「脳波」の版間の差分

55 バイト追加 、 2018年10月16日 (火)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
11行目: 11行目:


== 発生機序 ==
== 発生機序 ==
ある神経細胞の活動電位が軸索を通って[[シナプス]]に達すると、[[神経伝達物質]]を介して他の神経細胞へと情報が伝達される。この結果としてとしてシナプス後細胞が脱分極ないし過分極したときのシナプス後膜に発生する電位を'''シナプス後電位'''という。シナプス後電位が生じると尖樹状突起と細胞体の間で細胞内電流が生じる。このとき細胞内電流とは逆方向に細胞外電流が生じ、電流双極子とみなすことができる。大脳皮質のニューロン集団がその周波数帯域で局所的に[[同調性|同期]]して周期的な活動すると、多数の同一双極子が並ぶことになり、空間的に加重した電場が細胞外にできる。脳波は、この細胞外電流由来の電場電位の変化を頭皮上で観測したものである。<br>
ある神経細胞の活動電位が軸索を通って[[シナプス]]に達すると、[[神経伝達物質]]を介して他の神経細胞へと情報が伝達される。この結果としてとしてシナプス後細胞が脱分極ないし過分極するとシナプス後膜に'''シナプス後電位'''が生じる。すると尖樹状突起と細胞体の間で細胞内電流が生じる。このとき細胞内電流とは逆方向に細胞外電流が生じ、電流双極子とみなすことができる。大脳皮質のニューロン集団がその周波数帯域で局所的に[[同調性|同期]]して周期的な活動をすると、多数の同一双極子が並ぶことになり、空間的に加重した電場が細胞外にできる。脳波は、この細胞外電流由来の頭皮上で生じる電場電位の変化を観測したものと考えられている。<br>
 脳波として計測される過程で,細胞外電流は神経路以外の髄液や頭蓋骨を伝わる([[体積伝導: volume conduction]])。髄液は高い電導性をもち、電流は広範囲に広がってしまうために活動領域の空間情報は劣化する。また、頭蓋骨の低電導性によって大きく信号は減衰されるため、高いS/N比を得るためには計測装置の磁場や漏れ電流などによる外乱ノイズを可能な限り無くすことが望ましい。<br>
 脳波として計測される過程で,細胞外電流は神経路以外の髄液や頭蓋骨を伝わる([[体積伝導: volume conduction]])。髄液は高い電導性をもち、電流は広範囲に広がってしまうために活動領域の空間情報は劣化する。また、頭蓋骨の低電導性によって大きく信号は減衰されるため、高いS/N比を得るためには計測装置の磁場や漏れ電流などによる外乱ノイズを可能な限り無くすことが望ましい。<br>


18行目: 18行目:
=== 導出法 ===
=== 導出法 ===
脳波は、頭部に接地された二つの電極間の電位差を増幅器で増幅することによって記録される。脳波を記録する電極を探査電極とよび、これに対して基準となる電極を基準(リファレンス)電極と呼ぶ。脳波の導出方法は、共通の基準電極を用いて探査電極との電位差を記録する'''共通基準導出'''と、隣り合う電極間で電位差を記録する'''双極導出'''に大別される。そのため共通基準導出は比較的広範囲で生じる空間的変化をみるのに適しており、双極導出は局所的な変化をみるのに適している。<br>
脳波は、頭部に接地された二つの電極間の電位差を増幅器で増幅することによって記録される。脳波を記録する電極を探査電極とよび、これに対して基準となる電極を基準(リファレンス)電極と呼ぶ。脳波の導出方法は、共通の基準電極を用いて探査電極との電位差を記録する'''共通基準導出'''と、隣り合う電極間で電位差を記録する'''双極導出'''に大別される。そのため共通基準導出は比較的広範囲で生じる空間的変化をみるのに適しており、双極導出は局所的な変化をみるのに適している。<br>
 近年では共通基準導出が一般的に用いられている。共通基準導出では、理論的には基準電極を脳電位の影響をうけない場所に装着するべきである。心電位や筋電位の混入を避けるため、基準電極は耳朶や鼻尖に着けることが多い。しかしながら耳朶や鼻尖であっても僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう'''活性化'''が生じる。よって、差動増幅の原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる同相信号は打ち消され、基準電極に近い探査電極では電位が小さく見積もられる。この問題はどこに基準電極を置いても生じてしまう。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、接地(グラウンド)電極は増幅器のための基準点として設置される。グラウンド電極は頭皮上のどこにおいてもよいが,前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである。(参考文献:『神経生理学』あとで追加)<br>
 近年のヒト脳イメージング研究では、共通基準導出が一般的に用いられている。共通基準導出では、理論的には基準電極を脳電位の影響をうけない場所に装着するべきである。心電位や筋電位の混入を避けるため、基準電極は耳朶や鼻尖に着けることが多い。しかしながら耳朶や鼻尖であっても僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう'''活性化'''が生じる。差動増幅の原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる同相信号は打ち消されるため、基準電極に近い探査電極では電位が小さく見積もられる。この問題はどこに基準電極を置いても生じてしまう。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、増幅器のための基準点として接地(グラウンド)電極を設ける。グラウンド電極は頭皮上のどこにおいてもよいが,前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである<ref>'''柳沢 信夫、 柴崎 浩'''<br>臨床神経生理学<br>''医学書院(東京)'':2008</ref>。<br>


=== 再基準化 ===
=== 再基準化 ===
42

回編集