「Gastrulation brain homeoboxファミリー」の版間の差分
細 →構造的特徴 |
|||
| 28行目: | 28行目: | ||
== (3)無脊椎動物の''Gbx''の発現 == | == (3)無脊椎動物の''Gbx''の発現 == | ||
無脊椎動物についてはこれまで主にCNSでの発現が解析されてきた。半索動物胚の ''Otx'' と ''Gbx'' は、重なりはあるもののそれぞれ前方外胚葉と後方外胚葉で発現する。頭索類胚のCNSでは、前方の ''Otx'' 発現と後方の ''Gbx'' 発現が明瞭な境界をつくる<ref name=Holland2008><pubmed>18836256</pubmed></ref> <ref name=Lowe2003><pubmed>12837244</pubmed></ref> <ref name=Castro2006><pubmed>16687133</pubmed></ref>。一方、前口動物であるショウジョウバエの ''unpg'' は、st. 8において初めて腹側の神経外胚葉細胞と中胚葉細胞で発現する<ref name=Chiang1995><pubmed>8582298</pubmed></ref>。その後、CNSでは後方で発現し、前方脳特異的遺伝子 ''otd''(''Otx2'' ホモログ)の発現後端と接する<ref name=Hirth2003><pubmed>12702651</pubmed></ref>。環形動物(ゴカイ)および各種軟体動物の幼生でも同様に前後に沿った部域特異的発現が ''Otx''–''Gbx'' について報告された<ref name=Steinmetz2011><pubmed>21210944</pubmed></ref> <ref name=Focareta2014><pubmed>25286399</pubmed></ref> <ref name=Wollesen2017><pubmed>28710480</pubmed></ref>。以上の観察は、CNSのパターニングではたらく ''Otx2''–''Gbx'' の制御系が進化的に保存されてきたことを示唆する。なお、''unpg'' は、後述する変異体の表現型からも予想されるように第一気管分節内の脳分枝形成細胞でも発現する<ref name=Chiang1995><pubmed>8582298</pubmed></ref>。 | 無脊椎動物についてはこれまで主にCNSでの発現が解析されてきた。半索動物胚の ''Otx'' と ''Gbx'' は、重なりはあるもののそれぞれ前方外胚葉と後方外胚葉で発現する。頭索類胚のCNSでは、前方の ''Otx'' 発現と後方の ''Gbx'' 発現が明瞭な境界をつくる<ref name=Holland2008><pubmed>18836256</pubmed></ref> <ref name=Lowe2003><pubmed>12837244</pubmed></ref> <ref name=Castro2006><pubmed>16687133</pubmed></ref>。一方、前口動物であるショウジョウバエの ''unpg'' は、st. 8において初めて腹側の神経外胚葉細胞と中胚葉細胞で発現する<ref name=Chiang1995><pubmed>8582298</pubmed></ref>。その後、CNSでは後方で発現し、前方脳特異的遺伝子 ''otd''(''Otx2'' ホモログ)の発現後端と接する<ref name=Hirth2003><pubmed>12702651</pubmed></ref>。環形動物(ゴカイ)および各種軟体動物の幼生でも同様に前後に沿った部域特異的発現が ''Otx''–''Gbx'' について報告された<ref name=Steinmetz2011><pubmed>21210944</pubmed></ref> <ref name=Focareta2014><pubmed>25286399</pubmed></ref> <ref name=Wollesen2017><pubmed>28710480</pubmed></ref>。以上の観察は、CNSのパターニングではたらく ''Otx2''–''Gbx'' の制御系が進化的に保存されてきたことを示唆する。なお、''unpg'' は、後述する変異体の表現型からも予想されるように第一気管分節内の脳分枝形成細胞でも発現する<ref name=Chiang1995><pubmed>8582298</pubmed></ref>。 | ||
== ''Gbx'' のタンパク質としての機能 == | |||
