「ワイルダー・グレイヴス・ペンフィールド」の版間の差分

提供:脳科学辞典
ナビゲーションに移動 検索に移動
(ページの作成:「 Penfield, Wilder Graves (1891-1976) アメリカ合衆国、カナダの脳神経外科医。米国ワシントン州スポケーン生まれ。米国プリンストン...」)
 
編集の要約なし
1行目: 1行目:
 Penfield, Wilder Graves (1891-1976) アメリカ合衆国、カナダの脳神経外科医。米国ワシントン州スポケーン生まれ。米国プリンストン大学卒業後、イギリス・オックスフォードのマートン・カレッジでシェリントンの下で神経科学を学んだ。また、オックスフォードでは今日の医学教育・医療の基礎を築いたことで知られるウィリアム・オスラーとも出会っている。米国に戻り、ボルチモアのジョンス・ホプキンス大学で医学博士号を取得後、クッシング病でその名の残るハーヴェイ・クッシングのもとで脳外科の薫陶を受けた。その後、ニューヨーク神経学研究所に移り、てんかんの脳外科手術を手がけるようになった。1928年にPenfieldはカナダのモントリオールにあるマギル大学に招聘され、同大学に1934年に設立されたモントリオール神経学研究所の初代所長となった。
 Penfield, Wilder Graves (1891-1976) アメリカ合衆国、カナダの脳神経外科医。米国ワシントン州スポケーン生まれ。米国プリンストン大学卒業後、イギリス・オックスフォードのマートン・カレッジでシェリントンの下で神経科学を学んだ。また、オックスフォードでは今日の医学教育・医療の基礎を築いたことで知られるウィリアム・オスラーとも出会っている。米国に戻り、ボルチモアのジョンス・ホプキンス大学で医学博士号を取得後、クッシング病でその名の残るハーヴェイ・クッシングのもとで脳外科の薫陶を受けた。その後、ニューヨーク神経学研究所に移り、てんかんの脳外科手術を手がけるようになった。1928年にPenfieldはカナダのモントリオールにあるマギル大学に招聘され、同大学に1934年に設立されたモントリオール神経学研究所の初代所長となった。
 その経歴を通して、今日の脳科学の基礎となる脳外科学のみならず、今日に至る神経科学の発展に多大な貢献をした。てんかんの外科治療の先駆者であるとともに、脳外科手術時に全身麻酔を行わず、切開部の局所麻酔で行った。脳そのものには痛みを含む感覚受容体がないためこのような術式が可能である。この術式を用いると手術中も患者に意識があるため、大脳皮質の電気刺激による脳局所の機能同定を行なうことができ、疾患のある脳領域の切除部決定をするにあたって、機能保存すべき大脳皮質領域の決定が可能になった。世界的に麻酔の安全性を優先させるため脳外科手術も全身麻酔で行われるようになったため、このような術式は行われることが少なくなったが、最近になって麻酔全般の安全性向上にともなって復活してきている。
 
 Penfieldはさまざまな脳領域の刺激に基づく膨大な知見をもとに、ヒト大脳の一次運動野と一次体性感覚野のホムンクルス(homunculus, 小人間像)として知られる体性地図の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に機能局在があることを明らかにした。さらに、同様の方法を用いて、運動連合野である補足運動野の存在を明らかにするなど、ヒト脳の機能地図を発見したパイオニアである。その後サルの大脳皮質にも一次運動野および補足運動野の存在が確認されたが、近年の研究により、大脳前頭皮質には一次運動野および補足運動野の他にも多数の運動領野が存在し、それぞれが機能特異性を有していることが明らかにされてきた。
その経歴を通して、今日の脳科学の基礎となる脳外科学のみならず、今日に至る神経科学の発展に多大な貢献をした。てんかんの外科治療の先駆者であるとともに、脳外科手術時に全身麻酔を行わず、切開部の局所麻酔で行った。脳そのものには痛みを含む感覚受容体がないためこのような術式が可能である。この術式を用いると手術中も患者に意識があるため、大脳皮質の電気刺激による脳局所の機能同定を行なうことができ、疾患のある脳領域の切除部決定をするにあたって、機能保存すべき大脳皮質領域の決定が可能になった。世界的に麻酔の安全性を優先させるため脳外科手術も全身麻酔で行われるようになったため、このような術式は行われることが少なくなったが、最近になって麻酔全般の安全性向上にともなって復活してきている。
 
