「セラミド」の版間の差分

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 セラミドは構造的上の物性から、セラミド間の相互作用が強く、セラミドの豊富な[[膜ドメイン]]を形成することが知られている<ref name=Zhang2009><pubmed>18786504</pubmed></ref>。膜中のセラミド濃度は通常非常に低い (リン脂質の0.1-1 %)<ref name=Hannun2011><pubmed>21693702</pubmed></ref>が、スフィンゴミエリンをセラミドに代謝するスフィンゴミエリナーゼは局所的な[[セラミドドメイン]]の形成に関与すると考えられる。セラミドの豊富なドメインは、様々なシグナリングタンパク質のクラスター化を促進する。例えば[[デスレセプター]]として知られる[[CD95]]はセラミドのドメイン形成によってシグナルが100倍増幅することが報告されている <ref name=Grassme2003><pubmed>12934106</pubmed></ref>。
 セラミドは構造的上の物性から、セラミド間の相互作用が強く、セラミドの豊富な[[膜ドメイン]]を形成することが知られている<ref name=Zhang2009><pubmed>18786504</pubmed></ref>。膜中のセラミド濃度は通常非常に低い (リン脂質の0.1-1 %)<ref name=Hannun2011><pubmed>21693702</pubmed></ref>が、スフィンゴミエリンをセラミドに代謝するスフィンゴミエリナーゼは局所的な[[セラミドドメイン]]の形成に関与すると考えられる。セラミドの豊富なドメインは、様々なシグナリングタンパク質のクラスター化を促進する。例えば[[デスレセプター]]として知られる[[CD95]]はセラミドのドメイン形成によってシグナルが100倍増幅することが報告されている <ref name=Grassme2003><pubmed>12934106</pubmed></ref>。
=== アポトーシス ===
=== アポトーシス ===
 アポトーシスは生体の正常な発達と[[恒常性]]維持における根源的なメカニズムである。その機能破綻は[[神経変性疾患]]や[[がん]]など、様々な疾患の原因となる。セラミド豊富なドメインの関連するシグナルは、[[CD95]]、[[CD40]]、[[DR5]]、[[FcgRII]]、[[PAF受容体]]、[[CD14]]、[[黄色ブドウ球菌]]、[[淋菌]]、[[ライノウィルス]]感染などによるアポトーシスを誘導することが知られている<ref name=Bollinger2005><pubmed>16226325</pubmed></ref><ref name=Zhang2009><pubmed>18786504</pubmed></ref>。その制御機構はドメイン形成を介した受容体クラスター形成の促進に伴うシグナル伝達の制御だと考えられているが、その制御機構は複雑で未だに議論の的である<ref name=Froissart2025><pubmed>40106870</pubmed></ref><ref name=Kolesnick1999><pubmed>10366847</pubmed></ref><ref name=Obeid1993><pubmed>8456305</pubmed></ref>。例えば、セラミドの上昇はアポトーシスを誘導する<ref name=Novgorodov2005><pubmed>15722351</pubmed></ref><ref name=Obeid1993><pubmed>8456305</pubmed></ref>。一方で、その枯渇はアポトーシスの進展を抑制することもある <ref name=Bose1995><pubmed>7634330</pubmed></ref><ref name=Dbaibo2001><pubmed>11513845</pubmed></ref><ref name=Santana1996><pubmed>8706124</pubmed></ref>。セラミド合成の最初のステップである[[セリンパルミトイルトランスフェラーゼ]]を阻害する[[ISP-1]]によるセラミド合成の阻害は[[プルキンエ神経]]細胞にアポトーシスと異常な[[神経突起]]を伴う分化を誘導するが、他の脳神経細胞には影響を及ぼさない<ref name=Furuya1998><pubmed>9648886</pubmed></ref>。また、[[NGF]]枯渇によって誘導される[[交感神経系]]の細胞のアポトーシスには保護的に働くなど、細胞によっても作用や機序が異なる<ref name=Nair2000><pubmed>10713735</pubmed></ref>。このように、セラミド依存性のアポトーシスは中枢神経系の機能に重要な役割を果たしていると考えられる。
 アポトーシスは生体の正常な発達と[[恒常性]]維持における根源的なメカニズムである。その機能破綻は[[神経変性疾患]]や[[がん]]など、様々な疾患の原因となる。セラミド豊富なドメインの関連するシグナルは、[[CD95]]、[[CD40]]、[[DR5]]、[[FcgRII]]、[[PAF受容体]]、[[CD14]]、[[黄色ブドウ球菌]]、[[淋菌]]、[[ライノウィルス]]感染などによるアポトーシスを誘導することが知られている<ref name=Bollinger2005><pubmed>16226325</pubmed></ref><ref name=Zhang2009><pubmed>18786504</pubmed></ref>。その制御機構はドメイン形成を介した受容体クラスター形成の促進に伴うシグナル伝達の制御だと考えられているが、その制御機構は複雑で未だに議論の的である<ref name=Froissart2025><pubmed>40106870</pubmed></ref><ref name=Kolesnick1999><pubmed>10366847</pubmed></ref><ref name=Obeid1993><pubmed>8456305</pubmed></ref>。例えば、セラミドの上昇はアポトーシスを誘導する<ref name=Novgorodov2005><pubmed>15722351</pubmed></ref><ref name=Obeid1993><pubmed>8456305</pubmed></ref>。一方で、その枯渇はアポトーシスの進展を抑制することもある <ref name=Bose1995><pubmed>7634330</pubmed></ref><ref name=Dbaibo2001><pubmed>11513845</pubmed></ref><ref name=Santana1996><pubmed>8706124</pubmed></ref>。セラミド合成の最初のステップである[[セリンパルミトイル基転移酵素]] ([[セリンパルミトイルトランスフェラーゼ]])を阻害する[[ISP-1]]によるセラミド合成の阻害は[[プルキンエ神経]]細胞にアポトーシスと異常な[[神経突起]]を伴う分化を誘導するが、他の脳神経細胞には影響を及ぼさない<ref name=Furuya1998><pubmed>9648886</pubmed></ref>。また、[[NGF]]枯渇によって誘導される[[交感神経系]]の細胞のアポトーシスには保護的に働くなど、細胞によっても作用や機序が異なる<ref name=Nair2000><pubmed>10713735</pubmed></ref>。このように、セラミド依存性のアポトーシスは中枢神経系の機能に重要な役割を果たしていると考えられる。
 