''Gbx'' タンパク質は、他のホメオドメイン転写因子と同様に、ATTA/TAAT を中心とする DNA 塩基配列を認識する(表3)。''Gbx1'' については TAATTA 配列に結合し、結果としてタンパク質高次構造に局所的多型が生じることが示された<ref name=Proudfoot2016><pubmed>27396829</pubmed></ref>。また、''ChIP-Seq'' による GBX2 結合塩基配列の網羅的解析から、TAAT を含む多数のゲノム配列に結合することが確認された<ref name=Roeseler2012><pubmed>23144817</pubmed></ref>。培養細胞系では、''MGF''<ref name=Kowenz-Leutz1997><pubmed>9346236</pubmed></ref>、''IL-6''<ref name=Gao2000><pubmed>10690529</pubmed></ref>、''EEF1A1''<ref name=Roeseler2012><pubmed>23144817</pubmed></ref> 各遺伝子のプロモーター内 TAAT 類似配列に ''Gbx2'' が結合し、いずれについても転写を活性化する。 | |||
一方、発生制御遺伝子については様相が異なる。''Gbx2'' はゼブラフィッシュにおいて、TAATTA を含む ''fgf8a'' の MHB エンハンサー内配列に結合して転写抑制的に作用する<ref name=Inoue2008><pubmed>18280464</pubmed></ref>。マウスでは、''Otx2'' の前・中脳エンハンサー内にある TAATTA に結合して転写を抑制すること<ref name=Inoue2012><pubmed>22566684</pubmed></ref>、''Lmo3'' の上流領域にある CTAATTAG に結合して ''Lhx2'' 依存性の転写を抑制することが報告されている<ref name=Chatterjee2012><pubmed>23136391</pubmed></ref>。実際、少なくとも発生初期の脳形成においては、直接の制御かどうかは不明であるものの、「個体での ''Gbx'' の機能」の項で述べるように、多くの脳形成制御遺伝子に対して ''Gbx'' による発現抑制効果が観察されている。なお、ツメガエルおよびゼブラフィッシュにおいて、後述するように ''Gbx2'' には前・中脳形成抑制活性が見られるが、VP16 の転写活性化領域、あるいは Engrailed の転写抑制領域を用いたキメラ遺伝子の過剰発現が示す効果から、''Gbx2'' タンパク質が転写抑制因子としてはたらくことが示唆された<ref name=Tour2002><pubmed>11850185</pubmed></ref><ref name=Nakayama2013><pubmed>23933069</pubmed></ref>。 | |||
つまり、''Gbx'' タンパク質は状況に応じて転写活性化因子、転写抑制因子の両方の機能を有する可能性がある。実際、''Gbx2'' 下流遺伝子に関する網羅的解析でも、''Gbx'' が遺伝子発現の活性化、抑制の両方に関与することが示されている<ref name=Mallika2015><pubmed>26297811</pubmed></ref><ref name=Roeseler2012><pubmed>23144817</pubmed></ref><ref name=Nakayama2017><pubmed>28756106</pubmed></ref>。''Gbx'' で見られる保存領域の役割については、ゼブラフィッシュ胚で欠失導入の効果が検討されており<ref name=Nakayama2013><pubmed>23933069</pubmed></ref>、''Gbx2'' の前・中脳の形成抑制活性には NCR 内の Eh1 配列と CD4 配列の双方が寄与することが示された。''Gbx2'' による前方脳抑制活性に Eh1 配列が必要であることはメダカでも観察されており、この場合、Groucho/Tle4 との結合が必要とされた<ref name=Heimbucher2007><pubmed>17060451</pubmed></ref>。''Gbx2'' は神経堤細胞の形成にも関与するが、これに由来する色素細胞の分化制御には ''Gbx2'' の N 末領域の関与が報告されている。 | |||
== 個体での ''Gbx'' の機能 == | |||
(1)中枢神経系の発生 | |||
''Gbx'' は発生初期において、CNS の前後に沿った部域化と峡部オーガナイザーの形成で重要な役割を担い、その後は特定脳領域の神経細胞系列の分化を制御する。 | |||
(1.1)中脳後脳境界(MHB)の形成 | |||
(1.1.1)脊椎動物 | |||
CNS 原基である神経板は発生初期に神経誘導により背側外胚葉から生じるが、この領域は前後軸に沿って前脳、中脳、後脳、そして脊髄に部域化される。中脳と後脳の境界、すなわち中脳後脳境界(MHB)は、しばしば峡部オーガナイザー(isthmic organizer)とも呼ばれ、中脳および前部後脳の発生を誘導するシグナルセンターであることが様々な移植実験により示されている<ref name=Nakamura2001><pubmed>11163885</pubmed></ref><ref name=Hidalgo-Sanchez2022><pubmed>35401126</pubmed></ref>(本辞典、「オーガナイザー」参照)。 | |||
