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== LIMドメイン含有キナーゼとは == | == LIMドメイン含有キナーゼとは == | ||
=== 発見 === | === 発見 === | ||
LIMKは、1994年、[[プロテインキナーゼ]]の[[キナーゼ]]ドメインの配列類似性に基づいた遺伝子[[クローニング]]によって発見された。まず、[[受容体型チロシンキナーゼ]] | LIMKは、1994年、[[プロテインキナーゼ]]の[[キナーゼ]]ドメインの配列類似性に基づいた遺伝子[[クローニング]]によって発見された。まず、[[受容体型チロシンキナーゼ]]である[[肝細胞増殖因子]](HGF)受容体 ([[c-met]])と類似した[[プロトオンコジーン]][[c-sea]]のcDNA断片を用いた[[cDNA]]スクリーニングによって、[[ヒト]][[HepG2細胞]]の[[cDNAライブラリー]]より新たな[[プロテインキナーゼ]]が同定され、分子内に[[Znフィンガー]]モチーフの一つである[[LIMドメイン]]を持つことから、[[LIMドメイン含有キナーゼ-1]]([[LIMK1]])と命名された<ref name=Mizuno1994><pubmed> 8183554</pubmed></ref>。また、キナーゼドメインに保存された配列をプライマーに用いた[[PCR]]によって、同年、[[マウス]][[嗅上皮]]のcDNAより新たなキナーゼが同定され、[[Kiz-1]]と名付けられたが、これはLIMK1と同一であることがわかった<ref name=Bernard1994><pubmed> 7848918</pubmed></ref>。 | ||
さらに、LIMK1のキナーゼドメインのcDNA断片を用いたスクリーニングによって、ドメイン構造が同じで高い相同性をもつ[[LIMK2]]が発見された<ref name=Okano1995><pubmed>8537403</pubmed></ref>。また、全体の構造は異なるが、他のキナーゼと比べてキナーゼドメインの相同性が高く[[精巣]]に高発現している[[Testicular protein kinase]] ([[TESK1]]と[[TESK2]])がクローニングされた<ref name=Toshima1995><pubmed>8537404</pubmed></ref><ref name=Toshima2001><pubmed>11418599</pubmed></ref>。 | |||
[[ファイル:Ohashi LIMK Fig1.png|サムネイル|'''図1. コフィリンのリン酸化・脱リン酸化によるアクチン骨格のダイナミクス制御]] | [[ファイル:Ohashi LIMK Fig1.png|サムネイル|'''図1. コフィリンのリン酸化・脱リン酸化によるアクチン骨格のダイナミクス制御]] | ||
=== 基質の同定とその機能 === | === 基質の同定とその機能 === | ||
LIMK1が同定された後、LIMK1がリン酸化する標的基質の探索と機能解析が進められた。[[免疫沈降]]したLIMK1を<sup>32</sup>P-[[ATP]]を用いた[[リン酸化]]アッセイにかけると共沈物の中の20 kDaのタンパク質がリン酸化されること、LIMK1を培養細胞に過剰発現させると[[アクチン]]が過[[重合]]することが見出された。アクチン線維の切断・脱重合因子である[[コフィリン]]は、分子量が約20 kDaで3番目の[[セリン]]残基がリン酸化されることで不活性化することが知られていたため<ref name=Agnew1995><pubmed>7615564</pubmed></ref>、LIMK1の基質候補としてコフィリンが検討され、基質であることが明らかにされた<ref name=Arber1998><pubmed>9655397</pubmed></ref><ref name=Yang1998><pubmed>9655398</pubmed></ref>。 | |||
コフィリンは、哺乳類で[[非筋肉型コフィリン]](別名[[n-cofilin]]、[[cofilin-1]])、[[筋肉型コフィリン]](別名[[m-cofilin]]、[[cofilin-2]])、[[actin depolymerizing factor]]([[ADF]])(別名[[デストリン]][[destrin]])の3種類が存在する。これらの働きは共通しており、全てLIMKにリン酸化され不活性化される<ref name=Ono2007><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref>。以後、これらを総称してコフィリンと記す。コフィリンは、アクチン骨格の動的な状態を生み出すタンパク質である。系統学的には[[酵母]]にも存在し、[[細胞]]の生存に必須である。また、ヒトと酵母で機能互換できるほどその働きは重要で保存されている<ref name=Ono2007><pubmed>17338919</pubmed></ref><ref name=Bamburg1999><pubmed>10461190</pubmed></ref><ref name=Pollard2003><pubmed>12600310</pubmed></ref>。一方で、コフィリンのリン酸化による活性制御は細胞の生存に必須ではなく、[[後生生物]]になってから獲得した[[翻訳後修飾]]であると考えられる。 | |||
LIMKの基本的な働きは、コフィリンを不活性化して、アクチン線維の脱重合を抑制し、重合を促進し、アクチン線維を安定化することである('''図1''')。その後の解析により、LIMKのコフィリン以外の基質も複数報告され、それらのリン酸化の役割が報告されている('''表1''')<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref>。 | |||
LIMKの発見後、細胞応答におけるその働きとシグナル伝達機構が探索され、アクチン骨格の再構築制御の鍵となる[[低分子量Gタンパク質]][[Rho]]ファミリー分子の下流で機能することが示された<ref name=Edwards1999><pubmed>10559936</pubmed></ref><ref name=Maekawa1999><pubmed>10436159</pubmed></ref><ref name=Ohashi2000><pubmed>10652353</pubmed></ref>。さらに、様々な刺激に対する細胞応答において、Rho経路以外にもLIMKの活性を制御する制御因子やシグナル経路が同定され('''表2''')、アクチン骨格再構築の制御という共通の働きによって、神経機能を含む様々な細胞応答に寄与していることが明らかになっている<ref name=Mizuno2013><pubmed>23153585</pubmed></ref><ref name=Ohashi2015><pubmed>25864508</pubmed></ref><ref name=Villalonga2023><pubmed>36899941</pubmed></ref><ref name=BenZablah2021><pubmed>34440848</pubmed></ref>。 | |||
{| class="wikitable" | {| class="wikitable" | ||
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! 基質 (LIMKのタイプ) !! 機能 | ! 基質 (LIMKのタイプ) !! 機能 | ||
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| | | コフィリン (LINK1/LIMK2) || アクチン線維の重合・安定化の促進 | ||
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| | | [[アネキシン1]] (LIMK1) || [[内皮細胞]]の[[管腔]]形成の促進 | ||
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| CREB (LIMK1) || | | [[サイクリックAMP応答配列結合タンパク質]] ([[CREB]]) (LIMK1) || [[神経細胞]]の分化促進 | ||
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| MT-MMP (LIMK1) || | | [[膜型マトリックスメタロプロテアーゼ]] ([[MT-MMP]]) (LIMK1) || [[癌]]細胞の浸潤の促進([[細胞外マトリックス]]の分解の促進) | ||
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| Orb2A (LIMK1) || 長期記憶形成(Orb2Aのオリゴマー化) | | Orb2A (LIMK1) || 長期記憶形成(Orb2Aのオリゴマー化) | ||