「Gastrulation brain homeoboxファミリー」の版間の差分
細 →構造的特徴 |
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研究が先行している脊椎動物Gbx2は340–348アミノ酸からなるタンパク質であり、種間ではアミノ酸配列全長で65–72%の相同性を示す。一方、Gbx1については313–418アミノ酸から構成され、種間では全長で60–73%の一致が見られる。Gbx2内には、種間で特に保存性の高い4つの保存配列領域(CD1, CD2、ホメオドメイン、CD3)が存在する(図1A)<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref>。''Gbx''タンパク質のホメオドメインは、''Antp''クラスの中で''EHGbox''グループ<ref name=Pollard2000><pubmed>10996074</pubmed></ref>またはExtended Hoxグループに分類される<ref name=Holland2005><pubmed>16144637</pubmed></ref>。Gbx2およびGbx1のホメオドメインは、それぞれ脊椎動物種間でほぼ完全に保存されており、両者の間でも96%が一致する。さらにGbx2のホメオドメインとショウジョウバエGbx(''Unplugged'';以下''Unpg'')の間でもやはり高い相同性が見られる(92%)(図1B)。 | 研究が先行している脊椎動物Gbx2は340–348アミノ酸からなるタンパク質であり、種間ではアミノ酸配列全長で65–72%の相同性を示す。一方、Gbx1については313–418アミノ酸から構成され、種間では全長で60–73%の一致が見られる。Gbx2内には、種間で特に保存性の高い4つの保存配列領域(CD1, CD2、ホメオドメイン、CD3)が存在する(図1A)<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref>。''Gbx''タンパク質のホメオドメインは、''Antp''クラスの中で''EHGbox''グループ<ref name=Pollard2000><pubmed>10996074</pubmed></ref>またはExtended Hoxグループに分類される<ref name=Holland2005><pubmed>16144637</pubmed></ref>。Gbx2およびGbx1のホメオドメインは、それぞれ脊椎動物種間でほぼ完全に保存されており、両者の間でも96%が一致する。さらにGbx2のホメオドメインとショウジョウバエGbx(''Unplugged'';以下''Unpg'')の間でもやはり高い相同性が見られる(92%)(図1B)。 | ||
N末側領域に位置するCD1配列についてはNCR配列がGbx1でも保存されている<ref name=Nakayama2013><pubmed>23933069</pubmed></ref>(図1C)。NCR内には、転写抑制活性をもつとされるEh1様配列<ref name=Heimbucher2007><pubmed>17604541</pubmed></ref>に加え、Gbx2においては転写活性化能を持つとされるProline-rich(Pro-rich)配列<ref name=Mermod1989><pubmed>2504497</pubmed></ref>が含まれており<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref>、さらにPro-rich様配列がGbx1とGbx2の両者で認められる。明確なCD2相同配列はGbx1では見られないが、CD3配列はGbx1のC末端領域と比較的高い相同性を示し、''Unpg''でも部分的に保存されている(図1D)。以上より、Gbx1、''Unpg''のいずれも分子的機能についてGbx2とは共通性があるとともに違いも予想される。なお、ゼブラフィッシュ胚での強制発現実験では、Gbx1とGbx2は同等の前方脳形成抑制効果を示しており<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref> | N末側領域に位置するCD1配列についてはNCR配列がGbx1でも保存されている<ref name=Nakayama2013><pubmed>23933069</pubmed></ref>(図1C)。NCR内には、転写抑制活性をもつとされるEh1様配列<ref name=Heimbucher2007><pubmed>17604541</pubmed></ref>に加え、Gbx2においては転写活性化能を持つとされるProline-rich(Pro-rich)配列<ref name=Mermod1989><pubmed>2504497</pubmed></ref>が含まれており<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref>、さらにPro-rich様配列がGbx1とGbx2の両者で認められる。明確なCD2相同配列はGbx1では見られないが、CD3配列はGbx1のC末端領域と比較的高い相同性を示し、''Unpg''でも部分的に保存されている(図1D)。以上より、Gbx1、''Unpg''のいずれも分子的機能についてGbx2とは共通性があるとともに違いも予想される。なお、ゼブラフィッシュ胚での強制発現実験では、Gbx1とGbx2は同等の前方脳形成抑制効果を示しており<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref>、両者の機能は少なくとも初期脊椎動物胚では類似していると考えられる。 | ||