MHB/峡部領域の形成を制御する遺伝子カスケードの概略は明らかになっている<ref name=Rhinn2001><pubmed>11179870</pubmed></ref><ref name=Wassef1997><pubmed>9509514</pubmed></ref><ref name=Nakamura2001><pubmed>11163885</pubmed></ref><ref name=Wurst2001><pubmed>11253000</pubmed></ref><ref name=Dworkin2013><pubmed>23307071</pubmed></ref><ref name=Martinez2013><pubmed>23805080</pubmed></ref>(図2)。これまでに解析されたすべての脊椎動物において、''Otx2'' と ''Gbx'' が MHB 近傍で最も早期に発現する遺伝子である。''Otx2'' は様々な動物種で前方形成に関わる遺伝子であり、脊椎動物胚では、原腸形成初期に前方神経外胚葉で広く発現する<ref name=Li1994><pubmed>7893604</pubmed></ref><ref name=Simeone1993><pubmed>8101484</pubmed></ref>。一方の ''Gbx'' は初期原腸期から後方神経板で広く発現し、両者が相互に発現を抑制し合う結果、神経板において明瞭な発現境界が形成される。生じた ''Otx2''–''Gbx'' 境界周辺では原腸形成終期以降、''Pax2''、''Fgf8''、''Wnt1'' などが独立して発現を開始する結果、MHB 領域が確立され(確立段階)、さらにこの部位で初期 MHB 遺伝子の相互調節ループが形成される(維持段階)<ref name=Rhinn2001><pubmed>11179870</pubmed></ref>。続いて、これらの初期 MHB 遺伝子の下流で形成される遺伝子制御ネットワークが峡部を形成するとともに、分泌シグナルを介して中脳と後脳、特に小脳の発生を誘導する<ref name=Martinez-Barbera2001><pubmed>11493554</pubmed></ref><ref name=Mason2000><pubmed>11103948</pubmed></ref>(図2)。以下、MHB・峡部の形成で ''Gbx'' が果たす役割に関して行われた具体的研究について説明するが、留意すべきは、発現から予想されるように、MHB の決定に関わる ''Gbx'' 遺伝子が、四足類では ''Gbx2''、ゼブラフィッシュでは ''gbx1'' とされることである。 | |||
(1.1.1.1)四足類(マウス、ニワトリ、ツメガエルなど) | |||
マウスにおいては ''Gbx2'' の遺伝子破壊(ノックアウト, KO)実験が行われており、得られた ''Gbx2'' 欠損胚では、峡部、小脳、そして r1-3 が欠損する一方で、中脳は尾側に拡大していた<ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref>。この実験は、峡部発生、そして結果的には小脳と中脳の発生において ''Gbx2'' が不可欠であることを初めて示したものである。一方、''Otx2'' を後脳前方に異所的に発現させたノックインマウスでは、新たに生じた ''Otx2'' の発現後端に従って MHB 遺伝子の発現領域も後方へシフトしていた<ref name=Broccoli1999><pubmed>10490025</pubmed></ref>。これに対し、''Gbx2'' を中脳後方に異所的に発現させたノックインマウスでは、''Gbx2'' の発現前端とともに MHB 遺伝子の発現について前方へのシフトが見られた<ref name=Millet1999><pubmed>10490024</pubmed></ref>。以上より、原腸形成時における ''Otx2'' と ''Gbx2'' の発現境界が MHB の位置を決定すると考えられる<ref name=Simeone2000><pubmed>10827447</pubmed></ref><ref name=Joyner2000><pubmed>11063941</pubmed></ref>。また、中脳-r1 領域に ''Gbx2'' を異所的に発現させると、中脳、小脳の欠損が起きることから<ref name=Sunmonu2009><pubmed>19603509</pubmed></ref>、''Gbx2'' は前方脳の形成には抑制的であると考えられる。