 セラミドは異なった経路、細胞内オルガネラを介してアポトーシスを誘導する。一つは[[スフィンゴミエリナーゼ]]によるスフィンゴミエリンの加水分解、もう一つはde novo合成である。中性スフィンゴミエリナーゼと酸性スフィンゴミエリナーゼは腫瘍壊死因子によって活性化されるが、それぞれ異なったメカニズムでセラミドを産生しアポトーシスを制御することが知られている<ref name=Cifone1995><pubmed>8846779</pubmed></ref><ref name=Wiegmann1994><pubmed>7923351</pubmed></ref>。


 セラミドは異なった経路、細胞内オルガネラを介してアポトーシスを誘導する。一つは[[スフィンゴミエリナーゼ]]によるスフィンゴミエリンの加水分解、もう一つはde novo合成である。中性スフィンゴミエリナーゼと酸性スフィンゴミエリナーゼは腫瘍壊死因子によって活性化されるが、それぞれ異なったメカニズムでセラミドを産生しアポトーシスを制御することが知られている<ref name=Cifone1995><pubmed>8846779</pubmed></ref><ref name=Wiegmann1994><pubmed>7923351</pubmed></ref>。
===老化・加齢 ===
===老化・加齢 ===
 セラミドは皮膚の[[バリア機能]]や[[組織修復]]促進の役割も持つ。加齢に伴う皮膚の線維化や組織修復能の低下は、酸性スフィンゴミエリナーゼとセラミドシンターゼの活性低下に伴うセラミドの低下によるものであると考えられる。また、セラミドは[[PP1]]や[[PPA2]]などの[[脱リン酸化酵素]]を活性化し、[[p21]]、[[pRb]]の発現を調節することで細胞の老化を制御する。このように、セラミドによる組織機能の維持や細胞老化の制御は、正常な細胞・組織恒常性を制御し、[[インスリン]]感受性、[[血管]]系の維持、[[免疫]]系の維持に関わっている <ref name=Trayssac2018><pubmed>30108193</pubmed></ref>。
 セラミドは皮膚の[[バリア機能]]や[[組織修復]]促進の役割も持つ。加齢に伴う皮膚の線維化や組織修復能の低下は、酸性スフィンゴミエリナーゼとセラミドシンターゼの活性低下に伴うセラミドの低下によるものであると考えられる。また、セラミドは[[PP1]]や[[PPA2]]などの[[脱リン酸化酵素]]を活性化し、[[p21]]、[[pRb]]の発現を調節することで細胞の老化を制御する。このように、セラミドによる組織機能の維持や細胞老化の制御は、正常な細胞・組織恒常性を制御し、[[インスリン]]感受性、[[血管]]系の維持、[[免疫]]系の維持に関わっている <ref name=Trayssac2018><pubmed>30108193</pubmed></ref>。