「2光子顕微鏡」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
26行目: 26行目:
 実際の顕微鏡では、2光子励起される焦点はスキャンニングミラーを高速で動かすことによって走査される。標本から放出された蛍光は対物レンズで集められ、光電子増倍管(photomultiplier)などで検出して、コンピュータを用いて画像を構築する。
 実際の顕微鏡では、2光子励起される焦点はスキャンニングミラーを高速で動かすことによって走査される。標本から放出された蛍光は対物レンズで集められ、光電子増倍管(photomultiplier)などで検出して、コンピュータを用いて画像を構築する。


 2光子励起現象はGoeppert-Mayer によって1930年頃理論的な研究が行われた<ref name=Goeppert-Mayer1931>'''Goeppert-Mayer, M. (1931).'''<br>Über Elementarakte mit zwei Quantensprüngen. ''Annal Physik'' 9, 273-294.</ref> 。波長可変の超短パルスレーザーの改良が進むと、とくに1990年代以降から、Denk, Webbその他の研究者によって神経科学分野における高解像度蛍光顕微鏡としての応用が進められた<ref name=Denk1995>'''Denk, W., Piston, D.W., and Webb, W.W. (1995)'''<br>Two-Photon Molecular Excitation in Laser-Scanning Microscopy<br>In: Pawley J.B. (eds) ''Handbook of Biological Confocal Microscopy.'' (Springer, Boston, MA).></ref><ref name=Denk1997><pubmed> 9115730 </pubmed></ref> 。
 2光子励起現象はGoeppert-Mayer によって1930年頃理論的な研究が行われた<ref name=Goeppert-Mayer1931>'''Goeppert-Mayer, M. (1931).'''<br>Über Elementarakte mit zwei Quantensprüngen. ''Annal Physik'' 9, 273-294.</ref> 。波長可変の超短パルスレーザーの改良が進むと、とくに1990年代以降から、Denk、Webbその他の研究者によって神経科学分野における高解像度蛍光顕微鏡としての応用が進められた<ref name=Denk1995>'''Denk, W., Piston, D.W., and Webb, W.W. (1995)'''<br>Two-Photon Molecular Excitation in Laser-Scanning Microscopy. In: Pawley J.B. (eds) ''Handbook of Biological Confocal Microscopy.'' (Springer, Boston, MA).></ref><ref name=Denk1997><pubmed> 9115730 </pubmed></ref> 。


 現在では2光子顕微鏡は各顕微鏡メーカーから市販されており、一般的な研究手段として用いられる<ref name=Yuste2005>'''Yuste, R., and Konnerth, A. (2005).'''<br>“Imaging in Neuroscience and Development: A Laboratory Mannual”, (Cold Spring Harbor Laboratory Press).</ref><ref name=塗谷睦生2018>'''塗谷睦生 (2018).'''<br>非線形顕微鏡
 現在では2光子顕微鏡は各顕微鏡メーカーから市販されており、一般的な研究手段として用いられる<ref name=Yuste2005>'''Yuste, R., and Konnerth, A. (2005).'''<br>“Imaging in Neuroscience and Development: A Laboratory Mannual”, (Cold Spring Harbor Laboratory Press).</ref><ref name=塗谷睦生2018>'''塗谷睦生 (2018).'''<br>非線形顕微鏡
43行目: 43行目:
共焦点顕微鏡は組織で散乱した蛍光は原理上検出しない。これに対して2光子顕微鏡では、励起する領域を空間的に限局して高解像度を達成するので、散乱される蛍光も含めて検出できればシグナル/ノイズ比を上げることができる。したがって高い開口数かつ視野の広い(しばしば低倍の)対物レンズが2光子励起顕微鏡において検出効率を高くする。もしくは、検出器の位置を標本から見て対物レンズの反対側(トランス側)に置くことも用途によっては可能で、対物レンズよりも開口数と視野の大きい検出用の光学系を配置することもできる。