MHB 遺伝子(''Fgf8'', ''Wnt1'', ''Pax2'', ''En'')の発現開始は ''Otx2'' 及び ''Gbx2'' とは独立して起きるが、その後の発現制御には ''Otx2-Gbx2'' 相互作用が必要である<ref name=Li2001><pubmed>11748135</pubmed></ref><ref name=Li2005><pubmed>15790971</pubmed></ref><ref name=Liu2001><pubmed>11124114</pubmed></ref><ref name=Garda2001><pubmed>11231064</pubmed></ref><ref name=Hidalgo-Sanchez2002><pubmed>11803577</pubmed></ref><ref name=Sunmonu2011><pubmed>21266408</pubmed></ref>。近年、ヒト ES 細胞から誘導された前方後脳細胞では ''SOX1'' が高発現して ''GBX2'' を活性化すること、''SOX1'' の発現は ''OTX2'' により抑制されることが観察されており、こうした機構も MHB の維持と後脳前方の発生に寄与すると考えられている<ref name=Liu2020><pubmed>32905879</pubmed></ref>。 | |||
ニワトリ胚の場合も、''in ovo'' electroporation による異所的発現誘導により<ref name=Katahira2000><pubmed>10704829</pubmed></ref>、''Gbx2'' が神経板において、MHB を前方へシフトさせること、''Otx2'' と ''Gbx2'' が相互抑制関係にあること、さらに ''Fgf8'' の発現が ''Otx2-Gbx2'' 境界で誘導されることが示された。ツメガエルでも、mRNA 注入による ''gbx2'' の過剰発現実験やアニマルキャップを用いた ''in vitro'' 系の実験により同様の結果が報告された<ref name=King1998><pubmed>9707329</pubmed></ref><ref name=Tour2001><pubmed>11684099</pubmed></ref><ref name=Glavic2002><pubmed>11830569</pubmed></ref><ref name=Tour2002a><pubmed>11850185</pubmed></ref><ref name=Tour2002b><pubmed>11744364</pubmed></ref>。こうした結果はマウスでの結果と一致している。さらに、これらの動物でも原腸形成期の後方神経板では ''Gbx2'' が広く発現することから、四足類では共通して、原腸形成期に後方神経板で発現する ''Gbx2'' と前方神経板で発現する ''Otx2'' の抑制的相互作用が MHB の位置決定と確立に関与すると考えられる。一方、''Gbx1'' は、少なくともマウス胚では MHB 領域の決定時期には MHB より後方で発現することから、峡部形成には関与しないと考えられる。 | |||
(1.1.1.2)ゼブラフィッシュ | |||
すでに述べたように、ゼブラフィッシュの場合、原腸形成期の後脳前方ではまず ''gbx1'' が発現し、その後、この発現は ''gbx2'' に置き換わることになる<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref><ref name=Rhinn2003><pubmed>12963112</pubmed></ref>(図3)。実際、ゼブラフィッシュ ''gbx2'' の機能について、モルフォリノオリゴによるノックダウン(KD)実験により検討された結果、原腸形成期での MHB の確立には関与せず、その後の MHB の維持や峡部構造の形成に関与することが示唆された<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref>。つまり、四足類では MHB の確立とその後の維持はいずれも ''Gbx2'' に依存するのに対し、ゼブラフィッシュの場合、2 種の ''gbx'' 遺伝子の間で機能的分業があり、MHB の位置決定は ''otx2-gbx1''、MHB の維持やその後の形態形成には ''otx2-gbx2'' が関与していると考えられている。四足類と真骨魚類での ''Gbx/gbx'' 遺伝子の発現制御の違いに関しては、脊椎動物の進化過程における転写調節シスエレメントの重複・変性・相補(DDC, Duplication-Degeneration-Complementation)<ref name=Force1999><pubmed>10101175</pubmed></ref>と、その後の遺伝子機能のシャッフリングに起因すると推定されている<ref name=Islam2006><pubmed>17067785</pubmed></ref>(図3)。なお、''gbx1'' と ''gbx2'' の変異体では、二重変異胚において峡部形成の異常が明瞭に観察された。単独変異での異常は軽微とされたが、原腸形成終了前後では後脳前端において ''gbx1'' と ''gbx2'' の発現が重複しており、このことが原因と考えられる。 | |||