== 個体での発現 == | |||
ここでは、初期に報告された個体レベルでの発現について概説し、表2に整理する。胚領域ごとの詳細は「個体での''Gbx''の機能」の項に譲る(発生段階の表記については表2の注2参照)。 | |||
(1)''Gbx1'' | |||
''Gbx1''は、マウスの場合、E7.5から胚体の後方領域で後端ほど強く発現しており、発現前端は後述する''Gbx2''のものよりやや後方にある。その後、後脳第2-第7菱脳節(r2-7)、脊髄、眼胞、内側基底核原基(MGE)、前脳基底部などで発現が見られる<ref name=Rhinn2004><pubmed>14745958</pubmed></ref>。神経系以外では、原条、尿嚢、側板中胚葉でも発現が観察されている<ref name=Waters2003><pubmed>12799077</pubmed></ref> <ref name=Rhinn2004><pubmed>14745958</pubmed></ref>。ニワトリでは、13日胚の脳と骨格筋で発現が検出された<ref name=Kowenz-Leutz1997><pubmed>9346236</pubmed></ref>。さらに、ニワトリ胚由来の表皮や腸の粘膜上皮で培養系において''Gbx1''の発現が確認されている<ref name=Obinata2001><pubmed>11162634</pubmed></ref>。 | |||
ゼブラフィッシュ''gbx1''の場合、原腸形成期においてマウスとは発現パターンに大きな違いが見られる。この動物の場合、''gbx1''は、''gbx2''の発現がまだ見られない原腸形成中期(75% epiboly)において、''otx2''の発現する前方脳領域とほぼ相補的に神経板の後方で広く発現する<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref> <ref name=Rhinn2003><pubmed>12963112</pubmed></ref> (図2, 3)。こうした発現はマウス ''Gbx1'' では知られておらず、下述する四足類での ''Gbx2'' の発現と一致する。一方、体節形成期以降での ''gbx1'' の発現は、マウス ''Gbx1'' のものと類似している。まず、後脳では前端(r1)で発現が消失する一方、より後方の菱脳節、そして脊髄全域で発現する<ref name=Wang2018><pubmed>29289755</pubmed></ref>(図2, 3)。咽頭胚期(30 hpf以降)になると、''gbx1'' の発現は外套下部(終脳腹側)のMGE領域、そして後脳の鰓弓運動ニューロンでも観察されている<ref name=Rhinn2003><pubmed>12963112</pubmed></ref><ref name=Wang2018><pubmed>29289755</pubmed></ref>。 | |||
=== ''Gbx2'' === | |||
マウスの場合<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref> <ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref>、''Gbx2'' の発現は頭褶期(E7.5–7.75)に胚後方の3胚葉すべてで開始する。CNSでの発現は、前方で見られる ''Otx2'' 発現領域と接するように後方神経領域で広く認められるが、E10.5では後脳前端に収束する(図2, 3)。ニワトリ、ツメガエルでも、''Gbx2'' 発現は原腸形成中期にMHB周辺を前端として後方神経板で広範囲に観察され、徐々に発現は後脳前端へと限局する<ref name=Niss1998><pubmed>9767154</pubmed></ref> <ref name=Shamim1998><pubmed>9767154</pubmed></ref> <ref name=von_Bubnoff1996><pubmed>8652408</pubmed></ref>。なお、これらの動物種においても、神経板前方ではマウス同様 ''Otx2'' が発現しており、''Gbx2'' の発現はこれに接している<ref name=Hidalgo-Sánchez2005><pubmed>16111444</pubmed></ref><ref name=Nakamura2001><pubmed>11163885</pubmed></ref><ref name=Rhinn2001><pubmed>11179870</pubmed></ref><ref name=Simeone2002><pubmed>12100885</pubmed></ref>。