「グルタミン酸受容体相互作用タンパク質」の版間の差分

ページの作成:「グルタミン酸受容体相互作用タンパク質 GRIP(Glutamate Receptor Interacting Protein) 緑川良介、髙宮考悟 宮崎大学医学部 機能制御学講座 統合生理学分野 {{box|text= GRIPは、多PDZドメインを有する足場タンパク質群であり、AMPA型グルタミン酸受容体の局在や輸送を制御することで興奮性シナプスの機能と可塑性に寄与する。哺乳類ではGRIP1とGRIP2の2つの…」
 
編集の要約なし
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グルタミン酸受容体相互作用タンパク質
<div align="right"> 
GRIP(Glutamate Receptor Interacting Protein)
<font size="+1">[http://researchmap.jp/7000027286/ 緑川良介]、[http://researchmap.jp/takamiya/ 髙宮考悟]</font><br>
緑川良介、髙宮考悟
''宮崎大学医学部 機能制御学講座 統合生理学分野''<br>
宮崎大学医学部 機能制御学講座 統合生理学分野
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2025年6月18日 原稿完成日:2025年8月15日<br>
 
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div>
英:glutamate receptor interacting protein<br>
英略語:GRIP
{{box|text= GRIPは、多PDZドメインを有する足場タンパク質群であり、AMPA型グルタミン酸受容体の局在や輸送を制御することで興奮性シナプスの機能と可塑性に寄与する。哺乳類ではGRIP1とGRIP2の2つの相同タンパク質が知られる。}}
{{box|text= GRIPは、多PDZドメインを有する足場タンパク質群であり、AMPA型グルタミン酸受容体の局在や輸送を制御することで興奮性シナプスの機能と可塑性に寄与する。哺乳類ではGRIP1とGRIP2の2つの相同タンパク質が知られる。}}
== イントロダクション ==
== イントロダクション ==
GRIP1は、1997年にDongらによって初めて同定されたAMPA受容体結合タンパク質であり<ref name=Dong1997><pubmed>9069286</pubmed></ref> (Dong et al., 1997)、その後の研究でGRIP1と高い相同性を有するGRIP2がクローニングされた<ref name=Dong1999><pubmed>10436050</pubmed></ref> (Dong et al., 1999)。またGRIP2遺伝子座由来のスプライシングバリアントとしてABP (AMPA receptor-binding protein) が報告された<ref name=Wyszynski1999><pubmed>10414981</pubmed></ref>(Wyszynski et al., 1999)※。現在では、これらはGRIPファミリーに属する多PDZドメイン足場タンパク質群として理解されている。GRIPは、シナプス後膜においてAMPA受容体の局在や安定化に寄与し、記憶・学習を支える長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)といった可塑性機構に関与する。また、PICK1や他のPDZタンパク質と相互作用しながら、受容体のトラフィッキングや分解、リサイクリングの制御にも関わる。GRIPファミリーは、PDZドメインを介してシナプス受容体複合体を組織化する代表的な足場タンパク質として広く研究されている。
 GRIP1は、1997年にDongらによって初めて同定されたAMPA受容体結合タンパク質であり<ref name=Dong1997><pubmed>9069286</pubmed></ref> (Dong et al., 1997)、その後の研究でGRIP1と高い相同性を有するGRIP2がクローニングされた<ref name=Dong1999><pubmed>10436050</pubmed></ref> (Dong et al., 1999)。またGRIP2遺伝子座由来のスプライシングバリアントとしてABP (AMPA receptor-binding protein) が報告された<ref name=Wyszynski1999><pubmed>10414981</pubmed></ref>(Wyszynski et al., 1999)<ref group="注釈1">ABPはGRIP2のスプライシングバリアントの一部を指す歴史的名称であり、文献によってはABP/GRIP2と併記、もしくはGRIP2をABP (ABP-L)と呼称することもある</ref>。現在では、これらはGRIPファミリーに属する多PDZドメイン足場タンパク質群として理解されている。
※ABPはGRIP2のスプライシングバリアントの一部を指す歴史的名称であり、文献によってはABP/GRIP2と併記、もしくはGRIP2をABP (ABP-L)と呼称することもある。
 
 GRIPは、シナプス後膜においてAMPA受容体の局在や安定化に寄与し、記憶・学習を支える長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)といった可塑性機構に関与する。また、PICK1や他のPDZタンパク質と相互作用しながら、受容体のトラフィッキングや分解、リサイクリングの制御にも関わる。GRIPファミリーは、PDZドメインを介してシナプス受容体複合体を組織化する代表的な足場タンパク質として広く研究されている。
<references group="注釈1" />
   