以上の遺伝子機能阻害実験とは別に、ゼブラフィッシュ ''gbx'' の機能については、ツメガエルと同様に mRNA 注入による過剰発現実験が行われている<ref name=Kikuta2003><pubmed>14579382</pubmed></ref>。その結果、''gbx1'', ''gbx2'' のいずれにも、マウスなどの羊膜類や両生類の ''Gbx2'' と同様に、前・中脳形成を抑制する活性が見られた。ただし、低レベルでの強制発現では異常が峡部に限定されており、MHB/峡部が ''gbx'' に対して高い感受性を有すると考えられる<ref name=Nakayama2013><pubmed>23933069</pubmed></ref>。ヒートショック誘導性 ''gbx2'' コンストラクト(hsp-gbx2)を用いた時期特異的な強制発現実験により、MHB/峡部の形成において ''otx2-gbx'' の抑制的相互作用が決定的になるのは原腸形成の終了前後であるとされた。 | |||
なお、ゼブラフィッシュの場合、MHB 領域において神経分化が抑制されており、この未分化状態がシグナルセンターとしての機能に重要と考えられている。この神経分化抑制に関わる主要遺伝子として bHLH 遺伝子の ''her5'' が知られており<ref name=Geling2003><pubmed>12620984</pubmed></ref>、同様の峡部オーガナイザーの維持機能はマウス ''Hes1/Hes3'' でも報告されている<ref name=Hirata2001><pubmed>11500373</pubmed></ref>。上記した ''hsp-gbx2'' の誘導実験により、''gbx2'' は ''her5'' の発現領域を限定することでシグナルセンターの維持に寄与することが示唆されている<ref name=Nakayama2017><pubmed>28756106</pubmed></ref>。 | |||
(1.1.2)無脊椎動物(ショウジョウバエ) | |||
ショウジョウバエ胚の脳では、前方から後方にかけて、''otd''、''Pax2/5/8''、''unpg''、そして ''Hox'' がこの順で発現している。''otd'' および ''unpg'' の変異による遺伝子の不活化は、''Pax2/5/8'' および ''Hox'' 遺伝子の脳特異的発現領域の喪失または位置異常を引き起こす。さらに、''otd'' と ''unpg'' はそれぞれの脳特異的発現領域の境界において相互に発現を抑制する(49)。つまり、各脳領域の形成において、''otd'' および ''unpg'' の相互抑制が必要であり、前口動物と後口動物の共通祖先において、CNS の前後軸に沿った領域化機構の基本が既に確立されていた可能性が高い。 | |||
(1.2)小脳・後脳前方領域の発生 | |||
''Gbx2'' の KO マウスでは、峡部に由来する峡部核、小脳、青斑核、三叉神経運動核(運動神経 V)が欠損しており、この遺伝子が小脳と後脳前方領域の発生に不可欠であることが示されていた<ref name=Wassarman1997><pubmed>9247335</pubmed></ref>。その後、''Gbx2'' ハイポモルフ変異マウスを用いて行われた研究では、後脳前方の異なる領域ごとに必要な ''Gbx2'' の発現レベルが違うこと、r1 の前方と r2 の発生がもっとも高い ''Gbx2'' の発現を必要とすることが示されている<ref name=Waters2006><pubmed>16651541</pubmed></ref>。また、コンディショナル KO 法(cKO)により E9 以降に後脳 r1 で ''Gbx2'' を欠損させたマウス胚の解析からは、この時期における ''Gbx2'' の機能が ''Otx2'' の発現抑制ではなく、峡部オーガナイザー遺伝子の発現維持であること、''Otx2'' の抑制は ''Fgf8'' によって担われており、''Gbx2'' のはたらきは ''Fgf8'' の発現領域の決定であることが示唆された<ref name=Li2002><pubmed>12367504</pubmed></ref>。同様の cKO により、''Gbx2'' は後脳自体の分化にも不可欠とされた<ref name=Sunmonu2011><pubmed>21266408</pubmed></ref>。一方、誘導性遺伝学的発生運命追跡法(IGFM)により、マウス胚小脳原基の ''Gbx2'' 発現細胞は、E7.5 から E11.5 までの異なる時期に、プルキンエ細胞、顆粒細胞、そして深部小脳核ニューロンへの分化運命の選択を行うことが明らかにされている<ref name=Hagan2017><pubmed>28785208</pubmed></ref>。 | |||