Penfieldはさまざまな脳領域の刺激に基づく膨大な知見をもとに、ヒト大脳の一次運動野と一次体性感覚野のホムンクルス(homunculus, 小人間像)として知られる体性地図の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に機能局在があることを明らかにした。さらに、同様の方法を用いて、運動連合野である補足運動野の存在を明らかにするなど、ヒト脳の機能地図を発見したパイオニアである。その後サルの大脳皮質にも一次運動野および補足運動野の存在が確認されたが、近年の研究により、大脳前頭皮質には一次運動野および補足運動野の他にも多数の運動領野が存在し、それぞれが機能特異性を有していることが明らかにされてきた。


文献
文献

2012年4月4日 (水) 13:50時点における版

 Penfield, Wilder Graves (1891-1976) アメリカ合衆国、カナダの脳神経外科医。米国ワシントン州スポケーン生まれ。米国プリンストン大学卒業後、イギリス・オックスフォードのマートン・カレッジでシェリントンの下で神経科学を学んだ。また、オックスフォードでは今日の医学教育・医療の基礎を築いたことで知られるウィリアム・オスラーとも出会っている。米国に戻り、ボルチモアのジョンス・ホプキンス大学で医学博士号を取得後、クッシング病でその名の残るハーヴェイ・クッシングのもとで脳外科の薫陶を受けた。その後、ニューヨーク神経学研究所に移り、てんかんの脳外科手術を手がけるようになった。1928年にPenfieldはカナダのモントリオールにあるマギル大学に招聘され、同大学に1934年に設立されたモントリオール神経学研究所の初代所長となった。   その経歴を通して、今日の脳科学の基礎となる脳外科学のみならず、今日に至る神経科学の発展に多大な貢献をした。てんかんの外科治療の先駆者であるとともに、脳外科手術時に全身麻酔を行わず、切開部の局所麻酔で行った。脳そのものには痛みを含む感覚受容体がないためこのような術式が可能である。この術式を用いると手術中も患者に意識があるため、大脳皮質の電気刺激による脳局所の機能同定を行なうことができ、疾患のある脳領域の切除部決定をするにあたって、機能保存すべき大脳皮質領域の決定が可能になった。世界的に麻酔の安全性を優先させるため脳外科手術も全身麻酔で行われるようになったため、このような術式は行われることが少なくなったが、最近になって麻酔全般の安全性向上にともなって復活してきている。

Penfieldはさまざまな脳領域の刺激に基づく膨大な知見をもとに、ヒト大脳の一次運動野と一次体性感覚野のホムンクルス(homunculus, 小人間像)として知られる体性地図の存在を明らかにするなど、ヒト脳の大脳皮質に機能局在があることを明らかにした。さらに、同様の方法を用いて、運動連合野である補足運動野の存在を明らかにするなど、ヒト脳の機能地図を発見したパイオニアである。その後サルの大脳皮質にも一次運動野および補足運動野の存在が確認されたが、近年の研究により、大脳前頭皮質には一次運動野および補足運動野の他にも多数の運動領野が存在し、それぞれが機能特異性を有していることが明らかにされてきた。

文献 1. Penfield, W. & Rasmussen, T. The Cerebral Cortex of Man (MacMillan, New York, 1950). 2. Penfield, W. & Welch, K. The supplementary motor area of the cerebral cortex. A clinical and experimental study. Arch. Neurol. Psychiatr. 66, 289-317 (1951). 3. Penfield, W. & Jasper, H. Epilepsy and the Functional Anatomy of the Human Brain, Little, Brown , Boston.