   
== 構造 ==
== 構造 ==
GRIP1, GRIP2はいずれも7つのPDZドメインを持つ(図1参照)。これらのドメインを介して他のシナプス構成因子や足場タンパクとの複合体を形成する。現在までのところ、GRIP全長のX線結晶構造は未報告である。一方、PDZドメイン断片(例:PDZ12タンデム)については結晶構造解析の報告があるが、GRIP PDZドメインとGluA2/3 C末端との高解像度X線結晶構造は報告されていない
 GRIP1, GRIP2はいずれも7つのPDZドメインを持つ('''図1''')。これらのドメインを介して他のシナプス構成因子や足場タンパクとの複合体を形成する。現在までのところ、GRIP全長のX線結晶構造は未報告である。一方、PDZドメイン断片(例:PDZ12タンデム)については結晶構造解析の報告があるが、GRIP PDZドメインとGluA2/3 C末端との高解像度X線結晶構造は報告されていない
   
   
== サブファミリー ==
== サブファミリー ==
GRIPには主に以下の2つのサブタイプが存在する:
 GRIPには主に以下の2つのサブタイプが存在する:


GRIP1:最も広く研究されているサブタイプで、AMPARの輸送と固定に特に重要な働きを持つ。さらに計5つのスプライシングバリアント(GRIP1a-e)の存在が報告される<ref name=Yamazaki2001><pubmed>11335060</pubmed></ref> <ref name=Charych2004><pubmed>15226318</pubmed></ref> <ref name=Charych2006><pubmed>16539648</pubmed></ref>(Yamazaki et al., 2001)( Charych et al., 2004)( Charych 2006)。
=== GRIP1 ===
 最も広く研究されているサブタイプで、AMPARの輸送と固定に特に重要な働きを持つ。さらに計5つのスプライシングバリアント(GRIP1a-e)の存在が報告される<ref name=Yamazaki2001><pubmed>11335060</pubmed></ref> <ref name=Charych2004><pubmed>15226318</pubmed></ref> <ref name=Charych2006><pubmed>16539648</pubmed></ref>(Yamazaki et al., 2001)( Charych et al., 2004)( Charych 2006)。


GRIP2/ABP:GRIP1と高い相同性を持ち、類似の機能を果たすと考えられている。スプライシングバリアントとしてABP-L, pABP-L, ABP-Sの存在が報告される<ref name=Wyszynski1999><pubmed>10414981</pubmed></ref> <ref name=DeSouza2002><pubmed>11978826</pubmed></ref>(Wyszynski et al., 1999) (Desouza et al., 2002)。
=== GRIP2/ABP ===
 GRIP1と高い相同性を持ち、類似の機能を果たすと考えられている。スプライシングバリアントとしてABP-L, pABP-L, ABP-Sの存在が報告される<ref name=Wyszynski1999><pubmed>10414981</pubmed></ref> <ref name=DeSouza2002><pubmed>11978826</pubmed></ref>(Wyszynski et al., 1999) (Desouza et al., 2002)。
   
   
== 発現 ==
== 発現 ==
=== 組織分布 ===
=== 組織分布 ===
GRIPは中枢神経系において広く発現しており、特に海馬、大脳皮質、嗅球で高い発現がみられる<ref name=Dong1999 /><ref name=Wyszynski1999 /> (Dong et al., 1999) (Wyszynski et al., 1998)。細胞レベルでは、(GRIP1は)大脳皮質の錐体細胞、海馬CA1錐体細胞、小脳のプルキンエ細胞において高い発現が確認されている。
 GRIPは中枢神経系において広く発現しており、特に海馬、大脳皮質、嗅球で高い発現がみられる<ref name=Dong1999 /><ref name=Wyszynski1999 /> (Dong et al., 1999) (Wyszynski et al., 1998)。細胞種としては、GRIP1は大脳皮質の錐体細胞、海馬CA1錐体細胞、小脳のプルキンエ細胞において高い発現が確認されている。
=== 細胞内分布 ===
=== 細胞内分布 ===
細胞内では、主に細胞体-樹状突起、シナプス後膜近傍の樹状突起スパインに局在し、AMPARと共局在する<ref name=Dong1999 /><ref name=Wyszynski1999 /> (Dong et al., 1999)(Wyszynski et al., 1999)。
 細胞内では、主に細胞体-樹状突起、シナプス後膜近傍の樹状突起スパインに局在し、AMPARと共局在する<ref name=Dong1999 /><ref name=Wyszynski1999 /> (Dong et al., 1999)(Wyszynski et al., 1999)。
特に樹状突起スパインにおいては、N末端にパルミトイル化配列をもつGRIP1bおよびpABP-Lが、パルミトイル化を介して高い割合で局在すると考えられている<ref name=DeSouza2002><pubmed>11978826</pubmed></ref>(Desouza et al., 2002)。
 