一方、ゼブラフィッシュ体節形成期胚において、後脳前端の ''gbx2'' 発現細胞を追跡した実験では、''gbx2'' 細胞は後方に移動し、網様体脊髄ニューロンなどに分化するとされた<ref name=Tsuda2019><pubmed>30222999</pubmed></ref>。また、''gbx2'' の KD 実験では、r2、r3、r5 における細胞死の増加、後脳前方の短縮、r2 および r3 における脳神経 V 細胞体の異常なクラスター形成が認められており、真骨魚の ''gbx2'' も哺乳類と同様に後脳前方領域のパターン形成に関わると考えられる<ref name=Burroughs-Garcia2011><pubmed>21360792</pubmed></ref>。さらに、ゼブラフィッシュの ''gbx1'' と ''gbx2'' はそれぞれ後脳内の運動ニューロン・神経前駆細胞とグリシン作動性ニューロンの分化を制御すること、Retinoblastoma 1 タンパク質(Rb1)が ''Gbx/gbx'' の発現を抑制することで後脳形成に関与することが示された<ref name=Zhao2024><pubmed>38570112</pubmed></ref>。 | |||
(1.3)終脳の形成 | |||
マウス ''Gbx1'' は、上述したように機能は不明ながら MGE での発現が知られている<ref name=Rhinn2004><pubmed>14745958</pubmed></ref><ref name=Waters2003><pubmed>12799077</pubmed></ref>。ラットでも MGE と前脳基底部で ''Gbx1'' の発現が確認されており、特に前脳基底部のコリン作動系において ''Lhx7'' との共発現が観察された<ref name=Asbreuk2002><pubmed>11801365</pubmed></ref>。マウス ''Gbx2'' については、E12.5 の時期に大脳基底核、特に MGE で発現する<ref name=Bulfone1993><pubmed>7687285</pubmed></ref><ref name=Rhinn2004><pubmed>14745958</pubmed></ref>。IGFM 法により、MGE で生じて接線方向に移動する ''Gbx2'' 発現細胞からは線条体のコリン作動性介在ニューロンが生じるのに対し、放射状移動をする ''Gbx2'' 発現細胞は主に前脳基底部において GABA 作動性ニューロンや他の非コリン作動性ニューロンに分化するとされた。変異マウス解析では、''Gbx2'' が、線条体のコリン作動性ニューロンの移動に必要であること、MGE でのコリン作動性ニューロンの分化において ''Lhx8'' の下流で機能することも確認された<ref name=Chen2010><pubmed>21048141</pubmed></ref><ref name=Zhao2003><pubmed>12855770</pubmed></ref>。 | |||
ゼブラフィッシュについてはすでに述べたように、''gbx1'' は咽頭胚期に MGE 領域で発現し<ref name=Rhinn2003><pubmed>12963112</pubmed></ref><ref name=Wang2018><pubmed>29289755</pubmed></ref>、''gbx2'' の発現は体節形成後期に終脳両側部の脳室帯で観察された<ref name=Wang2018><pubmed>29289755</pubmed></ref>。実際、体節形成後期でのヒートショック誘導性 ''gbx2'' の一過的発現では、前脳領域での脳形成遺伝子の発現低下が外套下部で顕著であり、''gbx2'' の変異体の胚では前脳形成遺伝子の発現が背側終脳(外套)で増強された。したがって、''gbx2'' は外套下部の形成に対して抑制的にはたらくことで大脳基底核の形成に関与すると推定される。なお、ゼブラフィッシュ胚の終脳において、''gbx2'' の発現は ''Wnt'' シグナルと RA で抑制される一方、FGF シグナルを必要としており、これらのシグナルは ''gbx2'' を介して終脳のパターン形成に寄与すると考えられる<ref name=Wang2018><pubmed>29289755</pubmed></ref>。 | |||
(1.4)視床の発生 | |||
マウスやニワトリの場合、''Gbx2'' は異なる視床核の神経前駆細胞において特定の発生段階で発現し、各前駆細胞の分化を制御すると考えられている<ref name=Bulfone1993><pubmed>7687285</pubmed></ref><ref name=Miyashita-Lin1999><pubmed>10485881</pubmed></ref><ref name=Larsen2001><pubmed>11425897</pubmed></ref><ref name=Nagalski2016><pubmed>25963709</pubmed></ref>。 | |||