マウスおよびニワトリ胚では、''Otx2'' と ''Gbx2'' の発現は原腸形成期に独立して始まり、重なりがみられるが、原腸形成後に両遺伝子の発現は排他的になり、明確な境界を形成する。なお、この時期に後脳前端で ''Fgf8'' の発現が始まり、峡部オーガナイザーが形成される<ref name=Garda2001><pubmed>11231064</pubmed></ref><ref name=Li2001><pubmed>11748135</pubmed></ref>(図2)。 | マウスの場合<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref> <ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref>、''Gbx2'' の発現は頭褶期(E7.5–7.75)に胚後方の3胚葉すべてで開始する。CNSでの発現は、前方で見られる ''Otx2'' 発現領域と接するように後方神経領域で広く認められるが、E10.5では後脳前端に収束する(図2, 3)。ニワトリ、ツメガエルでも、''Gbx2'' 発現は原腸形成中期にMHB周辺を前端として後方神経板で広範囲に観察され、徐々に発現は後脳前端へと限局する<ref name=Niss1998><pubmed>9767154</pubmed></ref> <ref name=Shamim1998><pubmed>9767154</pubmed></ref> <ref name=von_Bubnoff1996><pubmed>8652408</pubmed></ref>。なお、これらの動物種においても、神経板前方ではマウス同様 ''Otx2'' が発現しており、''Gbx2'' の発現はこれに接している<ref name=Hidalgo-Sánchez2005><pubmed>16111444</pubmed></ref><ref name=Nakamura2001><pubmed>11163885</pubmed></ref><ref name=Rhinn2001><pubmed>11179870</pubmed></ref><ref name=Simeone2002><pubmed>12100885</pubmed></ref>。マウスおよびニワトリ胚では、''Otx2'' と ''Gbx2'' の発現は原腸形成期に独立して始まり、重なりがみられるが、原腸形成後に両遺伝子の発現は排他的になり、明確な境界を形成する。なお、この時期に後脳前端で ''Fgf8'' の発現が始まり、峡部オーガナイザーが形成される<ref name=Garda2001><pubmed>11231064</pubmed></ref><ref name=Li2001><pubmed>11748135</pubmed></ref>(図2)。 | ||
原腸形成以降、''Gbx2'' は様々な胚領域で発現する。マウスの場合<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref> <ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref>、E8.5胚では前腸と尾芽、E9.5胚において脊髄全域、内耳原基(耳胞)、咽頭弓で発現し、E11.5になると、視床、線条体、小脳、延髄、脊髄背側、内耳上皮、咽頭弓でも観察される。成体では視床、膝状体、扁桃体で発現し、さらに脾臓とメス生殖管で発現が認められている<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref>。ニワトリ胚<ref name=Martínez-de-la-Torre2002><pubmed>11923005</pubmed></ref><ref name=Niss1998><pubmed>9767154</pubmed></ref><ref name=Shamim1998><pubmed>9767154</pubmed></ref>とツメガエル胚<ref name=von_Bubnoff1996><pubmed>8652408</pubmed></ref> <ref name=Tour2001><pubmed>11684099</pubmed></ref>でも ''Gbx2'' の発現パターンはマウスのものと類似している(詳細は表2参照)。 | 原腸形成以降、''Gbx2'' は様々な胚領域で発現する。マウスの場合<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref> <ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref>、E8.5胚では前腸と尾芽、E9.5胚において脊髄全域、内耳原基(耳胞)、咽頭弓で発現し、E11.5になると、視床、線条体、小脳、延髄、脊髄背側、内耳上皮、咽頭弓でも観察される。