 特に樹状突起スパインにおいては、N末端にパルミトイル化配列をもつGRIP1bおよびpABP-Lが、パルミトイル化を介して高い割合で局在すると考えられている<ref name=DeSouza2002><pubmed>11978826</pubmed></ref>(Desouza et al., 2002)。
   
   
== 結合タンパク質 ==
== 結合タンパク質 ==
これまでに報告されているGRIP結合タンパクの多くはPDZドメインを介して結合する。GRIPが認識するリガンドの多くはclassⅡ型(–X–Φ–X–Φ)に分類されるC末端配列を有するが、非典型的配列を認識するケースも報告されている※。
 これまでに報告されているGRIP結合タンパクの多くはPDZドメインを介して結合する。GRIPが認識するリガンドの多くはclassⅡ型(–X–Φ–X–Φ)に分類されるC末端配列を有するが、非典型的配列を認識するケースも報告されている<ref group="注釈2">PDZの項目参照。PDZドメインは一般に結合タンパクのC末端配列を介して相互作用し、その配列に基づいてclassⅠ~Ⅲに分類される。classⅡはC末端配列が–X–Φ–X–Φ(Xは任意のアミノ酸、Φは疎水性アミノ酸)であるタンパクと結合する傾向を示す。</ref>※。
 
<references group="注釈2" />
※PDZの項目参照。PDZドメインは一般に結合タンパクのC末端配列を介して相互作用し、その配列に基づいてclassⅠ~Ⅲに分類される。classⅡはC末端配列が–X–Φ–X–Φ(Xは任意のアミノ酸、Φは疎水性アミノ酸)であるタンパクと結合する傾向を示す。


=== GRIP1結合タンパク ===
=== GRIP1結合タンパク ===
これまでに報告されている、GRIP1の各PDZドメインに結合する代表的なタンパクを以下に示す:
これまでに報告されている、GRIP1の各PDZドメインに結合する代表的なタンパクを以下に示す:
PDZ ドメイン 結合タンパク 結合タンパクのC末端配列 参考文献
{| class="wikitable"
PDZ1-3 Fras1 G-T-E-V <ref name=Takamiya2004><pubmed>14730302</pubmed></ref>et al., 2004
! PDZ ドメイン
PDZ4-5 GluA2, GluA3 (short form) S-V-K-I <ref name=Dong1997 />Dong et al., 1997
! 結合タンパク
PDZ6 EphB2 S-V-E-V <ref name=Torres1998><pubmed>9883737</pubmed></ref>Torres et al., 1998
! 結合タンパクのC末端配列
PDZ6 EphA7 G-I-Q-V <ref name=Torres1998 />Torres et al., 1998
! 参考文献
PDZ6 EphrinB1 Y-Y-K-V <ref name=Bruckner1999><pubmed>10197531</pubmed></ref>Brückner K et al., 1999
|-
PDZ6 Liprin-α T-Y-S-C <ref name=Wyszynski2002><pubmed>11931740</pubmed></ref>Wyszynski et al., 2002
| PDZ1-3
PDZ7 GRASP-1
| Fras1
NG2 Q-Y-W-V <ref name=Feng2002><pubmed>12196542</pubmed></ref>Feng et al., 2002
| G-T-E-V
| <ref name=Takamiya2004><pubmed>14730302</pubmed></ref>et al., 2004
|-
| PDZ4-5
| GluA2, GluA3 (short form)
| S-V-K-I
| <ref name=Dong1997 />Dong et al., 1997
|-
| PDZ6
| EphB2
| S-V-E-V
| <ref name=Torres1998><pubmed>9883737</pubmed></ref>Torres et al., 1998
|-
| PDZ6
| EphA7
| G-I-Q-V
| <ref name=Torres1998 />Torres et al., 1998
|-
| PDZ6
| EphrinB1
| Y-Y-K-V
| <ref name=Bruckner1999><pubmed>10197531</pubmed></ref>Brückner K et al., 1999
|-
| PDZ6
| Liprin-α
| T-Y-S-C
| <ref name=Wyszynski2002><pubmed>11931740</pubmed></ref>Wyszynski et al., 2002
|-
| PDZ7
| GRASP-1<br>NG2
| Q-Y-W-V
| <ref name=Feng2002><pubmed>12196542</pubmed></ref>Feng et al., 2002
|}
<ref name=Stegmuller2003><pubmed>12458226</pubmed></ref>Stegmüller et al., 2003
<ref name=Stegmuller2003><pubmed>12458226</pubmed></ref>Stegmüller et al., 2003
<ref name=Sheng2001><pubmed>11283303</pubmed></ref>Sheng et al., 2001を参考に再構成
<ref name=Sheng2001><pubmed>11283303</pubmed></ref>Sheng et al., 2001を参考に再構成