共焦点顕微鏡は組織で散乱した蛍光は原理上検出しない。これに対して2光子顕微鏡では、励起する領域を空間的に限局して高解像度を達成するので、散乱される蛍光も含めて検出できればシグナル/ノイズ比を上げることができる。したがって高い開口数かつ視野の広い(しばしば低倍の)対物レンズが2光子励起顕微鏡において検出効率を高くする。もしくは、検出器の位置を標本から見て対物レンズの反対側(トランス側)に置くことも用途によっては可能で、対物レンズよりも開口数と視野の大きい検出用の光学系を配置することもできる。
* '''空間的に限局した励起の応用'''
* '''空間的に限局した励起の応用'''
2光子励起の空間的に限局された領域のみを励起する性質がイメージング以外にも応用されている。例えば、ケージド試薬(関連事項参照)の光分解は1光子励起でも行われるが、励起光が通過する地点は全て分解されるので空間的な制限を加えることが難しい。これに対して2光子励起では1 m3程度の非常に限局された領域のみで光分解を生じさせることができる。これを利用して、例えば着目する神経細胞のそれぞれの単一シナプスにグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質を投与することが可能となった<ref name=Matsuzaki2011><pubmed>21536760</pubmed></ref><ref name=河西春郎2003>'''河西春郎 (2003).'''<br>新しいケイジドグルタミン酸と2光子励起法を用いた神経機能の解析. ''細胞工学'' 22, 161-164</ref> 。また、photo-activatable [[GFP]](光活性化型GFP)などを用いることによって空間的に限局した領域のタンパク質のみを標識して経過観察することが可能である。逆に単一シナプスの蛍光タンパク質のみを褪色させ、蛍光の回復時間を測定することによって、着目するタンパク質の代謝あるいは拡散速度を求めることも行われる(FRAP: Fluorescence Recovery After Photobleaching)。
2光子励起の空間的に限局された領域のみを励起する性質がイメージング以外にも応用されている。例えば、ケージド試薬(関連事項参照)の光分解は1光子励起でも行われるが、励起光が通過する地点は全て分解されるので空間的な制限を加えることが難しい。これに対して2光子励起では1 &micro;m<sup>3</sup>程度の非常に限局された領域のみで光分解を生じさせることができる。これを利用して、例えば着目する神経細胞のそれぞれの単一シナプスにグルタミン酸やGABAなどの神経伝達物質を投与することが可能となった<ref name=Matsuzaki2011><pubmed>21536760</pubmed></ref><ref name=河西春郎2003>'''河西春郎 (2003).'''<br>新しいケイジドグルタミン酸と2光子励起法を用いた神経機能の解析. ''細胞工学'' 22, 161-164</ref> 。また、photo-activatable [[GFP]](光活性化型GFP)などを用いることによって空間的に限局した領域のタンパク質のみを標識して経過観察することが可能である。逆に単一シナプスの蛍光タンパク質のみを褪色させ、蛍光の回復時間を測定することによって、着目するタンパク質の代謝あるいは拡散速度を求めることも行われる(FRAP: Fluorescence Recovery After Photobleaching)。
* '''蛍光寿命画像顕微鏡(FLIM)やSHG顕微鏡法などとの同時使用'''
* '''蛍光寿命画像顕微鏡(FLIM)やSHG顕微鏡法などとの同時使用'''
2光子顕微鏡ではパルスレーザーを用いるために、蛍光寿命(上述)の測定が比較的容易で、これを実現するために追加する装置が市販されている。[[FRET]] ([[Förster共鳴エネルギー移動]])、つまり、蛍光分子同士の近接によるエネルギー移動はドナーの蛍光寿命を短くするので、この蛍光寿命画像顕微鏡法(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy: FLIM)を適用することによって、1種類の蛍光分子の測定で、蛍光分子の濃度によらず高い空間分解能でFRET測定が可能である。
2光子顕微鏡ではパルスレーザーを用いるために、蛍光寿命(上述)の測定が比較的容易で、これを実現するために追加する装置が市販されている。[[FRET]] ([[Förster共鳴エネルギー移動]])、つまり、蛍光分子同士の近接によるエネルギー移動はドナーの蛍光寿命を短くするので、この蛍光寿命画像顕微鏡法(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy: FLIM)を適用することによって、1種類の蛍光分子の測定で、蛍光分子の濃度によらず高い空間分解能でFRET測定が可能である。