「Adenomatous polyposis coli」の版間の差分

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 発生期でも生後でも、神経組織でのAPCの発現は顕著である11)<ref name=Bhat1994><pubmed>8182459</pubmed></ref>。生後の脳では、Apc(APC)の発現に部位差が生じ、大脳皮質、海馬、嗅球、小脳皮質では生後も多量のApc(APC)の存在が認められる。APCはニューロンには豊富である。神経組織内では細胞体にAPCの豊富な発現が見られるニューロンがある20, 21)<ref name=Senda1998><pubmed>9483569</pubmed></ref><ref name=Brakeman1999><pubmed>10366023</pubmed></ref>。分化した培養ニューロンではAPCは神経突起や樹状突起にも分布し、シナプス形成部に濃縮するようになる22)<ref name=Shimomura2007><pubmed>17714185</pubmed></ref>。
 発生期でも生後でも、神経組織でのAPCの発現は顕著である11)<ref name=Bhat1994><pubmed>8182459</pubmed></ref>。生後の脳では、Apc(APC)の発現に部位差が生じ、大脳皮質、海馬、嗅球、小脳皮質では生後も多量のApc(APC)の存在が認められる。APCはニューロンには豊富である。神経組織内では細胞体にAPCの豊富な発現が見られるニューロンがある20, 21)<ref name=Senda1998><pubmed>9483569</pubmed></ref><ref name=Brakeman1999><pubmed>10366023</pubmed></ref>。分化した培養ニューロンではAPCは神経突起や樹状突起にも分布し、シナプス形成部に濃縮するようになる22)<ref name=Shimomura2007><pubmed>17714185</pubmed></ref>。


 グリア細胞については、<ref name=vanEs1999><pubmed>10021369</pubmed></ref><ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref>星状膠細胞19, 23)と稀突起膠細胞23, 24) <ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref><ref name=Bhat1996><pubmed>8776583</pubmed></ref>で発現・局在する。同時に、脳形成期の放射状グリア細胞におけるAPCの発現は、大脳皮質の層形成と軸索投射に重要であることが示された25)<ref name=Yokota2009><pubmed>19146812</pubmed></ref>。
 グリア細胞については、星状膠細胞<ref name=vanEs1999><pubmed>10021369</pubmed></ref><ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref>19, 23)と稀突起膠細胞23, 24) <ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref><ref name=Bhat1996><pubmed>8776583</pubmed></ref>で発現・局在する。同時に、脳形成期の放射状グリア細胞におけるAPCの発現は、大脳皮質の層形成と軸索投射に重要であることが示された25)<ref name=Yokota2009><pubmed>19146812</pubmed></ref>。


 腸管上皮にも豊富に発現しているが、腸上皮での発現は一様ではない。絨毛の先端に行くほどAPCの発現は高く、逆に絨毛の基部から腸陰窩に入ると発現は急激に減弱する12)<ref name=Miyashiro1995><pubmed>7624136</pubmed></ref>。腸上皮細胞は陰窩内にある幹細胞で分裂増殖し、陰窩から絨毛を上りながら4種類の上皮細胞に分化成熟することがわかっている。Wnt系を負に制御して細胞増殖を抑制するAPCの発現が陰窩で少なく、絨毛先端で多いことから、APCは腸上皮全体の増殖・分化の制御に関わっていることを示唆する。上皮細胞内では、細胞の頂部(微絨毛を含む)と隣の細胞と接着している側部細胞膜直下にAPCの局在が見られる。
 腸管上皮にも豊富に発現しているが、腸上皮での発現は一様ではない。絨毛の先端に行くほどAPCの発現は高く、逆に絨毛の基部から腸陰窩に入ると発現は急激に減弱する12)<ref name=Miyashiro1995><pubmed>7624136</pubmed></ref>。腸上皮細胞は陰窩内にある幹細胞で分裂増殖し、陰窩から絨毛を上りながら4種類の上皮細胞に分化成熟することがわかっている。Wnt系を負に制御して細胞増殖を抑制するAPCの発現が陰窩で少なく、絨毛先端で多いことから、APCは腸上皮全体の増殖・分化の制御に関わっていることを示唆する。上皮細胞内では、細胞の頂部(微絨毛を含む)と隣の細胞と接着している側部細胞膜直下にAPCの局在が見られる。


[[ファイル:Senda APC Fig2.png|サムネイル|'''図2. APC変異体によるWntシグナルの異常活性化機構'''<br>'''左.''' 正常APCはβカテニンに結合 ⇒βカテニンは分解される(Wnt系を抑制)<br>'''右.''' 変異APCはβカテニンに結合できない ⇒βカテニンは核に入り、転写因子と結合(Wnt系促進)⇒細胞増殖亢進・がん化]]
[[ファイル:Senda APC Fig2.png|サムネイル|'''図2. APC変異体によるWntシグナルの異常活性化機構'''<br>'''左.''' 正常APCはβカテニンに結合 ⇒βカテニンは分解される(Wnt系を抑制)<br>'''右.''' 変異APCはβカテニンに結合できない ⇒βカテニンは核に入り、転写因子と結合(Wnt系促進)⇒細胞増殖亢進・がん化]]
== 機能 ==
== 機能 ==
 がん抑制タンパク質としてのAPCの機能は、Wntシグナル伝達系を抑制することである8, 9) <ref name=Goss2000><pubmed>10784639</pubmed></ref><ref name=Nusse2017><pubmed>28575679</pubmed></ref>。Wnt系は細胞外リガンド、Wntの刺激を受けて、細胞増殖や細胞分化を促進するシグナルを核内に伝える。APCはWnt系のキータンパクであるβ-カテニンと結合し、その分解を促進することによってWntシグナルの核への移行を阻止する。APCに変異が生じ、β-カテニン結合部位が欠損すると、β-カテニンは分解されずに細胞質に蓄積し、次いで核に移行して細胞増殖をオンにする転写因子を活性化する('''図2''')。
 がん抑制タンパク質としてのAPCの機能は、Wntシグナル伝達系を抑制することである8, 9) <ref name=Goss2000><pubmed>10784639</pubmed></ref><ref name=Nusse2017><pubmed>28575679</pubmed></ref>。Wnt系は細胞外リガンド、Wntの刺激を受けて、細胞増殖や細胞分化を促進するシグナルを核内に伝える。APCはWnt系のキータンパクであるβ-カテニンと結合し、その分解を促進することによってWntシグナルの核への移行を阻止する。APCに変異が生じ、β-カテニン結合部位が欠損すると、β-カテニンは分解されずに細胞質に蓄積し、次いで核に移行して細胞増殖をオンにする転写因子を活性化する('''図2''')。