視床中継核から直接投射を受ける領域とその前方(SR, rostral somatosensory area)及び後方(SC, caudal somatosensory area)に位置する領域の計3領域があるという。そして、神経連絡や細胞構築的特徴および触刺激に対する応答性からSRは3a野に、SCは1野に、そしてSRとSCによって前後に挟まれる領域は3b野にそれぞれ相当する領域とした。更に、このSRとSCに挟まれた3b野に相当する領域が、発達したIV層と視床からの直接投射という一次感覚皮質としての特徴を持つことから一次体性感覚野とすべきであるとした。
げっ歯類等で見られるバレル皮質については、高チトクロームオキシダーゼ活性を示す領域が3b野に相当し、その周辺領域はSC(1野)に相当するという。
機能
体部位再現
身体反対側の各体部位からの情報は、おおよその身体の配置に従って一次体性感覚野に入力するため、反対側の体部位再現図が存在する。マカク属サルを用いた麻酔下で行われた多くの電気生理学的研究は、各領野にそれぞれ体部位再現図が存在することを明らかにした[4]。
階層的情報処理
無麻酔下のマカク属サルから単一神経活動を記録し、種々の体性感覚刺激に対する応答を詳細に解析する研究が多数行われた。
岩村らのグループは、主に手指を再現する領域を調べた結果、3b野では、例えばある指の一つの指節の掌側などに限局した非常に狭い受容野を持つニューロンが記録されるが、1野、2野に行くに従い、複数の指にまたがる大きな受容野を持つニューロンが記録されることを明らかにした[5]。また、2野では、受容野の拡大に加え、皮膚感覚と深部感覚の統合、物体のエッジや特殊な材質、皮膚上を動く刺激など複雑な刺激に対する特異的な応答など対象物の特徴抽出に関連した性質を示すニューロンが存在することから、視床中継核からの体性感覚情報が一次体性感覚野の3b野から後方の1野や2野に運ばれる過程で徐々に統合されるという階層的情報処理が行われていることを明らかにした[6][7]。この階層的情報処理は、無麻酔マカク属サルを用いた体幹、下肢、口腔など他の体部位再現領域を対象にした研究でも確認された [8][9][10][11][12]。
これらの情報が他の高次の領域に運ばれ、対象物の触識別に貢献していると考えられる。
身体両側の統合
体幹正中部や口腔等の特殊な部位を除けば、一次体性感覚野で処理される情報は対側身体に限られると考えられてきた。
ところが、岩村らはマカク属サルを用いた実験で、2野を含む中心後回手指再現領域で左右の手に対称的な受容野を持つニューロンの存在を報告した[13]。このような身体両側に受容野を持つニューロンはその後、近位上肢体幹領域や下肢領域の2野でも見つかった[8][9]。岩村らの実験では、同側身体からの情報は脳梁経由で対側半球から運ばれることが示唆された[13]。これらのことは、一次体性感覚野における階層的情報処理は、対側半球からの情報の統合も含むことを示している[6][7]。
複合的領域としての一次体性感覚野
以上のように、一次体性感覚野の各領野は、それぞれ独自の体部位再現図を持ち、相互に階層的な関係が存在すること、更に他の領野との神経連絡にも違いがあることから、複数の領野から構成される複合的領域であると考える事も出来る[3]。先に述べたKaasの一次体性感覚に対する説、すなわちブロードマン脳地図の3b野を一次体性感覚野とすべきである、とする考え方の是非はともかく、伝統的に一次体性感覚野と呼ばれる領域(3a,3b,1,2野)を複合的領域としてとらえることが重要である。
一次体性感覚野損傷による障害とマカクサル属を使った一次体性感覚野の可逆的不活化
マカク属サル一次体性感覚野の異なる領野をムシモール注入により可逆的に不活化し、行動に与える影響を調べる実験が主に手指領域を対象に行われた。これらは、一次体性感覚野の損傷患者の症状の理解に重要な貢献をした。すなわち、一次体性感覚野の損傷で生じる感覚障害以外に種々の行為障害が生じるが、これらの行為障害はしばしば視覚によって代償されることから、運動制御に必要な体性感覚情報を一次体性感覚野が供給していると考える事ができる[14]。
彦坂らは、マカク属サルの一次体性感覚野手指領域にムシモールを注入し、行動への影響を調べた [15]。3b野や1野の不活化では対象物との接触の検出が出来なくなるなどの症状が見られたが、2野の不活化では、1-2指によるprecision gripや穴や漏斗中の餌を取る行為が出来ない、もしくは時間がかかるなど、複数の指のcoordinationに障害が生じた。また、視覚情報を有効にした条件では障害の改善が見られるなど、ヒトの症例とほぼ同様の結果を得ることが出来た。これらの結果は、主に2野から運動野に運ばれる体性感覚情報が手指の運動制御に重要な役割を果たしていることを示している。
Brochierらは、マカク属サルの一次運動野と一次体性感覚野にムシモールを注入したときの力の制御に及ぼす影響を調べた[16]。一次運動野の不活化では,力の大きさが減少し、一次体性感覚野では逆に増加した。このことは一次体性感覚野の感覚情報が力の制御に重要であることを示している。
自己身体の触刺激部位の同定に関する研究
体部位局在が存在する一次体性感覚野は自己身体に接触刺激を与えた際、その刺激部位の同定(tactile localization)に重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、自己身体刺激部位の同定には、他の高次脳領域が深く関わることを明らかにした研究が行われた。被験者の異なる指に接触刺激を加えた直後に一次体性感覚野後部に経頭蓋磁気刺激(TMS)を加える実験では[17]、刺激後150msのTMSでは、被験者は刺激の検出をすることが出来たが、どの指が刺激されたか(tactile localization)を答えることが出来なかった。しかし、300ms後のTMSでは、刺激された指を答えることが出来た。このことは、触刺激の検出と刺激部位の同定が異なるプロセスであり、段階を踏んで連続的に行われることを示唆している。また、被験者の手指の異なる指節に接触刺激を加えた時の脳活動をfMRIで調べた実験では、刺激の検出には一次体性感覚野の活動が重要で、その刺激部位の同定に関しては、縁上回等の頭頂連合野の活動が重要である事が示された[18]。
これらの研究は、自己身体触刺激部位の同定には、体部位再現局在の情報を持つ一次体性感覚野の情報が頭頂連合野など他の高次の脳領域に運ばれて処理されることが不可欠である事を示している。
関連項目
参考文献
- ↑
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タッチの階層仮説
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