成体では視床、膝状体、扁桃体で発現し、さらに脾臓とメス生殖管で発現が認められている<ref name=Bouillet1995><pubmed>8601031</pubmed></ref>。ニワトリ胚<ref name=Martínez-de-la-Torre2002><pubmed>11923005</pubmed></ref><ref name=Niss1998><pubmed>9767154</pubmed></ref><ref name=Shamim1998><pubmed>9767154</pubmed></ref>とツメガエル胚<ref name=von_Bubnoff1996><pubmed>8652408</pubmed></ref> <ref name=Tour2001><pubmed>11684099</pubmed></ref>でも ''Gbx2'' の発現パターンはマウスのものと類似している(詳細は表2参照)。 | ||
なお、ニワトリ胚では、様々な造血系組織(骨髄、ファブリキウス嚢、肝臓、脾臓、胸腺)で発現が検出されている<ref name=Kowenz-Leutz1997><pubmed>9346236</pubmed></ref>。ゼブラフィッシュ ''gbx2'' の発現パターンも、原腸形成終了後になると四足類のものと共通性が高いが<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref><ref name=Rhinn2003><pubmed>12963112</pubmed></ref><ref name=Su2002><pubmed>11000984</pubmed></ref>、発生初期(原腸形成期)においては ''gbx1'' の場合と同様に大きな違いが見られる。ゼブラフィッシュでも ''otx2'' は原腸形成初期から神経板前方で発現するが<ref name=Mori1994><pubmed>7898305</pubmed></ref>、''gbx2'' は発現開始時期が遅く、原腸形成終期(90% epiboly)に後脳前端(r1)で初めて発現が検出され<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref><ref name=Rhinn2003><pubmed>12963112</pubmed></ref><ref name=Su2002><pubmed>11000984</pubmed></ref>、この発現は原腸形成終了後も維持される(図2, 3)。体節形成期(18–24 hpf)では終脳で一過的な発現が認められ、36 hpf以降には視床原基でも発現が観察される<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref><ref name=Su2002><pubmed>11000984</pubmed></ref>。体節形成期以降になると、耳原基/耳胞、移動中の神経堤細胞、咽頭弓、尾芽などでも発現が認められる。 | |||
== (3)無脊椎動物の''Gbx''の発現 == | |||
無脊椎動物についてはこれまで主にCNSでの発現が解析されてきた。半索動物胚の ''Otx'' と ''Gbx'' は、重なりはあるもののそれぞれ前方外胚葉と後方外胚葉で発現する。頭索類胚のCNSでは、前方の ''Otx'' 発現と後方の ''Gbx'' 発現が明瞭な境界をつくる<ref name=Holland2008><pubmed>18836256</pubmed></ref> <ref name=Lowe2003><pubmed>12837244</pubmed></ref> <ref name=Castro2006><pubmed>16687133</pubmed></ref>。一方、前口動物であるショウジョウバエの ''unpg'' は、st. 8において初めて腹側の神経外胚葉細胞と中胚葉細胞で発現する<ref name=Chiang1995><pubmed>8582298</pubmed></ref>。その後、CNSでは後方で発現し、前方脳特異的遺伝子 ''otd''(''Otx2'' ホモログ)の発現後端と接する<ref name=Hirth2003><pubmed>12702651</pubmed></ref>。環形動物(ゴカイ)および各種軟体動物の幼生でも同様に前後に沿った部域特異的発現が ''Otx''–''Gbx'' について報告された<ref name=Steinmetz2011><pubmed>21210944</pubmed></ref> <ref name=Focareta2014><pubmed>25286399</pubmed></ref> <ref name=Wollesen2017><pubmed>28710480</pubmed></ref>。以上の観察は、CNSのパターニングではたらく ''Otx2''–''Gbx'' の制御系が進化的に保存されてきたことを示唆する。なお、''unpg'' は、後述する変異体の表現型からも予想されるように第一気管分節内の脳分枝形成細胞でも発現する<ref name=Chiang1995><pubmed>8582298</pubmed></ref>。 | |||