「LIMドメイン含有キナーゼ」の版間の差分

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=== 基質の同定とその機能 ===
=== 基質の同定とその機能 ===
 LIMK1が同定された後、LIMK1がリン酸化する標的基質の探索と機能解析が進められた。共沈物の中の20 kDaのタンパク質がリン酸化されること、LIMK1を培養細胞に過剰発現させるとアクチン線維が過重合することが見出された。アクチン線維の切断・脱重合因子であるコフィリンは、分子量が約20 kDaで3番目のセリン残基がリン酸化されることで不活性化することが知られていたため<ref name=Agnew1995><pubmed>7615564</pubmed></ref>、基質であることが明らかにされた<ref name=Arber1998><pubmed>9655397</pubmed></ref><ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。
 LIMK1が同定された後、LIMK1がリン酸化する標的基質の探索と機能解析が進められた。免疫沈降したLIMK1を<sup>32</sup>P-ATPを用いたリン酸化アッセイにかけると共沈物の中の20 kDaのタンパク質がリン酸化されること、LIMK1を培養細胞に過剰発現させるとアクチン線維が過重合することが見出された。アクチン線維の切断・脱重合因子であるコフィリンは、分子量が約20 kDaで3番目のセリン残基がリン酸化されることで不活性化することが知られていたため<ref name=Agnew1995><pubmed>7615564</pubmed></ref>、LIMK1の基質候補としてコフィリンが検討され、基質であることが明らかにされた<ref name=Arber1998><pubmed>9655397</pubmed></ref><ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。


 コフィリンは、哺乳類で非筋肉型コフィリン(別名n-cofilin、cofilin-1)、筋肉型コフィリン(別名m-cofilin、cofilin-2)、actin depolymerizing factor(ADF)(別名デストリンdestrin)の3種類が存在し、これらの働きは共通しており、全てLIMKにリン酸化され不活性化される<ref name=Ono2007><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref>。以後、これらを総称してコフィリンと記す。コフィリンは、アクチン線維を切断・脱重合してアクチン骨格の動的な状態を生み出すタンパク質であり、系統学的には酵母にも存在し、細胞の生存に必須である。また、ヒトと酵母で機能互換できるほどその働きは重要で保存されている<ref name=Ono2007><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name=Bamburg1999><pubmed>10461190</pubmed></ref><ref name=Pollard2003><pubmed>12600310</pubmed></ref>。コフィリンのリン酸化による活性制御は細胞の生存に必須ではなく、後生生物になってから獲得した翻訳後修飾であると考えられる。LIMKの基本的な働きは、コフィリンを不活性化して、アクチン線維の脱重合を抑制し、重合を促進し、アクチン線維を安定化することである(図1)。その後の解析により、LIMKのコフィリン以外の基質も複数報告され、それらのリン酸化の役割が報告されている(表1)<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。
 コフィリンは、哺乳類で非筋肉型コフィリン(別名n-cofilin、cofilin-1)、筋肉型コフィリン(別名m-cofilin、cofilin-2)、actin depolymerizing factor(ADF)(別名デストリンdestrin)の3種類が存在し、これらの働きは共通しており、全てLIMKにリン酸化され不活性化される<ref name=Ono2007><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref>。以後、これらを総称してコフィリンと記す。コフィリンは、アクチン線維を切断・脱重合してアクチン骨格の動的な状態を生み出すタンパク質であり、系統学的には酵母にも存在し、細胞の生存に必須である。また、ヒトと酵母で機能互換できるほどその働きは重要で保存されている<ref name=Ono2007><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name=Bamburg1999><pubmed>10461190</pubmed></ref><ref name=Pollard2003><pubmed>12600310</pubmed></ref>。一方で、コフィリンのリン酸化による活性制御は細胞の生存に必須ではなく、後生生物になってから獲得した翻訳後修飾であると考えられる。LIMKの基本的な働きは、コフィリンを不活性化して、アクチン線維の脱重合を抑制し、重合を促進し、アクチン線維を安定化することである(図1)。その後の解析により、LIMKのコフィリン以外の基質も複数報告され、それらのリン酸化の役割が報告されている(表1)<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。


 LIMKの発見後、細胞応答におけるその働きとシグナル伝達機構が探索され、アクチン骨格の再構築制御の鍵となる低分子量Gタンパク質Rhoファミリー分子の下流で機能することが示された<ref name=Edwards1999><pubmed>10559936</pubmed></ref><ref name=Maekawa1999><pubmed>10436159</pubmed></ref><ref name=Ohashi2000><pubmed>10652353</pubmed></ref>。さらに、様々な刺激に対する細胞応答において、Rho経路以外にもLIMKの活性を制御する制御因子やシグナル経路が同定され、アクチン骨格再構築の制御という共通の働きによって、神経機能を含む様々な細胞応答に寄与していることが明らかになっている<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref><ref name=BenZablah2021><pubmed>34440848</pubmed></ref>。
 LIMKの発見後、細胞応答におけるその働きとシグナル伝達機構が探索され、アクチン骨格の再構築制御の鍵となる低分子量Gタンパク質Rhoファミリー分子の下流で機能することが示された<ref name=Edwards1999><pubmed>10559936</pubmed></ref><ref name=Maekawa1999><pubmed>10436159</pubmed></ref><ref name=Ohashi2000><pubmed>10652353</pubmed></ref>。さらに、様々な刺激に対する細胞応答において、Rho経路以外にもLIMKの活性を制御する制御因子やシグナル経路が同定され(表2)、アクチン骨格再構築の制御という共通の働きによって、神経機能を含む様々な細胞応答に寄与していることが明らかになっている<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref><ref name=BenZablah2021><pubmed>34440848</pubmed></ref>。


== 構造 ==
== 構造 ==